第35話

35話


「梨花!?」


「うんっ!お兄ちゃんっ!久しぶりっ!」


「おう。で、そこの子は?」


妹の横には小さな男の子がいた。


「あ、えっと、二宮さんの友達の天草昨夜です。宜しくお願いします」


こんなに小さいのにしっかりしてるな。小学校高学年くらいだよな?


「おう。よろしくね。で、なにしてたの?」


「今日はこいつに誘われて映画に来ただけだよ」


「そっかー。じゃ、またな」


「うんっ!またねっ!」


なんだ。あいつもいい子いるじゃん。よかった。


「で、なに見ようか」


「うーん」


今公開されてるのは、よくわからないアニメの実写化のやつと、ミステリーホラー系のやつと、恋愛系のがあった。


「士郎あのさ、……恋愛系の見ない?」


「いいよっ!」


そして、僕らは恋愛系のを見ることになりチケットを買う。席は後ろの方の真ん中。


「よし、次まで結構時間あるねっ!横にあるゲームセンターにでもいく?」


「いいよーっ!」


そして、ゲームセンターの中に入る。


中にはクレーンゲームや車のゲームやプリクラなどがある。


「あ、これかわいいっ!」


と言って目の前にあったクレーンゲームの景品に食いつく白崎さん。


「くまのやつ?」


「うんっ!」


よし、ここは取っていいところを見せてやろうっ!


「待っててねー」


と、言って100円玉を取り出しクレーンゲームに挑戦する。


「士郎ってクレーンゲーム得意なの?」


「いや、別にー」


「じゃ、なんで取ってくれるの?」


「え?なんでって……好きだからかな?白崎さんの事が好きだから。これだけじゃだめ?」


「………そ、そっか」


白崎さんは俯いてしまう。


あれ?選択を間違えた?


小さいストラップゆえ、簡単に取れた。


「はい。白崎さん」


ストラップを僕は白崎さんに渡す。


「あ、ありがとう……」


士郎くんってこんなに素直に物を言えたっけ?な、なんかかっこいいな。


「あれ?どうしたの?白崎さん」


「ふぇ?い、いや、なんでもないよっ!」


どうしたんだろう?なんか様子がおかしい気がする。


な、なんで!?士郎の顔を直視できない……なんか、顔が歪んじゃうよ…


「あ、やばい!しかりんっ!映画があと少しで始まっちゃうっ!」


「あ、う、うんっ!」


そして、僕らは映画館へ直行。ではなく、その近くにあるポップコーンなどを売っている売店に向かう。


「えっと、ポップコーンセット一つと……しかり……んん。白崎さんは?」


やっぱり、まだ知らない人の前であだ名とかで呼ぶのは辛いな……


「ん?あ、あぁ。えっと、私もそれで」


………え?白崎さん本当にそれでいいの?普段の白崎さんなら「全部くださーいっ!」とか、言いそうなのに


「はい。では、ポップコーンセットお二つでよろしいですか?ドリンクはどうしましょう?」


「え?あ、はい。僕は……コーラで。白崎さんは?」


「あ………私も」


なんか、様子がおかしいよな。本当にどうしたんだろう?


心配なので店員さんが色々してくれている間、観察してみた。


なぜかもじもじして髪の毛を弄ったりしていた。


……本当にどうしてしまったんだ?急に……白崎さんなら鼻歌混じりにポップコーンを食べてそうなのに、そして、僕が「なんで今もう食べてるの!?」とかって聞いたら、「来た時にもう買いましたっ!」とか言いそうなもんだけどな………


「お待たせ致しました。ポップコーンセットお二つです」


やっぱり映画館ってぼったくりだよな……なんでこれで500円もするんだろう。映画ってだけで学生1000円取られて、これを頼んだら1500円……もう、僕はバイトなんてやる気もないし………だから、お金なんて全くないし、女の子と付き合うなんてなったからには一回のデートでお小遣いは一瞬にしてパー………まあ、今は文化祭で儲けたお金があるからいいが、本当に困るよな。学生って辛い……


早く大人になれないかな……


「士郎……い、いこ?」


と、僕の袖をチョンっと引っ張ってくる白崎さん。


「あ、うん」


でも、今はこれでいいのかもな。


そして、映画を見始める。


「君の花。それは誰にでもあるもの。それは一人一人が違うもの。そして探し求めるもの」


と、まだ真っ暗な画面なのになにか言い始めた。


「……ん?ここは?俺はどうなったんだ?」


花畑?これは……なんだ?なんだろう。綺麗な小麦色…夕焼けみたいだ。そこにいるのは……金髪というよりか黒っぽい金色。の髪を緩やかに流して花畑の中にいる。彼女はなぜか泣きながらでも笑っていた。


「ねぇ、君は……」


そして、また画面が暗くなる。


「姉貴?姉貴?起きて。全く、いつになったら自分で起きるんだよ……飯はもうあるから」


「あ、うん」


そして、学校へいく。


「お?美月。おはよー」


「うん。おはよー」


そして、ホームルーム。


「あー。お前らおはよう。そして、転校生だ」


と、言葉使いだけは荒いが、女の可愛らしい先生だ。律先生に似てるな。言葉遣いは別だけど……


「こんにちは。僕は阿部達也で……って、あーーー!!!!」


と、急に声を荒げる転校生。そして、その転校生の目線の先には……


「……私?」


あれは夢であったあの子……


「どうした?阿部」


「いや。なんでも…よ、よろしくお願いします……」


全く、なんだ?あの転校生は…マジ最悪。席は私の隣だし……


「あの、すいません。ペン借りていいですか?」


「あ、うん……」


そして、ホームルームが終わってすぐ、いろんな人が転校生の周りに押しかけていく。


「あのさ、なんで大声出したの?美月と友達だったり?」


「あ、いや……」


「なんか、見覚えがあった?」


「えっと、夢に出てきて……」


「あー。なんか、そんな話聞いたことあるー!噂だけど、夢であった知らない人とと現実で会うと結ばれるんだってー!」


と、友達だろうか?楽しげに話してる。


「なっ!」


と、真っ赤になる美月と思われるあの最初の夢?に出てきた人。


「あれ?美月って彼氏居ないんだよね?」


「あ……うん。悪かったなっ!」


「へっへーん。で、阿部くんは?」


「居ないです…」


「おお!!」


と、歓声が上がる。


そして、和気藹々としたような音楽が流れて、


「あの、おはよー」


と、男の方、阿部が声をかけるが


「………」


女の方は全く話さない。避けているようだ。


「阿部。大丈夫?」


「あ、うん。なんかしたかな?」


「いや、あいつが悪いって!」


みたいな話が音楽とともに時間の流れを出す。


それから数ヶ月が経ち、また、リトライする阿部。だが、全くうんともすんとも言わない美月。


「……なんだよ、あいつ」


「なんで私に話しかけるの?」


「「本当に嫌な奴っ!!」


「俺が何したっていうんだ……」


「私に話しかけてこないでよ……」


んー。恋愛とはかけ離れてる気がするんだけど………


「あ、あの……さ?」


と、美月って女の子が授業中だというのに話しかけてくる。


「あ?なに?」


「ペン貸してくれる?」


「あ、うん」


そして、すっと、ペンを渡す。


「あ、ありがと……」


「あ、うん」


「なに?じーっと見られるとなんか困るんだけど?」


「あ、いや、なんでもないし」


あー。嫌だ……なんであんなに無視され続けてきたあいつに見られなきゃいけねえんだよ……なんか調子狂うな…


「あっそ」


「あ、うん……」


そして、授業が終わり、仲良くしてくれているモブではないと分かるが、名前まではわからないようなキャラクターが、阿部に話しかけてくる。


「なぁ、阿部、夏祭りいくっしょ?」


「え?いつ?」


「今度の休み。でも、わかってると思うけど、カップルじゃないといけないからね?」


「へ、へぇ。なんで俺にそれを言うの?」


「なんか、気にしてるでしょ?美月さんのこと。好きなのかなー?って思ってさ。俺は彼女と回るし一緒に行ってみれば?楽しいかもよ?」


「だ、誰があんな奴……」


「あっそ、まあ、いいや。あ、やべ。次移動教室だ。行くぞ阿部」


「あ、おう」


全く、なんで顕微鏡なんて使わないといけないんだろう。たかが花粉じゃないか。こんなのアレルギーの元ってだけじゃないか……私はそっちの道に進む気なんて全くないのになぁ。


「…………ねぇねぇ。美月。今度の祭りは?」


「あっ、祭り?」


「行く相手は居ないの?」


「居ないけど…」


「じゃあさ、阿部くん?だっけ?誘ってみれば?別に性格悪いわけでも顔が悪いわけでもないんだし、誘って行ってみれば?だからこんな制度だってあるんだし……」


「あー。考えてみるよ……」


はぁ、もう……


「全く、どうすればいいんだよっ!!」


「全く、どうすればいいのよっ!!」


気になる?俺が?


気になる?私が?


「「ないないないない!!!」」


でも……一回くらいなら……いいかな?


そして、夕焼けの光がさす教室に二人。


「あ、あのさ、美月……」


「なに?」


「今度の祭り一緒に行ってみない?」


「………そ、そう。な、なんで私なの?」


「なんでって……」


「あははははっ!想像通りの反応してくれるなっ!!」


「な、なんだよっ!いじめんじゃねえよっ!!」


「べーっ!だっ!」


と、舌を出してそういうと彼女は帰ってしまった。


……な、なんだよ。


なんか顔が熱いな。夏だし夕焼けが眩しいからかな?


「ただいまー。って言っても誰もいないか」


というか、あいつさっさと帰りやがって……あ、そう言えばなにも決めてねえや。明日にでも訊かないとな


そして、次の日。また同じような時間。


「あの美月さん?連絡先の交換しませんか?」


「あ、まあ、いいよ……」


といって、携帯端末を取り出す。


よ、よかった………って、あれ?よかった?なにがよかったんだ?別にこんな奴の連絡先とかどうでもいいじゃないか……使うとしても祭りだけだろう。


そして、完了する。


「それじゃ、明日だな」


「うん。そうだな。また明日な。ばいばーい」


「あ、そうだ。一緒に…途中まで帰る?」


な、なに言ってるんだ俺?別にいいじゃねえか…勝手に帰らせれば


「……いよ」


「ん?なに?」


「いい………よ」


「だから、なに?」


「あー!!もう、いいって言ってるんだからさっさとついてくるっ!!」


と、言って僕の裾を掴んで引っ張る。


「あ、ちょ…やめろって」


と、抵抗はしてみるが、やめるわけがない。


それから、全く喋らず目も合わせず帰る。


「あ、じゃ、俺こっちだから」


「あ、うん……また、明日ね」


「おう!」


最初よりは仲良くなれたのかな?


いやいや、別にいいじゃねえかどうだって……


そして、次の日。


祭り。予定の時間5時。未だ奴は来ていない。


それから何分かして僕の前を友人や知り合い達が、どんどんと祭りの会場に入っていく。


「ご、ごめん。待った?」


「ん?あー。遅……」


「に、似合う……かな?」


「あー。う、うん。に、似合ってるよ……」


「なに?照れてるの?」


「んなわけねえだろっ!!」


彼女は蝶々の模様が綺麗に映されている黒色の浴衣に身を包み、そして祭りの淡いオレンジ色が見事にマッチしていてそれはもう美しいものだった。


「じゃ、いこうか」


「うんっ!」


そして、最初の関門である。カップル検査みたいな手を繋いで門をくぐるところまで来る。


「じゃ、行くよ」


「う、うん…」


そして、二人は手を繋ぐ。


真っ赤な顔の二人。顔で湯が沸かせそうだぜ。


そして中に入る。


入った途端、二人は手を離す。それからは全くもって話さず、並んで歩いていた。


「あ、あのさ、なんか食べる?」


「あ、う、うん……」


「なにたべたい?その靴だと歩くの大変でしょ?だから、買ってこようか?」


「あ、ありがとう。じゃー。焼きそばお願い」


「オッケー。かってくるから休んでて」


はぁ。なんであんなに優しいの?私、なにもしてないのに……


なんでよ…


そして、画面が入れ替わり阿部が画面に映る。


「はぁ。なんでおれは……あんな女に優しくしてんだろ……」


別に出会いがよかったわけでもない。どちらかといえばあんまりよくない方に入るだろう。だけど、なぜか……


なんでだろ?


そして、主人公は焼きそばを人数分買ってあのベンチに戻る。


あ、あれ?焼きそばとかって人数分で足りたっけ?あ、僕が違うのか……


「おーい!お待たせー!」


………そこには誰もいなかった。


「……え?」


そして、画面がまた切り替わり美月がお手洗いで手を洗っているシーンだった。


な、なんでだろう?最近、あいつのことばかり考えてる気がする。なんで?別にいいじゃないか。あんなやつ…好きでもなんでもないんだから……


落ち着いたのか美月がトイレから出て行き、あのベンチに戻り座っている。


あれ?まだ戻ってないんだ。ここにいれば戻ってくるって言ってたし、座ってようか。


…………さすがに遅いな。


電話してみよう。


プルプルプル……プルプルプル……


あれ?出ない。全くあいつはどこにいるんだろ……


探したほうがいいかな?でもここから離れたら人混みに揉まれて歩かないといけないし、その中探すのは大変だしな……だけど、連絡もつかないし……どうするか。全く、あの男は……


また、阿部が映る。


「おーい!どこだー?美月!」


ドンッ!


と、すれ違った男の人の方に当たってしまう。


「あ、すいません」


……こう人が多いと探すの辛いな。


あともう少しで花火も上がるのに…別に一緒に見たいとか思わないけど……


はぁ……全くどこにいるんだあの女は……


ヒュー………ドンッ!!


あ……花火が上がり始めちまった。……あいつと一緒なら面白いのかな……早く探さないとっ!


「美月ー!どこにいるんだよっ!」


逢いたい……なんでかは知らない……いや、もう薄々気づいていた…好きだ。俺はあいつのことが好きなんだ。


そして、また視点が変わり美月が映る。


ヒュー………ドンッ!!


あ、花火上がった。綺麗だな。これをあいつと一緒に……って、想像しただけで心臓が弾けそう…な、なんで?別に好きなんかじゃ……


「美月ー!」


………うっすら、人混みに紛れて声が聞こえてきた。今のってあいつの声?


「あ、阿部!!」


い、いや、好きなんかじゃないわけないじゃんっ!だって、好きだもん。自分に嘘ついてても心には嘘はない。それは、まぎれもない事実じゃないか!


「み、美月ー!」


「あ、阿部っ!!」


「あ、え?ど、どこなんだよっ!美月っ!!」


声は確実に近くなっているなのに、人混みのせいでわからない。


「どこにいるの!?阿部……達也っ!!」


はぁはぁ……


それはあの夢の花畑を思い出させるような金色で、僕の前にいた彼女もあの時の笑顔だった。泣いているのにも関わらず、なぜか笑っている彼女。


「美月ぃ!!」


………バンッ!!


金色の大きな花火が一つ上がる。


「……はい」


と、彼女は涙を拭いながら阿部を直視する。


「あの……美月。花火みようか」


「う、うん」


「き、綺麗だね」


「そうだね」


「あのさ、美月。こんなことおかしいなって思われるかもしれないけど、俺さ美月に最初に会った時からす、好き……だったんだ。子供みたいだよね。一目惚れってやつかな?あはは……」


「……え?」


「でも、僕は君を幸せにできるかはわからない。だけど、君を幸せにしようと努力するから、お、俺と……付き合ってくださいっ!」


「……私もね、君のこと好きだよ。でもね、私転校するの。だから、貴方とは居られない。だから……バイバイ」


「………え?な、なんで?じゃ、さ、探すからっ!どんな所でもっ!」


彼女は悲しそうに笑顔を浮かべて去っていった。


中学生の恋愛。それは儚くて花火のようにパッと散ってしまう。


だけど、確かにつながっているんだ。


それから一年後。僕は高校生になった。


新しい制服に身を包み高校へ赴く。


へえ。電車通学か。


そして、発進して扉の前に立っている阿部。その阿部が乗っている電車の横にも方面は違うが同じ方向へ進む電車があった。


そこの前に見覚えのある顔が……


あ、あれは……


「美月っ!」


次の所で降りてそっちの駅の方まで走る。


「達也っ!!」


こっちも走る。


そして、出会う。が、二人とも話しかけない。そして、歩いてすれ違う。


「……あ、あの!美月だよね?」


「う、うんっ!」


そして、エンディングが流れる。


なんだろう。なんてロマンティックな終わり方…


続く。

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