巻き込まれて女の子になったボク

来宮悠里

プロローグ

奇跡と軌跡のさきにあったもの

 雪降る日。

 手にはチョコレートと、メッセージを添えた手紙を持って居る。

 手がかじかんでとても冷たい。吐く息は白く煙る。


 まだかな……。


 待ち合わせの時間にはまだ十分時間がある。

 早く来すぎたのだ。


 あ、来た。それだけで胸が高鳴るのが分かる。もうさんざん経験してきた事なのに。未だにときめくって一体どういう構造をしているんだ。


 待ったかと聞いてくる思い人に首を振って答える。

 困ったように用は何かと聞いてくる。

 自分も困った……。覚悟はしているつもりだったのに、そう考えるだけでちょっと頬が熱くなる。


 後ろ手に隠したチョコレートはいつだそう……。うぅ、こんなんなるんだったら下駄箱に入れちゃえば良かった。

 でも、今日はちゃんとするって決めたんだから。


 言葉がつっかえる。目の前の思い人が苦笑している。

 いえ、早く言って楽になれ!

 答えは分かってるんだから、思い人は自分の答えを待ってるんだから――


「これ……バレンタインだから。チョコ作ってきた」


 ち、が、う! そうじゃないんだ。でも、無邪気に喜んでる、嬉しい。

 目の前の好きな人が子どものように笑っている。そんなに喜んで貰えるならもうちょっと気合いを入れて、ケーキとかにしちゃえばよかった。

 ……って違う、そうじゃない!


「それと!!」


 もうここまで来たら、言うしか無いんだ。言うしか無いんだ!!

 胸に手をあて、大きく深呼吸して、ぎゅっと目を瞑った。

 あなたの反応を見るのが怖かったのだ。



「ボク……ううん、わたしは、貴方のことを好きでいてもいい、ですか?」



 これは代理被害を受けて女の子になっちゃったボクが、ボクの好きな人に想いを告げる話。

 その為に歩んできた軌跡であり魔法という奇跡に翻弄された物語。

 願わくばこの後も、良き物語であればいいなって、思ってる――!

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