霊関係の話⑤ 林間宿舎のキャンプ場

 舞台となるキャンプ場ですが、実は知らなかっただけで割と有名なスポットだったらしいのですね。「出る、」という。


 あれは確か中学二年か三年の林間宿舎の学校行事で、N県のキャンプ場に行った時の話です。毎年行う定例行事というわけではなく、その年は確か、お試しか何かでたまたまそのキャンプ場が使われる事になった、というような話を曖昧ながら覚えています。曰く付きですからね、そうでもなければ縁など無かったでしょう。


 女子は6人くらいのグループで一つのバンガローを借り、男子は4~5人のグループでテントを設営する所から始める、という感じでした。

 バンガローは鬱蒼と茂る杉林の合間に点々と建っていて、その杉の木もまた植林用ではないから、すごく大きいものばかりでした。試しに女子で囲んでみると、2人が大きく腕を広げても、手を繋ぎきれないくらいの太さが平均です。もっと太いものも幾らもあります。

 男子はその杉林から少し下った開墾地の広場でテントを張り、張り切れない分は杉の木に遠慮しながらなんとか隙間の土地に設営するという状態でした。

 ざっと3クラス分で、24~5個のテントがずらりと並んでいます。広場を囲むように杉林が茂り、そこに6人用と8人用のバンガローが点在。こちらは壁が木製で屋根はトタンだったような記憶がありますが、あんまりはっきりしませんね、さすがに。


 私が泊まる事になったバンガローもその中の一つで、隣に大きな杉の切り株がありまして、なんとな~くこの切り株とその傍の空き地が気になっていました。

 はい、察しの良い読者さんは「ははぁ、」とピンと来たことでしょう。


 とにかくこの切り株が気になる。その隣の空き地が気になる。なぜかそこだけに花が植えられているんです。鶏のトサカみたいなあの赤い花。よく覚えてるでしょ。

 すごく大きな木だった事が解かるものですから、それが物珍しくて興味が沸くのだろうと思っていました。乗ってみたい気がウズウズするんですが、危険らしく、周囲は何かロープが張ってあるんで近付けなかったんです。

 他の子に話しても誰も私ほど興味を覚えてくれないし……先生には怒られるし。


 テントの設営だの飯盒炊飯だので忙しく、その日の夜は何事もなく過ぎました。さて、翌日の事です。朝っぱらから同室の女子に叩き起こされて目覚めましたが、何か起きたらしく、皆が深刻な顔をしています。

 何事かと思えば、怪我をしてないかと聞きます。どうやら、入り口付近に纏めて置いてあったリュックの幾つかに、血が点々と付いていて、その犯人探しをしているらしかったんです。買ってもらったばかりのリュックに酷い、と言って泣いている子もいました。

 実際に私も見ましたが、泣くほどのものかと呆れるくらいに点々です。それより靴のほうに付いていた血のほうが少し多かった。入り口のたたきに靴が脱ぎ散らかされていたんですが、そっちも数人が被害に遭いました。

 点々自体は小さなものですが、これだけあちこちに点々していたなら、怪我人自身はそうとうな傷をこしらえているはずです。


 ところが、誰も怪我人など居なかったんです。念のために先生にも報告し、周囲のバンガローにも聞き込み調査を行ってくださり、それでも該当者ゼロという事で、その件は有耶無耶になってしまいましたが。

 その時に先生が、そういえばと、変な目撃談を教えてくれました。


 夜中に男子のテントを見回った時の事だそうです。夜も10時を回っていたそうですから、まだ寝ていない男子のテントを見つけては叱って回って、ふと、木の傍に立ち尽くしている男子生徒を独り、見つけたのだそうです。

 すぐにテントに戻るようにと注意をし、一瞬、視線を逸らしたのだそうです。他のテントに目を向け、もう一度その生徒に念押しをしようと向き直った時には、もうその男子は居なくなっていたとか。

 障害物もない見晴らしのいい広場のことです、隠れるようなイタズラを仕掛ける事も出来るはずはない、先生は念のために少し探して、それでも見つからなかった為に、見間違いだったかと、そのまま見回りに戻ったそうです。


 奇妙な事はまだ続きました。二泊三日の林間宿舎ですから、翌日は最後の夜、定番のキャンプファイアーを予定していました。

 テントを設営した広場からさらに少し下った場所に、もう一つ広場がありまして、そこは野外ステージとして利用されているようです。簡易ながらベンチのようなものが広場の周囲に設けられ、中央にはすでに角材が積み上げられていました。

 このキャンプファイアーは問題なく燃え上がり、フォークソングの定番を合唱したり、ミニゲームを行ったりで、盛り上がっていきました。


 宴たけなわ、という頃合いです、急に誰かが騒ぎ始めました。悲鳴が聞こえた、というのです。それも一人や二人が聞いたわけではなかったようで、何人もが騒いでいます。

 キャンプ地には誰も残ってはいない、と先生方が何度も大声で呼ばわっていました。点検もしているし、誰も居ないはずだ、と叫んでいます。

 きゃー、と。私も二度目は確かに聞こえました。微かですが、私たちが宿泊している広場の方から、女の子のような叫び声が聞こえたんです。

 場がにわかに騒然となり、先生方が慌てて二派に別れて行動に移ります。片方はざわつく生徒たちを宥めにかかり、もう片方の数人はキャンプ地に向けて駆け出していきます。

 悲鳴が聞こえたと騒ぐ子と、そんなものはまったく聞こえない、脅かすなと怒る子とで、相乗効果で大騒ぎになりました。


 私はまだ、これはキャンプ場管理の人たちと先生たちとで仕組んだものではないかと疑っていました。怪談話はキャンプの定番ですから。

 血相を変えて走っていく担任の体育の教師の顔は真剣そのもので、とても芝居とは思えませんでしたが。

 奇妙な事は数々ありましたが、私はあの場所に不安を覚えるような気配を一切感じてはいなかったんで、半信半疑でしたね。丑の刻参りらしき釘の跡があったりしたけど、何もなかったんです。穏やかな空間だったから、絶対にイタズラだと思っていました。


 このキャンプ場が実は曰く付きの物件であった事を私が知ったのは、林間宿舎が終わって一週間も過ぎた頃の話です。また別の先生から話を聞いたという友人が教えてくれたのでした。キャンプ場の管理団体が、先生方にも内緒にしていたんだとか。先生は怒っていたそうです、当たり前か。

 そのキャンプ場がその後、どうなったかは私は知りません。私が友人から聞いた真相はこんな話でした。


 もう何年も前に、キャンプ中に嵐に見舞われた生徒たちが居たんだそうです。身動きが取れないで、バンガローに避難していたそうです。

 その夜、不幸なことに隣の杉の大木に落雷したそうです。大人が一抱えしても抱えきれないような杉の大木が折れ、バンガローの一つを直撃したのだそうです。そのバンガローに泊まっていた数人の生徒さんが犠牲になり、亡くなられたそうです。


 普通、学校行事ですからそんな場所を選ぶとは思えないんですが、調べれば出てくるほどの有名なスポットというわけではなかったのか、先生方が迂闊だったのかは、今となっては解かりません。

 そういう曰く付き物件に学校行事で泊まった例はまだあったりしますが、避けようとしても呼ばれてしまう事はままあるので、これは先生方を責めるべきではないと今では思います。


 彼らの冥福を祈り、この話はこれでおしまいに致します。

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