4杯目

 私は慎重派だ。念には念を入れて行動するし計画は1から10まで組まないと気が済まない。その計画が狂う事など滅多にない。その慎重さが今の私を支えていると言ってもいいくらいだろう。そんな私がこんな事をするとは。

 あの人に会うまでの私はなんの面白みもない人間だった。真面目だけが取り柄の無味無臭の薬にも毒にもならない人間だった。見える風景は色など何もなく、周りから見える私もまた色などなかったのだろう。

 そんな私の前にあの人は突然現れた。あの人は私を初めて同等の人として付き合ってくれた。初めての経験だった。こんなにも心地良く、安心できる事があるのかと思った。全てが変わり、そして私の世界は彩りに包まれた。木々は色付き、花は香り、街は活気に溢れ出した。あの人が私の全てになるのに時間はかからなかった。

 あの人の為に生き、あの人の為に死のう。私はそう誓った。


 だから今更私の行為に悔いる気持ちは更々ない。それ程までに私の気持ちは崇高なのだ。それはまるで神に使える殉教者の如く。それはまるで仏に使える修験者の如く。

 何も見返りを求めていないと言えば嘘になる。しかし、そこは重要ではない。あの人はに頼りにされた事実が重要なのだ。私にとってはそれは何事にも代えられない喜びであり、この上ない快楽なのだ。

 あの人は純粋であり

 あの人は純潔であり

 あの人は完璧なのだ


 そうだ。あの人の希望に添えるよう私は立ち止まる訳にはいかない。全てはあの人の平穏の為に。

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