第16話

16話


僕は順調に現実と同じように白崎さんと仲良くなった。


そして、今はというと………


二人っきりで水族館デートの真っ最中だ。


いや、デートってわけではないが………


画面を見れば白崎さんがいる。


目は当然合わせられないが、画面を見ているだけで、もとい、白崎さんを見ているだけで、僕は幸せになれた。


でも、どうするよ。


いきなり「好きです」なんて言えないし………


やっぱり告白ってことは、それなりの空気を作らないといけないよね?


でも、どんな空気なんだろう………


自慢ではないが、生まれてきてから告白されたこともしたこともない。


火憐に告白しようとした時はちょっと違かったしな…………


だから、どんな空気なのか。なんて言えばいいのか。どの時間帯で告白すればいいのか。とかが、全然、全くわからないのだ。


はあ……………


ゲーム内なのにこんなに緊張するなんて………


だが、こんな時こそ深呼吸。とりあえず落ち着くんだ。


とりあえず、告白前にしなければいけないことがあるはずだ。


…………って、なんだ?


とりあえず、僕はコントローラーをテーブルの上に置くと考え始めた。


…………いくら考えてもわかんねえ。


何がいるんだ?


漫画やアニメ、ドラマなどでよく、プロポーズシーンは見たことある。だけど、付き合うまでに至るシーンは余り描かれてない気がする。


「士郎さん。そんなことも知らないんですか?」


と、懐かしい声が聞こえた。


「おお!久しぶりだな。インスタントガールフレンド」


僕は、色々聞きたいこともあったのだが、とりあえず会えたことに喜びを感じていた。


「お久しぶりって、まだ1日2日くらい会ってないだけじゃないですかっ!!」


「え?そ、そうか………」


うん?1日2日くらいしか経ってないのか?


なんでかな?あいつが消えてからもう一ヶ月くらいが経ったと思っていたんだが……………


ここで考えられることは一つ。


僕の中であいつの存在が大きくなっているってことだ。


うーん……


でも、待てよ?


初めて会った日は確か……初っ端から白崎さんを間接的にではあるが泣かせるし本当に使えない邪魔な存在。


そんなやつに最初は僕が出来ないからって仕方なくしぶしぶと頼んでいたが、今はどうだ?ほとんど頼ってるじゃねえかっ!!


だけど、ここからは自分でできるようにしないとダメだ。


あいつがこれから居てくれるなんて考えられないし、仮に白崎さんに告白できて、「ok」が貰えたとしても、それは俺の力ではない。あいつの力だ。


他力で付き合う?


は?どこの世界のド○えもんだっ!!


ここからは自分でやるんだっ!!


「よく、気づきましたね」


と、インスタントガールフレンドが何かをボソッと消えそうなかすれたような声で呟いた。


「え?なんて言ったんだ?………ってか、なんで泣いてんだ?」


「え?い、いや……あはははは」


「相変わらず、変な奴だな」


全て私には筒抜けなんで、わかってますよ。士郎さん。


………立派になりましたね。


「で、インスタントガールフレンド。俺は何をすればいいんだ?」


「えっ!さっき頼らないって言ってたじゃないですか」


涙を垂れ流しながらインスタントガールフレンドはそう言った。


「あ、そ、そうか……それは任せないって事で、聞くのはありってことで」


心を読むんだったっけな………


なんだか、恥ずかしいな……


なんで泣いていたかもなんとなくわかったぞ。


って、お前は俺の親かよっ!!


「まあ、ヒントくらいはあげますよ」


と、涙を服の袖で拭いながらそう言った。


「おおっ!!頼むっ!!」


「それは、心の準備それだけです」


「えっ!マジで?」


「はいっ!頑張ってくださいね?」


「おうっ!」


やっぱり、締まるな。


僕は歪んでしまっていた気合いを入れ直し、告白予行練習を再開した。


「うわぁ、可愛いですねっ!!」


と、言う白崎さんに僕は少し見惚れていた。


「………かわいいですね」


「ですよねっ!」


と、何も気にしないで話す白崎さん……


てか、いくらなんでも鈍すぎだろ。


さっき、完全にイルカなんて見ないで、白崎さんしか見ずにかわいいですねって言ったんだぞ。


どんだけ鈍感なんだよっ!


いや、アタックの仕方の問題か……


お?あっちのアザラシコーナーは人がいないな。好機っ!!一気に告白まで持ち込めーー。


「白崎さん。あっち行きましょう」


「えっ!あ、はい」


と、承諾を貰ったので、僕達はそのままアザラシコーナーに向かった。


「アザラシかわいいですねっ!アザラシお好きなんですか?」


他の人いないし、今だっ!


「…………アザラシより、白崎さんの事が好きですっ!!」


うわぁぁ!!心臓がズキズキと痛く、告白したんだし、しっかり目を見て話したいのに、白崎さんのことを見ることさえ出来ない。てか、頭を下げて足がを見るのが限界だ。正確には靴だが、これが告白ってものなのかっ!!


「……………は、は、はい?」


これじゃ、告白とは言えないか……


言葉の意味でさえ、よくわかんない感じになってるっ!!


ど、どうする!?


もういいっ!!直球ストレート。真っ向勝負だっ!


「ぼ、僕と付き合ってくださいっ!!」


静寂があった。


…………あ、やばい。天に召される。


さっきよりも脈拍数が格段にさっきとは比べ物にならないくらいに上昇し、心臓の音が今にも白崎さんにまで聞こえそうなほどに強く脈打っている。


恐らく、フルマラソンを完走してもこんなに心臓が鳴らないだろう。


答えは………と、思い僕は顔を上げて画面を見た。


なんだ?画面が消えたぞ?


……………………あれ?付かないんだけど……


ま、まさか!?失敗したのか!?


…………………これは失敗か?


ふ、フられたのか………


今まで考えていたことすべてが無駄だったのか………


僕は一人、真っ暗な部屋で布団を被り、見た通りうつ病の患者のように落ち込んでいた。


なんでフられたんだ…………


「しろーさんっ!!どーしたんですか?」


「………インスタントガールフレンドか………てか、お前見てただろ?なら………」


「なに言ってるんですか?」


「………え?」


そっちがなに言ってるんだよっ!!失敗しただろうがよっ!!


「しろーさんは本当にお馬鹿さんですね」


「お馬鹿って………」


「見てください」


と、言ってやつはテレビを指差した。


僕はテレビを見たが至って変わらない。ただのなにもないテレビだ。


「ほら、やっぱり……」


「しろーさんよく考えてみてくださいよ」


「……考えれる時じゃない」


「もう、本当に馬鹿ですね」


なんだよっ!!なんであいつに馬鹿呼ばわりされなきゃいけねえんだよっ!!


僕はイラっと来ていじめられっ子の底力で考え始めた。


……………うーん。テレビは至って変わらない見慣れたテレビだよな。


そうか!見落としてたのか……


画面が暗くなったんじゃないっ!!ただ、テレビの電源が切れてきいたんだ。


僕はさっと、テレビをつけようと思ったのだが…………


つ、付かない?


な、なんで!?


「集中しすぎてわかってなかったんですね?しろーさん外見てみてください」


僕はその言葉通りに外を見た。


カーテンを開けて外を見ると、ピカっという光が見えて、その後にゴロゴロゴロッッッ!!!!っとかなり近くに雷が落ちた。


ま、まじかよ………


空を窓越しに見るといつもより低く見えるまるで家を飲み込もうとしているようだ。


だから、電源が落ちたのか。


僕は元の電気をつけに行き、早急に戻った。


そして、テレビ、ゲーム機の電気をつけるとそこには………………


なんと!さっきのように英語で「Congratulations」と書いてあった。


お、おお!!


成功したのか!?


「うっしゃぁぁぁぁ!!!!!」


僕は声が枯れるくらいに叫び、周りから見ればただの気狂いかもしれないが、このくらいしないと、この感情は抑えられないのだ。


なんだろう。この喜びは………


悩んでいたことが全て吹き飛び、その悩みの代わりに幸せが脳内に入り込んでくるような感覚………


てか、悩んでいた事でさえも今では幸せだ。


「しろーさんっ」


と、ターンを決めながら、後ろに手を組み、少し腰を曲げ、僕の目の前にそのふくよかに育ったバレーボールくらいの素晴らしい物を二つボンッと突き出してきた。


「う、うわぁ…………って、なんだよっ!!今いい感じなのによ」


「それ、ゲームですよ」


「……はあ………それは………」


ありえねえ今の俺に現実を押し付けるなんて……


「まあ、そんなに気を落とさないでください。現実も同じようにしましょう」


「そ、そうだな」


とりあえず、会わないとね。


と、僕は携帯を取り出して開いた。


ふと、携帯の時間が目に入った。


22時…………だと!?


そんなに時間が経ってたのかよっ!!


もう、そんな時間だったのか


ってことは、メールが………


と、確認すると


来てるな……


僕は未読メールを見た。


白崎さんからのメールだった。


件名:こんにちは。


土曜日ですね。わかりました。


ーーーーーENDーーーーーー



うっしゃぁぁぁぁ!!!!!


白崎とプールだっ!!!


って、ことは……告白!?


でも、本当にやるのか?


一応、まあ、成功したしな。


やってみるしかねえだろっ!!


でも、なんて言えばうまいこと伝わるだろう……


ブーブーブー


携帯が鳴った。


僕は何にも考えず、いや、考えれずに携帯を開いた。


新規メールが届いています。


と、画面には表示されていた。


僕はほぼ無心でメールを開くと、れんからメールが届いていた。


件名:よう。


あのさ、火憐にこの話したら「行きたいっ!」って言ってたから連れてきてもいいか?土曜なわかったぞ。


火憐も土曜でいいらしいぞ。


ーーーーーENDーーーーー


火憐か……


まあ、でも、いい機会だ。火憐としっかりとケリつけて、白崎さんにこの想いを伝えるんだっ!!


件名:いいぞ。


火憐呼んでいいぞ。


了解だ。


ーーーーーENDーーーーーー


僕は携帯を閉じ、


「決戦は次の土曜日だ。」


と、呟いた。


ブーブーブー


また、携帯が鳴った。


なんだ?あとは……井上先輩かな?



携帯を見ると、やはり、井上先輩からのメールが届いていた。


件名:あのさ。


土曜よね?了解よ。


私の幼馴染も連れて行っていいかしら。


多分、みんななら仲良くなれると思うわ。


ーーーーーENDーーーーーー


は?誰だよ。と、昔の僕なら断っていただろう。


だが、今は違う。多分、火憐との事を解決するのにも、白崎さんに告白する時も、一番邪魔になりそうだしな。


なんで誘ったのかな?


まあ、今から断るのも悪いし、なら、居てもらってた方がいいかな?


件名:いいですよ。


僕も井上先輩の友達とは仲良くできそうな気がします。


ーーーーーーENDーーーーーー


ふっ!まあ、文面での嘘は簡単だな。


はっきり言って、そんな奴には興味ない。


よし、これでみんな来るな。


俺、白崎さん、火憐、れん、井上先輩とその友達。合計6人来るみたいだな。


………………6人!?


どうすればいいんだよっ!!どうやって抜け出してその話をするんだよ!?


そして、ずっと悩んでいたが、結局何もわからず、当日になってもどうすればいいのかわからなかった。


そして、僕は待ち合わせ場所にいる。


「しろーさん」


と、化け物のように後ろから声をかけてきたのは、インスタントガールフレンドだった。


「あ?お前も来たのかよ。てか、もう慣れたその演出。」


「あーそうですか?次は本格的にやりますねっ!!でも、なんでこんなに早くに来たんですか?予定の1時間前ですよ?」


「本格的にやるんじゃないっ!!なんか………必然的に?」


「ほうほう。そうですか」


どんな顔して会えばいいんだ?


と、悩んでいたらすかさずにインスタントガールフレンドがこう言った。


「いつも通りに会えばいいですよっ」


「おお!そうかっ!ありがとう」


「いえいえ」


俺の何日かの悩みを一瞬、一言で終わらせてしまった。


こ、こいつは………すげぇ、将来ビックになるぜっ!!


「しろーさん。あれって……」


「あれ?ってどれだ?」


と、インスタントガールフレンドが指をさす方を見ると、金髪の子供がいた。


まさか!井上先輩!?


金髪は目立つため、遠目でもわかった。


だけど、どうやって会うか……白崎さんと仲良さそうだし、一緒にいたら多分死ぬ。


僕は横にあった木の陰に隠れた。


あれは……間違いない。井上先輩だ。


そして、あの横に見えるのは…白崎さんだっ!!


僕の予想は当たったようだ。


話が聞こえてきた。


「ねえ、しかりん」


「どうしました?井上先輩?」


「あの件なんだけど、一応、通ったんだ。だから、来てくれる?」


「あ、そうなんですか?なら、入りますよ?」


「やったーっ!!でも、今日中にあと一人見つけないと……その話は無しなんだってー。だから、合計4人はいないといけないんだよね」


なんの話だ?


「士郎くんでも誘う?」


「えっ?あ、ああ!士郎ね。そうします?」


と、口調が変わりそう言った。


僕の名前が出てから急に口調が変わったし、僕を誘う?どういう意味だ?


また映画とかか?


うーん………わかんねえな。


「そうしましょうっ!!」


「あ、わ、わかった………」


完全に白崎さんペースだ。


すっげえ押されてる。


本当に先輩かよっ!!


隠れちまったけど、どうやって出て行こうか……


いやぁ、久しぶりー


だなんでいいながら、ここからでていくのは流石にまずいだろ……


でも、時間まで出ないでいくのを待つってなると、「遅刻した」って事になって好感度下がるし、ここから出て行ってもどうせ好感度下がるし………どうすりゃいいんだよっ!!


パキッ!!!!


あ……………


僕は落ちていた木の枝を踏み、音を立ててしまった。


うっ!!


やばいな……何もしてはいないがこの状況はまずい。


隠れて盗み聞きなんて……ってなってかなり気まずい状況になってしまうっ!!


「うん?今のなんだろう………」


「なんですかねー」


「そこの木辺りから聞こえたわよね?」


「で、ですね……」


来るなよ。来るなよ……


「ちょっと行ってみます?」


「え、えぇ……」


や、やべえ、こっちに来るっ!!


「お待たせーっ!!」


火憐とれんが来た。


ナイスタイミングッ!!!


そのままそっちに視線よ行けっ!!


「あれ?士郎は?」


と、れんがきて早々話し始めた。


「まだみたい。もう時間になるよね?」


と、答える井上先輩。


「うっそー、士郎が遅刻?ありえないっしょ。だってあいつどんな用事でも1時間前くらいにはもう居るんだぜ?」


「す、すごいね…」


若干引かれた…………


どう出て行くか………


「でも、士郎が居ないのは変だぞ。士郎のす………あ、なんでもない。あ、そうだ。士郎に電話かけてみる?」


お、おいっ!!れん今完全に「士郎の好きな人っていいかけただろっ!!」


「そうしようか」


ま、まずいぞ。今電話がなったら……


確実にバレるっ!!


僕ができる事はなんだ?


考えろ考えろ……


今持っているものはプールに入るのに必要な海パン。あと、財布(中身はほぼなし)と携帯電話だ。


携帯電話?ってあ、そうだ。その手があった。


メールだ。


メールを送るのは音は出ない。


誰か内通者というかわかってくれそうなやつは………


れんしかいねえな………


件名:緊急


もう、市民プール前にはついてるんだが、訳あって隠れてる。少しでいい。その近くの木の物陰から目を逸らさせてくれないか?


注意:返信はするな。


ーーーーーーENDーーーーーー


ふぅ…………


あとでなんてあいつにいびられるのかはまだ、わからないが、かなりのものだろう………


くっ!!!


だが、このくらい…………


好きな人にゴタゴタでバレるよりずっといいっ!!


ブーブーブー。


ブザーがこっちにまで聞こえてきた。


「あ、メールだ」


「うん?誰から?」


あ、やばい。これは想定外……


この状況で、僕のメールってなったら、みんなで見るかもしれねえ……


「あ、士郎からだ。」


気づくのが遅かったな………


「ん?士郎はなんだって?」


予想通りみんなで見ているようだ。


はあ……………


もうダメだ………


どうしたって逃げれねえ………


今度こそ万策尽きた…………


クッソっ!!!


ん?緊急?どうしたんだ?


「みんな。待ってくれ。とりあえず俺が見る」


と、れんがこの心の声が聞こえたのかそう言った。


「えーなんで?」


「いやー思春期の男の話は女の子には、ハードルが高いからね」


と、軽くボケをかますと、本文を開いた。


そして、さっき僕が送った文をやつが読むと、ニヤリと笑い、こう言い放った。


「この代償は高くつくぜっ!!!」


……………………


「どうしたの?中二病また発症したの?」


と、言われ、少し押されたが、れんは僕の期待に応えた。


「う、うるせえな………と、とりあえず、みんな。士郎はいろいろあって遅刻してくるらしいから、先にプールに入っててだそうだ」


「そうなんだー」


と、白崎さん。


ふぅ………よかった………


嫌われなかった。


そして、僕はみんながプールに入っている様を木の物陰からひっそり、ストーカーみたいに見ていた。



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