第34話

34話


「なんで私は寝てたの?」


と、目を擦って一つあくびをして白崎さんは聞いてくる。


動作だけ見てれば猫にも見えてくる。


「軽音部の音楽が子守唄だったんだよ。だから、寝てたんだと思う。僕も寝てたからわからないけどねっ!」


「そっかーふぅーん」


と、言いながら白崎さんは伸びをする。


本当に猫みたいだな。


「じゃ、しかりん。どうしようか?体育館にいても主催者側のひとあの状態だし、他のところ行く?」


「うんっ!士郎と一緒に行くっ!!」


「お、おー……」


「おー!!」


なんだよ……この生き物可愛すぎる…


そして僕らは体育館から出たのだが、全くアテはなくふらふらとしていた。


だが、食べ物の匂いに敏感な白崎さんのおかげで完全に食べ歩きツアーとなっている。


まあ、結構稼げたし、いいんだけどね。


でも、次から次にお好み焼きや焼きそばと言った結構残るものを買ってきては食べ買ってきては食べ……


ほとんどの飲食店を回ったと思う。


マジで腹痛い……食べ過ぎだって…


「しかりん……」


「どーしたの?士郎」


と、わたあめ片手に訊いてくる。


君のお腹はどーなってるの?と、こっちが訊きたいぜ。


「いや、なんでもない……」


「そっかー。うーんっ!このわたあめおいしー!!」


と、幸せそうにわたあめを頬張る白崎さん。


まだ食べるのか……


そんな時、キーンコーンカーンコーン……と、チャイムがなった。


「文化祭終了時刻となりました。ご来場の皆様。ありがとうございました。本校の生徒は後片付けをし、その後、校庭に集まってください」


「しかりん。終わったらしいよ」


「わたあめはおいしーよ?」


「う、うん……わたあめ食べ終わったら、一旦部活で借りてた調理室に行って片付けようか」


「はーい!」


本当にかわいいな……


これは彼氏馬鹿なのか?いや、そんな訳がない。僕の彼女が可愛くないなんてあり得ないっ!!


「じゃ、士郎っ!行きましょー!」


と、テンション高めに僕の手を引っ張って走り始める白崎さん。


「お、う、うん…」


それに引っ張られる僕……


情けない……なんて、思っているうちに調理室についていた。


「お?来たわねっ!」


井上先輩と、今日は人前だからかやけに明るい島崎先輩もいる。


「二宮君と白崎さんか。ちょうどよかった。来てくれ」


やべえ。最近この状態の時の先輩と話してなかったから、対応の仕方がわかんねえっ!!


「ど、どうしたんですか?」


「まあ、いいからっ!」


「は、はぁ……」


そして、僕らは来た。僕らが使っていた……所へ。


「こ、これは……」


「ひ、酷いな……」


僕と白崎さんは完璧にその光景にゾッとしていた。


そこの台所だったと思われる場所は、卵やら小麦粉のような汚物に塗れて面影すらがなかった。


「これは……誰が?」


少なくともこの場所に入ってない僕と井上先輩は明らかに白だ。


「あ、これは僕ではないですよ?僕は、こっちには来てませんもん。こっちに来なくても電子レンジで出来ますから」


と、補足をするように島崎先輩が自分ではないと主張する。


言うことは……


「あ、私ですね。はい」


えっ!呆気なく認めるぅ!?


「あのさ、しかりん……なんでこんなことに?」


「えっと……解凍って何かわからなくて……」


「そっかー!それは仕方ないよ」


「………全くお前らは……そんなところで夫婦漫才してねえで片付けろっ!!」


「「は、はいっ!!申し訳ありませんでしたぁ!!」」


……井上先輩やっぱり怖いや。


「……怒られちゃいましたね」


「そうですね。ふふっ!」


「「あははははっ!!!」」


それからというもの、また、僕らは怒られて、渋々そのおぞましい汚物をなんとか片付け、そして、後夜祭だ。


「後夜祭ってなにするんですか?」


「……さ、さぁ?まあ、校庭に行けばわかるんじゃないですかね?」


高校の文化祭。が、終わった後にある後夜祭。これはカップル専用で、僕は彼女なんて居なかった為文化祭が終わると同時に家に帰っていた。


「じゃ、行きましょー!」


頬を赤らめている先輩方。口は開かないが、先輩達も初めてってことだろう。


無口な奴と滅多に自分の感情を前に出さない人二人だ。


そんな二人がこの反応。なんか、凄い新鮮だ。


でも、やっぱり変だ。先輩たちがそんなこと……いやいや、考えすぎだよね?いくらあんな先輩たちでもそんなことくらいあるよね。あの二人だって僕らと変わらない。人であり、初々しいカップルなのだ。


そんなことを思いつつ、僕らは校庭についた。着いたとともに聞こえてくるマイクかなんかが入ってると思われる馬鹿でかい声。そして、その声は聞き覚えがある声だ。


「おーい!火憐っ!好きだよぉぉっ!!」


「……ええへ。私も大好きだよぉっ!!!」


と、校庭のど真ん中で愛を叫んでる奴らがいた。


……な、なんだよ……


そして、また、他の組。カップルだ。それが、また校庭のど真ん中で愛を叫んでる。


一組行ったら、また一組……と、校庭のど真ん中で愛を叫んでる。


……本当になんなんだ!?


「先輩……」


と、助けを請うために、二人に視線を向ける。だが、なにも言わずに僕から目をそらす。


ま、まさか……さっきのあの違和感。……知っていた?


「そ、その……ね?さっき、訊いちゃったのよ……なんか、そんなのがあるっていう話……」


と、僕らの様子をみてか井上先輩が、そう語り始めた。


「う、うん……」


と、島崎先輩は俯き、ぼそっと呟いている。


こんなのなら、来ない方がよかったのかな?


「し、しかりん……」


「し、士郎……」


僕と同じように怯えている。ダメだ。ここで白崎さんに頼ってはならない。ここは男らしさを見せなければ……


「しか。やろう」


「は、はいっ!」


僕らは校庭の真ん中まで歩いていく。


よし、すーっと、僕は深呼吸をする。


やるんだ。ここしかねえっ!


「しかっ!好きだぁぁぁ!!!」


「わ、私も士郎のこと好きぃぃ!!!」


そして、暫くの間があり……


「おめでとう」「士郎め。なんとも美人な彼女をつくりよって……」「なに?私がブスだっていいたいの?」「い、いや……そんなわけじゃ…」「おお!しかりん彼氏できたの!?」


一部はなにか違ったが、歓声が上がった。


****


とある場所。


「そうかそうか。士郎くんはここを突破したかい」


と、ピエロのような容姿の小さい男の子が呟いている。


「このくらいじゃこの二人の関係を荒らすのは難しいみたいですねっ!」


と、エプロン姿でコーヒーを両手に持ってきた青髪のナイスバディな少女。


……ん?これは?なに?多分、これはインスタントガールフレンドだよな?あと、こいつは……どこかで見たことがあるようなないような……

は?意味わかんねえ。さっきまで校庭にいたと思うんだけど…


「士郎くん。見ているのだろう?」


ちょっと待て。頭が追いつかないんだけど?


「まあ、いいや。さっきのは小手調さ。そして、僕から言いたいのは一つ。君のリア充を見せてくれ。楽しみにしているよ。一部、アトラクションも混ぜてあげるから、精々別れないようにね?では、また会おう」


………はぁ!?謎すぎるぅ!!


「………士郎くん?」


なぜか朦朧としている意識の中、白崎さんの声が聞こえる。なんで?さっきまでくっきり見えてたのに……急に視野が……


「あ、しかりん」


「どうしたの?急に意識でもなくなったみたいに反応がなくなって……」


えっと、ここは……校庭だな。さっきの叫んだ場所だ。


にしても、あれはなんだったんだ?


「じゃ、士郎っ!遊ぼっ!」


「………え?」


「あれ?聞いてなかったの?後夜祭って遊んで騒いで暴れるんだってさ」


「は、はぁ!?」


「だから、いくよっ!!」


「え?ちょ、ちょっと待ってぇぇ!!」


僕は白崎さんに手を引っ張られて、どこかに向かう。


そして、なぜかキャンプファイアが始まった。


キャンプファイアと言えばフォークダンスだ。


みんな中学校の頃あたりに「うわー!こいつと手を繋がなきゃいけねえの!?」「私の方が嫌だわー!うわー。士郎菌だー!ばっちい」


みたいな記憶があるだろう。


人の手はまあ、菌だらけだろう。


それだからって、僕の名前使ってそんなことしなくても……とか、思ったり「小学生みたいなことするなよ」みたいなツッコミをしていた人もいるだろう。


だが、今は高校生。僕は成長しているっ!!


リア充としても人としてもっ!!


「じゃ、士郎……やる?」


「う、うん……」


でも、手を繋ぐとかはやっぱり……手汗ドバドバの脳汁ぶしゃー状態なんだよな……


そんなことを思いつつ、決断をし白崎さんと手を繋ぐ。


やっぱり、女の子の手は柔らかくすべすべしてて気持ちのいいものだ。


この手を僕の手汗が汚すなんて……


「ありえんっ!」


「ん?どーしたの?士郎」


「いや、なんでもないよっ!」


と、なんとか言い訳をする。


こ、声が出てたか……


フォークダンスなんて、全然やってないし、全然わからねえや。だけど、白崎さんとやるなら、僕はなんだってできると思う。


それから僕らはかなりの間踊っていたと思う。手汗どころか普通に汗だくになっていたが、もうそんなことはどうでもいいくらいになっていた。


*****


士郎が踊っている時、インスタントガールフレンド達は会議をやっていた。


「第、2085組目の白崎、二宮ペアについて、どうやって別れるように仕向けようかの会議を始める」


と、白髭を生やしたいかにも偉いって感じのおじいちゃんが会議を始める。


「切り札はもうあります。それを使えば絶対に別れさせることができるでしょう。だから、今の期間は温存しておきましょう。幸せ絶好調から、奈落の底へ落ちる顔は…格別なんで……ね?」


と、ピエロなショタが、不敵な笑みを浮かべている。


「相変わらず、いい性格してますねっ!」


「まあ、君ほどではないよ。インスタントガールフレンド」


「えへへ。ありがとうございますっ!二宮さんには悪いですが、別れてもらいます…絶対に……私達、リア充撲滅隊。通称RBTが……私にはミスは許されないんだ……」


****


「は、はぁ……さすがにこんだけやると……疲れるね」


「だねー」


と、いいながら汗の処理をしている白崎さんが月の光に照らされて、むっちゃくちゃ色っぽい。


なので、反射的に僕は目をそらす。


「どーしたの?士郎?」


「い、いや……」


バインッ!!


僕の目の前には大きい二つのものがあった。


ワイシャツがの前が軽く空いているので、ピンク色の下着が見えてしまっていて、ダメです。ダメですよ白崎さん……た、耐えろ……ここで暴れてしまってはとにかくダメなんだっ!!


「だ、大丈夫ですよっ!」


と、言いながら顔を両手で覆いながらそっぽを向く。


「そっかー」


にしても、本当にいい体つきしてるよなぁ。胸は申し分ないほど。というか、先輩に分けてあげてっ!ってほどにあるのに、腰のうねりもありスレンダーに見えるし、顔も神がかってるし…もう、最高にエ……可愛いです。


「しかりん。もう遅いし疲れたし帰る?」


「そうですねぇー。汗も流したいですし、帰りましょーか。先輩達に言ってから帰りましょー」


「そうですねー。じゃ、先輩方ー!先に帰りますねー」


と、遠目にいた井上先輩らにそういって僕らは帰る。


そして、いつもの家。


「じゃ、私はお風呂はいっちゃいますねー」


「お、おう」


と、なんとなく答えてみたが……うーん。これはまずいやつだ。


今、僕らは二人きりだ。


そして今白崎さんはお風呂に入っている。


我、夜戦に突入すっ!!


僕は普通にいつもの席に座って白崎さんがお風呂から出るのを待っていた。


「ふー!いい湯だったー。じゃ、士郎も汗だくでしょ?お風呂はいらない?」


「い、いや……入るよ」


そう、この後だ。お風呂に入った後。でも、どうなのだろうか?白崎さんはお子様だ。なのに、僕がそういうことをしてもいいのだろうか?


なんてことをお風呂に入りながら考えていた。そして、お風呂から出る。


「しかりーんっ!」


と、叫びながらリビングに入る。


「ふぁー?どうしたの?」


と、欠伸をしながら白崎さんはそう訊いてくる。


「……いや、なんでもない」


こんなお子様に僕はなにをしようとしていたんだ。ダメに決まってるだろ?まだ、未成年だしやめておこう。大人になるんだ。


「じゃ、もう今日は疲れたし寝ようか」


「あ、うん……おやすみ」


と、言って白崎さんは男子禁制の間に行ってしまう。


……本当にこれで良かったのだろうか?なんか、寂しそうだった気がするんだが…


「あー!!」


もう、後悔だけはしたくないっ!!


「しかりんっ!!」


「……え?どうしたの?」


「あのさ………も、もう」


「もう?」


「も、もう少し話そう」


「う、うんっ!!」


と、満面な笑み僕に向けてくる白崎さん。かわいいですっ!


そして、いつもの席。


「……あ、あのさ」


「うん?」


「いや、なんでもない…」


チッ…チッ…チッ…


と、時計の針が進む音だけが静かに流れる。


全く話が出てこねえっ!話題がなんもねえよっ!!


「士郎?」


「今日はどうだった?」


「え?あ、楽しかったよっ!士郎と一緒に色々回れたし、ご飯は美味しかったしっ!」


「そっかー」


…………どうやって話題って作ったりするんだろう?こんなんじゃ会話が成立しないじゃねえかっ!


「あ、士郎……」


と、顔を赤らめてもじもじしながら、こっちを見てくる。


そんな白崎さんに僕はちょっと、いや、かなり気が動転したが、ここは冷静に行こう。


「ん?どうしたの?」


とは、表向きにはそう言っているが、脳内では「マジでかわいいだす。キスしましょうよっ!」


とか思っていたりする。


「あ、あのね……私……ね?今日は夜更かしして士郎と一緒に居たい」


「う、うん……」


その言葉の意味を知っているのか!?


お誘いと受け止められてもおかしくねえぞ!?いやいやいや……待て待て。これは罠の可能性も……


「士郎っ!」


と、言って白崎さんは僕にダイブしてくる。


一瞬何が起きたかわからなかったし、もう脳内の処理能力が追いついてない。なにが起きた?


そして、上目遣いで、


「………き、キスしよ?」


と、一言そう言って白崎さんは目を瞑った。


………いま、白崎さんは確かに言った。キスしよ?と、ここでキスなんてしたら僕が制御がきかなくなるかもしれないが、ここで断われば白崎さんは絶対に傷つくし最悪、別れることにもなりうる。


ガチャ!


と、扉が開く音。


ならば、キスして制御するしかねえっ!


そして、僕はどんどんと白崎さんの唇に自分の唇を重ねようとする。


どんどんと近くなる距離、白崎さんの甘いいい香り………


そして、後ミリ単位レベルまで迫る。


「ただいまぁ!!!」


と、先輩方がこの場の空気も知らず帰って来やがった。


白崎さんは僕から一気に距離をとる。


な、なんで?物音なんて一切しなかったのに……


「あ、あれ?タ、タイミング悪かった?」


「いや……別に……そんなことは……」


危なかった。先輩らが来てくれて良かったのかな?多分、僕はあのまま行っていたら欲望の赴くままに……いやいや、考えるのは止そう。


「じ、じゃ、私そろそろ寝るねっ!おやすみー」


と、白崎さんはまた男子禁制の間へと行ってしまう。


「じゃ、私達もお風呂はいって寝るから先に寝てなさい?士郎」


「あ、はい。おやすみなさい」


僕は言われるがまま、リビングに布団を敷いて眠りにつく。


にしても、今日の白崎さん新鮮だったなぁ。恥じらう白崎さんなんてなんてレアなんだ。あれは脳内でしっかりと保存しておかねえとっ!!


「ふぇっくしょんっ!!ああ……」


くしゃみと同時に目がさめる。


……なんか、この頃寒くなってきたな。まだ10月にも入ってないのに……


そして、目が覚めてしまったのでなんとなく時計を見ると3時を指していた。


起きるには早いけど、眠ったら昼頃まで寝ちまいそうな時間だ。そう、今日は日曜日。月曜日は振り替え休日というわけで、2日休みがある。だけど、2日なんてあっという間だ。この2日をどれだけ充実させれるか。だと、僕は思う。


「お、おはよ……士郎早いね」


「お、おはよ」


声をかけてきたのは白崎さんだった。


「しかりんも目が覚めちゃったの?」


「あ、うん……」


部屋の端には当然島崎先輩がいる。起こさないように僕らは、携帯端末の懐中電灯機能を駆使し二人でいつもの席に座る。


「………なんか、こうやってると遊んでいるみたいで楽しいですねっ!!」


………ありがとう。こんな時間に起こしてくれて本当にありがとうございますっ!!早起きしてよかったぁ!!


「ねぇ、しかりん。今日はどこか行く?」


「うーん……どうしようか」


僕らの予定もない休日が始まった。


いつもはなにかあった。映画だプールだ。って色々とあった。だが、今はどうだ?予定がない。


こんな時ってなにすればいいのかな?


今の僕なら出来るはずだ。予定がなくたってどうにかしてやる。


「あのさ、しかりんっ!映画館にでも行かない?」


「あ、うん。いいよっ!…なにか見たい映画でもあるの?」


「え、えっと……特にはないけど……」


「けど?」


「しかりんと一緒に見れれば……面白い……と思うから……」


「あ……そ、そう…」


と、下を向いてしまう白崎さん。


にしても、時間が流れるのは長いな。


ここにはあいにくテレビもゲームもなにもない。あるのは生活最低限のものだけ。料理器具、ロッカー、あと雨をしのげるこの場所。だから、本当にやることがない。


「しかりん。……なんかする?」


「な、なんか?」


「……そ、その…り、料理とか?」


「え?り、料理!?」


す、すげえ。白崎さんの食いつきがぱねえよ。


「し、士郎っ!作れるの!?」


「あ、ま、まあ……」


食パン焼いて、目玉焼きくらいなら作れるだろう。


とりあえず、そういうことになったので、冷蔵庫を開けて中を見る。


えーっと、卵は……10個のパックが一つある。あと、ベーコンもあるしこれで目玉焼きはいいな。パンはトースターにかけちまえば終わるし、これはいいな。これならすぐできるでしょ。


「し、士郎……私やりたいっ!」


「い、いいよー。じゃ、やろっか」


とは言ったが、文化祭の時のあのまがまがしいものを思い出してしまい、僕は少し後悔するが、言ってしまったものは仕方ない。やるしか……ない。卵やベーコンといったものを取り出す。


そして、白崎さんをフライパンの前に立たせて僕はその横で見ている形になる。


「まず、油を少し引きます」


「このくらい?」


「少し垂らしてフライパンに回ればいいよ」


「はーい」


「これで下準備が完了。では、まず、ベーコンを焼きます。一人前ずつやろっか」


「はーい!」


と、いいながら温まったフライパンにベーコンを一切れ入れる。


……教えればしっかりできるじゃないか。


一応、僕も妹の料理を作るところを見ていたからどんなものかくらいかはわかる。


「で、軽く火が入ってから、卵を落とします」


「はーい!」


「で、しかりんは半熟完熟どっちがいい?」


「半熟でお願いしたいっ!!」


「じゃ、白身が固まったらいいよ」


「はいよー!って、もう、固まってるぅ!!」


と、言いながら慌ててフライパンを持ち上げた白崎さん。


「早く上げてっ!」


と、僕は皿を白崎さんに差し出す。


「早く乗っけないとっ!!」


「あ、うんっ!」


「あ………」


目玉焼きは反対に皿に落ちて、黄身がベチャッと潰れた。


「士郎……」


「ま、まあ、初めてにしてはよかったんじゃないかな?焦がしてないしっ!」


「う、うん……じゃ、私パンでも見てきます……」


と言って、トースターの方に行ってしまった。


じゃ、僕も作るか。


……案外、難しいんだな。


妹は自分の手のようにフライパンを操り、あんな優雅に料理を宙を舞わせたり出来ないしなぁ。僕にもあのくらいできるようになれればいいのにな。


そして、僕は出来た目玉焼きを皿に盛る。


で、あとこれだけじゃ、なんかバランス悪いし……サラダでも作るか。


そして、野菜を切っていると……


「し、士郎……焦げちゃったぁー」


と、白崎さんが真っ黒なパンを持ってきた。


な、なんで!?あの機械って入れたら勝手に出来るやつだよな?


「ほ、ほう……」


確か文化祭の時もあったよな?電子レンジを使わないようにしてた。みたいなこと言っていたし……


「もしかして、機械苦手?」


「あ、うん……」


「携帯はつかえるんだよね?」


「う、うん……でもね、メール、電話しか使えないんだ……」


「へ、へぇ……」


「し、士郎。ごめんね……機械オンチなのに……」


「いや、大丈夫だよっ!」


と、言いながら白崎さんの持ってきたパンを一気にたべる。


「うん。美味しいよっ!」


「し、士郎……」


そして、僕は白崎さんと一緒にパンを焼く。


「いい?こうやってパンを挟んで、電源を押す」


「はーい!」


そして、日が昇り始めた頃。僕らはやっとご飯を食べ始めた。


なんか…どっと疲れたな。でも、これは嫌な疲れじゃないな。なんだろう?


そして、パンにバターを塗っていると


「………おはよう」


小さいのが男子禁制の間から出てきた。


「おはようございます」


「おはようございますっ!渚先輩っ!」


「おはようっ!しかりんりんりんりーんっ!!」


と、白崎さんに抱きつく井上先輩。なんか、いいな。


「あれ?朝ごはん?誰が作ったの?」


「朝早く目が覚めてやることがなかったんで……僕と白崎さんで作りました」


「へー。しかりんっ!頑張ったねっ!」


「えへへへっ!」


…………なんか、僕の扱い酷くないか?なんかしたっけ?


「………う、うう……」


と、なぜかもがきながら起き上がる島崎先輩。


「あ、うっしー。おはよーっ!」


「……おはよ。渚」


というか、みんな起きるの早いな。まだ4時過ぎだぞ?


「じゃ、うっしー。何食べたい?」


と、台所に立ってエプロンを付けながら井上先輩は島崎先輩にきく。


なんか、本当に夫婦みたいだ。


「えー。うーん。渚が作るものならなんでも美味しいよ」


「じ、じゃ、今日はうっしーの好きなフレンチトースト作るねっ!」


なんか、先輩達すごいな。僕らも頑張らないと。


そして、僕らは絆を深めるために、映画館に向かう。


「あ、お兄ちゃんっ!!」


「……え?この声は……」

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