第5話

 作業は、昨日の続きである。内部を点検し、吉田さんの簡単な復習を受けた。

 配線の確認を再度してから結束し、外したときの逆の順序でパネルを取り付けた。本体は組み上がったわけである。今度は外部の機器接続である。吉田さんの指示で、先ずプリンターの接続である。

 先ず、透明なビニールの袋からプリンター本体を引き出した。中の固定材の発砲スチロールを外し、インクの壺をセットした。電源コードとプリンターケーブルを差し込み、さらにプリンターケーブルは、本体のプリンター端子に差し込んだ。同様に、キーボード、マウス、ジョイスティック、スピーカーをセットした。最後に液晶モニターの接続を行い終了した。


 吉田さんは、

 「これでハードウエアは終了です。これからが正念場です。各機器の初期化とソフトウエアーの搭載です。先ず、各機器の電源コードをそこのコンセントが幾つも付いているバーに差し込んで下さい。それから、そのコンセントバーのスイッチを入れて下さい」

 俺は云われた通りにした。それから各機器の電源スイッチを入れた。各機器が軽いうなりを出して電気が通じたことを示した。

 「各機器に火が入りました。今、BIOSが立ち上がっていますから、そこで、キーを押して各機器の設定を行います。DVDやハードディスクはマスターにセットして下さい。そうです。それで結構です。それでは箱を開けて下さい。その中から、マザーボードなどのドライバーが入った、CDを取り出して、そのCDを本体に差し込んで下さい。

画面に初期化の画面が出てきます。ハードディスクを初期化します。大分時間がかかりますから、ゆっくりやりましょう」

 

 ともかく吉田さんはすごい。全部その通りに動く。当たり前のことかもしれないが、俺にとっては驚きである。ハードディスがカシャカシャ軽い音を立てながら、初期化をしている。

かなりの時間をかけハードディスクの初期化が終了し、各種ドライバーを書き込み、再度本体の立ち上げが指示された。講義で教わったリブートである。

そしていよいよOSの導入である。DVD/ROMドライブにWindows10のCDから

インストール画面が出てきた。

 キー操作により、使用者名、シリアル番号などを書き込むとインストールが開始された。OSの全てをインストールするのに、又、随分と時間がかかった。俺達は、休憩も取らずに作業を進めた。OSのリブートを終えるとウインドウズの画面が出てきた。感動の一瞬である。ここで一息入れることとなった。


 リビングルームに戻って、吉田さんが、お菓子を添えて出してくれたお茶を飲んだ。俺は普段、甘い物は口にしないのだが、今日は口に入り美味しかった。俺は、うまくいきましたねと言うと、吉田さんは

 「こんなものでしょう」

と、簡単に流した。

 「でも後藤さん、リブートして画面が立ち上がったときは如何でした。どんな感じでしたか?」

と聞かれ、俺は、正直に、感動で舞い上がるような気持ちだったと言った。

 「そうでしょう。私だって一番最初はそうでした。嬉しかったのを今でも覚えておりますもの。こういう感動を忘れたくありませんわ。何か成し遂げなけれはならない場面での励みになりますもの」

 全く同感である。歳は俺より一回りも違うが、彼女の一言一言は俺にとって今では大事な物となっている。


 部屋に戻り、作業の続きである。今度は、各機器のドライバーの設定である。「ドライバー」を設定しないと各グラフィックドライバーや接続されたプリンターなどが動かない。画面から、「マイコンピュータ」のアイコンをマウスでダブルクリックするとホルダーが開きさらに「コントールパネル」のアイコンをたたくとまたホルダーが開いた。どうやら階層制御になっているようである。俺が、そういうと吉田さんは、

  「そうです。さすがですね。別名ツリー構造(木構造)と呼ばれ、木の幹から枝へ伝わっていくようなハイアラーキーになっています。講義でも簡単に説明しましたが、実際にインストールの時から操作すると実感として理解できますでしょう」

と言った。

 その通りである。次ぎに「ハードウエアの追加」のアイコンをたたくと、自動的に機器をチェックし始めた。「プラグ アンド プレイ」の開始である。次々に機器を認識し、そのたびに「ドライバー」を読み込んでいく。プリンターとグラフィッカードについては、それぞれ添付されていた「ドライバー」をインストールした。その他は、Windows10の標準のもので十分であった。セキュリティーソフトも導入した。終わったところでリブートである。

 巧くいくことを祈るような気持ちで再起動を待った。吉田さんも、真剣な面もちで見守った。立ち上がりを告げるサウンドと共に綺麗に発色した画面が現れた。最初の時と全く違う綺麗な画面であった。プリンターはグーグーと音を立てイニシャライズし、停まった。二人で同時に顔を見合わせ、ため息をはいた。巧くいったのである。

 「それでは、マウスの設定を確認して下さい。MSインテリジェントマウスでスリーボタンですから」

  画面で、カシャカシャとそれぞれのボタンを押すと、画面のマウスの形をしたグラフィックが赤く点滅した。良好である。ジョイステックも操作を確認した。吉田さんが音楽CDを持ってきた。

 DVD/ROMドライブに入れると自動的に立ち上がり、CDの操作画面が出て来たので「再生」のボタンをマウスで押すとスピーカーから音楽が流れてきた。専用のCDコンポと同じ様な良い音である。俺は、又、感動した。自分のマシンである。目に涙がにじんだ。吉田さんを見るとニコニコしていた。時計を見ると六時を指していた。俺は、万感の面もちで立って何も言わず吉田さんに頭を下げた。吉田さんは  「後藤さんのそんなお顔、初めてみました。私にとって、そのお顔だけで十分ですよ」

と言ってくれた。俺は大きく息を吐いた。

 

 それから、周りを片づけ今日は終わりにすることにした。俺は、マシンの動作を終了させた。夕食は何にしますかと聞くと、吉田さんは、

 「そうですね。今日は、マシンに火が入り、子供が産まれたような時ですから簡単にお祝いをいたしません?」

 即賛成した。マシンを終了し、電源のコードを外して今日は終了である。周辺を片づけてからお茶も飲まずに外へ出た。そこで、駅から五分位歩いたところにあるレストランに入った。当然吉田さんの案内である。

 

 そこは、外壁がヨーロッパ風の赤煉瓦で覆われた瀟洒なレストランであった。入り口には、アカシヤと白樺が植えられ、高原風に見せていた。木で出来た大きな扉を開けて中に入った。小さなロビーで一寸待たされて若い学生のバイトかフリーター風のウエイターに案内されて木の見える席へ案内された。実に落ち着いた良いレストランである。

 「さて、何にいたしましょうか」

 二人の時は、全て、吉田さんが注文することになっていた。いつの間にかそういうことが習慣のようになってしまった。むしろ、俺は、そうしてきた。その方が楽なのである。

  一般的に女性と食事をするときに、なかなか決まらないのが普通であるが、吉田さんの場合には、その時のシチュエーションに会わせてテキパキと決めるのである。そうかといって慌てているのではなく、実にゆったりとしているのである。性格もあるが、小さいときからそういう環境で育ったのだろう。彼女はウエイターに 「先ず白ワインをフルボトルで一本、銘柄は適当にします。おつまみに、シーフードサラダ、ソーセージ、それから子牛のステーキとヒラメのムニエルそれにパンを下さい。その前にハーフボトルのシャンパンを下さい。グラスは二つでお願いいたします。後藤さんは如何しますか?」

 俺は同じ物にして貰った。俺が考えるよりずっと順序が良いから。注文が終わってから、彼女は、テーブルに両手で頬杖を付いて俺を上目遣いに見て微笑んだ。

そして、

「お疲れになったでしょう?」

 といった。俺は、正直に疲れたと言った。そして、今までに経験したことのない疲れだと言った。でも、何故か、感じたことのない充実感があるとも言った。

 「それは、後藤さんの気持ちが入っていたからだと思います。良かったですね。私も張り合いが御座いましてよ」

と言って、本当に嬉しそうな顔になった。


 先ず、シャンパンが来た。俺は、シャンパングラスを二つ並べてシャンパンを注いだ。次は、吉田さんの番だ。

 「後藤さんのために生まれたマシンと、そして、後藤さんの頑張りと、私たちの幸せのために」

と言って、乾杯をした。俺は、本当に嬉しかった。あらためて俺は立ち上がり直立して礼を言った。有り難うございましたと。

 吉田さんは、微笑みながら頷いた。その目は、少し潤んでいたようである。


 次ぎに出てきた白ワインを注いでから、あらためて乾杯をした。それから出てきた料理の美味しかったことと言ったら無かった。実に美味しかった。

 従来に無かったことを成し遂げたことと、併せて新しい経験を積んだことに対してとてつもない充実感を伴いすばらしい味であった。

 この経験を元にいよいよ職場で打って出たいと思った。そのことを吉田さんに言うと、彼女は、

 「いつか後藤さんがそういうことを言い出すと思っていました。貴男はそういう方です。ぜひ、がんばって欲しいと思います。私が好きになった方ですから」

 と言って一寸下を向いた。俺は、我が耳を疑った。しかし、そこはさらりと、有り難う、そういう風に言って貰えると元気が出ます。必ず期待に答えます。と言った。彼女はニッコリして俺の目を見た。


 次の日からは、職場のパソコンを自分で操作することにした。学校で練習したからかなり出来るようになっていた。Eメール、予定表、会議室の予約、呼びだされている会議等全て自分でチェックするようにした。解らないことは若い人に頭を下げて聞くようにした。

  しばらくすると、職場の俺に対する空気は完全に変わった。皆がこそこそ俺のことを噂しているのが聞こえてくる。おかしなもので、特に、女性達は俺に対しておもしろくないような雰囲気である。殆ど彼女たちに俺からなにか仕事を頼むことが無くなってしまったからのようである。俺は、知らん顔を決め込んだ。三ヶ月間、真面目に学校に通い、学校内のネットワーク上でのイントラネットを使い勉強してきたおかげだった。


 月の最後の週に吉田さんの家へ行った。

 いよいよアプリケーションソフトウエアのインストールである。吉田さんの指示に従い、マシンに火を入れ、エクスプローラでソフトウエアの導入状況を確認した。その上でMSオフイスをインストールし、次ぎに一太郎を入れ、筆まめ、MapFanをインストールして終了である。もう一度エクスプローラで確認し、各種のソフトウエアの搭載状況を確認した。インターネットの接続方法も懇切に教えて貰った。モデムの取り扱い、インターネットプロバイダー、かかる費用のことなど各説明書を元に説明してくれた。全ての説明が終わったところで、俺は、最後にワードを立ち上げた。きちんと立ち上がった。

そこで俺は、大きな文字で、

「吉田さん有り難う。感謝しております。これからもよろしく御指導をお願いいたします」

と打った。そして、吉田さんの顔を見た。吉田さんは、画面を覗き込み、頷いて

「どういたしまして。」

と言いながら涙ぐんでいた。俺は、彼女の手を握った。そして、彼女を引き寄せた。彼女は、目をつむっていた。俺は彼女の唇を吸った。彼女はそれに答えてくれた。

 しばらく俺達は抱き合っていた。そして体を解いた。それ以上は、俺も自制した。彼女は、切なさそうな目で俺を見たがすぐにいつもの吉田さんに戻った。

 「それではこれで終わりですね。今晩は一晩、ヒートランニングで動かしておきます。明日にでも引き取りに来て下さい」

と、彼女が言った。今日は、ソフトウエアのインストールだけであったので昼過ぎには全てが終わった。俺は、今日の昼食は外で食べましょう。何になさいますか。と聞くと、彼女は一寸考えてから、

「今日は、時間も早いので、秋葉原へお付き合い頂けませんか。新しいマザーボードとCPUを見たいの。それから、早めに銀座へ出てこの前のお店で食事をいたしませんか」

すぐに出かけることにした。

「私、一寸着替えさして頂いてよろしいかしら」

俺は、ソフトウエアの空箱などをまとめ、手早く掃除をしてからお茶を飲み、十五分ほど待った。

 彼女は、薄いブルーのシャツに下はロングで濃いブルーのスカートをはいて出てきた。本当に、この方は、何を着てもよく似合うのである。


 電車に乗り、秋葉原へ出た。改札口を出てからそのまま電気街へ入った。中央通りを渡り、一本裏通りのDOS/Vパーツを売っている店に入った。この店は、秋葉原のプライスリーダーだそうで、他の店は、この店より安くした物を、特価品として売るとのことである。

 そこで、吉田さんが目当ての、新CPUであるIntelと、そのボードを見せて貰った。そのi7はskylake呼ばれていた。吉田さんは、いろいろ専門的なことを質問していた。

聞いていて、今の俺の知識で多少は解るが全ては理解できない。結局、Intelは後二週間ほどで最高速の物が出るとのことであった。吉田さんは、それを待って買うことにしたようである。勿論、その店でも彼女は先生と呼ばれ、顔であった。

 その店は、六階建てのビルでパソコンに関するありとあらゆる物が展示されていた。俺も、こういう物を見るのにだんだん慣れてきて楽しくなっていた。吉田さんは、店の中を見て回りながら俺に解りやすく説明してくれた。

 物によっては、通りがかりの見ず知らずの人達まで彼女の説明に聞き耳を立てていた。時には、質問までしてくる始末である。それにも嫌な顔をせずに彼女は説明していた。

 二時間ほど見て回り、俺達は店を出た。歩きながら、さっきのCPUの話を聞かせてくれた。製造には、AMDとCPUのKingであるIntelの二社があること。 AMDの経営収支改善の切り札として、たいこうCPUを出荷する予定であること。

 場合によっては、AMDがIntelと同等に張り合えるチャンスがあるかもしれないが、失敗するとAMDは生き残れなくなるかもしれないことなど業界の話を解りやすく説明してくれた。

 また、スマホの発展と共に、CPUのメーカーが勃興し、激戦になっていること等

話しながら先日待ち合わせをした喫茶店「古炉奈」に入った。そこでコーヒーを飲んで一休みをした。彼女の話は、範囲が広く、なかなか知識が及ばないが、初めての話が多いだけに良く頭に入った。

 しばらくしてから店を出た。この前と同じでタクシーを拾い、銀座へ出た。車に乗っている間、彼女は、俺の手に彼女の手を重ねて話をした。俺は、年甲斐もなく胸がドキドキした。

                                       銀座のみゆき通りは、いつもながらの人通りである。何時来ても、綺麗な通りである。俺は、銀座が好きである。ここは、俺の生まれ故郷とは別世界で東京へ出てきた頃はただ銀座を歩くだけで都会人になったような気がしたものである。

 俺は、この街で後台部長や先輩から仕事と酒を教わり、恋愛のまねごとをし、又、女も知った。昔は、上品で、一寸気取ってはいたが何となく人情があったような気がする。しかし、今は、そんなことが懐かしい。


 この前の料理屋へ着いた。店へはいると、女将が、

 「いらっしゃさいませ。何時も有り難うございます」

と、俺達を覚えている風であった。彼女は軽く会釈をして、前回と同じ二階に上がった。そして、窓際に座った。俺も座ると、店のこれも又、前に担当した女性の従業員が出て来た。やはり覚えていたようで、ニッコリ笑ってから、

 「何時も有り難うございます」

と、挨拶をしてお品書きをおいた。彼女は、前回同様、料理を頼み、又、冷酒を頼んだ。酒が来ると恒例の乾杯だ。

 「後藤さんの頑張りと、私たちの幸せのために」

と言って乾杯をした。俺達は、続けて飲んだ。料理が来て、それを口にしながら前回よりよけいに飲んだ。二時間ほどで店を出た。

 それから銀座を歩いた。夏が近い。歩いている人達は、皆、薄着になっている。近頃の女性は、殆ど肌をむき出しである。体の表面積を計算すれば、多分七割方は露出しているような感じである。透けている部分を勘定に入れれば、殆ど裸に見える。性犯罪が多くなったのもうなずける話である。俺としては、やはり、隠すところは隠して品がある方がよい。その面からも、吉田さんは上質である。二人で歩き始めた。心なしか吉田さんは、俺との距離がないように歩いている。所々でウインドーをのぞき、無駄話をしながら歩いた。

 やがて有楽町の駅が近くなった。二人は、しばらく無言になった。俺は、なまじ、理性なんぞを持ち合わせている自分をいまいましく感じた。歩きながら、俺は、今回のコンピューターの製作で大変世話になったことに対して改めて礼を言い吉田さんとお近づきになれたことは考えられないことだと伝えた。

 吉田さんが人間としても女性としてもとっても好きだと言うことも併せて言った。それから、貴女に、迷惑をかけないように行動をしたい、とも言った。

 数寄屋橋公園で彼女の足が、一瞬止まった。そして、俺の腕を掴んでいる彼女の手に力が入った。俺は、彼女の方を向いた。彼女の方も俺の方を見ていた。その目がキラキラ光っていた。俺は、彼女の手の上に、俺の手を重ねた。そして彼女の額に俺の唇を押しつけた。彼女は、

 「うれしい」

と一言、言った。同時に、彼女の胸の尖った重みを感じた。そして、力が湧いてくるような気がした。俺には、前に進む力が残っていると感じた。負けてたまるかと、何故か、見えない敵に向かっていくような気持ちになった。


 明くる日の昼過ぎに、車で吉田さんのマンションに出かけた。家族には、今日はコンピューターを引き取りに行く事を告げてある。特に息子には、出来れば家にいるように言った。息子は予定があったみたいだが、友達に電話をして、今日は、急用が出来ていけないと話していた。

 

 吉田さんのマンションまでは三十分ほどで着いた。マンションの来客用の駐車場に車を入れ、九階まで上がり、吉田さんの部屋の扉を開けて中に入った。彼女は、綺麗に化粧をし、白いシャツブラウスに黒いタイトスカートで俺を出迎えてくれた。

 俺は、衝動を抑えきれずに彼女を抱き締め、唇を重ねた。吉田さんも、俺を強く抱きしめ、自分も同じ気持ちだと言うことを俺に伝えた。しばらくそうしていた。多分、たいした時間では無かったのだろうがとても長く感じた。唇をはなし、彼女の目を見た。その瞳が濡れているのがよくわかった。俺は、貴女がとても好きですと言った。彼女は

 「わたくしも」

と言って体を離した。


 コンピュータの接続を自分でばらし、一つ一つを車に運んで乗せた。ソフトウエアのマニュアルを乗せ、全て終わった。車に鍵をかけ部屋に戻った。吉田さんが「お茶にしません?」

と言うのに、俺は頷いてソファに座った。

 

 彼女は、コーヒーを入れ、今日は、俺の隣に並んで座った。コーヒーが、これほど美味しいと感じたことが記憶に無かった。黒のタイトスカートから伸びた、洒落た、薄い足が綺麗であった。彼女が匂った。軽く優しい匂いであった。しばらくコンピューターの話をしてから、自然に会社の話になった。

 「ここのところ、一週間ぐらいで後藤さんの噂が伝わってきましてよ」

 「どんなことですか」

と聞くと、

 「急にやる気になり、パソコンを上手に使い始め、皆さん、唖然としているようですよ」

と、可笑しそうに笑いながら言った。

 「あんな後藤さんは見たことがない。元々仕事が出来る人なのに、あれだけやられたら他の人達はたまらないと言っていましたよ。私とてもうれしい」

 俺としては、してやったりと思いつつ、まだまだこれからですよ、といった。貴女のおかげですと礼を言った。彼女の足がそっと俺の足に触った。


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