第26話
26話
これって、ガチめのジェットコースターじゃねえかっ!!
その化物級のマシーンは高いところで隣にある大きな観覧車と並ぶ。いや、それ以上。そして、落ちる斜行がほぼ九十度。垂直に落ちる。そして、それに追い打ちにかけるように、手足ぷらんぷらん、宙ぶらりんで、支えるのは肩の固定ロックのみで乗るマシーンだそうだ。想像しただけで吐き気が襲ってくる。
「あ、あの白崎さん?本当に行くんですか?」
「はいっ!!行きましょうっ!!」
そして、その白崎さんに引きずられるように、そのマシーンの列にはいる。その後に僕らを追うように、先輩達とバカップルもやってくる。
****
ガチャン!!!
がっつり肩を抑えられ、足が地面から離れる。これで完璧に手足がプラプラ状態だ。
みんなさっきの二人組で隣同士で座る。
というとこは、必然的に白崎さんが僕の横になる。
素直に嬉しいだが、そんなことを言っている場合でもない。そう。やつに拘束されて今から発進するらしいからだ。
そしてそいつは、クラウチングスタートの時のように、前にのめり込むように傾いた。
え、ええ?
カカカカカ…………
という機械音をさせながらそいつは、地面から遠のいていく。
なんだ?この感じは……モノレールの下にペタッとくっついたような感じだ。
てか、死ぬよこれっ!!!
目の前は地面だし、人が点に見えるほど高い位置。
「高い高い高いっ!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ!!!」
「ひゃぁっほぉーいっ!!!」
と、楽しそうに叫んでいる白崎さん。
そして、地面に真っ逆さまに九十度に堕ちていく。
「ふぁぁぁうぁうぁぁぃぁ!!!!!」
…………だめだこれ……
*****
………ん?なんだか心地いい………天使も見えるし………
「ここは天国?」
そして、目を開ける。
「お?士郎くん。起きましたねっ」
「あ、はい」
天使、もとい、白崎さんが僕を覗き込むように、上から見ていた。でも、やけに顔が近く無いか?そしてこの心地よさ……
「お?士郎起きたの?」
と、あいつらバカップルの火憐の声が聞こえた。
「あ、あの、士郎君。お、起きてくれないですか?」
と、僕から目をそらして恥ずかしそうにそう言う。
「あ、すいません。心地よくて………」
僕はその言葉通りに、起きた。
そして、周りを確認する。
ここはベンチかそして、横には白崎さんがいる。………ん?もう一度言おう。横には、先ほど僕の頭のあった位置に白崎の足。というか太ももがあった。
ってことは………膝の上で寝ていた。ってことは………膝枕だとぉ!!?
「ご、ごめんなさいっ!!!」
とっさに出てきた言葉がこれだった。
「いえいえ、私がしたかったからやっただけですよっ!!」
と、笑いながら言ってくれる白崎さんはマジ天使。なのに、こいつらは、チュロスを片手に持って笑ってやがる。う、うぜえっ!!
「士郎。あれは傑作だったぞ。降りてきたときのあの顔………ぷ。わははは」
「あれは………やばかった。あははは」
と、バカ笑いするバカップル。馬鹿なんじゃねえか?
「ふざけやがって、人の恐怖をなんだと思ってんだよっ!!」
「え?ネタだけど?」
もう、いいや………
「あ、私達ちょっと、審査員だから会場行かないと」
「あ、そうだった。すっかり士郎のあの顔のせいで、用件を忘れるところだったぜ。ありがとうな。火憐っ!!」
「なによダーリン。照れるじゃないっ!!」
「あはははー」
絵に描いたようなバカップルが僕らの前にいた。
ムカつくぜ………
「さっさと行きやがれっ!!」
と、追っ払う。
そして、ラブラブオーラ全開でどんどんと遠のいていく奴ら………人間として負けた感があった。
「士郎さん。なんか、渚先輩たちもいませんし、これじゃデートみたいですねっ!!」
と、白崎さん。
え?な、なんだって?
でで、デートだと!?
あ、しまった。しらけてしまった。
「で、であの……ど、どこ行きましょうか………」
すかさず話題を提示する。
もう、だんまりはうんざりだ。
「え、えっと……じゃ、か、観覧車とかどうですか?」
と、白崎さんから提案が来た。
か、かかか観覧車!?
女の子というか、白崎さんと二人っきりで、小部屋で!?
や、やばい。なんか色々な一線を越えてしまいそうな、そんなシュツエーションで僕は精神を保っていられるのだろうか?
あ、これ題名になりそうだ。
「だ、駄目ですか?」
と、白崎さんが上目遣いでのジャブを放ってくる。
それを僕はもろに食らう。
そこに、すかさず白崎さんからの「前のめり胸チラ」という、強烈なブローっ!!
カンカンカンカンッ!!
決まったぁぁぁ!!
士郎K.O。
そして、僕らは観覧車までやってきた。
「結構、遠かったですね」
そう、結構遠かった。特にあれはメリーゴーランド前はひどかった。非リアからしてみれば、地獄絵図である。
「そうですね……」
や、やべえな。
ちらっと白崎さんが目に入る。着ぐるみとはいえ、露出が高く、言ってしまえば、アフリカのサバンナで踊り子さんたちが着てそうな服によく似ていた。
いつも家で着ていたので、さっきまでは別になにも感じなかったが、服が軽くずれたのかわからないが、胸元がひどいことになっていた。
「じゃ、乗りましょうか」
「はきいっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、す、すいません。大丈夫です」
ってなわけねえだろっ!
でも、指摘なんて出来る訳もねえし…
なんて悩んでいると、白崎さんは服をいつも通りに何食わぬ顔で、なおした。
ふう。解決はしたから、これでいいよね?
回っていて止まることをしない観覧車。そして今、僕には選択肢が二つある。そう、乗り方だ。先に白崎さんを安全にしっかりと真正面に来るときに乗せて、僕があとからギリギリで乗り込む。後一つは、僕がさっさと乗り込んで、白崎さんを引っ張り上げる。という選択肢だ。
勿論、僕が選ぶのは後者っ!と言いたいところなんだが、手を繋ぐという。かなり高度なことをしないといけない。
くそ。どうしよう。
「はい。きますよ。これに乗ってください」
店員に催促され、足取り悪くスタートをかける。こうなったら、さっさと白崎さんを引き上げよう。大丈夫だ。やってやろう。こんなの出来ないと告白なんてできない。
観覧車の小部屋が僕の腰のあたりまできたところで、僕はそれに乗り込む。
そして、僕が乗ると白崎さんもついてきていた。
そんな白崎さんに僕は手を差し伸べ安全にその観覧車に引き入れる。
その時。白崎さんと手が触れる。
や、柔らかい……気持ちいいし、スベスベだし……もう、神ってる。だが、痛い。なんでこんなに痛いかわからないが、チクリと心臓を突かれるような。そんな痛みがあった。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「あ、はい」
すぐ横には白崎さん。くっそ。こうなるのはわかってたけど、なんなの?このシーンとした空気。白崎さんとは絶対にこうなるのは、なんで?好きなのに、話せない。目を見れない。なんでなんだ?本当はもっと話したいのに、いろいろなことを話して、知って、をしたいのに、なんでなんだ?
「うわぁ。綺麗……」
と、白崎さんが呟く。
そして、僕も外を見る。
そこにあったのは、夜景。どこかの外国で50億ドルの夜景。とか言われそうな夜景だった。確かに綺麗。だが、いまは昼。ということは、これって、VR(バーチャルリアル)じゃねえかっ!!
それが観覧車内で僕らを包むようにというか、枠もなにもなく上下左右どこをみても動画。なので、その五十億ドルの夜景の上空を飛んでるようだった。
全然気づかなかったが、怖い。
絶叫マシンとかなにが楽しいのかわからないし、あんなのは心臓に悪いだけで他にはなにも得られないと思っているような僕には、VRとはいえ、下を見るほどの度胸はなかった。
でも、下を見なければ綺麗な夜景だ。
なら、下を見なければいいじゃないか。
でも、絶景ってだけで、この場の空気はなにも変えてくれなかった。
シーンとした。そんな静かなところ。
ここに水音と鹿おどしやらをつけると、かなり風流な感じになりそうってほどに静かだった。
というか、白崎さんって僕のことどう思ってるんだろう。僕は白崎さんにとってなんだろう……
*****
そして、少女も考えていた。
士郎くんって、私と二人っきりとかになると急にだんまりしてつまらなそうにため息とかついてる。あの部活の家では、先輩と楽しそうに話しているのを寝たふりしながら聞いてて、すっごい胸のあたりがチクチクして痛い。
この痛みが好きってのもしってる。けど、士郎くんが選ぶのは先輩。これは変えようもない事実。
でも、せめてこの遊園地は楽しくしたいな……好きな人とのデートだもん。精一杯やりきろう。なにをしていいかはわからないけど、とにかく、精一杯やりきろう。
そして、観覧車が終わった。
「観覧車。綺麗でしたねっ!!」
「そうですねっ!」
この国の科学力はすごいと、本当にそう思う。画質はもうリアルと区別がつかないくらいまで来ているのに、政治家はゴミ以下の仕事しかしねえし、ふざけんなっ!!
「うーんじゃ、あ、士郎さん。ここから近いメリーゴーランド行きませんか?」
くっ!あの、リア充共がたむろってるところじゃねえか………
「あの、白崎さん…………」
断ろうとしたところ、白崎さんと目があう。
上目遣いだとぉぉぉ!!!
そんな、ふざけやがって。クソかわいいじゃねえか。
当然、断る訳もなく………
リア充の巣窟にやって来た。
くっそなんだよ。あのピンク色のオーラは。キャッキャウフフとはこのことか………
「じゃ、行きましょうっ!士郎くんっ!!」
と、るんるんな白崎さん。何が楽しいんだか理解できないんだが……
そして、僕らはその巣窟に乗り込んでいく。
……………浮いてる感がぱねえ。
みんないちゃいちゃしやがって……みせつけてんのか?
でも、冷たい目線が送られてこないな。なんで?
あ、ああ。女の子と一緒だからか……
やっぱり、どう思ってんだろ?すげえ気になる。
「士郎くん?大丈夫?なんか、人が殺せそうな顔してるけど……」
「い、いやー。あははーなんでもないですよ……なんでも……」
「………相談くらい乗りますよ?………友達なんだから……」
……………やっぱり、友達辺りなのか……
そして、彼女も同じようなことを考えていた。
やっぱり、渚先輩だよね?
………そりゃ、そうだよね。私みたいな子供っぽいやつなんて……友達程度だよね……
さっきは覚悟したけど、やっぱり、士郎くんの隣に立っているだけで、辛いな。
「ご、ごめんなさい。ちょっと、席外しますね……………」
「どこに行くん………」
彼女のどんどんと遠くなる背中を、僕は見ていることしかできなかった。
今……泣いてた?
「あーあ。士郎さん」
うわっ!!
「心臓とまりかけたじゃねえかっ!!」
「そんなこと言ってる場合ですか?」
「え?」
いつもは優しい。でもふざけているような。若干むかつくようなそんな奴だが、今この時だけは違った。
「また、繰り返すように、あの子を泣かせて……士郎さんはそれでいいんですか!?」
「………そんなのよくないに決まってるけど……けど、なんで泣いてたのかわからないんだよっ!!それで、なにに謝れっていうんだよっ!!」
パシンッ!!
そんな音と同時に頬に痛みが走る。
「そんなの言い訳ですっ!!女の子泣かせて………逃げるなんてそんなの……そんなの……男じゃないですっ!!人じゃないですっ!!人外ですっ!!」
彼女の必死の語りかけに、気づかされた。
逃げるな。嫌なこと。怖いことから逃げてるから、今のこんなどうしようもない僕が出来てしまったんだ。
逃げちゃダメなんだ。
白崎さんに告白する。とか言っといて、いつもいつも逃げていた。もう、逃げちゃダメなんだ。
「ごめん。お前の言ってた通り、逃げちゃダメだな。ちょっと、告白してくる」
「そうですか。では、頑張ってくださいっ!!」
奴のいつもの明るい笑顔に背中を押され、僕は白崎さんの走って行ってしまった方向に駆け出した。
******
つい、逃げ出してきちゃったけど、どうしよう。私一人だ。
リア充からの冷たい目線が私に突き刺さる。
嫌だ。もう、こんなの嫌だ。私だってあの人たちみたいになりたい。けど、なれない。だって、士郎くんは……私の好きな人は、先輩に………
「なにしてるの?しかりん」
私の前に立っていたのは、渚先輩だった。
「い、いや……なんでもないですよ?」
「なんでもない?女の子の涙に理由がないっていうの?」
「そ、それは……目にゴミが入って」
「そんなわけないじゃない。じゃ、なんで士郎はいないの?」
「そ、それは……」
「喧嘩でもしたの?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど…………」
「なに?恋の感じなの?」
グギっ!!
と、背筋に電撃が走る。
「わかりやすすぎだよ」
と、笑いながら先輩。
「い、いや……」
「あ、士郎の事好きなんでしょ?」
「い、いや、別に………」
「本音を言いなさい?びっくりするくらいに嘘つく才能ないわよ?」
「で、でも………」
「好きなら好きでいいじゃない。自分に素直になりなさい?」
そうか。人がどう思ってるかなんて、そんなのどうでもいいんだ。自分の気持ちが何よりも大切なのだから。
「そうですよね。私、やっとわかりました。自分の気持ちを奥にしまいこんではいけないんですね」
そして、私はメリーゴーランドに走って向かう。
******
「いないな」
確かにこっちに行ったのに。
そして、近くにあったベンチに腰掛ける。
はぁ………
でも、なんで泣いてたのだろうか?
全然わかんないや。
「士郎くんっ!!」
突然、僕を呼ぶ声がした。
「し、白崎さん!?」
思わず立ち上がる。
ど、どうしよう。あったらいう言葉なんてまだ考えてなかった。
「あの、す、すいませんっ!」
「え?」
「えっと、その……心配かけてごめんなさいっ!」
……戸惑ってる白崎さんもかわいいな。
「あ、あの。聞いてます?」
「は、はい」
そして、暫く沈黙が訪れる。だが、この沈黙は悪くない気がした。
「「あ、あのっ!!」」
完全に声が揃う。
「「お先にどうぞ」」
また、揃う。
「じゃ、士郎くんからどうぞ」
白崎さんが僕に譲ってくれた。
「では……」
ここで少し止まる。
ん?なにを話すんだっけ?
「な、夏祭りとか楽しかったですね」
いや、そうじゃない。
「あ、そ、そうですね」
ダメだ。逃げちゃダメだ。
ふう。
深呼吸で呼吸と弾けそうな鼓動を抑え、白崎さんのことを真っ直ぐみる。
多分顔が真っ赤だろう。だが、そんなことはどうでもいい。
「夏祭りとか、本当にすっごく楽しかったです」
そうか、告白の言葉なんて考える必要ないじゃん。
「だからずっと、来年も再来年もその次の年も、一緒にいてくださいっ!」
今、思っていたことを全てぶつけた。だが、言いたいことは一つだった。
彼女とずっと一緒にいたい。ただ、それだけだった。
「はい。私なんかでよければ……喜んでっ!」
と、笑顔で、だが、目に涙して。白崎さんはそう言った。
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