欲しいものはなんですか?
十二月最初の週の放課後。
流石にちょっとよそよそしい態度が続いてて、ボクの気分はめげそうなのである。
それでも、折れそうな気力を振り絞って、ボクは瑞貴に話しかけた。
「ね、ねえ、瑞貴」
「どうした?」
日を追う毎に、あの日のキスが罪悪感になってきて、居心地の悪さを感じてしまう。ついつい話しかけるときも躊躇いがちになってしまう。
「あ、あのね……、クリスマスのプレゼント、みんなにあげようと思ってるんだけど……、瑞貴は何か欲しいもの、ある? あ、あんまり高い物はなし、ね! お小遣いちょっと心許ない……!」
みんなといっても、あげるのはいつもお世話になってる班員。瑞貴だけは特別に奮発するつもりだけど。
「あ、ああ、もうそんな時期か……。最近ちょっと忙しくて日付の感覚がなくなってた」
「うん、CLOにもあんまりログインしてないもんね」
「マスター失格だなあ。それで、欲しいものだっけ?」
「うん、驚かせようかどうか考えたけど、やっぱり欲しいものあげたいから聞くのが一番かなって」
やっぱり堅実なのが一番だし。
あげるなら喜んで欲しいって思いが強いもの。
「ふうむ……欲しいものか。今はマフラーを買おうかどうか悩んでたんだよなあ」
「あ、じゃあそれで!」
「いや、でも……他に欲しいもの……。ないなあ。俺からもみんなに何かあげようかと思うんだけど、燈佳は何が欲しい?」
むぅ……、ボクは特に欲しいものはなかったりするんだよなあ……。
瑞貴から何か貰えるなら、やっぱりなんでも嬉しいし。
「うっ……ボク、今特に欲しいものとか、ない。この前ハンドミキサー買ったばっかりだし……」
泡立て器で、メレンゲ作るの凄く面倒で、ついつい安売りしてたから買っちゃったんだよねー、ハンドミキサー。凄く便利。生クリームもすぐ泡立つ!
「ハンドミキサー……。いや、そんな実用的な物じゃなくて、アクセサリーとかでもいいんだぞ?」
「瑞貴……。ボクが小物に興味ないの知ってるでしょ……?」
小物は、ゴシックラテで桜華に買って貰ったヘアピンをつかって、最近前髪を分ける様になったくらいだ。
瑞貴から貰ったバレッタは勿体なさ過ぎて夏の間もあんまり使えなかった。
ああ、でも、欲しいといえば欲しいものが一つだけある。
でも、正直それを言ってしまえば重い子だと思われるだろうし、あんまり言いたくない。
「あー、そうだったっけ? そういや、そうだな。あんまりアクセサリー類身につけないな」
「うん」
「もっと着飾ればいいのに……」
「何か言った?」
「い、いや、なんでもねえ!」
慌てて瑞貴が首を振る。途中の一言は本当に聞こえなかった。
一体何を言おうとしたんだろう?
「深くは聞かないけど……」
気になるけど、踏み込んで嫌われるのは嫌だから。聞きたい気持ちをぐっと我慢する。後ろ髪引かれる思いだけど、これが一番だ。
「すまん。えっとそれじゃあ、俺、帰るわ」
逃げるように、瑞貴は席を立つ。
声を掛ける間もなく、ガチャガチャと慌てたかのように机と椅子を打ち鳴らして、教室から出て行った。
あ、これ、なんかキツイ。
明らかに避けられてる感が酷くて……。
でも、嫌われてるのとは違う、感じ。
なんだこれ……。
「なんだよ、もう……」
小さくぼやいて、ボクも鞄に荷物を詰め込む。
泣いちゃダメだ……。ちょっと胸に来たけど、瑞貴にも理由があるんだもん。
これくらいで簡単にダメージ受けてたら、ダメだってば……。
「燈佳、帰ろう? どうしたの?」
用事で呼ばれていた、桜華が教室に戻ってきた。
ボクの顔を覗き込むように見て、ぽつりとそんなことを言った。
「な、何でも無い」
「何でも無くは無いと思うけど……」
桜華が、そっとボクの目元に指を這わす。
ぬぐい取られた雫を指の上に乗せて、それをボクに見せつける。
「今、あんまり人がいないから良いけど、見られたら大事だよ?」
「な、泣いてないし……」
「ん、そう言うことにしておく。話は帰りながら聞くね」
帰る準備を既に終えていた、桜華が首にマフラーを巻きながらそんなことを言った。
教室にはもう人はおらず、ボク達が最後のようだ。
ボクも教室の後ろにかけられていた、学校指定のコートを羽織ってマフラーを巻く。暖房はまだ入っているけれど、やっぱり外はもう寒い。
こんなにも寒々しい思いをするのは、もしかして外が寒いからなのかって考えたけれど、それは気のせいだと否定する自分がいる。
なんなんだろうなあ……。
隣にいて欲しい人がいないってのが、こんなにも寂しい物だったなんて……。
「お待たせ」
「ううん、帰ろっか」
「うん」
その日、本当に久しぶりに、桜華と手を繋いで帰った。
道すがらの話題は、瑞貴への愚痴だ。
本当はしたくなかったんだけど、今日のことを話していたら、もう後から後からと今のよそよそしい態度への文句が溢れてきてしまった。
桜華はボクのその話を、嫌な顔一つせずに聞いてくれた。
相槌も同調してくれる感じで……。
「……でも、好きなんでしょ?」
口が止まって暫くして、桜華がそう締めくくる。
うん、そうなんだ。
どれだけ、愚痴が溢れようとも、好きなんだ。
だから、
「うん……」
そう、頷くしかなくて。
桜華もそれが分かっていたのか、たまには泣き言を言ってもいいんだよって優しい言葉を書けてくれた。
それが嬉しくて、とても心強かった。
うん、欲しいものは聞けたし、嫌われてる訳じゃないって思いたい……!
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