第27話
27話
パンパンッ!!パパパンッ!!
僕が告白して白崎さんが答える。そんなワンシーンからすぐ、クラッカーが一斉に至る所から鳴り出した。
「おめでとう。白崎さんと士郎…さん。」
「え?」
「第12回、ラビットらんどベストカップル賞に選ばれましたよ」
と、バカップルこと僕の幼馴染二人組がマイクを持ち、僕らの前に出てきてそう言った。
「え、僕らが?」
「そう……じゃなくて、はい。二宮士郎さんと、白崎 鹿さん。あなた達は今年のベストカップル賞です」
なんでこいつらこんなに敬語なの!?
「あ、はぁ」
ついていけない。頭がまわんねえよ。なんで?敬語なんて死んでも使わなそうな奴らが、敬語?ありえない、が、まあ、そうだよな?こんなガッチガチな空気なんだもんな。褒められてる感はまったくねえし………
「よし、褒めたし、ここからは……」
そう言ってやつは、黒いボックス上の何かを取り出し、ボタンを押した。すると……
「だからずっと、来年も再来年もその次の年も、一緒にいてくださいっ!」
………え?
その黒い箱のようなものからは、僕の声が流れた。
「「「ぎゃっはっはっは!!!!!」」」
バカップルどころか、ほとんどさっきクラッカーを鳴らした奴らだろうか?笑い声がいたるところから聞こえてくる。
だが、特にひどいのは、やはりバカップルだ。
腹を抱えて、地面に蹲っていた。
だが、僕は恥ずかしいとか、そういう風には思わなかった。
確かに、恥ずかしい言葉を選んだってすぐに気づいた。だが、訂正するつもりも、戻ってやり直したいとかも、思うこともない。だって、白崎さんと付き合えたのだから、いくらくさいセリフだって、真顔で言ってやる。それくらいまで、僕はいつの間にか成長していた。
女の子の目を見て話せなかったような。いや、女の子とまともに話すこともできなかったどうしようもない僕が、彼女ができるような男になったのは、ほとんど奴のおかげと言ってもいいだろう。
「ふぁ……はぁはぁ……お腹痛い……え?士郎なににやけてるの?やばっ!その顔笑える。ぎゃはははは!!!」
「人の顔で笑うんじゃねえッ!!」
全く、彼女が出来たのにこいつらはなにも変わらない。
「あ、あの、士郎くん」
と、白崎さんが後ろで手を組み、もじもじしながら、僕に話しかけてくる。
なんだ?告白は僕がしたんだし、終わったんだよな?
「な、なんです?」
恐る恐る僕は白崎さんに訊いてみる。
「か、かかか彼女になった証をくださいっ!!」
「「「おおおおーーーー!!」」」
さっきまで笑ってた奴らがその一言で、歓声に変わる。
な、なんだ?彼女になった証?
そんなの知らないんだが?
「士郎さん。最後の最後まで手を焼かせますね」
と、インスタントガールフレンドが笑いながら出てくる。
「お、おう。なんか、申し訳ない」
「いえいえ。私の仕事ですもん。任せてください。いや、ここからは士郎さんが一人でかな?」
なにやらブツブツいっている。
「士郎さん。じゃ、ここはヒントだけあげます」
「いつもそうだと思うが、まあ、いいか。なんだ?」
「友達には出来なくて、彼女には出来ることを白崎さんにすればいいんです」
「ほ、ほう……」
「じゃ、私はこれにて失礼します。……さよなら」
といって、消えた。だが、いつもみたいにパッと瞬時にして消えたのではなく、ゆっくりと薄くなっていった。
だが、今はそんなことにかまってられない。
どんなことがあるんだ?
僕はその場にこの意味のわからないムードの中。立ち尽くしていた。
「男ならキスだろキスーっ!!」「いや、おでこペタもなかなかいい線じゃないか?」「じれってえな」「おいおい。俺と……やらないか?」
周りからヤジが飛んでくる。
「最後の最後でそういうの挟んでくるやつ誰だよっ!」
でも、やるしかない。女子には恥をかかせてはいけない。こんなの常識の範囲内だ。
というか、こんな状況白崎さんはどうなってるんだろう。
完全に蒸発していた。
プシュー。
今の白崎さんの状態に効果音をつけると、こんな感じだろう。
もう、今の状況を打破するには……
キ、キスしかない。
僕は一歩、また一歩と白崎さんに歩み寄り、とうとう目の前まで来た。
「し、白崎さん。め、目つぶってください」
「は、はいっ!!」
白崎さんは僕の言った通り目をつぶった。
や、やばい。心臓が弾けるの騒ぎじゃねえ。もう、壊れる。
ドクドクドクドク………
どれだけ血を送りたいんだ!?今なら人の倍の速度で動ける。ってくらいに心臓が動いていた。
白崎さんのピンク色の綺麗な唇に向けて、徐々に近づいていく。
だ、だめだ。目が閉じれない。
あ、当たる。唇と唇が当たっちまうよっ!!
覚悟を決めろ。二宮士郎。告白できたんだ。なら、キスくらい……で、出来……
僕は白崎さんを手で包むように、抱きしめた。
なかった。僕はこんなところでチキってキス出来なかった。
「士郎くん……」
白崎さんも抱き返してくる。
だが、これはこれでいい。もう、ずっとこうしていたい。大好きだ。
「おふたりさん。お熱いねえ」
「あ……」
つい、見られてるってのに時間を忘れて、白崎さんにハグなんて大胆な真似を………
「ご、ごめんなさい……」
白崎さんが僕から離れる。
「い、いや、こちらこそ…」
く、くそ。目を合わせられねえ。
「ねえ、白崎さんと士郎。いつも思ってたけど、なんで敬語なの?」
「おいおい!なんでお前はそんなにKYなんだ?」
「けーわい?なにそれ?まあ、いいや。士郎士郎。ちょっと耳かして」
「なに?」
そして、火憐が僕の耳元で囁く。
「いいタイミングなんだし、士郎もしかりんって、あだ名で呼んでみれば?」
だ、ダメだ。告白して早々う、浮気?ダメだダメだ。僕は白崎さんだけって決めてるんだ。
「あ、うん」
僕はどうにか平常心を保ち、普通に振る舞う。
そして、白崎さんの方を向き、目を見て
「し、ししししかりん」
僕は呼んだ。
「はい。え、えっと、士郎くん?の方がいいんですかね?」
「僕は士郎くんでもいいですよ」
「んー。じゃ、士郎。にさせてください」
出ましたよ。どっちがいい?とか聞いてきて、僕はこっちって言ったら、もう片方をとるやつ。
「「はい。カット」」
ここで、バカップル二人に止められる。
「なに?撮影だったの?」
「士郎。白崎さん。タメ口で行こう」
「ツッコミは無視なのか…」
と、軽く僕の心は傷ついたが、その声の主はれんだろう。と、僕はそっちを向く。
れ、れんか?ディレクターズチェアに座り、メガホンを持って堂々とした佇まい。だが、そんな変装では隠しきれないイケメン野郎こと、柴崎れん。本当に死ねばいいのに。
そして、それをサポートしている火憐。
「てな訳で、テイク2行きますよ」
と、火憐。
「はい。よーい」
パンッ!!
「ねね。士郎耳かして」
ここからなのね。というか、こいつ出演者なのかADなのかはっきりしてくれよっ!!
ツッコミどころが多すぎてマジで収集つかねえ……
なんて思っていると、次は僕のセリフだ。
「し、ししししかりん」
馴染めてしまってる僕も僕だな……
「はい。え、えっと……士郎くんでいいのかな?」
「僕は士郎くんでいいです……いいよ」
しまった。軽くミスった。
「うーん、じゃ、士郎でっ!!」
と、満面の笑みで白崎さんがそう言った。
「はい。カット。今回は良かったね」
「……まだ続くんだ。これ」
「特にラストが良かったね。引き続き白崎さん頑張ってくれ」
「はいっ!監督っ!!」
なんなの?この人たち……
「監督。もうそろそろご飯にしません?」
「そうだな。火憐。もう、時間も時間だし、腹が減っては撮影はできぬって言うしな」
という言葉の後僕は時計を確認すると、三時を指していた。
あまり何もしてない気がするけど、時間ってすぐ経つんだな……
「ご飯?ご、ごごGOHANですか!?」
白崎さんがいつにも増してハイテンションだ。
「そう。GOHAN。白崎女優はどこに行きたい?」
「お肉がいいですっ!!」
「じゃ、とりあえずレストランとかあるところに行きましょうか」
そして、レストラン街らしき場所に着いた。だが、レストラン街らしいところはなく、そこにもはやり、マスコットキャラのウサギがたくさんいた。
「なんなのかな?これ」
「うわぁ。違う意味でお腹いっぱいになりますねっ!!」
うん。楽しそうだし、これはこれでアリなのかもしれない。と思いながら僕らバカップルと出来たてホヤホヤの初々しいカップルはそのレストラン街?をあるいている。
グゥー………
と、腹の音が鳴る。
「で、でも、お腹は減ったままでしたぁ……」
か、かわいい。僕はこの白崎さんがグデーっと地面に座り込んでしまうところを見て、お腹いっぱいに……なってる場合じゃねえっ!!
僕は白崎さんに駆け寄り、白崎さんの目線まで体を低くし手を差し伸べる。
「大丈夫です?」
「あ、あはは……士郎。ハンバーグが見える」
「気をしっかり持ってっ!!」
「あっちにはサクサクプリップリの揚げたてのエビフライ……」
「ま、まずいぞっ!早急に飲食店を探すんだっ!!」
「おーい。そこのバカップル。へんな芝居してないで早く来なさい」
と、呆れたようにれんが僕らの後方から僕らの事を呼んでいた。
「失礼な。僕らはお前らとは違う。だよね?しかりん?」
「そうです。私たちはバカップルじゃないです」
なんてつっこみながら、そっちに向かっていくと……白崎さんの言っていたことがよくわかった。
そう。そこには大きくハンバーグとエビフライの絵があった。
ここか。飲食店ってのは。というか、レストラン街とかいって一軒しかねえのかよっ!!
とりあえず、僕らはその店に入る。
外があんなのだったから、中も。と、少し期待したが、案外、普通のファミリーレストランのような内装だった。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「4名です」
と、れんが応答する。
「では、こちらの席にどうぞ」
と、ソファー掛けのテーブル席に案内された。
そしてその席に座ると、メニューを開く。
そこにはラビットの形をモチーフとした料理がたくさんあった。
その中でも特に目を惹かれるのは、一ページ目全部を使って書いてあるこれだ。
舌がぴょんぴょん。のんびりきままなウサギたちが作るウサミンバーク。少し焼きすぎちゃったぴょんっ!
確かに綺麗にできてる。ハンバーグでここまでやるってなると、特注品を使っているんだろう。
でも、こんなの誰が頼むんだろう。やりすきじゃないか?こんなの、切れないだろ。なに?写真なのにわかるこのモフモフ感……真面目にウサギじゃね?って程にモフモフしていた。
僕はちょっとこの毛みたいなところが怖いから、遠慮しておこう。
そして、僕は違うページに移ろうとすると、
「待ってくださいっ!士郎」
隣にいた白崎さんに止められる。
「は……う、うん」
まだタメ口に慣れないな。
「かわいいなあ……」
と、白崎さんから声が漏れる。
そして、白崎さんはなにやら難しい顔をしている。
そして、暫くしてパッとその顔が明るくなる。
「士郎。私これにする」
と、白崎さん。な、慣れたのか?
すげえや。まだ付き合い始めて、30分も経ってないというのにこの適応力。
「そ、そうか。じゃ、ページ変えていいかな?」
「うんっ!」
子供のような無邪気な笑みに、こっちまで笑顔になってしまう。
………あ、やべ。白崎さんに目を取られちまった。僕はすぐに、メニューに目を移す。
2ページめにはハンバーグやステーキなどが並んでいる。なんだ。案外普通のメニューもあるのか。
「お二人さん。こっちは決まったけど、お前らは決まったか?」
「あ、ああ」
ピンポーン。
それからしばらくして、店員さんがやってきた。
だが、それは女の子。感じ的にはJKくらいだろうか?
なんか、珍しいな。店員の象徴みたいな、あのおっさんが出てこない。
でも、まあ、どこでも働いてるわけないか。
「ご注文はう……ラビットですか?」
「………は?」
なんだこの店員!?パクリだよね?わかってんの!?てか、わかったからうさぎっていいきらなかったんだよな。というか、ラビットはラビットでパクリじゃねえのかよっ!
「はいっ!ラビットひとつくださいっ!」
すげえ、マジでこの適応力すげえ。
「はい。ラビットひとつですね?かしこまりました」
「じゃ、私たちはラブセットで」
「はい。カップル限定のラブセットおひとつ」
カップル限定のなんて、そんなのあったのか……
「じゃ、僕はこのおつきみハンバーグで。ソースはデミグラスで」
「ご注文は………以上でよろしいでしょうか?」
なんだ!?そのためは、またこの作品を脅かすようなことをしやがって……
僕は「はい」と、返事をする。
「かしこまりました。少々お待ちください」
と言って、店員は去っていった。
………ふぅ。色々な意味で疲れた。
「士郎。どーしたんです?おじいさんみたいなかおしてますけど」
「え!?そんなに僕老けました?」
「いやいや、それはちょっとした嘘ですよ」
「へ、へぇ」
白崎さんの嘘は少し斜め上から来るので、想定できない。
「士郎。え、えっと……」
「なんです?」
ここで暫く沈黙が続く。
「あれ?お、おかしいな。もっと話したいのに、話すことが見つけれないや。士郎。どうすればいい?」
なんなの?この可愛いやつは……僕はなんて反応すりゃいいんだ!?
また、ここでしーんとなる。
あれ?いつもならこんな時、やつが出てきてたのに、来ないや。
とりあえず、僕は白崎さんから目をそらした。
うーん。なんで出てこないんだろう?
「お待たせいたしました」
「お?インスタント………」
と、僕が「待ちに待ったぜ」と、そんなセリフを吐いて、そして、あいつが「なに?私を餌を待つ雛のように、ずっと待ってたんですか?」とか言われて、少しいびられて。なんて流れを作ろうとしていたのに、そこに立っていたのは、先程注文を取りに来た店員だった。
「お客様。当店はインスタント食品は使ってないですよ?」
と、店員にどやされる始末。
「あ、あぁ。すいません」
「いえいえ」
と、笑顔な店員。
そして、そこから僕らの前に注文したそれぞれの料理が来た。
僕の頼んだ料理は、熱々の鉄板の上に普通の丸いハンバーグがあり、更にその上に目玉焼きを一つ乗せたシンプルなハンバーグだ。ソースはその鉄板の上の小さな小鉢のようなものに入っている。豪快にそのハンバーグにかけるもよし、一口サイズにして一回一回つけながら食べるもよし、と、多種多様にできるこのソース入れは最高だ。
「いただきますっ!!」
と、先陣を切って食べ始めたのは白崎さん。嬉しそうにあのラビッ………ハンバーグを頬張る。
「あれ?みなさんは食べないんですか?」
と、白崎さんは自分以外がまだ手をつけてないのに気づいたのかそんな指摘をしてくる。
「い、いや、食べるさ」
と、すかさずれんがフォロー。
「じゃ、いただきます」
「「いただきます」」
と、幼馴染の僕らは声を合わせ食べ始める。
僕はハンバーグをフォーク、ナイフを駆使し切る。
そして、一口サイズのハンバーグをデミグラスソースの海にくぐらせまず一口。
口に入れた瞬間。肉の旨みとデミグラスの独特な酸味が口の中に広がる。そして、その強い協調が和らげるかのようにデミグラスの優しい野菜達の甘みのお陰で後味すっきりになっている。
素晴らしい。完璧だ。僕の妹でもここまでのものはできないだろう。
これは、凄すぎる。
こんなにデミグラスと肉がマッチしてるのはなかなか巡り会えない。これは一生に一度あるかないか程度のことだ。
気づけばまた僕は、そのハンバーグに手を伸ばしていた。
うますぎる。とまんねえ…
「ごちそうさまでした」
それで結構リーズナブルなのね。
と、食べ終わった僕は伝票を見ていた。
「れんっ!ふー。はいっ!」
「あーん。んー。美味しいよっ!火憐っ!」
と、見せつけるかのように、ハンバーグをふーふーしてあーん。
全く、こっちの身にもなってほしい。
「士郎。私の……食べます?」
「え、えっと……」
ちょっとウサギを食べるなんて、生理的に受け付けないや。
「じゃ、ふーふー。はい」
くっ!ここまでやられたら、食べるしかないだろっ!!
はむっ!
目をつぶり、一口で食べる。
「ど?美味しい?」
ごくっ!!!!
あ、呑んじまって、味わからないや。
「う、うん。美味しいよ」
「そ、そう」
と、両者顔を赤らめ、縮こまる。
やはり、あいつらの精神力は間違っている。
それからしばらくして、
「「「ごちそうさまでした」」」
と、バカップル、白崎さんも食べ終わったようだ。
「じゃ、どうしましょうか」
一呼吸置いて、白崎さんがそう発した。
「そうだなぁ。ここからは一対一のデートにしようか」
「お?珍しくいいこと言うなれん。じゃ、しかりん。それでいい?」
「はいっ!そうしましょー」
「なんだ?俺っていい男だよな?火憐」
「うんっ!私の彼氏が最高じゃないわけがないじゃんっ!」
「火憐大好きだっ!」
はぁ、僕のせいでこいつらまた暴走し始めちまった……
「はいはい。わかったから、とりあえず店から出るぞ」
と、バカップルを引っ張り会計を済まさせ、店から出る。
「じゃ、帰りに……出入り口でなー。またな」
「おうっ!」
「あ、閉園時間は9時だからねっ!」
「お、おう」
夢の国に奴らは消えていった。
「しかりん。じゃ、どこ行きます?」
「うーん。うさちゃんと一緒。に行きません?」
またか。変な名前のやつ。怖すぎる。
「それってなんですか?」
「え、えっと、簡単に言うと、この世界観に入っていろいろ鑑賞できる。みたいなやつです」
「ほう」
よかった。絶叫系ではなさそうだ。まあ、子供騙しのそんなゆるーい感じのものだろう。
「じゃ、行きましょうか」
「どこらへんです?」
「え、えっと、ここにラビッツがあるんで、南の方ですねっ!」
「お、おう。ざっくり……」
僕はここに初めて来たので場所や乗り物などは、よくわからない。
確か、ここは僕が小学一年の時くらいに出来てたやつだった気がする。
まあ、最近といえば最近になるだろう。
「まあ、止まっててもつかないんで、歩きましょー」
「お、おー」
〜 あれから、3時間 〜
「あれに乗りましょー」
「お、おー」
「「ギャーー」」
「はぁ……はぁ……しかりん……少し休憩を……」
「次はこれっ!」
「お、お……」
未だ、目的地にはついていない。
ご覧の通り、白崎さんは当初の目的を忘れ、かなりご堪能されてらっしゃるのだ。
これで何回目の絶叫系のマシーンだろうか?
落ちたり回ったり登ったり下ったり………
10回を越したあたりから覚えてない。
「しかりん……」
「はいっ!楽しいですねっ!!」
「そ、そうだねっ!」
もう、いいか。こんだけ楽しそうなら、それでいいじゃないか。
ガチャン!!
うん。そうだ。そう…………だ?
ジェットコースターに乗っていたことに、いま気づく。
それも本日二回目のラビッツだ。
カカカカカ…………
そして、垂直に地に落ちていくと共に、僕も落ちた。
*****
「士郎?大丈夫です?」
白崎さんの声で目がさめる。
「また、あのベンチか………」
僕は起き上がる。
「ふぅ。しかりん。どうしましょうか」
「もう、結構な時間だったんですね」
と、今更な質問だった。
携帯端末をポケットから取り出し、液晶画面を確認する。
「8時半だと!?」
8時半ってことは、閉園時間30分前か。
「私、疲れちゃいました」
と、大あくびをし、そのままバタンとベンチに横になり寝てしまった。
「………え?」
「ちょっとしかりんっ!?起きて」
と、身体を揺すっても全然起きないし、揺すると大きなあれがぽろんしそうでこれ以上、僕は白崎さんを起こそうとすることはできなかった。
でも、閉園時間はこんなことをしている間に迫ってくる。
どうするか。
………うーん。やっぱりあいつ出てこないな。
ふと、手に持っていた携帯が目に入る。
お?これだ。
すぐさま僕は電話帳を開き、井上先輩に電話した。
「こういう時に、電話帳に人が少ないって便利だな」
プルルルルル……………ガチャ!!
「もしもし?どーしたの?」
と、優しげな井上先輩の声に少しホッとする。
「えっと、白崎さんが寝ちゃって……」
「え、えぇ!?今どこにいるの!?」
「えっと、ラビッツ近くのベンチに居ます」
「わかったわっ!今行く」
ブチ……
これでどうにか……
「あ、居た!」
「せ、先輩!?」
早すぎるだろ。さっきだぞ?さっき電話したのに、もう着いたのかよ。
「よっと、士郎。うっしー。行くわよっ!」
来て早々、白崎さんを軽やかに担ぎ、そう発する。
「は、はいっ!」
島崎先輩。外なのになんかテンションが家と変わらない気がするけど、どうしたんだろ?
それとは裏腹に、なにも変わらない井上先輩。本当にすげえ。あんなに小さいのにどこからあんな力が……
「ちょっと!今とてつもなくムカつくこと考えてなかった?」
「い、いえ、頼れる先輩だなって思ってたんですよ」
「そ、そう。ならいいのよ」
それから僕らは走った。
「井上先輩。こっちであってるんですか?」
「ええ。私は道に迷わないわっ!」
すげえや。あの自信。全然不安感を感じないや。
「ほらねっ!言ったでしょ?」
見覚えのある大きなウサギのカチューシャがそこにはあった。
「おーい。こっちこっち」
と、出口の先かられんの声が聞こえる。
とりあえず、僕らはラビットらんどから出た。
「お?バカップル。早いんだな」
「まあな。それよりさっさとしないと、家まで遠いし、終電なくなっちまうぞ」
「ま、マジかよ」
確かに、来る時三時間くらいかかったような……
「そうね。じゃ、帰りましょうか」
そして、僕らはラビットらんどを後にした。
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