◆15
騎士団長フィリグリー。
全く読めない表情の裏で何を考えている?
それに国王も...自分の娘を殺せ。と騎士団に命令をする等...あの紙切れに書かれている事が事実だとしても、捕らえて話を聞いてからでも遅くないのでは?抵抗する場合はその場で速やかに処刑...解らない。何をどう考えればこんな答えになるのか。自分の娘への愛情は無いのか?騎士団長も王の命令だからといって、はい解りました。と簡単に引き受けたのか?
エミちゃ...あの子は何をしているんだ...こんなトラブルに巻き込まれて、いや、巻き込まれに行った。が正解だろうか。
自分が今、命を狙われている立場になっている事など絶対予想もしていないハズだ。
「...。こんな所で悩んでても始まらない..」
行こう。とにかくエミちゃに会わなければ嘘も本当も解らない。ワタシはすぐに帰宅し、フォンにコードを繋いだ。アイテムボックスに入っている使えそうなアイテムをフォンへ、フォンのポーチから不必要なアイテムをボックスへ。朝入れたコーヒーはすっかり冷えきっていた。
長旅になるだろう。家の掃除をしてから出発しよう。
ヒガシンには団長から報告があるだろうから、そこは任せるとして...エミちゃにメッセージを送ろう。
本題は会ってからだ。
とにかく今すぐ会えないか?と伝えた。
すると、すぐに返信が届き眼を通す。
どうやら今は平原の村跡地に居るらしい。そこで待っていてもらい、ワタシは家を出た。
何が本当で何が嘘で...そんな事、聞くまでもない。
エミちゃが人を殺す手助けをするハズがない。それに姫もあり得ない。直接会った事も、見かけた事もないが、噂は何度か耳にした事がある。
いつか王位継承された時の為に、必死に知識を身に付け、人々の平和、世界の平和を強く願う人物だと。
そんな人が貴族を殺す等あり得ない。なにか...なにか裏があるハズだ。
オートパイロット状態で街を出てすぐ、クゥが本来の姿に戻る。
背中に乗りクゥに目的地を伝え、一気に地面を蹴る。
モンスターを発見しても無視し、ただ走る。
数十分で村跡地が見えてきた。
ここの村は...、とにかく入ろう。クゥは再び小型モードになり村へ。
確か...村の奥にある教会に居るとメッセージに書いてあったが。
教会と呼ぶには相応しくない程ボロボロになっている建物がそこにあった。
ゆっくり中へ入り、辺りを警戒しつつ進むと微かに声が聞こえる。少し速度を上げ進むと広い部屋に到着。そこで見たエミちゃの姿にワタシは眼を疑った。
帽子や剣、ブーツまでもが適当に投げ捨てられている。
本人は大の字でカーペットの上に倒れ、ワタシの姿を見てクチを開く。
「おおー!ワタポ!あのさ、何か食べ物ない?」
この子は...と、とにかく会えたので よし としよう。
ワタシは呆れを隠せず溜め息混じりに挨拶を返し、フォンのポーチからパンを1つ取り出しエミちゃへ渡した。
◆
パンを頬張り、ゆっくり噛む。
ワタシはビンに入ったミルクも無言で差し出し、エミちゃを見る。
一体何が...、なんでエミちゃと姫様が...。
エミちゃはミルクを一口飲み、ワタシへお礼を言いつつ尋ねてきた。
「ありがと、んで、急にどうしたの?」
今朝送ったメッセージについて、エミちゃから切り出してくれた。
ワタシは一度深呼吸し、真面目な表情で話を始めた。
「エミちゃ、単刀直入に言うけど...貴族を手にかけたの?セツカ様は?」
お願い。
お願いだから「なにそれ?そんなの知らない」と言って。
お願いだから、エミちゃは関係ないってワタシを納得させて。
そう願うも、エミちゃの返事はワタシを不安にさせた。
「手にかけてないよ、セツカ様は今はいない」
「...え?」
今の返事は無関係ではない。と言っている様なモノ。
ポルアー村を出た後、エミちゃは何をしていたの?
どうしてまだノムー大陸にいるの?
ウンディー大陸行きの船は昨日出港したハズなのに。
昨日...そう言えばセツカ様も昨日ノムーポートへ行ったとか...。
そう考えていると、エミちゃは帽子やブーツ、剣を装備しワタシへ一言。
「ごちち!ごめんワタポ、わたし行くね」
立ち上がり剣の位置を確認し、歩き出そうとした時、ワタシは「待って」 と呟き、すぐに立ち上がり言葉を繋げた。
「今のエミちゃとセツカ様は貴族殺しの疑い...いえ、殺しの罪がほぼ確定しているの。国王が直々に騎士団へ依頼してきた極秘任務なんだ。内容も言うね、エミちゃとセツカ様を発見次第確保、抵抗する場合はその場で処刑...」
ワタシの言葉を聞き、エミちゃは眉をキュッと寄せた。
鋭い瞳...余裕の無い色の瞳でワタシを睨む様に見て、呆れた色を含む溜め息を吐き出し、どこかへ急ごうと足を動かす。
余裕の無い瞳。これは何か、必ず何かある。ワタシはエミちゃへ言葉を投げかけた。
「本当にしてないんだよね?」
「うん」
即答し、頷くエミちゃ。
やっぱりセツカ様とエミちゃは何かに巻き込まれているのでは?なら、
「じゃあ一緒に言おう!他に犯人がいるって!」
「誰が信じるの?証拠は?」
「っ...」
証拠は...何1つない。
極秘任務を受けた騎士とは思えない発言をしてしまった。
でも、ワタシはエミちゃに、何も知らない何も関係ない存在なのに、ワタシはエミちゃに心を救われた。心を楽にしてくれた。
だから今度はワタシが少しでも助けに、力になりたい。
巨大虫モンスターと2度戦闘になっても、どこか楽しげな瞳をしていたエミちゃ。
ビネガロに殺されるのではないか?という状況でも、自信に満ち溢れていた表情を見せてくれたエミちゃ。
そんな彼女が今、余裕ない瞳で......あの眼は昔のワタシに似た、追い込まれ呆れ、何かを憎む瞳だ。
エミちゃはそんな鋭く濁る瞳を揺らし、進む。
「どこ行くの?」
無視できない。
ここで誰も彼女を止めなければ、きっと大変な事になる。ワタシは足止めするつもりで尋ねると、答えがすぐに響く。
「ポルアー村」
「何しに?」
今度はワタシがすぐに声を出す。ポルアー村へ向かう目的は...わからない。でも、ポルアー村へエミちゃを行かせちゃイケナイ気がする。
「...うるさいな、抵抗するなら処刑なんでしょ?早く任務に戻りなよ。わたしは黙って捕まる気はないよ」
数秒前とは違う、余裕ない声でエミちゃは言った。
鋭利な雰囲気を持つ声で、ワタシを挑発する様に。
「そう...」
これ以上質問しても、きっと答えてくれない。今の声色でワタシはそう判断し、ゆっくりと冷たい音を教会に響かせた。
教会があった村...この村をワタシは今、思い出した。
数年前、ネフィラと初めて会った村がここ。もう以前の姿を無くした廃村。
クゥへ下がる様に、手を出さない様に言い、ワタシは剣を強く握った。
一瞬、腕の感覚が消える様な、不思議な体験がワタシに起こるも、そんな事今どうでもいい。
出来る事ならエミちゃだけとは仲良くしたかった。
でも、やっぱり騎士と冒険者は仲良く笑っている訳にはいかない....のかな。
ワタシは最後の希望として、剣をエミちゃへ向け、言葉を待った。落ち着いて!や、喧嘩はよくない。と言いそうな彼女だったが、それは普段の話。今の彼女にそんな余裕は無かった。
「~~...っはぁー..」
エミちゃは気だるそうに深呼吸し、剣を抜いた。
背負っている鞘を投げ捨て、ワタシへ鋭い視線と剣先を向ける。
「...エミちゃじゃワタシに勝てないよ..」
諦めてほしい。
戦う事は、やめてほしい。
その願いは鋭利な視線に斬り捨てられ、教会内に散った。
もう戦うしかない。
エミちゃの瞳は、ワタシを殺す事を決めた、強く冷たい瞳。
なんでかな。
どうしてかな。
ワタシは誰かを好きって、大切って思っちゃイケナイのかな?
そう思った人はみんな、みんなワタシの前からいなくなっちゃう。
今、眼の前にいるエミちゃも、ワタシの心を完全に溶かしてくれた...エミリオじゃない。
強く冷たい視線がワタシの視線とぶつかり合い、同時に足を動かした。
わかったよ。
なら...ワタシがワタシの手で終わらせる。
エミちゃを.....エミリオを。
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