第28.5話

28.5話


私、二宮梨花。中学校二年生。好きな事は、料理を作ることで、好きな人はお兄ちゃんっ!


今日も私はお兄ちゃんのために、ご飯を作っていた。


「お兄ちゃんっ!おはよ。ご飯なにがいい?」


「あ、あぁ。おはよう。なんでもいいぞ」


はぁ。妹なのになんか、距離があるというか、よそよそしい。だが、私は元気なふりをして返す。


「冷蔵庫には…んー。肉じゃがかな?」


と、大好きなお兄ちゃんの機嫌を伺うため、大きく独り言を言う。


「…………お、おう」


少し間をおいて、お兄ちゃんが答える。


なんで?こんなにアピールしてるのに、お兄ちゃんはあんなに素っ気ないの?


でも、それはそれで好きなんだけどね


へへ。


そして、私は肉じゃがを作り、適当に他にもサラダや味噌汁などを作る。


「お兄ちゃんっ!出来たよっ!!」


「じゃ、運ぶよ」


「うんっ!ありがとっ!お兄ちゃん」


それから、お兄ちゃんはキッチンに来て、出来上がった料理をリビングに運ぶ。


私はその間、炊けたご飯をお茶碗によそい、リビングへと持っていく。


そして、ご飯がリビングに並んだ。


「「いただきます」」


私達は声を合わせ、挨拶をする。


だが、私は、絶対にお兄ちゃんが料理に手をつけるまでは、箸も持たずに待っている。


なんと言っても、私のご飯を食べたあとに見せる。お兄ちゃんの幸せに満ちたあの爽やかな笑顔。あれを見なければ、私はご飯に手をつけれないのだ。


こればかりは仕方がない。小さい時からの癖というか、決めたことがある為、私は絶対にお兄ちゃんより先には食べれない。というか、食べない。


そんなこと知る由もないお兄ちゃんは、肉じゃがを一口食べる。


「どう?美味しい?」


私はいつも通り、訊く。


「うまい………美味しいぞっ!梨花っ!!」


と、この時。本当にこの時。お兄ちゃんにご飯を作って、それを食べてもらえる時だけは、心と心で繋がってる気になれる。


だから、私は料理をもっと上手く作らなければならない。


「うんっ!!」


今日もお兄ちゃんの笑顔取れた。


私は本当はこれだけで充分という気にはなるが、私も人間。ご飯を食べないといけない。


いっそ、ロボットだったりすれば、こんなに辛くも、痛くも、切なくももないのに………


私は今日もご飯を摂取する。


「ふう。ご馳走様でした」


「お粗末さまでした。じゃ、お兄ちゃん。片付けてねっ!」


「うん。わかった」


それから、私達は食器を片付けて、それぞれのお兄ちゃんは高校に。私は中学校に向かう。


「お兄ちゃんっ!またねっ!……まっすぐ帰ってくるんだよ?」


「う、うん」


わたしはお兄ちゃんを見送ると、玄関ポーチで立ち尽くしていた。


はぁ。またお兄ちゃんは学校に行ってしまった……


「おっす。二宮」


そんな私に話しかけてきたのは、わたしより低身長の男の子だった。


「………誰?」


「おいおい。それは酷くないか?」


と、その小学生とあまり変わらないくらいの低身長の子が話しかけてくる。


「人間違えでは?私は小学校の知り合いなんて居ないけど?」


と、いびってやると、


「はぁ?お前こそ、小学校からやり直してくれば?前の中間、お前、俺より低いだろ」


反撃された。


「ふ、ふんっ!うるさいっ!チビ草っ!」


このチビのムカつく奴は、チビ草こと、天草 咲夜(あまくさ さくや)だ。


「俺は小さくないっ!こ、このバカ宮っ!!」


「バカって言った方がバカなんですぅー」


「「ふんっ!」」


全く。なんでこんなに子供みたいなんだろう?私は子供だ。だから、私に合うのは、お兄ちゃんしかいない。


「……学校いくぞ」


と、手を差し伸べてくるが、私はそれをはねのけて、一人、学校に向かう。


「なんで、そんなに怒ってんだ?」


「ふんっ!」


バカ宮なんて言っておいて、よくのうのうと、そんなことを言えるよね。「ごめんなさい」の一言もないのに。


当然私は無視し、そいつを置いて、さっさと学校に向かう。


「おい。なんでそんなにキレてんだよ」


と、私のあとをつけてくるチビ草。


なに?こいつ。私をつけてくるの?


私は、やつを巻くために、小さい商店街を抜け、学校まで交差点を一つ挟んで一本の、大通りに出る。


ふう。巻いたか。


「おはようございます。梨花さん」


私が後ろを向いてやつがいないか、確認していたところ、進行方向から声が聞こえ、ぱっと振り向く。


「あ、あぁ。鳥ちゃんか」


そこにいたのは、私の友達の白崎鳥(しらさき ちょう)ちゃんだ。


中学校のテストでは、いつも一位の座に就き、そして、顔もかなり良い。はっきりいって穴がない。絵に描いたような少女だ。


でも、このタイミングで会うのは……


「どーしたんですか?そんなに慌てて」


と、心配そうに訊いてくる。


「あ。ちょっと、ね」


「おーい。二宮。どこ行ったんだ?」


やばい。やつが近くまで来てる。


私がその場から逃げようとした時、突如、裾を掴まれ逃げれなくなる。


「梨花さん。何かしたんですか?」


「いや、私は何もしてないよ?」


「そーですか。じゃ、なんで追われてるんですか?」


う、うう。逃げれない。


「は、話せば長くなるし、とりあえず、一旦場所を変えよう?ね?」


「わかりました」


その言葉を聞くと同時くらいに、私は走り始めていた。


陸上部の私に二人ともついてこれないだろう。


「って、ええっ!!」


何故か私より、二人がさきに走っていた。


「おはよう。鳥さん」


「おはようございます。天草さん」


と、走りながら挨拶をしている。


なんだこのシュールな絵はっ!!


「あ、梨花さん。なんで逃げたんですか?」


「おお。二宮。なんで走ってんだ?」


「こっちが聞きたいわっ!!」


二人が後ろを向きながら走り、質問してくる。


結構本気で走ってんのに、なんでこいつらこんなに速いんだ?


それも後ろ向きで。


私は決して遅いわけではない。百メートル13前半くらいだし、まあまあってところだろう。


なのに、なんで?おかしいだろっ!


「うるさいっ!とりあえず、止まりなさいっ!ここから交差点だからっ!」


やばい。あの二人。全然聞いてない。


なぜやばいかというと、進行方向から見て、右側からトラックが接近していたからだ。


「危ないっ!!」


私は、二人が当たってしまうかもしれない。という恐怖感から、目を閉じてしまう。


トントン。


と、そんな時、両肩を叩かれる。


な、なんだ?


助けてくれなかったから、お化けになって私を襲いに来たのか!?


恐る恐る目を閉じながら、後ろを振り返る。


頬に、誰かの指がムニッと当たる。


無理。これ以上は見れないよぉ。


私は目の閉じた状態で、半泣きになりながら、その場で静止する。


「よし、俺の勝ち」


「う、うぅ……」


と、先ほど引かれたはずの二人の声が、聞こえてくる。


………え?


待って。本当にダメだ。


「なに震えてんだ?二宮。ダッサ」


……はは。幽霊だろうとなんだろうと、あのチビ草に文句言われたら、返すことは一つだ。


「殴るっ!!」


思いっきり右手を振り上げると、後ろを振り返り、そのままやつの頭をぶん殴る。


「痛え……なにするんだよっ!」


あ、痛みあるんだ。なら、おばけじゃないかな?


ふぅ。怖かった。


私は涙を拭い、横断歩道を渡る。


「おいっ!無視すんなってっ!なんで逃げんだよっ!」


「ふんっ!知らないっ!」


そして、学校に着く。


自分のクラスに着き、クラスメイトに挨拶をしながら、自分の席に着く。


当然、やつは無視したままだ。


「なぁなぁ。なんで無視するんだ?」


なんでこいつ。チビ草と席が隣なんだろう?


席は真ん中のレーンの真ん中辺り。


最近席替えをして、そうなった。


「ねえねえ。鳥ちゃん。さっきはごめんねぇ」


と、やつから逃げるために、私の後ろにいる鳥ちゃんに話しかける。


「あ、そうですね。なんか、悪いことしたですか?」


「う、うぅ……」


これはこれで面倒くさい。


「悪いことはしてないよ。ただ…」


「ただ?」


「全部あいつが悪いのっ!」


と、チビ草指をさし、全ての責任をなすりつけ、この面倒くさい状況を打破する。


「そうなんですか?チビ草さん」


「確かに、最初にちょっかい出したのは俺だけど……って、俺はチビじゃないっ!」


なんて、会話が聞こえるが、私はそれを無視し、携帯を取り出して、写真フォルダーから、秘蔵と書かれたものをクリックし、中を見る。


ふへへ………


お兄ちゃんかわいい……


キーンコーンカーンコーン……


そんなことをしていると、HRが始まる。


「起立。礼。着席」


「はーい。今日は、特に何もないです。ってことで、頑張ってね」


と、50歳くらいの実質のありそうな先生が、そう言う。


*****


ハァ………


やっと、昼休みか。


「おい。二宮。どーしたんだ?ため息なんてついて。まさか、恋愛ごとか?」


と、ふざけて聞いてくる。


くっ!!


私は唇を噛み、耐える。


小学校の頃から好きなのに、お兄ちゃんは全然気づいてくれないし、兄妹だからって、この生殺し状態。


もう、泣きそう。だけど、この気持ちはどうしようもない。


「そ、そんなことあるわけないじゃん」


と、普通を演じる。


「まあ、そうだよな」


なんて言って、笑って返してきた。


よかった。騙せてるみたいだ。あいつは結構中学じゃ人気だ。元気で明るくて面白い。こんな三拍子揃った人は、なかなかいない。それだから、結構女の子から人気がある。


なのに、かなり恋愛に鈍感で、もう、モロわかる。みたいな人も告白されるまで全然気づいていないから、まあ、多分大丈夫だろう。


「でも、悩みとかあれば助けてやるからな。お前は俺の……」


「な、なに?悩みとかないし、てか、キモっ!」


急になんなの?真顔で……


「キモいは酷いだろ……」


でも、私はお兄ちゃんが好き。これは変わらない。


はぁ。なんか、ないかな?お兄ちゃんを落とすことが出来るもの。


多分、私が告白しても、というか前、告白みたいなのしたのに、返事はないし、私のことは多分、ただの妹だと思ってるんだろうな。


でも、それじゃダメなんだ。私はお兄ちゃんの最愛になりたい。他の人は見ないでいてほしい。……私だけを見ていてほしい。


キーンコーンカーンコーン……


なんて、考えていたら昼休みが終わってしまった。


あ、ああ……


そして、私はあることをしていないことに気づく。


お兄ちゃんの、秘蔵画像を見忘れたぁぁ!!!!


それで、次の授業は体育か。


さっさと着替えていかないと……あと5分しか無い。


私は、女子更衣室へ着替えを持ち駆けと、即座に着替え、今日の体育場である体育館へ向かう。


「気をつけ。礼」


と、大きい透き通るような、委員長の声が聞こえる。


「よ、よろしくお願いいたします!」


と、体育館に入りながら挨拶をし、自分の場所に入る。当然だが、女だけだ。男は今日は外でサッカーらしい。


「今日は、バレーです。いつもみたいに、準備運動して、試合やって、報告。但し、怪我だけには気をつけてね?」


と、清楚系の優しそうなお姉さんみたいな。体育の先生がそう言う。


そして、いつも通り、その先生の言いつけを守り、怪我なく終わり、着替えてクラスに戻る。


そして、特になにもなく、下校時間になる。


今日は部活も無いし、早く帰れる。ってことは、お兄ちゃんに精一杯奉仕できる。


へへ。


でも、そんなのでいいのか?


私は、お兄ちゃんの最愛になりたい。その為にどうすればいいんだ?奉仕するばかりでいいのだろうか?やる事とか、もう、わからないや。


なんて、帰り道に考えていると、


「それなら、お手伝いしますよ」


と、声が聞こえた。


え?貴女は誰?

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