第8話

8話


「かっ!」

「か?」

「いや、なんでもないです」

僕は、白崎さんの無垢な、まだ何も知らない子供のような目に、何も言えなかった。

「そうですか」

はぁ。なんか、無駄に疲れる。なんだか、胸焼けするというか、もやもやするというか。そんな感じだ。

「それいらないんですか?じゃ、あとももらっちゃいますねっ!!」


と、言うと僕の前にあったやみつきスパゲッティの皿をとり、豪快に頬張り飲み物かのように飲み込んだ。


あまりに一瞬のことで声を出す暇もなく、僕のやみつきスパゲッティは

白崎さんの口の中に吸い込まれたのである。

ご飯のこととなるとかなり貪欲な白崎さんはかなり意外だった。

食べるからよく育つのか…

白崎さんをじっと見た後に井上さんをみやる。

かなしいな…

「なによ!その哀れむような目はっ!!悪かったわねっ!小さくて」

「いや、なにもいってないんですが……」

「う、う、う、うるさいっ!!」

拳が飛んでくる感じがした。

井上さんの拳が僕の顔の真正面に飛んでくる。そんな予感だ。

このままだと当たるっ!

僕は完全に予測し右に軽く避けた。

「は、外した?」

「ふっふーんっ!もう、全てわかるぞっ!!」

なんて、ドヤっと決めていたら…

なんと、もう一発飛んできた。

今度は僕の頬にクリーンヒットっ!

さっきのはまぐれか…………



なんて事があったが、とりあえず昼ごはんの終焉を、僕以外は無事。迎えることができた。

多分だが今日、僕は新しいあざが、すくなくとも、3個はできただろう。

「「「ごちそうさまでした。」」」


と、言うとなぜか白崎さんと井上さんがなにかをこそこそと相談し始めた。

「いい?…………面白くないじゃない?で?…………ってするのよ」

「えーでもそれじゃ、二宮くんが……………ってなっちゃいますよ?」

嫌な予感………

「いいのよ」

よくはわからないが、なにか不吉なことを企んでいるってことはわかる。


僕は恐る恐るなんの話かを聞いた。

「なんだ?」

「ねえ、二宮?このまま普通に料金を払うのってなんかいやじゃない?」

タイミング的にはそのような話であろうとは思っていたがやっぱりか………

「そ、それが世界のルールなら僕は従います。」

「なら、ゲームでもして誰かが全額払うってのはどう?」

「ま、まさか!?」

「そう!そのまさかよっ!」

そういうとどこからか花札を取り出し、不吉な笑みを浮かべている。

その花札はかなり年季の入った花札でかなり古ぼけていた。

「負けた人おごりね?」

井上さんのその表情は僕の妹(悪)を連想させるような顔つきだった。

背中からピキーンっと、金縛りにあった感じで寒気がして、なぜか体が勝手に動き、頷いた。

「そうこなくっちゃっ!!」

っと、言い放つと、花札をシャッフルし始めた。

「でも、3人で花札って出来るのか?」

「出来るよ」

「どうやって?」

「ルールはまあ、簡単かな?役の五光に使われるあのカードが20点、生き物と青赤たんに使われるカードが10点通常のたんが5点残りは1点よいわゆるカスね」


「………いいわね?」

「うん」

あの二人はお互い顔を見合わせてアイコンタクトを行っている。

「カードは誰が切るんだ?」

「そりゃ全員でしょ?」

「わかった」

そういうことで、みんなでカードを切り、順番にカードを配り始めた。

配り方がなんだかぐちゃぐちゃであったがぼくは別に気づかないふりをして、自分の手札をみた。

うっ…………わ

手がいわゆるカスだらけで、そのカスの中でも使えないやつらばかりだった。

二人は邪悪な笑みを浮かべながら僕を見ている。

「誰からだ?」

「それは、じゃんけんかな?」

「「それじゃ、じゃんけーんぽん」」

僕の一人勝ちだった。

だが、やつらはまだ不吉な笑みを浮かべ僕を見ている。

は20点カードが3枚もう、場に出ていた。

くそっ!このカードじゃ取れねえっ!!

僕は、10点カードとカスを取り、一枚めくった。

めくったはいいが、取れねえ……

しぶしぶとカードを置く。

白崎、井上さんは20点カードを取り、めくったカードでまた20点カードを取る……

二人はまだ1ターンめだというのに40点以上取っている。

僕はまだ、10点ちょっとだ……

そして、二ターン目、僕は取るカードが無く、カードを置く、そして、めくった。

頼むっ!!こいっ!!

そこに描かれていたのは


………………


よっしゃっ!!!

僕は20点カードを取る。

白崎井上この二人は、このターンで10点を取った。

僕は30点、白崎井上は50点

くそっ!どうする?考えるんだ考えろ……

普通に僕はカードを取り、めくった。

ざわざわ…ざわざわ………

くっ……なにもこない……

そのままその点差は縮まることなく終わってしまった。



「じゃ、払ってねっ!!」

「あ、あの……私はダメだって言ったんですが……ご、ごめんなさい」

「いや、いいんですよ僕が出すつもりでいましたから……」

「あ、ありがとうございますっ!」

インスタントガールフレンドが言うにはこれも男らしさってやつなのかな?……

なんて考えながら、みんなと一緒に、レジに向かった。

レジにはあの店員がいた。

「ちょっと、あの店員さ、私苦手だから先に出ていい?」

と、小声で言ってきた。

「はいっ、じゃ、外で」


僕は無言で伝票を置いて、会計を待った。

「2145円」

と、タメ口で言ってきた。

敬語使えよっとは思ったがさっきの店員だ。なら、常識なんて通じる訳がない。

僕は無言で憎たらしく、みんなのお金を払った。


まあ、これでやつはなにもしないだろう。

「また…………こいよ?」

すごいカッコつけながら、どこから持ってきたかわからないサングラスを持って言ってきた。


………………は?


友達でも親戚でもねえのに、なんなんだよっ!!!


「はいっ!またー」

白崎さんは元気にいうとその店員と友情の証だ。みたいな感じでハイタッチをした。

い、一体どんな関係なんだ?


僕はさっさとこの店員から離れたくて、会計後すぐ、店から出た。

そのすぐ後、白崎さんも出てきた。

「ねえ、白崎さんあれは知り合いですか?」

「いえ、違いますよ?あの人は初対面です」

「そうですか」

隠し事をしているとは思えない。初対面なんだろう…

白崎さん。この人は謎だらけだ。



「なにしてたの?」

先に外で待っていた井上さんが、こっちにきて話しかけてきた。

「会計ですよ」

「そうだよね~負けたもんね~」

と、笑いながら言う……

やっぱり、ひどい先輩なのかもしれない……

「ほら、さっさと、映画館行くわよっ!」

「はい」


しかりんこと白崎鹿さんは、すぐ近くのよくわからないお店で何かを見ていた。

ま、まさか……

「でも、この付箋……かわいい…」

やはりそうか……

「かわいいですよねっ!!」

ん?どこか懐かしいような声……

「わかりますか!?」

「はいっ!このしろくま…かわいい…」

「ですよねっ!」

なんかかなり盛り上がっている。

「もう映画始まっちゃうから早くいこうよー」

「あと五分……」

全く、なんなんだか……



「あれ?二宮?」

あの懐かしい声…やっぱりか…

「ほら!そうだ!二宮だ!私の事覚えてる?」

「覚えてない訳ないよ…あの、事件とかな」

「もう、ひどいよっ!」

顔をリンゴみたいにして恥ずかしがっていた。

「ねえ、知り合いなの?」

「え、はい」

そう、こいつは僕の知り合いの『一条 火憐』【いちじょう かれん】綺麗な黒髪を一つにまとめ、なにに対しても屈しないあの真っ直ぐな目。全く昔と変わってない。さすが僕の好きだった人だけはある少女だ。

「えっと、簡単に説明すると幼稚園から中学まで同じで、いわゆる幼馴染みってやつです。」

「そうなんだー」

そんな話をしていると何かが走ってこっちに声をあげ、向かってきていた。


「かれーん!ジュース買ってきたよぉぉぉぉ!!」

と、今度は聞きたくもない声が聞こえた。

「あれ?士郎じゃん」

「あ、ああ…」

「はいっ!火憐、ジュースっ!」

「ありがとっ!れん」

リア充を見せ付けやがって……

いっぺん死んでこいやっ!!



こいつらがこうなっていることを僕は昔から知っていた。

あれは忘れない、ある夏の出来事。

僕の家に柴崎を呼んだ。うるさく蝉が鳴き、風鈴の音が僕の家に響いてまさに夏っていう感じであるそんな中。僕は柴崎にある相談をしていた。


「なあ、士郎。一体なんの相談なんだ?」

「あ、あのな、俺さ……」

「なんだよ、気持ち悪い顔して」

「うるせえよ、お前が思っているより俺はまだ大丈夫な方だ。」

「そうかそうか。で、なんだ?」

笑いながらやつはそう言った。

「あ、ああ。俺さ火憐の事が………好きなんだよね」

「マジで?」

「う、うん」

「そ、そうか…じゃ、手伝ってやるよ」

「おお!マジか?ありがとうよ!お前は最高の親友だぜっ!!」

「任せてくれ」

「よっしゃ決めた!俺告るっ!」

「おう、フォローするよ」

そして時は流れ…

告白当日、学校に行き、放課後。

僕は柴崎に言われた場所に行き、可憐を待った。

「呼んできたぜ。士郎。あとは頑張れよ」

「おう」

それから、五分後くらいに火憐が来た。

「どうしたの?士郎?なんか話があるんでしょ?」

いざ告白となると緊張して、なにもいえなくなりそうになる……

だが、僕はそんな弱い男じゃないっ!!

「あの、ずっと前から好きでしたっ!付き合って下さいっ!!」

い、言えた?声がガタガタになっていたような気がするがそんなんはもうどうでもいいっ!!

返事はどうだろう?僕は顏を上げ火憐をみた。火憐は顏を真っ赤にしていた。

「あ、あのね、すごい……嬉しいんだけど……さっき、告白されて付き合っちゃったんだ……ごめん……で、でも、友達としては、またよろしくねっ!!」

うん?さっき告白されて?………まさか!?

「なあ、それってれんか?」

あいつ………

「うん……」

「わかった。なんかごめんっ!用思い出したからまた明日ねっ!」

ズタズタにしてやる…

「わかったまたねっ!」

火憐とはそれきりだった。

れんは昇降口にいた。帰ろうとしているのだ……

「れんっ!!」

やつは目を逸らし

「なんだよ」

と、言った。

「なにが手伝うだよっ!ふざけんなよっ!!」

「そ、それは…ごめん…な?」

「許せると思ってんのかよっ!こっちは本気で…本気で…本気で…」

言葉が出てこなかった…

そして、なぜだかわからないがそこからは記憶がない…

気がついたら僕はれんを殴っていた……好きだった女の子を僕はこいつに取られたのだ……


なんて、事もあり僕はれんは嫌いだし、火憐は気まずいのだ…

ひどい過去をを思い出していたら、やつがそんな事は忘れてしまっているかのように、僕に笑いながら話しかけてくる。


こうして僕の初恋っていうのは幕を閉じた。あれから2年たったんだが、まだ、縁が切れてないみたいだ。


「で、どうして士郎が居るんだ?」

「遊びに来てるだけだが?」

やつは白崎さんと井上さんを見て

「お?この美人お二人さんは?」

二人は顔が赤くなっていた。

「友達……かな?」

「そうかそうか……ついにお前にも春が来たんだな」

なぜかやつは笑いながら言った。

「ねえ、映画始まっちゃうよ?」

「そうですねっ!じゃ、行きましょうか白崎さん」

「ふふふ…かわいい…」

だめだ…どこかに逝ってらっしゃる……

「じゃ、みなさんまたねー」

「ああ、またな」

と、言うとさっさと火憐と柴崎はどこかに行った。

ふう……あいつらはどっかに行ったけど白崎さんは……

「ほら、しかりん?行くわよっ!」

「あと2分…」

やっぱりそのままだよねー

「ねえ、二宮ちょっと手伝って」

「はい」

そんな白崎さんを僕達は豪快に引っ張って映画館に向かった。

映画館に到着したが、白崎さんがムスーっとしている。

井上さんはるんるんしながら先に行ってしまった。

「ごめん。」

全く反応がない…

「後で行こうね?」

「え?いいの!?」

すごい勢いで立ち、僕と白崎さんとの距離が拳一個分くらいになっていた。

「……え?ちょっ!はい」

な、なんだなんだ?

ドキドキしてしまっている。勘違いされるぞ…

と、心の中で警告した。

「やったぁぁぁぁぁ!!」

「わかったから静かに…ね?」

「あ、はい」

「じゃ、映画行きますか」

「はい」

僕等は、券を渡した。

「突き当たりを右に行った3番になります」

「は、はい…」

ふぁぁ…緊張した…

店員怖い…

なんて事があったが、僕たちは劇場に足を踏み入れた。

「こっちこっちー」

小さく、井上さんの声が聞こえた。

上の方を見上げると、井上さんが大きく手を振っていた。

そして、僕達は静かに周りの人を気遣いながら井上さんがいるとこまで行った。

「お待たせ」

「そんなに待ってない」

ストレート…

そんな会話をしていると、映画が始まった。

世界平和と愛と理想のお話だった。

僕も所々納得できる所があり、まあ、大半は恋愛についてだが…

この主人公、なんだか俺みたいだな…可哀想に……辛いよな……

僕は一人泣けるシーンでも無いのに、まだ、起承転結の起から承に移る所くらいの所なのにもう泣いていた。

「大丈夫?」

白崎さんがそう言いながら、ティッシュを一枚くれた。

「あ、ありがどう…」

な、なんて優しい女の子なんだろうか…ああ!素晴らしい…

なんてことがあって、そんなにこの映画については覚えて無い。覚えているのは白崎さんが優しいってことくらいであった。

「面白かったね」

「だねっ!!」

「ねえ、二宮、面白かったの?」

「はいっ!」

「ならいいのよっ!」

と、自分が作った訳でもない作品を自分のものかのように自慢してきた。

「あの、さっきの所行ってしろくまさんみてきていいです?」

「じゃ、みんなでいきましょうか」

僕達は参勤交代でも始まったのかってくらい広がって歩いた。

「このモフモフ感……最高っ!!」

目的地に着くと同時にまるでゲームコーナーにいる子供みたいに付箋をじっと見始めた。

「これじゃ、子供ね」

「ですね」



「あの、これ買ってきますっ!!!!」

「はい」

ずっと悩んでいた付箋をどうやら買いに行くようだ。

そして、レジに向かった。

「いらっしゃいませ」

ごく普通の女性の店員だった。

「240円になりますっ!」

白崎さんが可愛らしいピンク色の財布を取り出し、お金を払った。

「240円丁度ですね!ありがとうございましたー」

今回の店員は何もなく、何か物足りないような気もしたが、そこを後にした。


ルンルンとスキップしながら鼻歌を歌っている。

言わなくてもわかるくらいの上機嫌な白崎さんは置いといて

ふと、時計を見てみた。5時半という帰るにしては早いそんな時間だった。

「今日はこの後どうするんですか?」

「決まってるじゃないっ!」

「え?」

「そう、それは……」

「なんですか?」

「家よっ!!」

井上さんは刑事がよく言う『犯人はお前だ』という感じで堂々とした態度で僕に言ってきた。


「え?帰るってことですか?」

「だって、やることないじゃない」

「まあ、そうですが……」

「なら、帰るしかないじゃない」

白崎さんはこんな話をしている間でもまだ、ルンルンと鼻歌を歌っていた。

「じゃ、帰りますか」

「はい。」

名残惜しかったが、僕達は帰ることにした。

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