第36話
36話
二人は結ばれたのかな?そういう落ちだといいな。
僕らはスタッフロールまで全部見ていた。
よし、終わったし一旦出よう。
「し、士郎……」
「えっ!し、しかりん?どうしたの?」
彼女は涙を滝のように流していた。
「だってぇ……可哀想じゃないですかぁ……両方好き同士なのに付き合えないなんて……」
「そうだね」
「なんか、そう思うと辛くて……」
このまま泣かせ続けるのはまずい。どうにか泣き止んでくれ……
「でも、最後は付き合えた。と、思うよ?」
「そうですかぁ?」
お?泣き止んでくれそ……
「う、うん」
「じゃ、良かったですぅぅ!!」
……な、泣き止む気がしない。さっきまで美月と阿部のことを可哀想だと思って泣いていて、ここからは嬉し泣きかよ。
大変だな。
それから、映画館の中で10分くらい泣いていた。
その間、清掃員みたいな人が来たが何も言わず、僕らから遠いところを先に掃除していてくれた。
「………ぐすん」
「すいませんでした。ありがとうございます」
「いいのよ。それより、早く帰りなさい?次の人たち来ちゃうわよ?」
「ありがとうございます」
泣き止んだ白崎さんの手を引き、スクリーンから出る。
「白崎さん?大丈夫?」
「あ……うん。いい話だったねっ!」
「そ、そうだね」
………ぐぅ。
「………ご飯行きましょうか?ちょうどお昼だし」
「うんっ!!」
そして、映画館から離れた場所にあるショッピングモールに向かう。
「あったっ!インフォメーション」
「何食べます?」
「うーん。どうしよ……何がいいかなぁ?うどんとかハンバーグもいいし、このグラタン専門店ってのも気になるし……日本人だしお寿司ってのもありだなー。うーん……士郎は何食べたい?」
「……え?僕?うーん」
そう言えば、白崎さんが僕に食べたいものなんて聞いてくるの初めてじゃないか?いつも真っ直ぐ食べ物屋さんに行く白崎さんについていく僕って感じだったから、なんか新鮮だな。
「白崎さんはなんでもいいの?」
「うんっ!」
「じゃ………パスタでも食べる?」
「おおっ!全然目に入ってこなかったっ!三階だねっ!いこいこー!!」
と、走って行ってしまう。
「……行っちまった」
僕も行こう。
そして、店の前まで歩いていく。
「士郎遅いっ!!」
着いて早々罵声が飛んでくる。
「ごめんごめん」
「ご飯食べよー」
「う、うん」
店内はファミリーレストランのような洋風な内装だ。
席について早々白崎さんは、メニューを開きじーっと見ている。
よかった。いつもの白崎さんだ。と、安堵しながら僕もメニューを見る。
……うーん。種類多いな。でも、無難にミートソーススパゲティとかカルボナーラとかもあるし、ミートソーススパゲティでいいか。
「僕は決まったけど白崎さんは……」
まだじーっと見ている白崎さん。
「いらっしゃいませっ!ご注文がお決まりになりましたら、こちらのボタンを押しておしらせください」
と、丁寧に若い女のウエイトレスさんがお冷を持ってきてくれた。
「あ、はい」
そんなことがあったのにも関わらず、白崎さんはやはりじーっとメニューを見ている。すごい集中力だ。これを少しでも勉強に向ければ白崎さんも赤点ギリギリとかじゃないんだろうけどなぁ。
バタンッ!ピンポーン……
白崎さんはメニューを突然閉じて、机に叩きつけると、ピンポンを流れ技かのように押した。
「ふぅ。決まりましたー」
「お、おう……」
「お待たせ致しました。ご注文は?」
「えっと、ミートソーススパゲティランチ1つと……白崎さんは?」
と、訊くとメニューをまた開き、真ん中のページの端のほうを指差した。
「あ、はい。アマトリチャーナロッソですね?こちらなのですが、少しお料理に時間が掛かってしまうのですが、よろしいですか?」
「はいっ!」
な、なんだ?裏メニューかなにかか?
聞いたことないけど…
「はい。かしこまりました。ご注文を繰り返します。ミートソーススパゲティとアマトリチャーナロッソランチですね?」
「はい。お願いします」
そして、店員さんは厨房の方へと去っていった。
相変わらず白崎さんは犬みたいにちょこんとソファー掛けの席に座り、料理が来るのを今か今かと待っている。そんな白崎さんを見て落ち着く僕である。
「お待たせしました。ミートソーススパゲティです」
「はやっ!」
そのあまりの早さに言葉が漏れてしまった。そして、僕の反応の見ると店員さんは微笑み僕の前にミートソーススパゲティを置くとさっさと去っていった。
忙しいのかな?それにあの店員……いや、まさかね。
「うわぁ。美味しそう……」
目を輝かせながら料理を見ている。
「……食べる?」
「い、いいんですか!?」
「あ、うん」
まだ、僕はフォークも持っていないというのに白崎さんは右手にフォーク左手にスプーンと食べる気満々でいた。
「では、いただきます」
スプーンの上でフォークを使い、くるくるとスパゲティを器用に巻く。
上品な食べ方だな。
そして、白崎さんは器用に巻いたスパゲティを口に運ぶ。
味は顔を見ればわかる。あの満足そうなおっとりとした笑み。美味しいのだろう。
「美味しい?」
と、訊く必要もないのだが、一応訊いておく。
「はいっ!このトマトの酸味とミンチのパンチがすごい強いのですが、このバジル?がさっぱりとさせてくれるのですごく美味しいです!!」
「ほ、ほう。それは美味そうだねっ!」
「あ、士郎。あ、ありがとう」
おお。白崎さんが敬語を使わなかったぞ!?あのテンションの時は大体敬語だし、なんか嬉しいな。
顔は真っ赤だしめっちゃかわいいな。こんなのが僕の彼女だなんてな……未だに信じられない。
「あ、はい」
あ、僕が敬語になってしまった。
「じゃ、いただきます」
あんなに上品には食べないが、女の子の前だ。行儀よく食べる。
うん。うまい。白崎さんの言った通りトマトの甘さや酸味が見事に引き出されており、ガツンとミートの味もある。が、それほどミートが強いと感じさせないようにバジルがいいアクセントになっている。
これでドリンクバーもついたセットランチで500円か。安い。ランチって時間でもないけど……
今時計は3時を過ぎを指している。
これで運営していけてるのかな?とは思うが、うん。実にうまい。妹のスパゲティと張り合えるなこれは……
「美味いなこれは……」
「うんっ!美味しいよねっ!」
と、満面の笑みで待っている。
…うわー。すげぇ。期待しまくりじゃないか。そうだよな。こんな食欲の鬼みたいな白崎さんに分けないで待ってろって言うのは、犬の目の前にご飯を置いて一時間くらい待てって言って待たせてるくらい悪い気分になる。
僕はフォークで一巻きすると白崎さんに差し出す。いわゆる「あーん」ってやつだ。
パクッ!
それに嬉しそうに食いつく白崎さん。
「んーー!!おいしー!!」
………癒しだなぁ。
パクッ!!
「おいしー!!」
気付くと、僕は一巻きすると白崎さんに奉納。を繰り返していた。
「お待たせ……」
「あ………」
丁度白崎さんに奉納している時に店員さんは来てしまった。
「お待たせ致しました。アマトリチャーナロッソですっ!」
「はいっ!」
卒業式で自分の名前でも呼ばれたのか?ってくらいハキハキと返事をする白崎さん。
「ご注文のお品物はお揃いですか?」
「はい」
「では、ごゆっくり。どうぞ」
……なんであの店員はごゆっくりを強調していってたんだろう?あとそれになんかさっきも思ったが、妹と似てるんだよな……でも、まさかね。あんなことしていたらあいつなら殴りかかってくるに違いない。
「おいしそー」
「そうだね」
早速、白崎さんはその裏メニューみたいなやつを食べた。
バタンッ!!
急に机に倒れこむ白崎さん。
「………し、白崎さん?」
「や、やばいですっ!!こ、これやばいですっ!!」
と、頭でもおかしくなったのか。いや、元々おかしな人ではあったが、狂ってしまったのか?よくはわからないが、なにかがやばいらしい。
「な、なにが?」
「この料理。チーズがボーンっ!って来てそのあとにブラックペッパーが喉の奥にヒリヒリするくらい来るの!!」
なにを興奮しているんだか……
「ほ、ほう……」
「と、とにかくチーズペッパードーンっ!」
だが、ここは乗っていこうじゃないかっ!
「……ドーン!」
「そそっ!ドーンっ!」
「ドーンっ!」
「お客様!!店内ではお静かにお願いしますっ!」
と、先ほどとは違う女の店員が出てきた。
「「すいません……」」
僕らに一喝浴びせてその店員さんは、厨房の方に戻っていった。
「……怒られちゃいましたね」
「そうだね……」
「でもっ!凄いんですよっ!これっ!」
「うん。わかったから。ね?あの店員さんが睨んできてるから静かにね?」
ハムッ!
な、なんだ?
もぐもぐ……
白崎さんに無理矢理ねじ込まれたのか……
グハァァ!!!
な、なんだ?口の中に爆弾でも入れられたのか!?いや、これは……ち、チーズだ。チーズの海とでも言おうか?圧倒的なチーズの圧迫感に襲われる。そして、鼻から抜けるようにペッパーが襲来する。このパンチの強さ……これが裏メニューかっ!
「す、すごいね……」
「でしょでしょっ!!」
これでテンションがおかしかったのか。なら、わからなくないな……
「で、士郎?このあとはどこ行く?」
「……え?うーん。どうしようか?」
何度も言うが映画くらいしか予定を決めていなかったので、全くもって次が出てこない。
「じゃ、行きたいところあるんだけど……いい…かな?」
「そうなの?じゃそこ行こうか」
「本当!?ありがとうっ!」
「じゃ、長居も良くないし行こうか」
「うんっ!」
そして、僕らはお勘定を済まし店を出た。
「……で?行きたいところって……ここ?」
そこにあったのは……
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