第25話
25話
「ちょっと、なにボケーと座ってるのよっ!!手伝いなさいっ!!」
「あ、すいません」
それから、僕らは闇鍋の片付けをしていた。
とりあえず、全部食器を洗い場に運び僕が水と洗剤を使い、洗い、先輩がその皿を拭く。と、まあこんな感じだった。
「お、お兄ちゃんっ!!」
急に大声で妹が叫んだ。
あ、いたのか……
すっかり忘れてたぜ。
「あ、すいません。ちょっと外しますね」
と、一緒に皿を洗っていた先輩に断って、ビショビショだった手を拭い、リビングに戻った。
「どうした?」
「あ……のね、心配………だったの」
どちらさまですか!?
妹は寝起きで、姿形はそのままなのだが、中身が完全に子供になっていた。
「う、うん」
こんなの見たことない。
いつも僕より早起きな妹の初めて見る面だ。やべぇ。なんだ?この萌える生き物は……かわいいんだけど……
「え、妹さんだよね?」
「は、はい」
「なにこれ。かわいい……」
と、白崎さんがこっちに駆け寄ってきて、妹をじーっと舐めるように見ている。
「ふぁぁぁ!かわいいなぁ……」
……端から見ると変態にしか見えない。
「お兄ちゃん。この人怖い……」
と、僕に抱っこを求めるかのように両手を僕に向かって広げている。
「お兄ちゃん。抱っこ」
え?
やっぱりそうなの?
おいおい。もう、その中学校一年だよね?考えようよ。
僕が躊躇っていると、妹はむすーっと頬を膨らませ、怒りを露わにしている。
「いや、それはちょっと……」
「お、お兄ちゃん……私のこと嫌いなの?」
そんな潤んだ瞳で純粋な目で言わないでくれよ………
「い、いや、嫌いじゃないけど……」
「じゃ、抱っこ」
「人の話聞いてます!?」
「じゃ、おんぶ」
………おんぶなら、まだいいか?
「じゃ、おんぶくらいなら」
と、いうと妹は僕の背後に回り込むと、背中にダイブしてきた。
こ、こいつ……いつの間に……
「お兄ちゃーん」
と、幸せそうに言いながら頬をスリスリとくっつけてくる。
ここまでデレデレされると、さすがに照れるな………
しばらく、このままだった。
ずっと、スリスリされて頬が熱いんだけど………
なんて思っていると、スリスリがやんだ。
「え………お兄ちゃん?なんでおんぶなんてしてるの?」
「いや、こっちが聞きたいんだが?」
「ねえ、お兄ちゃん。なんで私はお兄ちゃんの頬にスリスリしているの?」
「いや、だからこっちが聞きたい」
「とりあえず、おろして」
どうやら正気に戻ったらしい。
「うん」
僕は妹を降ろす。
そして、降りた妹は、僕から3歩ほど後退して、包丁をポケットから取り出し、僕の方を向く。
「じゃ、お兄ちゃん。三枚におろすね」
「そんな馬鹿なっ!!」
な、なんで!?
なんで僕は妹の願いを叶えただけで、三枚におろされなきゃいかんのだ!?
ゆっくりとこっちへ近づいてくる。
………え?本当に死ぬの?
「梨花さん?本気じゃないよね?」
「ふふふっ!」
と、不気味に笑う梨花。
「てか、さっき死亡フラグは回避しただろっ!!それを下すんだっ!!」
「え?お兄ちゃんを下せ?」
「お前の耳はどうなってんだよっ!!最後の部分しかあってねえじゃねえかっ!!」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん痛いのは一瞬だよ?」
「一瞬とかそんな問題じゃねえんだよっ!!」
「だって………あの状態を見られんだよね?」
「見たって、あの子供っぽいやつか?」
と、問うと、妹は四つん這いになって、負のオーラをまき散らしている。
「………………やっぱり、見たんだ。あんな恥ずかしい私見られたら、お兄ちゃんを殺して私も死ぬしかない………」
「なに言ってんだ?別に恥ずかしくないだろ?可愛かったし」
あ、口が滑った………
「むふ。むふふふふ……」
いつもとは違う、オタクのような汚い笑い方をし始めた。
「おーい」
と、言いながら妹の顔の前で手を振ってみたりしてみたが、全然反応がない。だが、顔は笑って固定されている。
なんだ?壊れちまったのか?
「ね、ねぇ、お兄ちゃん。かわいいって本当?」
と、言いながら立ち上がり僕にそう訊いてきた。だが、その手には包丁が握られたままだった。
「と、とりあえず。それを下げてくれないか?」
二度目のお願いである。
一歩近づいてきて、
「かわいい?」
無視であった。
あと二歩で刺さる。腹に突き刺さる。死ぬ。腸を抉られる………
てか、こんなのパワハラじゃねえかっ!!
「ま、まぁ………」
「なに?嫌いなの?」
と、言いながらもう一歩近づいてくる。
あと一歩で死にますね。はい。
「いや、嫌いじゃ………」
と、言いかけたが止めた。
なぜ?もう、包丁の先端が僕の腹に当たっていたからだ。
「はい。ギブっ!かわいいからっ!その包丁しまってくれぇぇ!!!」
「そう。それでいい」
やっと、ここまで言ってやっとだ………やっと、下げてもらえた。
「あ、私を弟子にしてください」
「早々それかよっ!!」
僕の妹に頭を下げている先輩。恥とかそんなのはないのだろうか?と思わせるほどの見事な土下座。焼き土下座の人もびっくりだ。
「え、えっと、何の話です?」
さっきの、狂った感じではなく、例えるなら、駅前で知らない人に話しかけられたら、こんな反応だろうな。という反応を見せていた。
「料理を教えてくださいっ!」
と、地面におでこを擦り付けて土下座している。
「い、いや、頭をあげてくださいよ」
と、なだめる様に妹は先輩の土下座を止めさせようとした。
「先生。料理を教えてくださいっ!!」
だが、土下座を止める様子はなく、まだその体勢だった。
ん?でも、カレーは僕の知らない味を出していた。僕も自慢ではないが、舌は妹のお陰でこえている。
だから、先輩も料理が上手い分類に入るだろう。なのになんでだ?
「わかりましたから、顔を上げてください」
必死に土下座をやめさせようとする妹。それを無視して土下座をし続ける先輩。状況はまるで違うにせよ、さっきの僕を見ている様だった。
「本当ですか!!」
「は、はい………」
と、言って妹は僕に手を伸ばし、襟の部分を何故か掴んだ。
「え?」
「では、これから人の解体ショーをご覧にいれまーす」
「ちょっ!待てって……」
「冗談だよ」
………なんだこいつ
「じゃ、改めて、何を教えればいいんですか?」
「え、えっと………」
………………前々から思ってたけど、先輩って馬鹿なんじゃないか?
悩んでいる先輩の前で妹はなにかを閃いたのか。ふふ。っと軽く微笑んだ。
まさか………
「明日から私が毎日夕飯作りに来ますので、その時に教えましょう」
やはり、僕の読みは間違えじゃなかったようだ。
ふざけんなよ………
「い、いいんですか?」
「よくねえよっ!!」
と、僕が二人の馬鹿げた会話に割り込む。
「二宮は黙ってて」
「お兄ちゃんは黙ってて」
え、えぇ?なぜそこでかぶるかな………
「で、いいんですか!?」
と、目を輝かせて訊いている先輩と、やったぜ。と、こっちも目を輝かせてる妹。
「はいっ!!是非っ!!」
どんどん話が進んでいく……というか、話が終わった。
「ではでは。また明日ー」
と、リビングの戸からひょこっと顔を出して、挨拶をする妹の姿があった。
「いつからそんなとこにいたんだよっ!!」
ガチャンッ!!
僕が突っ込んでいる間に、玄関が閉まる音が聞こえた。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
はぁ…………
ため息をつく僕の傍に、今の気分とは正反対の奴がいた。マジでぶん殴ってやりたい。先輩だし、女の人だし本当にはやらないとはいえ、マジでボコボコにしてやりたい。
「士郎っ!!やったわよっ!!」
「あ、あははは………それはよかったですね…………」
「あ、そうそう。みんな明日アミューズメントパークにいくからね」
と、サラッと言いやがった。
「え、ちょっと、待ってください」
「なによ?今からお風呂はいるんだけど?」
「いや、明日行くって本当にそうなんですか?」
「そうよ。私は嘘はつかないわっ!」
「すいません。それの場所って何処ですか?あと、それの名前とか聞いてないですけど…」
「あ、そうだったわね。全く、早く言ってくれればいいのに……」
と、いいながらチケットを内ポケットから取り出し、僕に渡す。
「はい。これでわかるかしら。じゃ、早く明日のために寝たいから、お風呂はいってくるわねっ!」
受け取った長方形の切れ目のはいったチケット。色はピンクを支柱に綺麗なデザインをされている。その紙を見ると、ラビットらんど。と、名前だろうか?なぜかランドだけひらがなというよくわからない名前。その上には小さくペア券。と、書かれている。
「………ペア券の意味はわかるわね?」
「はい」
「そうよ。ペア券ではペアがペアでなくてはいけないの」
何言ってるかわからないかもしれないが、そうなのだ。
「ペア券」と、名前がつくものは例外なく、ペアでなくてはならない。当然、男女のペアである。
本当にこの国はどうなっているんだ……
というか、なんでこんなに重大な話をしてるのに、僕と先輩しか話さないんだろう。と、思い白崎さんを見やる。
また、机の上で寝てた。前と同じように……胸をたわわんにして、また寝ていた。
はぁ………
そして、やたら露出の多いウサギの着ぐるみである。
もう、最高だぜっ!!
なんでこんなに着ぐるみなのにもかかわらず、露出が多いのだろう?
「しかりんっ!もう、お風呂いくよっ!」
「ふぇぇ?はぁーい」
寝起きの白崎さんを連れてお風呂に入ってしまった。
やはり、これは絵になるな………
女子がお風呂だよなー。それもすぐそこで………
僕も思春期真っ盛りだ。下心とか全くない本当に、これっぽっちも砂つぶ一つ分ほどもないけど、気になるよねー。
くっそ。でも、アニメとかなら湯加減とか訊いて、ラッキースケベがあったりするんだけど、僕にそんな度胸は……
「なにしてるの?士郎。早くお風呂はいってきなさいよ。この後ペア決めするから、早くね」
「あ、はい」
女子の風呂がいつの間にか終わっていた。
僕もさっさと風呂を終わらせ、会議が始まった。
「じゃ、始めるわよっ!」
「はい」
先輩の堂々とした締りのある声が、この狭いリビングに響く。
だが、その声に応えるのは僕だけである。
もう、なんなんだろうね。白崎さんはいつも通り、ぽよよんと、たわわんしながら寝ているし、島崎先輩は真顔で止まっている。本当に画像のようだ。
だが、これは好都合だ。
「で、ペア決めしたいんだけど、わかってるよね?ペア券の意味は」
「はいっ!」
「じゃ、このあみだくじで決めまーす」
え?これじゃ白崎さんとじゃなくて、先輩とになるかもしんねえよな?
「あ、士郎。ちょっといい?」
「はい」
と、言われ、端の方でまた前と同じように、話し始めた。
「えっと、あみだくじなんだけど、士郎から見て、一番右選んでくれる?多分、うっしー…じゃなくて、島崎は「残りでいい」とか言うと思うから、それで頼むねっ!」
「はい」
もう、鵜呑みにするしかないだろう。僕も先輩も本気なんだ。この状況で決めてしまえば、大丈夫だろう。
「じゃ、選ぶよー」
そして、席に戻った。
「じゃ、私から見て、左二本が男で、右二本が女ね。あ、そっち士郎としかりんからみたら反対だからね」
「はい」
「じゃ、私はこれねっ!」
と、言って先手を打ったのは先輩。場所は一番左。多分だが、先輩と当たるようにしているんだろう。
続いて僕も言われた通りに右側を取る。
「あ、これ選べばいいんですね?」
「お?起きたねしかりんっ!!」
「はいっ!おはようございますっ!」
「おはようっ!しかりんっ!」
なに?アホなの?これからおやすみだよね?
「じゃ、阿弥陀するわね」
「はいっ!」
そして白崎。僕のペアと、先輩同士のペアができた。
「あれ?私と士郎さんですか?」
と、白崎さんは訊いてきた。
「は、はい……」
もしかして、嫌われてる?
「そうなんですか…先輩と士郎君じゃないんですね」
「嫌でした?」
と、訊いてみる。
「いや、別に………でも、士郎君と渚先輩は仲よさげだし………」
あれ?いや、別に……から何かボソボソ言ってるけど、全然聞き取れない。
ボソボソ言ってるし、俯いちゃうし……なんで?やっぱり、嫌われてるのか?
「しかりん?大丈夫?」
と、心配している先輩。
「士郎君。本当に私でいいんですか?」
と、先輩そっちのけで、目をうるうるさせて訊いてきた。
「なに言ってるんですか?当然ですよっ!!」
「そうですかっ!なら、明日楽しみにしてますねっ!!」
と、目をこすりながら、男子禁制の間に行ってしまった。
どうなんだろ?嫌われたのかな?なにもした覚えはないけど…
******
そして僕らは、うさ耳のカチューシャのような門の前にいた。
「なにこれっ!!」
「なにって、ラビットらんどだけど?」
「そうですよ?士郎くん」
「確かに迫力はあるよねぇ」
「いやそうですけど、この状況は………」
「そうだぞ。士郎な、火憐」
「そうだね。れんっ!」
「僕が言いたいのは、なんで、お前らがいるんだよっ!!って事だよっ!!」
そう、僕ら以外にも、あのバカップルがいたのだ。
「えーいいじゃん。別にー」
「そうだぞ。士郎。固いこと言うなって」
というか、チケットって2枚しかなかったよな?
でも、こいつら持ってるし……
はぁ……………
なんでこんなに疲れないといけないんだろうか。まだ、ここに入ってもいないのに……
「じゃ、行きましょうか」
と、井上先輩が言うと、この井上、島崎ペアとバカップルは手を繋ぎ入っていってしまった。
なんのためらいもなく、手を繋ぎ、いってしまった。
なんなの?恥じらいとかないの?
「じゃ、私たちも行きましょうっ!!」
と、手を僕に向けてなんの恥じらいもなく、手を差し伸べてくる。
なんなの?本当に………なに?僕がおかしいの?
「どうしました?行きましょう?」
決心するんだ。これ以上白崎さんを待たせるわけにはいかない。しっかりしろ僕っ!!
「じ、じゃ、いきましょ……う」
と、その白崎さんの白く綺麗な手に触れた。
その手はスベスベしてて、柔らかかった。
マシュマロ肌とはこれか………
そして、どんどん握力を入れていく……やべえってこれ……ふわふわしてるし……てか、手汗やべえっ!!
すぐさま離さないと、キモイ奴って思われちまうじゃねえかっ!!
そして、僕らはそのうさ耳のカチューシャのような門をくぐり、入場した。
そして、入場し終わるとその手汗でびしゃびしゃな手を即座にあの綺麗な手から離した。
そして、最初に目に飛び込んできたのは、うさぎの着ぐるみをきた人々の姿だった。
でも、あまり違和感がない。ん?これって………
「あの、白崎さん」
「ふぁい?」
と、もう、ついたばかりだというのに、なにか細長い鉛筆を三本くらい縦に積んだような長さのものを食べていた。
「それなんですか?」
「チュロスですよ?これ美味しいです」
と、また美味しそうに頬張っている白崎さん。
かわいい………けど、だめだ。堪えろ……悟られてはならない。
「そうですか。あの、あの着ぐるみって………」
と、なんとかこらえて、話題を変えて視線をそらす。
「あ、あれですか。私が着ているやつですよ?かわいいですよねー。私はピンうさが好きです。あ、士郎くんは?」
くそ。目線をしっかりこっちに向けてきやがる……し、なに?ピンうさって知らないんだけど?
「あ、士郎さん。お久しぶりです。久々にヘルプっぽいんで出てきました」
といいながら、さっきのうさ耳の門の上に、仁王立ちしている少女がいた。
「う、うん?あ、インスタントガールフレンドか?」
久々過ぎてぱっと見、かわいい子が馬鹿してるようにしか見えなかったぜ。
「なんです?この超絶かわいい私を忘れたんですか?」
と、ニヤけながら話すインスタントガールフレンド。
「どこから来るんだ?その自信は」
「いや今、心の中でかわいいと思いましたよね?」
「い、いや……」
そうか。忘れてたが、考えてることが筒抜けなんだよな……
「そ、それより、なんでお前は出てきたんだ?」
とりあえず、話題を逸らす。
「いや、私はお助け舟ですよ?主人の助けをするのが私、インスタントガールフレンドですっ!!」
「は、はぁ……」
「で、ここのウサギの話をすればいいんですよね?」
「まあ、そうだが」
そして、インスタントガールフレンドは語り始めた。
「えっと、ここはウサギのうさぎん。うさぴん。うさりん。うさしゅ。と、4種類の色はもちろん。性格、趣味などなど全く違う個性豊かなうさぎたちがいるところですっ!!私はピンうさが好きですねっ!あのギラギラしたかっこいいワイルドな目なのに、キュートなピンクっ!!もう、最高に萌えですっ!!あ、うさりんもなかなか………」
心なしか、楽しそうに話すインスタントガールフレンド。ハマってるのだろうか?
「にしても、かわいいですよねー」
と、目をキラキラさせてみている。
まあ、女の子ウケはしそうなキャラだよな。もこもこしてふわふわというか。一言でまとめるなら、メルヘンチックというか……
そう、どこにでもいるマスコットキャラだ。
男の僕に言わせると、大体同じような感じなので、よくわからない。が、女子に大ウケということは、まあかわいいのだろう。
「じゃ、私はこれでー。そろそろ二人ともわかるりますよね………ふふっ!」
と、インスタントガールフレンドは不敵に笑うと、消えた。前と同じようにパッと消えた。なんの跡形もなく消えた。あいつ、なんか最後いってたよな?でも、聞こえなかった。でも、多分くだらねえことだよな?
「士郎くん?どーしたの?」
と、首を傾げながらそう訊いてくる。
本当にかわいいな………
「士郎っ!早く来なさいっ!!」
罵声が飛んできた。
なぜ、楽しげなところに来てまで、僕は罵声を浴びなければいけないのだろうか?
「と、とりあえず白崎さん。行きましょうか」
「はいっ!!」
僕らはついて行った。
今回は、そう。トリプルデートである。
ペア券は確かに二枚だったのに……
「なあ、なんでお前らはいるんだ?」
「それはさっき終わっただろ?」
「いや、僕が納得できんからだ」
「仕方ねえな。俺らはちょっと呼ばれてな。ベストカップル賞の判定にな」
「なにそれ?」
「え?士郎知らないの?名前の通り、一番お似合いのカップルにベストカップル賞をあげるってやつね」
それは知っていた。学校の文化祭でやっていたからだ。まあ、僕には無関係だったけどね。だが、ここで聞きたいのはそんなことではない。
「いや、なんでお前らがそれの判定者に?」
「いや、私たち前にここに来た時にベストカップル賞をもらっちゃってね」
確かにこいつら、イチャイチャするしか能のないこのバカップルには、取れないわけがない。
「でも、なんでベストカップル賞を貰ったやつがベストカップルを決めるんだ?」
「そりゃ、そういう世界のルールじゃねえか。ちょっとお前公民教科書からやり直してくれば?」
…………ちっ!クッソ……
こんなやつに馬鹿にされた……
「覚えてるに決まってんだろ?ベストカップル賞を貰ったら、そこにまた無料で完全に免除で遊びに行けるが、ベストカップルを選ばないといけないっていう法律だろ?」
自分で言っておいて変だが、この法律なんなの?本当に終わってるよな。
「さすが、頭いいな」
「いや、別に………常識の範囲内だ」
こいつが褒める?おかしい。なにが起きてるんだ?
「いやー。そろそろお前も彼女作れそうだな」
と、冷やかしだろうか?でも、顔は結構真剣というか少し悲しいような。そんな顔である。
「そうか?」
「はたから見てれば、なかなかいいコンビに見えるぜ?」
と、いいながらよく、芸術家などが絵にしたいところを縁取る時に用いられる指で僕らを縁取り、見てくる。
「なに?僕らが?」
そんな。どう考えたって吊り合わない。白崎さんと僕じゃ天と地の差がある。
「ああ。どう考えたってお似合いだぜ。初々しいというか、そういうところもなかなかな………」
と、審査員振るれん。
あ、本当に審査員か………
「なに話してるのよっ!!」
と、先輩コンビがやってくる。
なんでアトラクションとか乗らないんだろうか?一言で言えば、ここは遊園地だ。ジェットコースターは勿論。観覧車やスコアを競い合うようなそんなゲームなんかもあるのに、なにもせずに、僕らはフードコートのようなところで駄弁っていた。
「まあ、世間話ですかね?」
と、適当に返す。
「じゃ、とりあえず行きたい場所はある?」
僕はまったくもってない。というか、わからない。なにが面白いのかでさえわからない。
なので、無いのである。
「あ、私ラビッツに行きたいですっ!!」
と、いい勢いよく立ち上がったのは白崎さんだった。
「あー。ラビッツね。距離も近くだし、行きましょうか。みんなはそれでいい?」
「いいっすよ。」
「はーい」
「うん」
と、それぞれ違う返事をし、そして、僕らは白崎さんの指定した場所へ井上先輩の誘導で向かう。
どんなところなんだろ?
ラビッツってとこはまあ、複数のウサギみたいな意味合いだ。なら、写真撮影とかが妥当だろう。
なんて思いながらその場についた。
そこで、目に映ったものは…………
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