ドキドキバスタイム・前
泣きはらした顔を見て、渡瀬先生は訳知り顔でボクと桜華ちゃんの頭を撫でてくれた。
物理的にも精神的にもなんだかんだと色々吐いてしまったので、気分は少しスッキリしている。
まあ、一番良かったのは入浴の時間が過ぎたことかな。
他のクラスが今はいってるからボクは一番最後みたいだ。
もれなく桜華ちゃんが着いてくるわけだけど。もうしょうがないかな。
「恥ずかしい……」
「私もだから」
救護室変わりの渡瀬先生の部屋で横になってるボクと、側に座ってる桜華ちゃん。
高校生になるのにみっともなく大泣きした事が、とてつもなく恥ずかしい。
「燈佳くんはまだいいよ。布団被れば顔隠せるもん。私は無理だし」
珍しく桜華ちゃんの頬に朱が差していて、恥ずかしがっている事が分かる。
そこには瀬野くんも居て。
「俺ものすげえ居たたまれないんだけど」
状況的に何があったのか理解していない瀬野くんはとても困惑している。
「瀬野くんもごめんね、服汚しちゃって」
「それは気にしないでよ。洗えば綺麗になるんだから。それより限界近いのに気付いてやれなくて悪かった」
「ううん、しょうが無いよ。我慢してたボクが悪かったから」
「いや、我慢させた俺等が悪い。知ってたのにな。視線を集めることでどうなるかなんて入学式の日に見たはずだったのにな。忘れてた。すまん」
真摯に謝ってくれる瀬野くん。
ボクは怒っても居ないし、責める気にもならない。
だって、これはまだボクが弱いだけだから。責めるなら自分自身を、だ。
「えっと、じゃあボクも本当にやばかったら言うから、それでお終いにしよ? 桜華ちゃんもそれでいいよね」
手打ちの条件を提示する。
そうでもしないとお互いにずっと謝り続けるハメになりそうだ。
「まあ、それなら……」
「燈佳くんが言うなら……」
よし、腑に落ちてない様子だけど、しょうが無い。落としどころを見つける事も大事だ。
「榊さん、気分はいい? あら、二人も来てたのねー」
渡瀬先生が、巡回を終えて部屋に戻ってきた。
「そろそろお風呂空くから、入れそうなら入ってきなさい。笹川さんも瀬野くんも」
「はい、そうします」
「まあ、二人とも、人が居ないからってハメは外さないことねー」
最後のことは瀬野くんと桜華ちゃんに向けてだろう。
多分、今日の桜華ちゃんは大丈夫なんじゃないかな。
瀬野くんも、たぶん。確証はないけど。
「顔色大丈夫?」
ボクは部屋を出る前に二人に聞いた。
流石に心配されるほど真っ青だったから、部屋に戻ったときくらい普通でいたい。
「うん、大丈夫」
「だな、いつも通りだ」
二人とも大丈夫だと太鼓判を押してくれた。
それなら部屋に戻ってもみんなに余計な心配を掛けなくて済むかな。
瀬野くんと別れて部屋に戻った。
部屋には緋翠ちゃんと江川さんと大橋さんが居て、雑談に花が咲いていたみたいだ。
緋翠ちゃんが戻ってきたボク達に気付いて声を掛けてくれた。
「姫ちゃん、倒れたって聞いたけど、大丈夫だった?」
「あ、うん、大丈夫だよ。まあ、ちょっと色々あったけど……」
「そっか、えっと、今からお風呂?」
「うん、特別に今からいいって」
「いいなー。あたしも静かに入りたーい」
他の二人もほっとした様子だった。
知らず知らずのうちに色々迷惑を掛けていたようで、なんだろうなあ……心配されてるのに少し嬉しく思ってしまう。
「とりあえず、桜華の胸は一度揉んでおくべきだと思って」
「ひーちゃんは、何をいっているの? おっぱい星人なの?」
「だって! 姫ちゃんよりはあるけど、あたしも小さい方だし、どうやって大きくしてるのか気になるじゃない!」
「えー……。どうやってって、燈佳くんへの愛でかな」
「あ、愛って!? しかも女の子同士で!!」
相変わらずの桜華ちゃんの物言いに、ボクは苦笑するしかない。
そもそも、元を正せばボクは男だし、ノーマルな関係なんだよね。
「あはは、ボクも桜華ちゃんのことは好きだよ」
ボクのその言葉に、桜華ちゃんの表情が一瞬曇った。何か変なこと言ったかな?
異性としてはどうかまだよく分からないけど、友達としてなら確かに好きだし。
ああ、もしかして友達としての好きって意味が伝わってしまったのかな。
よくわからないなあ……。
「ありがと、燈佳くん。それじゃあ、お風呂に行ってくる」
「あ、うん、行ってらっしゃい。二人のパジャマ姿を期待しておくわ!」
ああ、そうか。パジャマも持参だったっけ。
そういえば三人とも、パジャマ、だ?
スウェットとかジャージとかきてるけど、うん、パジャマだ。大きく分類すれば。
緋翠ちゃんはなんというか女子力お高めのパジャマだけど、見られてもいいようにだろうなあ。
江川さんと大橋さんは、どうせココでしか着ないんだからと、気を抜いてる感じ。
でもそっちのほうがリラックスしてるようで、いいよね。
ボクも出来るならそっちの方がいいんだけど、桜華ちゃんが許してくれないからね……。
「なんで、姫ちゃんはそこで肩を落とすの……」
「え、いや、だって。ボクは何度もスウェットがいいって言ったのに、桜華ちゃんが……」
ボクはバッグからパジャマを取り出して見せた。
もうホント勘弁願いたいくらいに女の子女の子したパジャマで死にたい。
「可愛いじゃない。似合ってると思うけど?」
「あはは、アリガトウ……」
「なんで、片言。ああでも、うーん、この前一緒に買い物に行った時から考えてあんまりこういうの好きじゃない感じだよね」
「うん」
煌びやかなのは苦手。
「でも、シェルシェリスのアバター見てると、そういう感じはしないけど」
ゲームはゲームだし。実際自分が着ないから着飾れるわけで。
ボクは曖昧に笑っておくことにした。
「あ、話し込んでごめんね。お風呂行ってらっしゃい」
「うん、行ってくる」
「桜華に悪戯されないようにねー」
「あはは……」
実際家で結構やられてるからなあ。
今更って感じだ。
裸と裸で密着するのだけはまだ慣れないけど、桜華ちゃんなりの愛情表現だと割り切れば大丈夫。
そして、お風呂にやってきた。
施設にあるお風呂は大きい。
ついでに言うと露天風呂付きだ。
「トーカ、オーカ、やっときた!」
脱衣所に入ると、くるにゃんが全裸でいた。
なんというかね、自分の体系に近いくるにゃんの体を見ても恥ずかしいとは思わない。
でもなんだろう……、すっとんとんな体系なはずなのに、色香があるというか……。
腰つきがえっちい。ちなみに毛は生えていなかった。手入れしてるのかよく分からないけど、取り合えず生えてなかった。
「で、くるにゃんはなんでいるの? クラスの入浴時間過ぎたはずだけど……」
「ふふん、みゃーは特別なのー」
「ああ、そう……」
桜華ちゃんが呆れている。
露骨な敵意を見せなくはなったけど、言葉の端々に呆れ色が滲んでいる。
まあいいかと、諦めて、桜華ちゃんは早速服を脱いでいる。
ええと、ボクもこれは諦めるしかないようだ。
借りたシャツを脱いで、スカートとレギンスを脱ぐ。
「ねえ、桜華ちゃん」
「何?」
「やっぱり、胸って女の子も大きい方がいいって思うのかな?」
「……大きくなりたいの?」
「ちょっと聞いてみただけだよ」
自分の体と桜華ちゃんの体を見比べて、緋翠ちゃんの言っていた言葉を思い出しただけだ。
大きくなりたいのかどうかなんてまだ分からない。
「私は、別に。でも少しは合った方がいいかなって。せめてBくらいかなあ?」
「ちなみに、今のサイズを聞いても?」
「Dだけど、最近きつくなってきたから、また買い換えかも」
「そうなんだ」
「やっぱり、大きくなりたい?」
「まだ、分からない」
桜華ちゃんのまっすぐな視線にボクは俯いて答えるしか出来ない。
今ふと、なんでそんなことを言ってしまったのだろうという思いすらある。
悩みを吐き出してしまったから? それとも今暫くは女の子として生きていかなければという強迫観念から? はたまた単純に興味本位から?
分からないけど、なぜか口を吐いて出てしまっていた。
真っ平らってわけじゃないけど、多少の膨らみしかない自分の体を見て、なんかちょっともやっときたのかもしれない。
相変わらずこのもやっとした気持ちの正体は分からないけど、やっぱりちょっと嫌な気分だ。
「そのうちわかると思う。早くお風呂入ろう? 瀬野くんに覗かれる前に」
「ボクは別に、見られても……」
「まあ、私も瀬野くんならいいけど」
「だ、ダメだよ! 桜華ちゃんはダメ!」
突然の事にボクは慌てて止める。
ボクはほら、元々男の子だから、同性に見られるのは別にいいけど、桜華ちゃんは女の子なんだからみだりに男の子の前に素肌を晒しちゃダメだし!
「みゃーは別に男湯に入ってもいいのにゃー」
「ええー……。くるにゃん凄いね……」
「ふふん、君たちとはじんせーけーけんが違うのさ!」
薄い胸を張るくるにゃん。一体この子はどんな経験をしてきたんだろう。
見た目的にボクらと歳は大して変わらない気がするのに。
後地味に頭いいし。知識に技術にボクら以上の物を持っている気がする。
いつか話してくれたりするのかなあ?
「燈佳くん」
「うん?」
「燈佳くんも今は女の子なんだから、一応男の子の視線には気をつけようね。見られてもいいとかって簡単に言ってたら、すぐ路地裏に連れ込まれてレイプされちゃうよ」
「またまた、そんな冗談ばっかりー」
「今はそれでいいけど。いつかは今のその姿の意味に気付くと思うから、その時は思い出してね。今は燈佳くんも歴とした女の子だよ」
からかう調子の一切無い真面目な声音に、ボクは身を竦ませる。
こんなボクが性欲の捌け口になるなんて思ってなかったけど、桜華ちゃんはそう思ってなかった見たいだ。
「忠告ありがとう。でもやっぱりボクにはまだそういうの分からない」
「うん、いつか分かる日が来るよ。さ、お風呂入ろう? 今日は私が髪洗ってあげる」
「あ、うん、ありがとう?」
ボクは残った下着を脱いで裸になると、二人に遅れて浴室に入った。
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