第7話

7話


写真を見てみると、目がぱっちりと開いていて、元々変だった目元がもっと変になっていた。

ほ、本当に僕なのか?プリクラ恐るべし………


「ねえ、し、しかさん?」


「はい?どうしました?渚先輩っ!」


あ!そ、そうだった!

井上渚は先輩であることをすっかり忘れていた…


「見てよこれ!目が細いあの二宮士郎が目ぱっちりになってるよ…」


大きな二人の笑い声が僕の心を傷付けていったことを僕の前で笑っている二人は知らない。


「ねえ、あのさ、鹿って呼びづらいからさ、あの…あだ名とかないの?」


「えっと…よくみんなから『しかりん』って呼ばれますよっ!」


うっ!!か、かわいいあだ名……


俺のあだ名なんて目が細いから、良くても「狐」で、やつ(柴崎 れん)だと僕の事を「おい!前立腺っ!」だったり、「きゅうり」って言われたり…とにかくは奴の気分であだ名が増え続け、上げたらきりがない…


俺もしかりんみたいなかわいいあだ名だったら、よかったのに…


「じゃ、しかりんって呼んでもいいかな?」


「はいっ!」


「じ、じゃ………し、しかりん?」


「はいっ!渚先輩っ!」


プリクラ一枚とっただけで、あの二人は仲が良くなった。


「あの、映画っていつからやるんでしたっけ?」

「確か2時15分からだけど…」

そして、僕は時計を見やる。

いま、時間は1時前。

「凄い時間あるんですけど………」

「ここってショッピングモールでしょ?大丈夫よ?全く子供なのに心配性ね」

お姉ちゃんは僕には居ないので、わからないが、お姉ちゃんがいればこんな感じだろう。

「先輩だってことも、危ういのに…」

「な、なんだって?」

眉間にしわを寄せて怒っていた。

「ま、まさか!?声に出してた?」

「それも、びっくりするくらいはっきりとねっ!!!!」

井上先輩のストレートパンチが僕の顔に直撃した。

気を抜いていたら、絶対に後ろの椅子に頭を打っていただろう………

「うっ!!」

その背格好からではあり得ない威力のストレートパンチであった。

「も、もうっ!」

もう一発きそうな感じだった。

これ以上もらうとKOされてしまうぞ?まずい…

と、とにかく謝るんだ…

「ご、ごめんなさいっ!」

彼女の拳が僕の目の前で止まっていた。

「う、うわぁっ!!!」

僕は後ろに一歩下がり、身を引いた。

「仕方ない。上級生として許してあげるわっ!」

こんな時、どんな顔をして、話をすればいいか、わからない。というか、こんなセリフ吐かれても困るだけなんだが……

「な、なによ」

「いや、別に…」

僕は下級生として、上級生の先輩の肩を持って、なにも言わず、そっとしておいた。

「あの、わたしちょっと、下の階の雑貨屋に行きたいんですが…」

と、白崎さん。

「いいわよ」

それを笑顔で肯定する井上先輩。ほう。絵になるな。


そして、リア充共が歩き回っているショッピングモールへと、足を踏み入れていく。

「な、なんかすごいねっ!二人組がいっぱいいて…」

「そうですねっ!」

「なんでこんなに…」

みんな同じ感じであった。

リア充共を睨みつけながら、僕は雑貨屋に向かった。でも、なぜか、そいつらもも睨みつけてくる。なんでだろう?はぁ……まじでリア充爆発すればいいのに。

「雑貨屋に着きましたけど、なにを買うんです?」

「それはね………まだ内緒っ!」

と、白崎さんは、手で顔を覆い、恥ずかしそうにしている。

テニスコート4面分くらいはあるだろう結構大きな雑貨屋さんだった。

僕達はそのくらいの所を歩き回っていた。

「ねえ、白崎さん。目的のものは?」

「えっとね………あ、ここ」

と、言うと、走ってそこへ行ってしまった。

上の3D文字にはには学習道具、ノート、ファイルなどと記載されていた。

勉強道具?あ、そういえば、勉強を熱心にしていたな。と、過去の記憶が思い出させる。

いやー学生として素晴らしいっ!

あんなキャッキャしてる奴らとは全くもって別物だ。


白崎さんはお目当てのものがあったのか、目をキラキラさせて何かを見ていた。

「白崎さんなにみてるんですか?」

「付箋ですっ!」

付箋って、なんか目印になるあれか?辞書とかにくっつけるやつか?

「あ、よければ見てみてくださいっ!」

勧められるがまま、僕は勧めてきた付箋を見ていた。

「あ、あ……はい」

「あ、みてくださいっ!これっ!」

と、言って手に持ったものは、なんとしろくまの形をした付箋だった。

「かわいいですね」

「かわいいですよねっ!特にこのモフモフ感は最高ですっ!」

見た所普通の付箋にみえるのだが、モフモフ?

「モフモフ?ですか?」

「はいっ!最近モフモフな付箋やサラサラな付箋とかいっぱい出てるんですよっ!」

サラサラの付箋は普通にあると思うんだが…

「そ、そうなんですか」

「このパンダのもかわいいし、白猫のもかわいいし迷っちゃうなー」

「あの、二宮さんはなにがいいと思いますか?」

「え、えっと、僕個人の意見としてはパンダのがいいと思いますよっ!」

「そうですか?」

「はいっ!」

「じゃ、パンダにしちゃおっとっ!」

っと、言うとそれを持ち、レジへ走って行ってしまった。

あれ?井上先輩の姿がない!!

どこいったんだ?

とりあえず探そう。

前みたいに不良に絡まれてたら大変だしね。

とりあえず、二次災害を防ぐため、白崎さんと合流しよう

そして、レジへ向かった。


「白崎さーん」

「二宮さんのおかげでいい買い物が出来ましたっ!ありがとうございますっ!」

「いえいえ……じゃなくて大変なんですよ」

「はい?」

「あの、渚さんが居ないんですっ!」

「えー?早く探しましょう」

「はいっ!雑貨屋の中までは居たはずですから、出たとは考えにくいので、雑貨屋の中を探しましょうか」

「はい!」

「じゃ、僕はこっちを探します」

僕は主に家電製品がいっぱいあるところら辺を探す事になった。

「私はあっちを」

付箋があったところの周辺を白崎さんがやってくれるらしい。

「レジで集合でお願いします」

「はい」

僕達はレジ付近で一旦別れて井上先輩を探し始めた。


僕は冷蔵庫、洗濯機などの中を一個ずつみてみたが、井上先輩はいない。

とりあえず冷静になれ…

でも、見つけれなかったし、とりあえずレジに戻ろう。

するともうそこには、白崎さんはいた。

また、いいのがあったんだろうか?付箋らしきものを買っている。

「白崎さん居ました?」

「いい付箋はありましたけど、井上先輩はいませんでしたよ」

全然心配してねえっ!!

「そ、そうですか」

そんなときに、ピンポンパンポーン。と、なにかの連絡がはいった。

まさか!?

「井上渚さんの保護者さま。至急、一階の迷子センターの方にお越しください」

あ………やっぱり………

「おお!二宮さんっ!見つかりましたよっ!」

「そうですね……」

「行きましょうっ!」

と、言うと僕の手をとり、走って一階の迷子センターにむかった。

「あ、あの、井上渚さんの友達なんですが…」

「と、友達!?い、いえ、こちらです」

どんでん返しされたような表情をしていた。

そして、僕達は井上先輩いるとこまで案内された。

扉の前で、井上先輩の怒鳴り声が鳴り響く…

「だから、私は子供じゃないって言ってるでしょ?」

「はいはい、お兄ちゃんとママが来るまで待ちましょうね~」

誰かと話しているのだろうか?二人の声が聞こえる。

僕と白崎さんは、顔を見合わせた。

「あの、白崎さん。これは入らない方がいいですかね?」

「そ、そうしましょうか」

そのままの方が面白いっ!

ちょっと、聞き耳を立てて、中の話を聞く。

「じゃ、絵本読んであげるから、ね?そんなに暴れないの」

「だーかーら!子供じゃないってばっ!」

「むかーしむかし。ある所に……」

僕らは顔を見合わせ、吹いてしまった。

「「ぷっ!はっはっはっ!!!」」

あ、やばい。聞こえちゃう。


ガラガラガラっ!!!

勢いよく扉が開き、井上先輩が立っていた。

「えっと、その……迎えに来ましたよ」


あ、やばい。ちょっと思い出し笑いが……


「にのみやぁぁぁぁぁ!!!!」

右ストレートが僕の頬の横を通り抜けるっ!!

すると、後ろの壁に穴が………

「あ、危ねえ……」

「次は当てるっ!!!」

「ギャァァァァ!!!」



「大丈夫?二宮くん!二宮くん!」

白崎さんの声が遠く聞こえる。

完全に入ってしまったみたいだ。

か、身体が動かねえ……

細い目だったが、目を見開き、白崎さんの心配している表情が僕の上にあった。

「だ、大丈夫だ…」

「ふ、ふんっ!この程度で倒れるなんてまだまだね」

「え、えぇ?」

「元はと言えば、二宮が悪いんでしょ?」

それを言われるとなにもいえない…

「なによ?」

「面白かったんだもんっ!」

こうなったらもうやけくそだっ!!

「あ、あんたねえ!!!」


またまた、右ストレートを放とうとしていた。

「ご、ごめんなさいっ!!!」

「ふ、ふんっ!わかればいいのよ」


なんて考えていたら、突然、大きくグゥゥゥ!!っという音が鳴った。


「え?」

「あ、あの…お腹へっちゃいまし……た」

顔を赤くして、視線が泳いでいた。

突然のことであったが、前にこれっぽいことがあり、フォローしないといけないことはわかった。

「僕もお腹へったし、どっかで食べましょうか」

これでフォローできるのか?と、視線をあわせれなかったが、白崎さんの綺麗な透き通る声が聞こえた。

「うんっ!」

ただ、その一言であったが、僕は嬉しかった。


「じゃ、どこで食べるの?」

マップを見ながら僕達は探し始めた。

「一階に、レストラン街ってのがあるから、行ってみますか?」

「はいっ!」

そして、レストラン街に着いた。

「うわぁ!!いろいろあるー」

幸せそうな顔で微笑んでいた。

そんな顔をみていたら、僕までなぜか幸せになった。

「こっちにはハンバーグ…あっちにはオムライス…あそこにはスパゲッティ…」

なんだか子供ぽいものばっかりだなぁ…

意外な一面も知れたし、よかった。

「どれにします?」

「迷っちゃうなぁ……」

ヨダレを垂らしながらトロールみたいにレストラン街結構な時間歩き回っていた。

「ねえ、これじゃあ一向に決まらないわよ?」

「じゃ、一人一個ずつ食べたいの決めてジャンケンってのはどうですか?」

「あ、はいっ!」

「じゃ、私はファミレスでいいわよ」

さすが、先輩っ!さっきまで子供あつかいされていたのだが、白崎さんに合わせてくれている。

憧れるぜっ!

「二宮はどうすんのよ?」

「僕は、どこでも……」

「じゃ、私としかりんで決めちゃうけど問題ないわね?」

「はいっ!」

こんな時は頼れるいい先輩だ。


あ、そういえばゲームセンターからインスタントガールフレンドの気配がない……

どこいっちゃったんだろう…

なんて、考えていたら、話し合いが終わっていた。

どうやら白崎さんが勝ったようだ。

「で、白崎さんどこに?」

「ふっふーんっ!それはねっ!ここですっ!」

と、言って指差したのは、ファミレスだった。

「同じだったのかよっ!」

と、思わずツッコむ僕。

「そうみたいね…」

「お二人さん。どうしたんですか?」

「さっきね、ジャンケンした意味なかったな。って………」

「あ、そうだったんですか?」

と、いい僕に訪ねてきた。さっきまで先輩が受け答えしていたのに。

「は、はい」

「そうだったんですかー」

そして、僕達はファミレスへ足を運んだ。


「いらっしゃいませ!何名さまですか?」

いつも思うが、そんなの見ればわかるような気がする。

「三人です」

「禁煙ですか?喫煙ですか?」

ふっ!学生にタバコを吸えと?全く馬鹿な店員だ。

「禁煙で」

不快になりつつ僕は、席に案内された。

「こちらです」

「はい」

「ご注文はお決まりですな?」



……………は?

なんだこの店員!頭おかしいんじゃないか?席についてすぐにご注文はお決まりですな?……は?


「え、えっと、このハンバーグ一つと、ソースはデミグラスソースで、あとカルボナーラ一」

白崎さんはなぜか淡々と注文をメニューも見ずに言い放った。

「私は、えっとチーズケーキで」

……………は?

やめてくれ…

「そちらのお客様は?」

店員が圧力をかけてくる。

助けて白崎さんっ!

っと、視線を送るがニコニコとしているだけだ。いつもはその笑顔に救われているが、今は違うんだっ!

「え、えっと………」

周りを見渡してみると、やみつきスパゲッティっていうやつがあった。

これだっ!!!

「あの、やみつきスパゲッティ一つと……」

って…「と」ってつけちまった。

く、くそっ!

「ど、ドリンクバーで」

「はい!じゃ、ご注文を確認させていただきます。」

と、言うとちゃちゃっと注文の確認が行われた。

「「「はい」」」

店員がなぜか僕に向かって舌打ちをして厨房へ戻った。

全くなんなんだよあの店員は使えねえし舌打ちを残してどっかいくし全くなんなんだよっ!!!

白崎さんはずっとニコニコしている。ああ、なんでだろう。元気になる。

それからしばらくして料理がきた。

「うっしゃぁぁぁ!きたぁぁ!!」

異常なほどのハイテンションな白崎さんの叫び声が店に轟いた。

「白崎さん。静かに」

「あ…………ご、ごめんなさいっ!」

「全く、子供なんだから」

お母さんかっ!!!!と突っ込みたいところだが、ここは堪える。

「いただきます」

「いっただっきまーすっ!!」

そして、ご飯を食べ始める。

「ハンバーグおいしいっ!」

解説も全くなかったが、おいしいんであろうハンバーグを美味しそうにたべていた。

そして、なぜか僕のほうライオンのような鋭い目つきで見てくる。口になんかついてんのかな?と思い口を紙で口を拭いた。

だが!それでも白崎さんはこっちをずーっと見てきている。

おいおい!普通の男だったら勘違いされるぞ?まあ、僕も普通の男だから、勘違いしちゃいますけどね。


すると、突然白崎さんが口を開いた。


「ねーねーっ!二宮くん。そのやみつきスパゲッティってやつ、一口ちょうだい?さっきから、美味しそうだったんだー」

どうやらこのやみつきスパゲッティを狙っていたようだ。

で、でも待てよ?これって間接キスってやつになるんじゃないか?

お、お、おいおい!

「で、でも…間接…………」

ま、まずい。恥ずかしくて、口にできない………

「それじゃ、いっただっきまーすっ!」

こんな食いしん坊だなんて、聞いていないぞ?

白崎さんは置いてあった皿を手に取ると、僕のやみつきスパゲッティを奪っていった。

そのスパゲッティを白崎さんは一瞬で口に頬張り、ハムスターのように頬を膨らまし、食べた。

間接キスになるだなんて白崎さんは考えていないのだろう。すごい幸せそうな顔だ。

「うーん!!美味しいっ!」

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