相談してみた

 さて、つつがなく授業を受け、お昼休み。

 机をくっつけていつものメンバーでお昼ご飯。相変わらずくるにゃんは理事長室にいってるし、立川くんは部活の友達とたべてるから、いつものメンバーはいつもの四人だ。


「今日、なんか姫ちゃんがずっとそわそわしてたんだけど、どうしたの?」


 緋翠ちゃんが言った。

 ちなみにお昼はついに重箱になった。四人分を個別に作るより、三段の重箱に適当に色々詰めた方が楽なのだ。

 重箱一段丸々野菜炒めとか、回鍋肉とか、青椒肉絲とかやる。凄い楽。そして意外と評判がいい。

 失敗だったのは麻婆豆腐。蓮華も持ってきたのにみんなからさんざんブーイングを受けた。勿論桜華ちゃんからも止められたんだけど、試してみたかったんだよ……。


「そういや、そうだな。どうしたんだ一体」


 そうだよね、今日はこの事をずっと相談しようと思ってたわけだし。

 やっぱり、ボク一人じゃ決めきれないから。


「これ、今日朝来たら入ってて」


 ボクは鞄から一通の封筒を取り出す。

 朝下駄箱に入っていた例のアレだ。ラブレター的サムシング。


「お、ついにか」

「ず、ずるい……!」


 瑞貴くんと緋翠ちゃんの反応が違ってるのが面白い。それに二人とも、これがなんなのか分かってる様子。果たし状だと思ったのはボクだけ……?

 ついにかって事はいつかは来ることが分かっていたのかな。それに緋翠ちゃんは多分まだそう言うの受けてないとみた。

 あれだけ、瑞貴くん好き好きオーラだしてれば誰も近寄らないと思うんだよねえ。


「そんで、内容は?」


 あれ、ちょっと瑞貴くんが不機嫌? 気のせいかな、手紙の方見てない。ご飯も美味しそうに食べてないし、なんかいやだな。


「放課後教室で待っててくださいって」

「ほー。手紙でなんて、意気地無しかと思ったけど言いたいことは直で言うタイプか」

「これってやっぱり、ボクに……なのかなあ?」

「それ以外の何があるんだ。ちゃんと宛名にもお前の名前が書いてあるし」


 あ……。これ、ちょっと相談したらまずかったパターンじゃ。

 お前って言われるのに不覚にもドキッとしたけど、意外と悪くないかも。仲のいい友達って感じがして。


「瀬野くん、嫉妬するのはみっともない。いつか燈佳ちゃんにもそういう話が来るって分かってたでしょ」

「わかっちゃいたが、俺たちの姫さまがそう言う風に見られるのは、わかっちゃいるがやっぱり嫌だなあ」

「私だって、嫌だけど、しょうが無いじゃん。燈佳ちゃん可愛いし。早ければ四月の末には来ると思ってたし」


 いやまって、どういうこと。どうして、二人はそんなお通夜ムードなの。

 可愛いって言われるのは嬉しいけど、そんな暗い雰囲気で言われても素直に喜べない。


「ずるい、姫ちゃんばっかりずるい。わたしもラブレター貰ってみたい」


 こっちはこっちで怨嗟の声が聞こえてくるし。これ、やっぱり自分で解決すべきだったのかな。


「どうしたいかは、燈佳次第じゃね。良い奴なら付き合ってもいいだろうし、嫌なら嫌できっぱり断ればいい」

「ボクは嫌かな……」


 だって、そもそもボク男だし。相手が可哀想だし。それに今はそういうこと考える事が出来ないから。男の子と女の子、どっちが好きかなんてそれ自体も分からないのに、告白されたから、はい付き合いますっていうスイーツ脳じゃないし。

 そんなにボクの頭は目出度く出来てない。


「そっか。じゃあ断ればいいさ。ごちそーさん。今日も美味かったよ、姫・さ・ま・」


 瑞貴くんがそう言って席を立った。

 いつもなら暫く雑談するのに。それに食べてる量もいつもより少ない。


「どこかいくの?」

「ああ、便所だ便所」


 こっちに顔を見せずに瑞貴くんは教室から出て行った。体調悪いのかな。

 でも、桜華ちゃんが嫉妬とか言ってたけど、瑞貴くんが嫉妬なんてするわけが無いよね?


「男の嫉妬ってみっともない!」


 緋翠ちゃんが声を荒げた。それに桜華ちゃんが頷いているけれど、どこか悲しそうだ。


「でも……そっかー……瑞貴が姫ちゃんに嫉妬かあ……」


 と、思ったら急に落ち込んだみたいで、よく分からない事に。

 いつも怒ったり笑ったりしてるのに、どうして今日は二人とも、沈んでるんだろう。

 そんなにボクがこの手紙を貰ったのがダメだったのかな。


「ごめんね、あたしも席外す」

「ひーちゃん?」

「ごめん、一人にして欲しい」


 そう言って、緋翠ちゃんも席を立った。残されたのはボクと桜華ちゃん。

 何かもうお昼という雰囲気でもなくて、箸が止まってしまった。


「燈佳ちゃん、私、ひーちゃんの所行ってくる。後ごめん、みんなに相談してみようって提案して。こうなるって思わなかった」

「うん。やっぱり相談しない方が良かったよね」

「みんながみんな私みたいだったらいいのに。私は燈佳ちゃんが決めたことは応援するよ」


 そういって、桜華ちゃんも席を立った。

 残ったのはボクと、食べ残しのお弁当。

 いつもは綺麗に無くなるのに、今日は一杯余ってしまった。

 それがとても残念で仕方なかった。


 なんか、こんなぎくしゃくしたのは嫌だなあ。

 うん、やっぱりみんなとの関係がこんな風になるなら、誰とも付き合いたくない。

 断ろう。それが一番だ。ボクは今のみんなと仲良く過ごすのが好きだから、今はそれを壊したくはない。

 だって、手紙一つで、こんなことになるんだもん。もし本当に手紙の内容が告白で、万が一にでもボクがそれを受けたら、この集まりはもう崩壊してしまうだろう。そんなの嫌だ。

 ボクは今のこのメンバーが好きだから、このコミュニティを壊したくはない。

 だから、断る。うんそう決めた。

 ぎくしゃくしちゃったけど、みんなに相談して良かったかも知れない。一人じゃあ出口が分からなかったかも知れないし……。


 でも、一人で知らない人と会うのはちょっと怖い……。

 誰か近くで見守っててくれないかな……?

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