第28話
28話
電車に揺られながら僕らは帰っていた。
でも、なんでだろ?どうしてあいつ。インスタントガールフレンドは出てこないんだ?
呼んで出てくるわけでもなくだったし、よくわからないけど、大体、僕が困ってたら出てきてたじゃねえか。
ありがとうの一つも言わしてくれないのかよ………
「ねえ。どうしたの?そんな辛気臭い顔して」
火憐が横から僕を覗き込むように、話しかけてくる。
「いや、なんでもない…」
「ん?なに言ってんだ?火憐。辛気臭いのはいつものことじゃねえか」
「な、なんだと!?僕がか?」
「まあ、な。でも、本当に困ったこととかあったら、俺でも火憐でも相談してくれよ?」
「あ、ああ」
なんでこんなにもこいつらは、かっこいいんだろうか?
だが、こればかりは、頼ることはしてはいけない気がする。万が一頼るにも、どう説明していいかわからないし……
これは僕とあいつのことだ。僕が一人で解決してやる。
パタン。
白崎さんが電車の揺れのせいで、僕の肩に寄りかかる。
「すぅ……すぅ……」
寝息が聞こえる。
こんなところでみっともなく暴れちゃならないぞ。二宮士郎。ここは動じるな。
「士郎。うふふ……」
そんな囁くように言って、起きてんじゃねえのか!?
「好き……」
……ああ。僕もだ。
両思いなんだな。全く実感はなかったが、僕はリア充になったのか。
なんだろう。ぽかぽかするというか。この気持ちのよい感じ……言うなれば、日向ぼっこをする猫の気持ちだろうか?
そんな幸せに僕は浸っていた。
「まもなく、勝田台駅。お降りの際は忘れ物に十分ご注意ください」
どうやら最寄りの駅に着いたようだ。
「着いたわよっ!しかりん。起きなさい」
「あ、朝ですかぁ?」
「違うわよっ!今から帰るの」
「あ。ふぁーい」
腑抜けた力のない白崎さんの声が、僕の心に癒しをもたらす。
「あ、士郎。おはようございまーす」
すぐ横にいた僕に白崎さんは挨拶をする。
「う、うん。おはよう」
まるで朝のような会話だが、いまはもう深夜帯だ。
そんな光景に周りの人達も少しくすくすと笑いだしている。
そんな小恥ずかしい状況の中、僕らは電車から降りた。
僕以外は普通になにもなかったかのように降りた。
うん。僕はいたって正常。だよな?
それから、のんびりと朝停めた自転車まで歩く。みんな眠たそうだったが、一人ピンピンしてるのがいた。
「あ、士郎っ!見てみてっ!月が綺麗だねっ!」
そう。電車内でぐっすりだった白崎さん。
「お、そうだね」
こんなマイナスめいた。能天気なところも、白崎さんらしくていいな。
マイナス面もプラスにしか見えない。これは僕が親バカもとい、彼氏バカなのだろうか?
「なーに、にやけてんのよ」
と、あくび交じりに割り込んでくる先輩。
「あ、す、すいません」
先輩に僕らが付き合い始めたのとか、言わないといけないよな?
でも、どんなタイミングで言えばいいんだろう?
「あー。僕、白崎さんと付き合うことになったんですよ」
なんて言ったら、自慢にしか聞こえないし、うざったるく感じるよな。
でも、言わなければ言わないで、先輩のことだ。
「なんで黙ってたの!?報告してくれれば、お祝いくらいしたのに」
とか、親みたいなこと言いそうだしなぁ。
言わないと、いけないよなぁ。
やはり、やつは出てこなかった。
本当にどうしたんだろうか?忙しくとも、電話みたいなやつで教えてくれたり、僕にはハードルが高く、無理そうなら中身交換して僕の代わりにやってくれたりしたのに…
やつがいないと、ダメだな。
なんだろうか?心の中にぽっかり穴があくような感覚があった。
「どうしたのよ。何か返しなさいよ」
「あ、す、すいません」
やっぱり、言わないとなぁ。
「あ、俺らはあっちだから、皆さんまたなー」
そうか。家の場所変わったんだったな。
「じゃ、そういうことだから、色々頑張ってねっ!」
「お、ああ」
「気をつけて帰ってねー」
と、母親地味た挨拶な井上先輩。
「またね」
と、なぜか堂々とした大人な感じの島崎先輩。父親ってこんなのなのかな?
僕の父親は仕事の虫で家に帰ってくることはない。だから、あったことはない。
やつらが帰ったあと、先輩が場を仕切る。
「じゃ、私達も帰りましょうか」
「そうしましょー」
「そうだね」
「そうしましょうか」
それぞれが答える。
*****
ふう。着いた。さっさと寝るか。明日は休みだし、グッスリに寝れるだろう。
「あ、お兄ちゃん。おかえり」
…は?
僕の妹である梨花が、玄関を開けるといた。
一旦、扉を閉める。
え?なんで?なんであいつここにいるんだ?
そして、もう一度開ける。
「あの、なぜ?」
「え?だって言ったじゃん。明日から来るって」
「まあ、確かに言ってたけど、来るっても、今日は遅いし、部活とかあるんだし、なんで帰らなかったんだ?」
「え?何を言ってるのお兄ちゃん。部活はやめたし、泊まり込み、いや、住み込みだよっ!」
「住み込みだよっ!じゃねえよっ!というか、部活やめたのかよっ!」
はぁ。疲れたのになんでこんなに突っ込まねえといけねえんだ。
「先輩。梨花はノリノリですけど、学校的にはいいんですか?」
「そ、そうねぇ。(私的には最高だし、士郎、学校にバレなければ……)よし、大丈夫よ」
「え!?まじですか?」
「そうよ」
いつも通り堂々としてるし、嘘ではなさそうだな。
でも、学校も学校だ。それでいいのか。
「今日はもう遅いし、寝ましょうか」
あ、先輩ギリギリな感じだ。
もう、目を閉じかけていらっしゃる。
「じゃ、おやすみ。あ、梨花ちゃんこっち来る?」
「いえ、私はお兄ちゃんと一緒に寝ますっ!」
おいおい。もうベットメイキング完璧じゃないか。
いつもなら僕と島崎先輩だから、僕が真ん中で堂々と、先輩が端っこ。という意味のわからない感じになっていたが、今は真ん中に妹の布団が入る。僕のはその横にくっつけられて、先輩のは定位置だ。
「じゃ、お兄ちゃん。寝よ?」
これは妹。これは妹。心の深いところにそれを叩き込む。
「あ、ああ」
そういえば、梨花と寝るなんて幼稚園以来だな。
あの頃はまだ純粋無垢な少女だったのに、今となってはもう、僕の脅威だ。
というか、居られるとかなり困る。白崎さんと付き合い始めたってことも家では言えないから、学校でに限られるし、そういうのはむやみに言う必要もない。
くそ。余計に言いにくいじゃねえか。
僕はベットを離そうとしたが、妹の殺意に満ちた目に恐れをなし、何も出来ず、セットされたままの状態で横たわる。
そのまま僕は、意識を布団に吸い取られるかのように寝た。
****
ガタンガタン……ガタンガタン……
う、うぅ……
揺れた衝撃で、意識が覚醒する。
ここは電車だな。
周りは本当に点々と人がいるだけ。時間は11時。そして妙に身体が重い。なんだろう?
ドス。
うん?
横に座ってた金髪のまあまあな美人が、僕の肩に寄りかかる。
うぉぉぉぉ!!!!
なんだこの演出は。最高としか言いようがないじゃないか。少し酒臭いのは気になることではあるが、それよりもこの視線ポジがヤバすぎる。
僕からして奥の方のこの子の肩が、鎖骨部分が見え、胸元もちらちらっと見える。というかこの子童女。小さいのに、なんでこんなにぶかぶかな服を着ているのだろう。べつにこの雀の涙程度のスモールサイズサイズ。見せる必要もないと思うが、って、え?
なんか先輩と被るな。
うん?でもなぁ、少し。先輩にしたら、本当に少し、本当に雀の涙程度だが、大きい気もするな。
「なぁにが、雀の涙程度よぉ!!」
その声に驚き、僕は先輩と思われる人物の前で、僕はなぜか土下座をしていた。
でも、この喋り方。どう考えても先輩だ。
ドテッ!
僕が動いてしまったせいで、先輩が倒れる。
「ふにゃあ?」
な、に?というか、誰だ?先輩より断然にかわいいんだけど。いや、先輩は先輩でかわいいんだけれども、ツンツンし過ぎなんだよなぁ。
「私がぁ…なんだって?」
「い、いや……」
「てか、なんで土下座してるの?」
「い、いや……」
と、言いながら立ち上がる。
「てか、さっきから言葉もれてるし…大丈夫だよぉ?お姉さんはそんなに怖くないからね?」
怖い。前からのトラウマが…出会って早々暴言。それから、映画館に誘われるが、それからあざを三つくらいつけられるし…あげたらきりがない。
「だから、ね?全然怖くないでしょ?」
な、なにその殺意……なにも鍛えてない平凡なサラリーマンなのに感じるぞっ!
「というか、懐かしい話するわね」
その殺意は消え、笑顔になる。
「なぜここでデレ!?」
「うるさいわねっ!何よっ!ツンデレって何か最近まで知らなかったのよっ!」
え、えぇ……成人迎えてからかよ。
ん?ちょっと待って、なにこれ。どうしたんだ?自分のことをサラリーマンって言ってみたり、この童女を成人とか言ってるし…僕の頭は大丈夫なのだろうか?
「あ、あの、先輩。ここってなんですか?」
「先輩って、昔っぽいわね。でも、悪くないわ」
「へ、へぇ」
悪くないんだ。
「え?というか、私とあんたは仕事仲間。同僚だよね?」
へ、へぇ。知らない。なに?未来なの?
「まもなく。勝田台。勝田台。お降りの際は忘れ物に十分お気をつけください」
「じゃ、降りましょうか」
どうやら、最寄駅に着いたようだ。
「そうですね」
「お、よっと……」
井上さんはよろけ、僕にまた倒れこんでくる。
それをギリギリで受け止める。
「大丈夫ですか?」
「ま、まあね」
「じ、じゃ、さっさと帰るわよっ!」
「は、はい」
****
僕らは駅からでて、駅前に来る。なんでこんなに暗いんだ?田舎なんだろう。
「じゃ、またね。奥さんを大切にしてねっ!」
と、言うとさっさと暗がりに消えてった。
昔と何にも変わってねえな。
さて、帰ろうか。
…………うん?
僕はいま重大なことに気がついた。
い、家はどこ?
プルルルル……
持っていたバックが鳴る。
な、なんだろう?
おそるおそるバックを開く。
暗闇の中、光ってるやつがあった。
携帯か。
とりあえず出る。
「もしもし」
「あ、貴方?」
電話越しに癒される透き通る声が、僕に響く。
「しかりん!?」
「どうしたんです?昔みたいな呼び方して」
やっぱりしかりんだ。
「今日は大丈夫ですか?遅くなるとは聞いてましたけど」
僕ってやつは…大人になっても迷惑かけてるのかよ。
これで何回めだろうか。大丈夫ですか?と、訊かれるのは。
だが、頼らねえと帰れねえし、意味わかんねえ。
「あ、しかりん。ちょっと勝田台まで来てくれないかな?」
「どうしました?」
「い、いや……」
この感じ、結構同居してから経ってるっぽいぞ。流石に大の大人が迷子ってのも恥ずかしいし……
「あ、そ、そう。お酒飲み過ぎて、倒れそうなんだ」
「それは大変ですね。じゃ、いますぐに向かいますね」
ブチッ!
電話が切れる。
「はぁ。待つか」
僕は近くにあるバス停のベンチに腰掛け、軽い頭痛と軽い吐き気に襲われる。
酒は呑んだことないし、酔うってこんな感じなんだ。てか、よくよく考えるとこれ、未来じゃん。どうして?
「貴方。大丈夫?」
容姿はほとんど変わってはいなかった。体つきもほとんどなにも変化なし。もう成長が終わったんだろう。だが、そうだよな。あれからもっととかちょっと、行きすぎな気もする。
「う、うん。あ、ありがとう」
うん?今更ではあるが、なんで付き合い始めたばかりでこんな。結婚後に話が飛んでるんだ?
「じゃ、家に帰りましょうか」
「そ、そうだな」
白崎さんは僕の腕に抱きついてきた。
もう結婚してるんだもんな。普通ちゃ普通か。
そして、場面が飛ぶ。
僕は家についていた。本当に飛んだため、意味がわからない。
「あ、貴方?着きましたよ?」
玄関か。
「あ、ああ」
ガチャ!
そして、中に入る。
「あ、そうだ。貴方」
白崎さんが先に入り、すくそこの玄関の前に正座する。
「どうした?」
「お風呂にする?ご飯にする?それとも………」
究極の選択を問われる。
当然僕は最後のだ。だがしかし、まだ僕は白崎さんの彼氏になってから、一日……も経ってないのに、そんな事をしていいのかと言われるとそれは違う気がする。
「それこそ、雀の涙程度しか変わらないんじゃないですか?」
声のする真後ろを振り返る。
え?
そこには見覚えのある美少女が立っていた。
……インスタントガールフレンド!?
*****
「はっ!!」
目を開くとそこには見覚えのある天井があった。
ここは、部活の家か。
そしてその確認をしたと同時に、現実に引き戻される。
…夢か。
そんな気もしてたけど、夢か。
「はぁ。夢か」
現実に戻され、とりあえず叫びたい気分になる。
「うわぁぁぁ。夢か」
と、僕は叫びながら枕を抱き、バタバタと暴れまわる。
「うるさい。二宮っ!!」
井上先輩の甲高い怒鳴り声がリビングに響く。
「あ、すいません」
謝りながら周りを確認する。
島崎先輩は端っこでぐるぐるメガネをかけ、パソコンをいじっている。
うん?まだ、あんまり明るくないな。曇りくらいの明るさだが、なぜか優しい光だ。
なんだろう。心が洗われるような、気持ちの良い朝だ。
「おはようごさいます…」
と、目をこすりながらこっちのリビングにやってきたのは、白崎さんだった。
本当に小動物みたいだ。
ぐしゃぐしゃになるまで撫で回したい。
だが、まだダメだ。そんなことして嫌われたら、僕の人生が終わる。
耐えるんだ。
僕は思いっきり自分の太ももをつねる。
「士郎?なんで自分の太ももをつねっているんです?」
まさかのここからの上目遣いだと?
「い、いや…」
僕は言い訳を考えつつ、目線をそらす。
「蚊に刺されたとこが痒くて」
苦し紛れだが、かなりいい言い訳だ。
「あー。ありますよね。痒くて我慢できないから、ばってん作ったりやりますよねー」
「そうそう」
おお。なんとかなった。
そして、僕らはいつも通りの席に座る。
ん?
「先輩。今日はご飯作らないんですか?」
係を決めるルール作ったが、ほとんど使用されず、ほぼ固定であった。
でも、一度くらい白崎さんの手料理を食べてみたい。
と、おもうが、まだ要求はしてはならないだろう。
本当にタイミングって難しい。
「あ、ああ。なんか、妹さんが作ってくれるらしい。えっと、朝ごはん作らないと、生活リズムが狂うとかなんとか言ってたわ」
「へ、へぇ」
そんなの聞いたことないけど…
でも、小学生の頃から、作らない日は無かったな。
ということは、妹は今キッチンにいるということになる。
へぇ。
お?これは、いいタイミングなんじゃないか?
「ねえ。士郎。しかりん。話があるんだけど」
いつもとは違う、真剣な先輩の表情。なんか重大そうだ。
「なんですか?」
「実は…私たち。島崎と井上は…付き合うことになりました」
どうしよう。なんていえばいいんだろ?
「…ごめんなさい。こういうとき、どんな顔していいか解らないの」
と、僕が言うと、島崎先輩がここぞと言わんばかりに、ぐるぐるメガネをカッコよくとり、
「笑えば…いいと思うよ」
と、一言そう言った。
「渚先輩。おめでとうごさいまぁす」
寝起きの白崎さんは柔らかな笑みで、ほわわんと、返していた。
「あ、ありがとう」
と、照れながら井上先輩。と、それを言った後、メガネをかけ、もうそれからはなにも言わず、静止している島崎先輩。
本当に変わらない先輩達だ。
よし、じゃ、この雰囲気に便乗して、僕も言おう。
僕は机を両手でドンっと叩き、勢いよく立ち上がる。
「あの、僕らも…」
「おはよっ!」
僕が発言すると同時に、妹がキッチンから出て来て、挨拶を飛ばす。
「あ、お、おはよう」
「おはようごさいます。妹さん」
「おはようごさいます。先生」
「…おはよう」
と、みんな妹に挨拶を返す。
僕はそっと、なにも言わなかったかのように、静かに腰を下ろす。
「で、士郎。なに?」
「い、いえ、なんでもないです」
「そっか」
と、いって先輩は妹の出てきたキッチンの方に行ってしまった。
「あ、先生。これ運べばいいですか?」
「あ、は、はい」
うわぁ。言い逃した。
でもまあ、まだ明日もチャンスはある。
「ちょっと、士郎。手伝いなさいっ!」
「あ、はい」
どうやら僕は雑用。これは変わってないようだ。
*****
「「「「「いただきます」」」」」
朝ごはんとなった。
席はいつも通りで、僕と白崎さんの方。僕の左側にに妹が来る。こんな感じだ。
そして、今日の朝ご飯はテンプレのようなものだった。
焼き鮭、味噌汁、漬物、白米、海苔。
日本人ぽく、素晴らしいではないか。
そして、僕はそんな優越感に浸りながら、味噌汁を一口飲む。
おお。このふんわりとした味噌と、かつおだしの風味。心が洗われるようだ。
そして、具材に箸を伸ばす。
今日は、油揚げにジャガイモを5センチくらいにスライスしたものか。
王道ってわけではないが、これはこれで…
美味い。油揚げが、しっかりと味噌汁の味を吸って上手くなっていやがる。そして、ジャガイモのこの歯応え。しっかりとした歯応えではないが、味噌汁の味をより鮮明にしているのはやつのおかげだ。
一言、僕はジャガイモに、言いたい。
ありがとう。と
「ど?お兄ちゃん。美味し?」
「ああ。美味いぞ」
「そっか。皆さんはどうですか?」
さすが我が妹。こんな料理を作れるなんて、素晴らしい。この一言に尽きる。
「おいしいですっ!私の専属料理人になってほしいくらいですっ!」
「いや、私はお兄ちゃんの専属です」
バッサリ切り捨てる妹。
「それはありがたいが、僕じゃなくだな…」
「あの、先生。これはどんな調味料で出来てるんですか?」
…確かにそうだ。いつも美味い美味いと言って食べてはいるが、安物の味噌でこんなに濃厚で綺麗な味が出せるのだろうか。
「普通の食材しか使ってませんよ?でも、強いて言うとすれば…」
「すれば?」
「それはズバリ、愛でしょう」
待て待て。なんで僕の方を向いて、そんなこと言うんだ。
「「おおっ!」」
女性二人は凄いいいリアクションをする。
「じゃ、今度私にも作り方教えてくださいっ!」
と、白崎さん。
お?これは…来たんじゃないか?絶好のチャンスってのが。白崎さんの手料理をが食べれちゃうんじゃないか?
「いいですよ」
妹は心広く受け入れてくれた。これは来た。
「でも、その前に朝ごはん食べましょう?冷めたら美味しくなくなっちゃうのでね」
「「はーい」」
そして、また僕らは箸を動かし始める。
それから、皆ほぼ無言で料理の美味さを噛み締めた。
本当に美味いもの食べたときって、言葉は出ないのね。
「「「「ご馳走様でした」」」」
「お粗末様でした」
「じゃ、片付けますね」
と、言って妹は片付けだした。
食べ終わったってのに、もうお腹いっぱいだってのに、まだ食べたくなる。
なにこれ。もう一種の麻薬じゃねぇか。
「お兄ちゃん。少し手伝ってくれる?」
「う、うん」
皿洗い。僕が拭いて妹が洗う。
というか、なんとなくご飯食べたら、妹が馴染んでる。これはおかしい。
梨花だってあの法律の下、生きているわけだ。だから、こいつも彼氏を見つけないと、いけないわけだ。それなのに、こんなところにいていいのか?
「なぁ、梨花。あのさ」
「うん?どーしたの?」
「彼氏とか作らないのか?」
「え?なんで?」
「いや、彼氏作らないとさ?大変じゃん?」
そう言うと、妹は気難しい顔になって、少し考えて話し始めた。
「あのさ、私はね?知らない男なんかと付き合うどころか、関わりたくないの」
「え?」
「じゃ、そう言うことだから、はい。お兄ちゃん。これ全部拭いといてねっ!」
と、笑顔で言うとリビングに戻っていった。だが、その笑顔が見てられないくらいに、辛そうだった。
いったいなにがあったんだろう?
でも、なにがあったにせよ、そろそろ彼氏作ってもらわないと、僕らにしても妹にしてもマズイ。
とりあえず僕は皿を拭くと、リビングに戻る。
「お兄ちゃん。しっかり片付けてくれた?」
「う、うん」
「そっかー。ありがとー」
「おうよ。というか、どんだけ馴染んでんだよっ!!」
妹はコーヒーを飲みながら、客人用の椅子に座ってのんびりとしていた。
はぁ。なんでだよ。
まあ、これはこれでいいか。別に学校に行かないとかそういうわけじゃ無いんだし、部活の家が家になっただけだと思おう。
僕はいつもの席に戻る。
「あの、先輩。今日はなにもしないんですか?」
「いや、やるわよっ!今日はデートに行きましょう」
「……え?」
「だから、デートに行くわよ?」
*******
僕らは、なぜかショッピングモールの前に立っていた。
「あの、先輩。本当に?」
「ここまで来てなに言ってるのよ。ねっ!しかりん」
「そ、そうですね…」
2日連続でデートか。
「お兄ちゃんとデート。お兄ちゃんとデート〜」
はぁ。なんで妹まで…憂鬱だ。
「お?士郎?」
「士郎じゃねえかっ!」
声のした後ろを振り返ると、バカップルがいた。
これは、大変な一日になりそうだ…
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