第30話
30話
承諾したはいいものの、金欠、食べ過ぎで腹痛という状態は全く変わらないわけでして……
「あの、士郎?どーしました?」
「えっと、少し休ませてください…」
「はーい」
うん。時間は稼げたし、腹痛はどうにかなるかもしれないが、金はない。これで出来ること……
……何も思いつかないや。
外とは縁を切っていたような僕には、この難題はちょっと厳しいな。
こんな時にあいつが来てくれさえすれば………って、来るわけないか。
まあ、もうそんなのはそろそろ自分でも気づいている。
だけど、なんでだ?なんであいつは急に出てこなくなったんだ?
そして、あの消え方とかも、まるで遠くに行くような。いや、目的を果たしてようがなくなったとも見える。
ってことは、僕は晴れてリア獣になったというわけか?いま、ここのショッピングモールのあちこちにいるリア獣と同じになったというわけか?
…………じゃ、僕はもう、あいつとは会えないのか?
「そろそろ、士郎。行きませんか!」
くそ。余計なことを考えてしまっていたせいで、時間がなくなってしまったぜ……
とりあえず、店を出てもいいだろう。
ラーメン屋に長居はしたくないしな。
「そうだな。じゃ、行こう」
「うんっ!!」
とりあえず、会計を済まして店を出たが、行く当てもなくこの馬鹿でかいショッピングモールを漂っていた。
「で、なにします?ここ歩いててもつかれるだけですよ?」
と、楽しそうに訊いてくる。
「まあ、そうですけど……」
僕には趣味といった趣味がない。だから、こういうところに来ると……このざまだ。
「じゃ、ラビットらんどストア行きましょー!!」
と、スーパーハイテンションな白崎さんがメラメラしながら、そうやって訊いてくる。
男の僕がひっぱって、エスコートなんてもんをしないといけない。なんて思い込んでいたが、これもこれでいい。女の子に引っ張られるってのも悪くない。
僕はれんのような性格、容姿まで完璧なような男ではない。いたって普通の高校生だ。そんなことできる訳がない。
火憐みたいな人と付き合うことになっていたならば、こうはならなかっただろう。
だから、僕はこんな白崎さんに、惹かれたのかもしれない。
僕はため息でもつくかのように「うん」と返事をした。
「やったー!!」
大したことではないのに、こんなにリアクションを取ってくれる。
僕は幸せ者だ。
こんな人と一緒にリア充になれたんだ。
これ以上幸せなことなんてない。ってくらいに幸せだ。
そして、本当にリア充のように満喫した。
なんだろう。例を挙げるとすると、僕はお金がないので、白崎さんについて回る形になったが、やたら白崎さんが食べる。
先程ラーメンを食べたばかりだというのに、ラビットらんどストア行ってみたら小腹が空いたとかなんとか言って、クレープを食べてみたり、それで起きたリア充だからこその出来事。
「はい。あーん」
が発生したのだ。
そりゃー。もう、幸せでしたよ。
その幸せの時間は長く、だが、一瞬のように過ぎていった。
そして、今はあの部活の家で、本当の家族のようにテーブルを囲んで座っている。
面子はいつも通り、井上先輩、島崎先輩、白崎さん、僕の四人だ。
「じゃ、一つ部活らしいことをしましょうか」
と、唐突に井上先輩が切り出す。
当然、井上先輩以外は頭にハテナマークを浮かべている。
本当に急だな……
「あれ?言ってなかったっけ?文化祭近いからなんか意見上げてね。って」
「全く、身に覚えがないですけど?」
「あらそう?じゃ、今言いました」
「う、うん……」
「なに?文句でもあるの?」
「いえっ!なにもないです!」
人を一瞬にして殺すような鋭い目。いっそ、暗殺屋にでもなればいいのに。
そして、目線で「私はこれ以上発言なんてしたくない。だから、てめえがやれ」と、言わんばかりの押し付けるような目で僕を締め付けてくる。
「な、なんか…あります?」
………やはりか。君たちは本当にいつもいつも……白崎さんはぐてーっと机に突っ伏してたわわん。島崎先輩は目を開けながら死んでいる。まるで、弁慶の最期ようだ。
「と言うわけで、なにもないです」
「そうね……」
と、またまた目線で僕を締め付けてくる。
はいはい。意見を出せばいいんでしょ?わかりました。
考える前に一つ疑問があった。
「あの、先輩。ここの部活ってなにをやるためにできたんですか?」
「………うーん。人さえいれば部活作っていいよ。って言われて作っただけだし、なんのあれもないわね。強いて言えば……日常部という名前だし、日常関係?」
………ちょっと、この先輩なに言ってるかわからないんだが?
だが、わかる範囲内で考えてみるか。
文化祭の出し物か。
それも日常関係?
本当になに?日常関係って…
あ、ここには美男美女揃ってるし、日常関係ってなら……閃いた。
「あの、先輩。一つ案いいですか?」
「なによ?改まって早く言いなさい」
「えっと、今こうやってグダグダしてるじゃないですか」
「い、一応。(グダグダというか、会議だけど……)」
なんか、最期に小さくなんか言ってたけど、まあ、いいか。
「それで、ここは美男美女が揃ってるじゃないですか」
「まあ、そうね。自分でもそう思うわっ!!」
なんだろう。この自信は……確かに小さくてかわいいけど……
「このセクシーさは誰も出せ…」
「で、先輩。写真集とかどうですかね?」
「なに発言を横切ってるのよっ!」
「ねえ、しかりん。どうですか?」
「ふぇぇ?いいんじゃなぁいてすかぁー?」
か、かわいい……そして、こっちの方がセクシーだな。
たわわんな胸が机にズーンとペタンとなっていて、それはもう、けしからんことに………
それに対して……井上先輩はどうだろう?うん。かわいい。それは白崎さんと変わらない。だが、可愛さの種類があまりに違いすぎる。その金髪碧眼ツインテール。そして、そのロリロリとした容姿。もう、一種のマスコットキャラクターだ。
これなら、売れる……
金欠な僕的には最高だぜ!
だけど、白崎さんの写真なんて、誰にも買わせたくない。島崎先輩だって、井上先輩の写真なんて売る気なんてないだろうし……
これはダメだ。
「待ってくださいっ!今考えたら、完璧にアウトでした。また考えるんで、ごめんなさいごめんなさいっ!!」
うーん。どうしようか?
日常か。難しいな……
もう、なんでもいいんじゃね?
うん。そうしよう。メイド喫茶とかあるじゃないか。そうそう。王道を忘れてはならないよな。白崎さんのメイド服姿とか……考えただけですんばらしいなぁ。
「あ、メイド喫茶……とか?」
とりあえず、思いついたし、様子を伺うために一言そう言ってみる。
「メイド喫茶!?」
過剰反応する方が一名。白崎さんだ。
「メイド喫茶ねぇ。いいこというじゃない」
と、先輩。
お?これはいけるんじゃないか?
「メイド喫茶……やります?」
「うんっ!」
「いいわよ」
「……ふむ」
と、各自返事をしてくれた。
すげえ。へえ。島崎先輩返事してくれるんだ。そして、どことなく幸せそうな島崎先輩。まあ、確かに彼女のメイド服姿なんてそうそう見れるわけがないしな。
そして、なんとなーく出したメイド喫茶をやる事になった。
とりあえず、準備だよな。あと何日あるんだろう?
「じゃ、もう明日学校だし寝ますか」
「そうですね。もういい時間ですしね」
時計は10時を指している。
で、先輩はいつも通り白崎さんを運んでいった。
そして、僕らも寝る。
今日は幸せだったが、やっぱり一日中歩いたし疲れたな。
そんなこともあってか、一瞬で僕は眠りについた。
「おかえりなさいませっ!ご主人様っ!」
そんな一言で僕は朦朧とした意識の中、目を開ける。
「うん?夢?」
目を覚まして最初に飛び込んできた光景からして、夢だと思ってもおかしくはないだろう。
そこにあったのは、白崎さんの美しいという言葉では言い表せない程のフリフリとした白と黒のかわいらしい衣装。そして、メイドカチューシャ。完璧なるメイドの姿がそこにはあった。
「夢じゃないですよ?ご主人様っ!」
お、おお……
「じゃ、幻?」
「夢でも幻でもないですっ!現実ですっ!」
いつものハツラツで元気な感じが、メイドの感じとマッチして素晴らしく萌える。
僕はオタクとかじゃないが、萌えるの意味がすごくわかる。
流石、俺の嫁っ!!
「あ、あの……どうですか?すごく恥ずかしいんですけど……」
……ここに来て急にデレるだと!?
ふざけんな。かわいいじゃねえか。
「か、かわいいです」
あまりの美しさに僕は目を逸らしながらそう答える。
「ほ、本当ですか?」
「は、はいっ!」
「やったっ!へへ」
ここでまた素に戻るだと!?
やばい。にやけちまうよ……こんなのに萌えないやつはいない。
「はいはい。朝からリア充お疲れ様」
と、呆れたような声で話しかけてきたのが、井上先輩だ。
「いや、その……」
確かまだ白崎さんと僕が付き合ってる事なんて、報告はしてなかったような。
「うん?なに?急に二人とも離れて」
「え?だって……」
「うん?付き合ってるんでしょ?二人とも」
「「え!?」」
珍しく、僕と白崎さんの声があう。
「えぇ!?こっちが驚くわっ!あれで隠してたつもりなの?」
僕と白崎さんは顔を見合わせ、また再度、井上先輩を見る。
「まあ、二人とも似てるしね」
「え?なにが似てるんですか?」
正反対のような気が……
「うーん。雰囲気とか?なんかね。いや、似てるんじゃないのかな?例えるなら、太陽と月?みたいな」
何にも似てないと思うんだけど……
「それって正反対なんじゃないですか?」
「うーん。例えるのが難しいわね。とにかくあれよっ!なんか、いい感じなのよっ!で、ご飯できたわよっ!」
誤魔化した……
本当になんの話だったんだろ?
僕らはさっさとご飯を食べ、学校に向かう。
もう夏休みも終わって少しは涼しくなり、なかなかいい気温だ。
そう言えば、二年になってからもう、半年にもなるのか。
なんだか、早いようで遅いような。そんな妙な感覚があった。
「士郎っ!はやくっ!」
「なにチンタラしてるの?遅刻するわよっ!!ほら、ウッシーも」
「うう………」
こんなメンバーだけど、文化祭なんて自己満足のためにやるんだ。人を楽しませるんじゃない。自分達が楽しむためにやるんだ。なら、これ以上にないって程のメンバーと言えるだろう。
「うん?どーしたんですか?士郎っ!」
「いや、なんでもない」
「そーですか」
でも、メイド喫茶やるなんて言ったが、男の役目なんてあるの?
「あの、先輩。メイド喫茶やるなら、男の僕たちの役目ってなんですか?」
「え?士郎?貴方も着るんじゃないの?」
………何言ってんだ?こいつ。
「え?違うんですか?」
「しかりんまで……」
「僕は、遠慮しておくよ」
「いや、そこはフォローしてくれよっ!同じ男じゃないかっ!!」
「うーん。じゃ、ゴホン。そうだぞ?二宮くん頑張りなさい」
「どっちのフォローしてんだ……」
というか、僕は似合わないと思うんだが?
そうこうしているうちに、学校に着いた。
当然、文化祭が近い。ということは、クラスでの話し合いもあるわけで…
「はい。じゃ、今年の6時限目は文化祭二週間前になりましたので、今日はクラスでなにをやるか。それの役割決めなどをやりたいと思います。では、委員長。お願いします」
と、律先生が委員長にバトンを渡す。
委員長は地味っこの眼鏡っ娘だが、メガネを外すとかなりかわいい。と、噂されていたりする。そして、ここの高校では男子、女子で二人委員長が存在し、男の方はなんか、普通の男の人みたいな。本当に一般的な人だ。
「はいっ!では、皆さん。何かやりたいことはありますか?」
と、女の委員長が仕切る。
脳内を通り抜けるような透き通った印象に残る声だ。
「はいっ!」
と、元気よく手を挙げたのはれんだ。
なんか、嫌な予感が……
「ホスト。キャバクラブやりたいっ!」
そして、一言そう放つ。
「はい。ホスト。キャバクラブっと……」
あまりにみんなが普通で、誰もなにも言わないので、ちょっと自分が変なのか?と、疑いかけたが、これっていわゆる水商売だよな?それって、文化祭でやっていいのか?
と、思い先生に目を向けると、なんだか生暖かい目でみんなを見ている。
いいのかよ……
本当に破茶滅茶だ。
そして、それからは誰もなにも発言しない。
「みんな。このままだとホスト。キャバクラブになるけどいい?」
「いいと思う」「うんうん。楽しそうだし」「接客どーするの?」「うーん。とりあえず、イケメンと美人で客寄せと接客と出来るでしょ?」「じゃ、私みたいなオタクは?」「なら、うーん。あれじゃね?裏で仕込みとか?」
とか言った話が、委員長たちと僕ら一般生徒との間で、繰り広げられている。僕とかは参加していないが。
本当にいいのかよ。
「じゃ、イケメンと言えば二宮くんと柴崎くん二人でいいのかな?」「まあ、ここの顔面偏差値からしたら、そうなるのかな?」
僕はそんなにイケメンじゃないと思うんだが……
「裏は……頼む高崎。表に出てこないでくれっ!!」
「え?俺もやりたい。あれでしょ?女の子とできるんでしょ?子作り」
そうか。高崎と同じクラスだったっけ?存在感は凄いのだが、関わるとろくなことがないので、関わらないできたからな……
「んな話ししてねえよっ!とにかくだ。出てこないでくれ。そ、そういえば、お前ってあれだよな?料理とか出来るんじゃないのか?」
ワチャワチャしているが、みんな結構まとまって話しているので、会話に参加してなくても、全然理解できるな。
「あ、ああ。女の子にモテる為ならえんやこら。だ」
「そ、そうか。じゃ、料理長頼めるか?」
「それでできるのか?子作り」
「それは……お前の頑張り次第じゃね?」
「おお!!やるやる!!」
この男の委員長やるな。人を乗らす天才じゃねえのか?
あーだこーだで、いろいろと決まっていった。
だが、納得できない。
なんで……なんで僕が……接客なんてしなくちゃならないんだ……
「おお。士郎っ!似合ってるねっ!」
ホストみたいなスーツのような服を着せられて、髪型もさっきいじられて、このざまだ。
「それはありがとうっ!しかりんっ!じゃなくてっ!なんで喜んでるんだ?」
「いや、だって士郎……かっこいいんですもん……」
「うっ……」
そんな恥じらって素直に言われたら、なにも言えないじゃねえか……
「お二人さん。お熱いねえ」「お?二人はやっとゴールイン?」「よかったねー。おめでとう」
あれ?こんなに祝福されるの?
だって、嫌われてるんじゃないの?
「あ、皆さん。士郎が告白した言葉とか興味ありませんか?」
「お?あるある〜」「そんなのあるのか?」「いいねぇー。大音量で流そうぜ?」
「やっぱり?じゃ、流すよー」
「おいっ!ちょっと止めて……」
「だからずっと、 来年も再来年も次の年も一緒にいてくださいっ!!」
と、僕の言葉を遮るくらいの大音量でそう流れる。
「「「「ぎゃっははっはっ!!!」」」」
その言葉が流れた後、クラス中が笑いの渦に包まれた。
本当に、なんなんだろ?人の告白をなんだと思ってんだろ。こいつらは……
「……みんな酷いですね。私はかなりあの告白感動したのに……」
こんな面と向かってそんなこと言われたら、照れるな。
「それは……よかった……です」
目をそらしながら、そう受け答える。
その時、周りの雑音は全く気にならなかった。まるで僕と白崎さんしかその場にいないような二人きりの時のような感覚だ。
だが、この現状は変わりはしない。
当然、れんも僕と同じ服を着ている。
れんと僕を見比べれば一目瞭然ではないか……格の差ってやつが…
「でも、さ?シフトとかあるし、どーするんだ?僕ら二人だけとか無理があるぞ?」
みんな図星をつかれたみたいな顔をしていた。
なんて計画性のないやつらなの!?
「あ、じゃ女の子の方はどーします?」
と、委員長が女に手を出した。
「ここの女子の顔面偏差値かなり高いしな……選ぶの大変だな」
「じゃ、キャバクラブなら、指名制とかにしてみれば?」
「まあ、男は多分柴崎と二宮にしか寄らないだろうしな。女子はそうしようか」
と、勝手に委員長が決めて、勝手に終わっていた。
僕の意見なんて通らない。それがこのクラスである。
というか、僕は女の子に話しかけられたことすらないぞ?なのに?
おかしいだろ……
「でも、少し妬いちゃうな……」
と、なにか白崎さんが呟いた。周りはガヤガヤしていたし、なにせ小声だったから、よく聞こえなかった。
「しかりん。なんか言った?」
「ううん。なんでもないよっ!」
まあ、それならいいか。
そして、下校時間になった。
まあ、役割的には僕は本番だけってことだし、クラスの方はそんなに頑張らなくていい。でも、部活は人は少ないしなんか、部活の奴でも接客しないといけない羽目に……
「あ、おかえり。特訓するわよっ!」
と、やはりまた唐突に僕の平凡な日常は崩れ去る。
「へ?なんのですか?」
「接客に決まってるでしょ?」
「え。えー……」
家に帰って早々、なんか小さいのに絡まれんだが?
「なに?文句あるの?」
「いや、なにも…」
そして、波乱に満ち溢れた二週間の地獄の特訓が始まったのであった。
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