ドキドキバスタイム・後

 広いお風呂にはボク達三人、と思いきや遅れて渡瀬先生が入ってきた。


「うーん、こうしてみると、榊さんってやっぱりちゃんと女の子よねー」


 圧倒的大人の魅力がそこにあった。桜華ちゃん以上だ。

 成熟しきった体。胸も腰もお尻も、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでて、すらっとした手足や、手入れの行き届いてる体。

 流石にこれはボクでもドキドキする。


「でも、恥ずかしがってる姿は男の子みたいで可愛いかも?」

「か、からかわないでください!」

「いいじゃない。どうせ、隣では蓮理と瀬野くんが話を聞いてるからー」

「余計たち悪いですよ!」


 いや、声って聞こえる物なの?


「蓮理-、聞こえてるー?」

『いい大人がみっともなくはしゃぐな』

「やーね。いいじゃない」

『俺の隣にいる健全な男子高校生に毒だ!』


 うわあ、ホントに声筒抜けだよ。

 どんな造りしてるんだろう。

 と、思ってよくよく見れば、浴槽の所の壁が天井から少しだけ隙間が空いてるし、元々一つの空間だったのをわざと二つに仕分けた感じなのかな。


『せんせ、その傷跡なんすか、すげーっすね』

『ああ、これか、嫁と結婚する前に色々合ってなあ。切った張ったの刃傷沙汰だ』


 うーん、話し声が聞こえるってちょっと恥ずかしいなあ。

 向こうの話し声筒抜けだよ。


「ねーねー、トーカー」

「ふあっ! くるにゃんどうしたの、というかボクに体寄せないで!!」

「にゃあぁ、いいでしょ、うれしいでしょー?」


 体を流そうと思ってたら、くるにゃんがボクに跨がっていた。

 変な声は出るし、慌てたせいで椅子から滑り落ちたし。

 正直あんまり嬉しくない!


「嬉しくないよ! いきなり何するのさ!」

「ええー、これでもー?」


 とかいいつつ、密着したボクとくるにゃんの間にボディソープを流し込んで体全体を上下に動かして泡立たせてくる。


「ぬるぬるして気持ち悪いよ!!」


 ふやふやの体を使って、洗ってくれてるんだろうけど、嬉しさよりもくすぐったさが際立つ。

 というか、時折感じる堅さって、これ……。


「むぅ……。なんてこった。トーカがこれで興奮しないなんて……」

「いや、興奮してたのくるにゃんでしょ……」

「おかしいなあ。女の子でも感じるはずなのに! それとも直か直に覚えさせないと駄目か!」


 何か躍起になってる様子で、手をわきわきさせて、ボクに再度襲いかかろうとしてくるくるにゃん。

 流石にちょっと身の危険を感じる!

 というか、一体ボクに何をしようとするの!


「くるみ、やめなさい。隣で蓮理だけじゃなくて、瀬野くんも聞いてるんだから」

「はぁい」


 渡瀬先生が窘めてくれたお陰で、とりあえず窮地は脱したみたいだ。


「ソーププレイ……今度私もやろう……!」


 桜華ちゃんは小声でそんな決意をしないでください。


『くるみは、またやってるのか。で、瀬野、お前はどうした。ははん、さては……』


 鈴音先生が大声で笑いながら、瀬野くんをからかっているらしい。

 一体全体こっちの話を聞いて何があったんだろう?


『いやあ、大体何があったのか予想はついたが、あれは中々いいぞー? でかい乳にやって貰うのもいいが、無い乳にして貰うのも中々』

『一体何の話っすか!!』

『大人の話だ。なあに、お高い風呂場に行けば体験できることさ!』


 お高い風呂場ってあれか、風俗か。

 ああ、さっきのってそこであるプレイの一種なんだ。


「えー……くるにゃん、なんでそう言うこと出来るの……」

「ふふん、じんせーけーけんが違うからね!」

「ああ、そう……」

「ボクは男女関係無く気持ちよくさせてあげられるのさー」

「へー」


 そう言うところはよく分からない。

 でもなあ、うーん、ボクもそう言うのちゃんと経験した方がいいのかな……。


『おー、榊、くるみはホントに男女見境無く食うから気をつけろよー』

「燈佳くんの貞操の危機……! 私が守る!」

「じ、自分の身くらい自分で守れるから!」


 むう……桜華ちゃんと一緒に入る時はそんなに過激じゃなかったのに。

 浴槽で抱っこされるくらいだったのに!!

 先生達は止める気が一切無いし。


「もう、ボク、湯船に行くからね!!」


 塗りたくられたボディーソープをボディタオルで泡立てて、体を洗ってしまってるうちになんで、ボク髪洗われてるの!?

 後ろでもぞもぞしてるのには気付いてたけど。

 まあ、いっか、長い髪の手入れって大変だし、誰かがやってくれるならそれでいいや。


「ありがとね、桜華ちゃん。ついでに湯船に浸からないようにしてくれると助かるー」

「うん、勿論。燈佳くんの髪弄るの楽しいから」


 お湯ざばー。

 シャワーで泡を全部流して貰って、ヘアケアも全部お任せして。

 タオルで髪を結って貰って。


 露天風呂が気になっていたのです。

 今日は天気も良かったし、山間だからいい景色が見られそうなんだよね


 案の定、外は満点の星空。

 星座とかはよく分からないけれど、きらきらと輝く星と、緩く吹く風が頬を撫でる。

 火照った肌に少し冷たい風が気持ちいい。


「あつっ……」


 お湯が熱かった。

 外が寒い分、熱めに設定してあるのかなあ。

 で、衝立付近からガサガサ音がするわけなんだけど。


「どこだったかなあ。確か探す楽しみをってことで、分かりづらいところにのぞき穴作っといたんだよ」

「……いや、先生がそんなことしていいんですか?」

「まあ、見回りの教師が居るときに覗けば停学だが、先生達はわざと早上がりするようにしてるからな。その後なら自由だ。自主性を重んじるって奴だな」

「で、なんで、俺には教えてるんです?」

「んー、まあ、純情なお前ならなあと。あったあった。くくっ、ほら」


 のぞき穴をすぐ見つけたボクは、先生達が見つけるよりも早くそこを見ていた。


「何やってるの?」

「ちょぉ!? 姫さまなんで見てるの? というか、先生分かってるなら止めてよ!? っていねえし!! 姫さまきいて、これは先生に嵌められたんだ! 決して覗くつもりはなく」

「いやあでも、ガン見してるよね。そんなにボクの裸みたいの? 桜華ちゃんじゃなくて」

「ゴメンナサイ……。姫さま綺麗で、目が離せません。笹川さんより見るなら姫さまがいいです」


 ボクがいいって言われてちょっと嬉しかった。

 衝立の下の方に作られた小さなのぞき穴。

 多分ボクの大事なところは見られては居ないのだろうけど、なんだろう凄くドキドキする。

 でも嫌な気は一切しない。もしかして、本当にボク被虐素質があるのかな。いやだなあ……。


「しょうがないにゃあ。マスターならいいよ」

「ご、ごめん。やばい、鼻血でた……。お、俺には刺激が強すぎた!!」


 マスターの目が消えた。

 というか滑って転びそうになったような叫び声が聞こえた。


「天然覗き殺しが居た……。凄いわ、榊さん。悲鳴を上げることなくそれに、暴力に訴えることなく覗き男子を撃退するなんて。ナチュラルキラーねー」

「あ、先生。ボク悪いことしたかな?」

「まあ、思春期男子には毒よね。でもいいんじゃない?」


 何がいいんだろう。

 まあいいかなあ?


「でも、あんまりそう言うことはしないように。女の子がみだりに肌を見せてはいけません」

「そう言う物ですか」

「一応ね。でも榊さんがどういう付き合いがしたいのか分からないから、言うだけで止めはしないよー」


 渡瀬先生も呑気な物で、よく分からないなあ。

 でも、こういうことやったらいけないのは分かった。

 次からは気をつけよう。

 女の子って難しい。

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