第24話

24話


にしても、今日は大変だったな……


部活という同居をしてから1日目。それだけでさえ、普通に考えたら、結構心理的というか男としてというか……そう、生理的にやばいのに、何も言われてないまま4時に起こされ、学校に行ったら行ったで宝探しだ。謎解きだ。なんてやらされて、そして、あいつモザイク野郎…のせいで、先生を担ぐ始末……全く厄日だぜ……。


でも、なんで先生はあんなこと言ったんだろう……


なんて考えているうちに、僕は部活の家の前に立っていた。


くっそ!!どうやって入るんだ?


家のように「ただいまー」なのか?「戻りました」なんて、会社の外回りの帰りみたいな?感じでいいのか?


くっそー。どうすりゃーいいんだよっ!!


そんな時、内側から扉が開いた。


そして、胸に何かが当たる。いや、ぶつかった。


「……井上先輩!?」


無言で、僕を睨みつけてくる。僕は恐怖を覚え、


「あ、すいません。見えなくて…」


と、平謝りした。


ブチッ!!!!


ん?……何かを踏んだ気が……


「あぁ?」


この怒り………いや、殺意に満ちたこの言葉を聞いて、気づいた。


あ、地雷だ。


気づいたらもう手遅れだった。


****


「ん?」


僕はソファーの上で目を覚ました。


「あ、士郎くん。大丈夫ですか?」


目を開けると、いつも通り、慣れてはいけない気もするが、前と同じように、白崎さんが僕を覗き込むようにして立っていた。


ここは……見慣れてはないけれど、部活の家であった。


そうか。また、僕は先輩にKOされたのか……


………女の子って難しいねっ!!


「それにしても凄いですねっ!!あの攻撃を耐えるなんて………」


「そ、そんなに凄かったんですか?」


僕は起き上がり、ソファーに腰掛ける。


「それはもうっ!獣みたいでしたよ」


トン。


僕の横に白崎さんが静かに腰掛ける。


……………え、え?


ちょっと、理解できなかった。


ドクンドクン………


白崎さんに聞こえそうなほどに、僕の心臓は音を立て鳴っていた。


「どうしました?士郎さん?顔が真っ赤ですよ?」


「い、いや………大丈夫です」


この人が好きってなってから、なんか、直視することができない。


「そうですか」


「はい」


ガチャ!!!


と、扉の開く音が聞こえてきた。


「ただいまー。ちょっと雑用っ!こっちに来なさいっ!!」


いや、先輩にやられて体が痛いんですけど!?


「早く来ないと……ね?」


あ、やばい。痛いとか言ってる場合じゃないみたいだ。


殺される。


「は、はいっ!!」


と、言いながら立ち上がると、身体中がポキポキとなった。


いってぇぇぇ!!!!


「だ、大丈夫ですか?」


「ま、まぁ………」


と、白崎さんには嘘をつき、僕はゆっくり慎重に、玄関へ向かった。


「おそいっ!なにしてたのよっ!!」


罵声が飛んできた。


「いや、先輩がなぐっ……………」


と、突っ込もうとした…………のだが、中断した。やばい。狩られる。奥に潜む野生の本能でわかった。この人に逆らえない。と。


「なに?」


「いえ、なんでもないです」


「そう、なら、これ運んでもらえるかしら?」


と、言って僕に大きく重そうなレジ袋を渡してくる。


「は、はぁ………」


「なに?文句でもあるの!?」


「い、いえ……」


それを渋々僕は受け取る。


どう考えても、四人分じゃねえよな。


……って重っ!!!!


こんなの、あの時の先生くらいあるぞ?それを平気な顔してスーパーから持って帰るとか……怪物かよっ!!


でも、なんであんなに怒ってる?いや、キレてる訳じゃなさそう。なんか………怖がっている?


そして、僕は必死にクソ重いこの荷物を持ってキッチンに置いた。


ふぅ………重かった。


「どいて」


と、冷たい声。


「は、はい」


僕は先輩に言われるままキッチンから出た。


あんなに冷たくなくてもいいのに………でも、やっぱり変だな。


怒ることはあってもあんなのは変だ。


…………あれは焦ってるのか?


そんな時


ピンポーン。


と、チャイムが鳴った。


誰だろう?


「あ、もう来ちゃった………」


と、先輩がキッチンで呟く。


「先輩。出ましょうか?」


と、僕は恐れつつ訊くと、


「いや、私が出るわ」


だそうだ。


そして、さっと玄関の方へ駆けて出て行ってしまった。


ガチャ!


と、ドアの開く音がする。


「お邪魔します」


と、優しく包み込むような抱擁間のある声がリビングまで聞こえてくる。


誰か来たようだ。


なのに、島崎先輩は、いつも通り部屋の隅で蹲っている。


本当に安定してるよな………


そして、白崎さんを見やる。ソファーから動いてなかった。


おいおい!無反応かよっ!!なんかこっちがバカらしくなるわ。


ドスドスドス……


二つの足音が近づいてくる。


ガチャ!


と、リビングの戸が開く。


そして、そこに大荷物を持って立っていたのは、先輩と…………先輩!?いや、瓜二つのような。でも、それも違うな。先輩を無理やり大人にしたような容姿。でも、白崎さんのようなナイスバディ。加えて、深い海のような青い眼。そんな人先輩の姉しかいない。髪も当然金髪だ。まとめると、白崎さんのナイスバディと井上先輩の容姿が混ざったような感じだ。


なんだそれっ!いいとこ取りじゃねえかっ!!


あ、うん?どうだろう?みんなかわいいのは変わんねえか。これは人それぞれだな。


「紹介します。私の姉の井上 流美【いのうえ るみ】です」


敬語な先輩に若干違和感を感じながら、とりあえずるみさんと挨拶を交わす。


「とりあえず、この荷物預かっててくれる?」


と、僕に渡してきた。


「そこらへんに置いておいてください」


「あ、わかったわ」


ドス!


すげえ音……


なに持ってきてんだろう。


それはとりあえず、置いておいて、座る場所を提供しようとする。だが、ない。どうすんだ?


「客席」


と、一言。先輩が机に向かって命令する。


え?意味わかんねえんだけど。絵面はすごいシュールだ。


そうすると、机が光に包まれ、一つ椅子を作り出した。


どうなってるんだ!?


最新の技術か?まあ、多分そうだろう。


その作り出された椅子に流美さんは腰掛ける。


そして、僕らも各自の席に座る。


僕が座っているとこから見て、真正面に白崎さん。僕の横、右隣に座っているのが、島崎先輩。そしてその、島崎先輩の前に座っているのが、井上先輩だ。まあ、これは定位置だ。それに加えて、僕の右側に、正確には、井上先輩。島崎先輩を挟んでだが、いわゆる誕生日席の位置に流美さんがいる。


「あの、どうしてきたんです?」


とりあえず、だんまりはよくないだろう。と、思い問う。


「えっとね、あれ?君は知らないの?一週間に一回その部員の家族が様子を見に来るって」


え?ちょっと、待って。その言葉を聞いた瞬間、恐ろしくて、怖くて、もう、どうにかなりそうだった。


い、妹が来るかもしれないだと!?


そう思うと、無意識に、体が小刻みに震え始めていた。


………無言で来てしまったし、あの妹だ。なにするかわかったもんじゃねえ……


だが、あいつは妹。家族だからって未成年者は来ないんじゃないか!?


「それって、あの中学生は来ないとか。そんなルールないです?」


僅かな希望を胸に僕はまた、問う。


「ないわね」


と、井上先輩の一言で、僕の希望は跡形も残さず完全に消え去った。


「あ、私はちょっとご飯作ってくるから、頼むわね」


と、言い残しキッチンへ行ってしまった。


井上先輩があっちに行ってから、場はしーん。と、していた。


でも、僕はそんな事に構っている余裕はないっ!!


妹、奴が来たら終わる。


どうすればいいんだ!?


でも、今日明日で来るわけじゃないんだし、いいか………


「ちょっ!なにあなたっ!!」


キッチンのほうから声が聞こえてくる。


「兄貴いっ!!!」


…………え?この声……悪魔の方の妹だ………


「おい兄貴っ!!」


その声の主はこっち、リビングにやってきた。


「な、なんですか?」


変わり果ててしまった妹に恐る恐る訊く。


「黙っていくとは死ぬ覚悟出来てんだろうな!?」


フリフリしたピンク色の胸元はハートマークが描かれたなんとも可愛らしいエプロン姿で、片手には刃物、もう片手には玉ねぎを持っていた。一見、料理しに来ただけにも見えるが、目が充血し赤くなっているし、目の下には寝不足の象徴であるクマができていた。


「寝不足だよな?」


「あ?そんなことどうでも……あぁーん」


妹があくびを一つする。


「眠いんだよな?」


「う、うるせぇっ!!私のものにならない兄貴なら、兄貴を殺して私も死ぬっ!!!」


と、いいながら手に持っている包丁を上に振り上げた。


あ、やばい。話そらそうとしたら、逆に進めてしまったみたいだ。はぁ……僕死ぬんだ。


僕は瞬時に目を閉じる。


「………………………ん?」


……何もされてない?


目を開けると、玉ねぎが目の前にあった。


は?


そして、その玉ねぎが細くみじん切りにされていた。


………え?


はっきり言って意味がわからねえ。僕の目の前で、宙に浮いているのに関わらず、玉ねぎが一瞬にして、みじん切りにされていた。それはまぎれもない事実だ。


そして、その刹那。


「目がぁ!!目がぁぁぁ!!!!」


痛烈な痛みと共に涙があふれ出してくる。


「ひゃっはぁぁぁぁ!!!!思い知ったかっ!!ひゃっはっはっはっ!!!!」


狂ったような笑い声をあげる妹の声が聞こえる。


「ひどい…………」


やべえ………目が開かねえ……


本格的に痛いんだけどっ!!


「あ?兄貴なに地面に寝っ転がって、バタバタしてんの?」


「お前がやったんだろうが……」


痛くて、ダメだ。


「士郎くん?大丈夫?」


と、白崎さんの声。やっぱり落ち着くな……なんて言ってる場合じゃねえっ!!クソ痛えっ!!


「いや、これは……ちょっと」


でも、この玉ねぎのやつって周りにも影響が出るよな?


超絶痛い目をなんとか開き、周りを瞬時に確認する。


カメラアイッ!!


やはり、涙のせいで視野は良好では無い。でも、ぼんやりと、妹の顔のような物が見えた。本当に瞬時なので、ようなものと言う曖昧な言い方になってしまったが、目にはゴーグルか?よくは見えないけど、なにかメガネのようなものをつけている。


多分、僕以外にこんな泣いてる声はきこえない。ってことは妹がゴーグルを全員分持ってきたってことだろう。


にしても、痛え………


それから僕はこの痛みに翻弄されること数十分。


痛みが和らいでいき………そして、目が開けれるようになるまで回復する。


やっぱり、みんなにはゴーグルを、配っていたか。よかった。


「ひゃっはー。あ、兄貴……思いしっ……たか……」


そして、妹が糸の切れた人形のようにバタンと倒れてしまった。


「お、おい!大丈夫か!?」


嫌だぞ。こんなのがニュースになったら!妹の死因。兄貴の復讐とか本当に嫌だぞっ!!!


僕は妹を表に返して、体を揺さぶる。


う、動かねえっ!!


やばい。俺の死亡フラグじゃなくて、妹の死亡フラグだったのかぁ!?


「すう……………すう………」


寝息が聞こえてくる。


それは妹からだった。


「……な、なんだ。生きてる」


「士郎くん。大丈夫?」


…………あ。目が痛かったんだっけ?


びっくりしすぎて忘れてたぜ。


「大丈夫ですね。すいません。妹が迷惑かけて」


「あ、妹さんなんですねっ!てっきり、殺し屋とかかと思いましたー」


と、笑顔で言う白崎さん。


「あ、あははは…………」


殺し屋だったら、僕どう考えても死んでるよね?


「にしても、嵐のような妹さんですねっ!」


………確かにそうだ。


急にやってきて、奇襲して、目的果たして果ててんだもんな。


はぁ……どうしようもねえぜ。


でも、これはあいつなりの心配なのかもしれない。あいつは妹なのに僕よりかしっかりしてるし、お母さんよりお母さんっぽいし……急に何も言わないで、家族が一人いなくなるって辛かったもんな………急に言わずに行ってしまったから心配かけたのか………


起きたら、謝ろう。


とりあえず、リビングの端の方に僕の布団を敷き、そっちに妹を移した。


その妹の目からは涙が出ていた。


うっ……


本当にごめんなさい。


「士郎くん?妹さん大丈夫?」


と、先程から何か手伝おうか。みたいな感じでおどおどしていた白崎さんが、僕を見下ろすような感じで話しかけてくる。


「え?あ、あー。大丈夫ですよ。本当にすいません。迷惑かけてしまって」


「いえいえ。こんなのかわいいものじゃないですか」


「そうですかねー」


「そうです。私なんて、全部のお世話を妹にしてもらってますっ!」


「そんなドヤ顔で言われても………」


なんて話していると、井上先輩がすっごい無愛想に料理を運びながらこっちに来た。


「あ………すいません」


とりあえず、謝っておく。


「いや、別に気にしてないわよ。てか、あの子の包丁を使う腕。ただものじゃないわっ!!!」


と、かなり興奮気味だった。


確かに、僕が自慢するのは少しおかしい気がするけれど、妹は料理が上手い。


「弟子になろうかしら………」


などとボソボソ言い始めた。


もう、放っておこう。


「あれ?井上先輩のお姉さんはどこに行ったんですか?」


「…………どっかいっちゃった」


と、消えそうな声で島崎先輩が教えてくれた


「どこ行っちゃったんでしょうね」


「あ、士郎くん。流美さんなら、女子しか入れない部屋だよ。あのね、マスクが4つしかなくて逃げてもらいましたー」


と、やはり笑いながら、そう言ってくる白崎さん。


はぁ………本当になんか、人を殺す薬物だったら死んでるじゃねえか……


「じゃ、私は流美さん呼んできますね」


と、言ってリビングから出て行ってしまった。


「じゃ、先輩?おかずとかテーブルに並べちゃいますね」


「お?そ、そう?悪いわね」


「い、いえ………」


びっくりした。井上先輩が謝るというか、恩を感じるとか想像できなかったけど、悪くないな。


とりあえず、料理を運んだ。


それはあまり時間がかからないものだった。


まあ、でも今妹は寝てるし、さっき、抱き上げて布団に移動させても全然動かなかったし、いいか。


ガチャ!!


「お?いい匂い」


と、入ってきたのは流美さん。その後に続いて白崎さんがリビングに入ってきた。


そして、先ほどの位置に着くと、


「「「いただきます」」」


皆で、合掌し、挨拶をする。


今日は………鍋だけがドンとあった。そして、その鍋の中には水と昆布の結ばれたやつが入っていた。


そして、取り皿が一人ずつ配布されていた。


「へぇ。今日はしゃぶしゃぶなの?」


と、流美さん。


「いや、おねえ……姉さん。そんなにつまらないことはしないわ」


と、言うと先輩は立ち上がり、電気を消した。


この時間はもう、そとはまっくらだ。


「ってことは…え?」


「そう。闇鍋よっ!!!」


でも、具材とかって大抵持ち寄ったりして、やるもんじゃないのか?


「今回は、私が選んできたなかなか鍋にいれれそうでいれれないものを色々買ってきてみたわっ!!あ、勿論。普通のもあるわよ?で、ルールはとったら戻さない。これだけよっ!!」


こんなにハイテンションな先輩は見たことない。まあ、見えないのだが、声の張り具合などからでもわかるくらいにテンションが上がっていた。


「「「は、はい」」」


押される僕ら。


「あ、それなら、私も入れたいのあるんだー」


と、流美さんが持ってきた荷物の中から、いろんなものを取り出し始めた。だが、何かはわからない。


「なんです?」


「ふっふーん。君、だめだよ?今から闇鍋だっていうのに、中身聞いたら面白みが出ないじゃない」


「そうですね」


そして、適当に先輩と流美さんが何かを入れていく。当然目を閉じさせられ、見れない。


それから火を付け、待つこと10分。


鍋が頃合いになったらしい。


とりあえず、食べるか………


なにかを箸で掴み、取る。掴んだ感じは、箸で切れそうで切れない。ふわふわしたなにか柔らかいものだ。


でも、全然見えねえ。


何かわからないが、口に入れる。


な、なんだ?これ?


口の中に昆布風味の………ってそう言うだし使ってるから、そんな味がして当然だが、これは風味がしっかりと出ていて、それを噛んだ瞬間。なかからその汁が溢れてきた。そして、このモチモチとした食感。


………もちか?


いや、餅なら雑煮とかで食べるが、これはだしを吸いすぎだ。あまりにもしっかりした味がつきすぎている。


では、これは?


味を吸う?ってことはなにか乾燥している……悪く言えばパサパサとしたなにかだという事だ。


ってことは………


せんべい?いや、違う。このモチモチ感はせんべいでは出ないだろう。


なら………麩か?


水を吸って、あ、そうだ。麩だ。


このモチモチ感。そしてこのしっかりとした味がなによりもの証明だ。


「おいしいですねっ!!この麩みたいなやつ」


「おお!よくわかったわねっ!!」


「これ、先輩が入れたんですか?」


「そうよっ!センスあるでしょ?」


と、見えないが、幸せそうな顔で言ってくる。


「そうですね」


闇鍋って言ったら、遊び半分か、おふざけかよくわからないが、本当にろくでもないの入れるやついるよな…………


そして、また次の何かに手を伸ばす僕。


今度は……硬い。とても切れそうじゃない。豆か?


とりあえず、口に入れた。


今度は全然昆布風味とかがなかった。そして、この口のなかでコロコロっと転がるこの感じ……どっかで……とりあえずかめそうにないので、口の中で転がす。


ん?これって……喉がすっきりとするんだけど……


え?のど飴?


「………すいません。誰かのど飴入れました?」


と、問う。


「え?私入れてないわよ?」


と、先輩。このおどおどした感じがない。堂々とした実に先輩っぽい言い方。嘘はないだろう。


ってことは………


「あ、私が入れたわよ?」


と、こっちも堂々とした………ってそうじゃねえだろっ!!


「あ、私のお気に入りの龍角散のど飴はどうだった?」


「のどがすっきりしました」


と、正直に何もなかったかのように、そう言う。


「そいつは結構結構」


と、満足そうな流美さん。


「はぁ………」


びっくりするくらい大きなため息が出た。


「どうしたの?ため息なんてついたら、幸せが逃げてっちゃうよ?」


…………声は抱擁感があるというか、優しそう。いや、優しいと思う。でも、なんだろう。この残念感は……


とりあえず、飴を早急に嚙み砕き、飴を食べた。


そして、次は……


「……………なにいれたの?姉さん」


「え?どれ?」


箸を鍋に伸ばしたところで、先輩が少し不機嫌になりながら、姉に話していた。


「これだよこれっ!!このほんのり甘いやつっ!!


「あー。チーズケーキ?」


「あー。そうそう………それ………」


と、さっきまで怒っていたような感じだったのに、呆れ果てたような声でそう言っていた。


なんだろうな。容姿は完璧とまで思えるのに、やっぱり、いろいろと問題ありだよな。


なんで僕の周りってこんなに変な女の子が多いんだろう。


顔だけ見れば、美人で通るような人たちなのに、どうして?どうしてこんなに残念なんだ!?


「え?チーズケーキ美味しくないですか?」


と、白崎さん。


はぁ………


なんで?こんな変な子しかいないんですか!?


大事なことだから、二回言いました。


白崎さんは味覚がどうかしてるんだろうか?


でも、なんだろう。美味しいっていって食べてる白崎さん見てると、こっちまで幸せになるし………って、なにが言いたいんだろう?自分でも、よくわかんねえ。でも、やっぱり、好きだ。その気持ちには変わりがない。全く、どうしてだろう。


「あれ?士郎くん。またため息してるね。大丈夫?」


「は、はい………」


ダメだ。かわいすぎる。


もう、どうしようもなく、かわいいんだけど……


「そっかー。なら、よかったー。じゃ、食べよっか」


「はいっ!」


いつか、この敬語も外せるといいな。


でも、完全にタメ口にするタイミングを失ったな………


はぁ……


どうしようもなく、ため息が漏れる。


どうしてだろう。なんでこんなに息を吐き変えてるのに、こんなに胸の内が熱いんだ?


でも、そんな理由は、わかっている。白崎さんが好きだからだ。もう、なんだろう。苦しい。熱い。


僕の心はこの鍋のように、どうしようもなく、沸騰していた。


って、え?なんで電気付いてんの!?


「「「ごちそうさまでした」」」


あれ?終わってる?


そうか、ここには食欲の塊みたいな。吸引力の変わらないダイソンのようなのが居るじゃん。そりゃ、もうないよな。


はぁ……


また、僕はため息をついた。


「なに士郎?どうしたの?」


先輩が珍しく心配してくれた。


「え、えっと………なんでもないです」


含んだように言ってしまい、先輩がニヤリと表情を変えた。


嫌な予感が………


先輩は僕にその不吉な顔のまま近づいてきて、そのまま、僕の頭を予備反動もなく、僕の頭を傍に抱えて締め上げ始めた。


これ、完全にヘッドロックじゃねえかっ!!痛えしっ!でも、柔らかい感触が頭から伝わってくる。


この柔らかい感触は………


とか、考えてる場合じゃねえっ!!ゴリラ並みの腕力だ。ダメだ。逃げれねえし、わ、割れる………


「頭蓋骨がわれちゃうよぉぉ!!!」


「あ、やり過ぎたわね」


先輩はこのヘッドロックを解除してくれた。


ふぅ、本当に死ぬかと思った……


嫌だな。死因。先輩の悪ふざけとか……


「私より先にリア充にはしてやらないんだからねっ!!」


と、先輩はいい笑顔でそう言った。

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