一念発起の結末は……
『フェイク』を書いた時、講評グループ内で批評感想を貰ったところ、この主人公はどうしてこんなに平然と構えているのか、と質問されました。怖がっていないから、ホラーとしては怖くないし、感情移入もしにくいんじゃないか? と。
そうなのかぁ、とは思うものの、霊の気配っていうのは別に怖いとかじゃないじゃないですか。目からウロコの感想で、どうしたもんかと暫らく悩みました。
霊の気配は、怖いんじゃなくって気持ちが悪いんですよねぇ。ざわつく感覚が、なんとも言えない気持ち悪さというか、居心地が悪いというか。これは相手が歓迎してない時の独特の嫌がらせで、好意的な時には居るか居ないかも解からないもんですけど。私の場合。
怖いという感覚は、解からないから危険かも知れなくって怖い、だと思うんだけどなぁ、とアレコレ考えてしまいました。
今はどうだか知りませんが、昔、生駒山頂遊園地というのがありまして……今もありますかね。そこの遊具の一つが、こう、崖っぷちに建てられてまして、錆付いててギーコギーコと危険な音を奏でていたんですけどね、あれに乗って崖っぷちから断崖が真下に見えた時に感じたあの「ぞーっ」が、恐怖の感覚じゃないのかしらと思うのですよ。
はたまた、四国に住まう親戚の人が車で空港へ迎えに来てくれて、これも崖っぷちに張り付いたような側道の細いトコを、猛スピードでお喋りしながら突っ走ってた時に感じた、あの胃の腑が冷たくなるような感じ……あれが「恐怖」ではないんでしょうか。四国の男は剛毅です。そして四国人は車を飛ばします。
恐怖っていうのは、危険信号だと思っていたんですよ。それでいうと、霊障の類は別に危険ではないんですよ。相手がよほどに強いケースだけです、危険と感じるなんてのは。
一度だけ、その手の恐怖で「ここはヤバイ、」と感じた事はありましたが、その場合は本気で身体が硬直してギクシャクとなり、まるで猛獣の檻に放り込まれたような冷や汗が背中に感じられたもので、あれは命の危険と同種だと思うんです。
それで言うと、そんなのは滅多とあるもんじゃないし、作中程度のケースでは逆に大袈裟だろうと思ったんですよねぇ。
首を捻りつつ、紆余曲折に試行錯誤を繰り返しながらも、どうにかこうにか応募作品は書きあがりました。人によって感じ方の違いが如実に出る事柄に手出ししてしまったかな、と思いつつ。
ちなみ、「もう二度と来るもんか!」と思った猛獣の檻ですが、東京池袋のどっかです。駅を出たオフィス街の一角。よく皆あんなトコに居られるなぁと。
話がずいぶんズレ込みました。
私が応募しようと思ったのは、ピクシブで開催される事が決まった『ミライショウセツ大賞』でした。それまでの私は「やるやる詐欺」の状態で、一向に行動はしていなかったんですが、今回は本気で取り組みました。
本気で構想から練って、読者のリサーチや戦略を立てて書いたものが、こちらカクヨムにも置いている『フェイク~探偵はいない~』でした。
未だにこの大賞、発表がないんですけどね……。(ドウナッテンダー)
最初は24万文字だったこの作品、改稿に改稿を重ねるうちに30万文字を軽くオーバーする大作になりました。削れば良いと思われるかも知れませんが、無駄なエピソードなど入っていません。最初の24万文字が、ほとんど描写を省いたもので、漫画でいう絵コンテの状態だっただけなんです。ちゃんと下描きを入れてペン入れとトーン貼り、効果を入れたら倍になるのは当たり前という話だったんです。
まぁ、種明かしの際に回収すべき伏線の回収し忘れが発生している可能性は高いんですが……これだけ長いとなかなか精読してくださる読者も居なくって。オマケに完全に文芸系だし。ラノベではない、という点をどう取られるかが不安でした。
この作品、主人公が記憶喪失という点は決定していたのですが、そこに霊能力者という設定を付ける予定はまだありませんでした。リサーチしたところ、当時はまだ記憶喪失とか霊能者というキーワードは、なろうでもピクシブでもほとんど見なかったんで、これなら斬新に見えるだろうと思ったものでした。
なんだか作品発表後に急激に増え続け、あんまり目新しい設定とも言えなくなってしまったのが残念です……。
この霊能力、他作品との差別化の為に何が使えるかと頭を悩ませて、自分に書けるもので他人にはあまり書けないものを、と考えて付けたものでした。モノホンの霊能者はそんなには居ないだろう、と目論んでの事だったんですが、割と居たんですねぇ。大ハズレ。
時間が経つにつれ、記憶喪失も孤島舞台も霊能力も探偵も、どんどん陳腐になっていきまして、焦りばかりが募っていきました。こんな事なら公募に出せば良かった、まさか企画が音沙汰無しになるなんて、と頭を抱える事となったのでした。
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