6杯目

何なのだ。あいつは何なのだ。最近やたらと現れてはあの人と親しげに話しているあいつは。良々話を聞くと探偵などと吐かしやがる。全くふざけた奴もいたものだ。このご時世に探偵とは恐れ入る。旧時代の遺物でもあるまいし。とにかく何者もあの人と自分の間には入れないのだ。いや、入る資格がないのだ。

 あれはあの人と自分の約束だ。違うな、契約、契りだ。誰にも犯すことの出来ない二人だけの密約。2人にしか理解できない時間。2人だから共有し得た時間それをあいつは平然と踏みにじろうとする。土足で断りもなく。それだけでも万死に値するのに、見てみろ。あの人の酷く怯えた顔を。きっと悍ましい言葉で脅されているに違いない。

 決まりだ。あいつも殺すしかない。この場合は少々血生臭くなるかもしれないがしょうがない。あの人もきっとそうなる事を望んでいるはずだ。大丈夫あの人はわかってくれるはず。だって自分は誰よりもあの人をわかっているのだから。

 ニノ蔵の時と一緒だ。静かに後ろから近寄り、一気にロープで首を締め上げる。気付く間もなく一気にだ。何が起こったか彼奴はわからず死んで行くだろうが、それは自分達の仲を引き裂こうとした罰だ。悔いる間もなく死んでいけ。自分はただ冷静に行うだけだ。冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に…


 その時あの人が泣いているのが目に入った。自分の理性は吹き飛んだ。獣の様に叫びながら部屋に飛び込んでいった。

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