2杯目

 さてどうしたものか。まさかこんな展開になるとは。計画は上手く行ったが、かといってこのまま成り行きに任せるのも危険か。やはり少し手を加える必要があるだろう。1つの綻びが取り返しのつかない事になる事だってありえるのだ。


 私を行動に走らせたのは怨恨や金銭目的などといった下賤な理由ではない。かといって社会的倫理観に基づいた薄っぺらい正義感でもない。言うなればこれは使命感だろう。

 彼女はずっと助けを求めていた。声にならない声を上げ続けていた。しかし、悲しいかな誰もその声に気付きはしなかった。私だけだ。私だけがその声を聞き取れたのだ。

 だから私がやらなければならなかったのだ。私以外出来ないと言っても過言ではないか。


 気づいた時には彼女存在が私の生活の一部となっていた。いつ、何故かと聞かれてもわからない。ごく自然に、ごく当たり前にそうなっていた。私は誰よりも彼女を理解している。友達、家族、恋人いかなる人達よりも。私が1番理解している。

 彼女は優しい。優しい故に全部自分の中に溜め込んでしまう。良い事も悪い事も。そう全てを溜め込んでしまう。彼女いつもそれで悩んでいた。1人苦悩していたのだ。だから、誰かがそれを選別しなくてはならないのだ。それは貴方にはいらないものだよ。それは貴方には相応しくない物だよと。私がやならければ。彼女が壊れる前に。


 例えるなら纏わりつく蝿を追い払う様に

 例えるなら腕に取り付いた蚊を手で叩く様に

 例えるなら部屋に出てきたゴキブリを雑誌で叩き潰す様に


 つまりはそう云う事なのだ。ごく自然に、当たり前の行動のように、なんの感情もなく、流れ作業の様に。

 きっとそれが私の生まれてきた理由なんだろう。そして先もずっと変わらない。私の存在理由。

 いつでも見てるよ

 どこでも見てるよ

 どこまでも一緒だよ

 

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