魅力ってなんだろう
渡辺さんのことは後ろ髪引かれる思いではあったけれど、ボクには関係無いと割り切って、みんなと楽しんだ。
立川くんが本当に泳げないとは思わなかったけれど、みんなで特訓して多少泳げるようになった。流石にあの鋼の筋肉は水に浮かないらしい。気付けば沈んでいた。そして、その様に本人には悪いけれど大爆笑である。
後、桜華にウォータースライダーはどうだったかと聞かれて、色々思い出して恥ずかしかったけれど、とりあえず良かったって言っておいた。色々見られたけれど。まあ、瑞貴にならいいや。醜態さらしてるし。問題無い。
帰り際に、渡辺さんのことを伝えておいた。瑞貴が大分苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど、後悔するくらいなら酷い物言いをしなければ良かったんだと思う。
でもそれが愛おしくて、抱きしめてあげたい思いに駆られたけれど流石に人前だし我慢した。それに迷惑かもと思ったら二の足を踏んでしまったのもある。
渡辺さんの件は何れは解決しないといけない問題だったから、解決したのは良い事なんじゃ無いかな。ボクが直接的に関係している所は、ちゃんと謝ってるし。それで因縁つけられてた訳だけど、瑞貴がトドメを刺したから多分大丈夫だろうと思ってる。
「解決かな……? 自分で手をだす勇気が無いだろうから、もうこれ以上は何もないでしょ。瀬野くんに嫌われたようなものだし」
「だといいがなあ……。というか、なんで俺なんかを好きになるんだか……。もっと良い奴なんて一杯いるだろ」
「……瀬野くん、燈佳に俺なんかってのを禁止しておいて自分がそれを言うの?」
うむ、つい自分を否定したくなる気持ちは分かるけれど、ダメだよ。瑞貴はいい所一杯あるんだから。多分ボクは知らなくて緋翠ちゃんだけが知っているいい所もあるんだと思う。
それはちょっと悔しいなって思うけれど、積み重ねた時間の問題があるから仕方が無い。向こうは中学三年間なのかな……。ボクはゲーム内を含めてもまだ一年半くらいの付き合いだ。年期が全然違う。
今はそれがちょっとだけ悔しい。
「……といってもなあ。正直顔だけしか見てない奴はどうでもいいってのが本音だ。話をしたことがない奴から告白とかされる気持ち分かるか?」
「あー……まあ、分からなくもない、かな?」
「だろ、笹川さん見た目はいいから、それで寄ってくる人多いだろうしな」
むう……。
瑞貴が桜華のことを褒めるのが気にくわない。他意は無いのは分かってるけれど面白くない!
ああもう……やだやだ、ボクこんなに嫉妬深かったっけ。
いや違う、瑞貴が桜華を褒めるのが嫌なんだ。危ないから送るよとか桜華に言っててもそれはもう瑞貴だから仕方ないって諦めがつくし、仲のいい友人が危ない目に合わないのならそれが一番だ。
「ぶふう」
「頬を膨らませない。別に取ったりしないから」
桜華がボクの頬を両手で挟み込んだ。
いつの間に頬を膨らませていたんだ、ボクは!
だけどやっぱり、なんか気にくわない。
「むー……瑞貴も桜華も告白されてるんだ」
ふとぼやいて、ボクは何が気にくわないのか分かった。
みんなボクの事を可愛いとは言うけれどそれは口だけなんじゃないかって思った次第だ。
「実は六月以降燈佳宛てのラブレターは全部処理してる」
「へ?」
いや、意味が分からないし。なにそれ、初耳なんだけど。
「まあ、あんなことがあった後だし、秘密裏に処理しようと思って。あんなこと二度と合って欲しくないし」
「えっと、よくわからないけど、もしかして瑞貴も一枚噛んでる?」
ボクは流石にそんなことは無いだろうと思って、瑞貴にダメ元で聞いてみた。
いや、本当にボクにラブレターが来てることも驚きだけど、それを秘密裏に処理してたってのがもっと驚きだよ!?
「まあなあ……。手紙を渡してくれって頼まれることはままあるが、自分でやれって突っ返してるな。つうか、割と最近燈佳狙いが露骨なんだよなあ。六月終わりぐらいから急に可愛くなったとかなんとか」
か、可愛くなったってそんな。別に……。
ううん、思い当たる節はあるけれど。瑞貴によく見られたいからって少しだけ化粧とか頑張るようになって、服装もスカート少しあげたりとかその程度だけど……。
「燈佳は元から可愛かったけど、最近は輪をかけて可愛くなってるからね」
「えっと……」
可愛い可愛いといわれて、可愛いがゲシュタルト崩壊起こしてきた。
自分の良さが分からないけれど、こうやって面と向かって言われると流石に自覚しないといけないのかな。でも、実感沸かない……。
「っと、この話はでてからにしよーぜ。別にここでするような話でもないしなあ」
そう言えばそうだ。なんだかんだでボク達はまだプールにいる。一頻り遊んだ後この休憩スペースでだらだらしてたんだ。
もう随分と水に浸かっていないけれど、水着はまだちょっと湿っている。この湿り具合はなんとも言えない不快感がある……。いやだって、漏らした後そのままパンツ穿いてるような感じなんだもん。できれば泳ぐか、着替えるかしたい、です。
時刻はもうやがて夕方の五時になろうかと言うところ、夏といえど日が傾き始めれば気温はちょっとは下がる。じめっとしたのは煩わしいけど、少しは過ごし易くなる。
「そうね、それじゃあ出ましょうか」
桜華の言葉で、プールから撤退することが決まった。
時間も言い時間だし、地味に今の時間からってちょっとピンクな雰囲気感じるし……。閉園は八時といえど、多分今から所謂大人の時間って奴だ。客層も変わってるし。
着替えはすんなりといかなかったけれど、とりあえず置いておこう。
端的に言うと盛大に辱められた。いいんだよボクはボクだし。薄毛でもいいし……。くるにゃんなんてつるつるだし。
はあ、流石にシャワールームをずっと占拠するわけにはいかなかったから、ロッカールームで着替えたけど……、意外となんとかなる物でした。びびってたボクをぶん殴ってあげたい。
まじまじと見なければ流石に誰も不振に思わないよね……。桜華は結構見られてたけどスタイルがいいから仕方が無い。
帰り際、スマホを見るとメッセージが一件。
沙雪さんからだ。
『浴衣天乃丘に届いたみたいだから、時間あるときに合わせにいって頂戴な♪』
そういえばそんな話をしていたなあ。完全に忘れかけてたけど。
やっぱり三着作るのは時間が掛かるんだなあ。そうだよね、服ってそんなに簡単にぽんぽん仕上がらないよね。
「桜華、緋翠ちゃん、浴衣できたって」
「こっちにも届いてる」
どうやら三人同時に届いていたらしい。
ボク達は一言一句違わない文面を見せ合って、どうしようかと相談する。
くるにゃんは蚊帳の外だったけど、くるにゃんはなんだかんだでとても質のいい浴衣とか着てきそう。鈴音先生の妹さんだし……。
「今日行く?」
「ひーちゃんは時間大丈夫?」
ボクはできれば早く着てみたい。
だけど、受け取りに行くならやっぱりみんな一緒がいいかな。
桜華はボクに付き合って――多分ゴシックラテのお店に行く理由が欲しいんだろうけど――くれるからいいとして、問題は緋翠ちゃんだ。
女の子の一人暮らし、暗くなるようだったらまた日を改めなければならない。
七時くらいまでは明るいとは言え、夜は結構怖いしね。
「帰り、途中まで瑞貴に送ってもらおうかなあ」
ずるいとは思ったけれど、やっぱり何かあったときが大変だし、ぐっと我慢する。
「方向一緒ならそれもいいかもね。流石に日暮れから夜道は危ないし。ボクは桜華と一緒だから大丈夫」
「燈佳が守ってくれるの?」
「あはは、がんばる」
とりあえず小さい時にちょっとだけ格闘技も齧ったけれど……。危ないときは逃げるのが一番なんだよねえ。
まあ、なんとかなるだろうと思って、組み敷かれたボクが言うんだから間違いない。
あれは、本当に怖かった。
「あたしの目の前でいちゃつかないでくれないかなあ!?」
いちゃついてないし。桜華は振ったし。でも諦めないって宣言されてるだけだし。
まあ、それはそれとして、ゴシックラテに行くのは決まりのようだ。
浴衣受け取って帰ろう。
あ、でも着付け。ボクできないや……。
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