霊能力者の悲劇

 こういう経緯がありまして、私が本気でプロの小説家を目指そうと思ったのはほんの二、三年前の話だったりします。執筆歴自体はかなり長いんですけどね。

 どうしてあんな、たった一言に何年もの間縛られていたのかと思われるかも知れません。けれど、あの一言が正しく当たっているという事は他でもない私自身が悟ってしまっていた事だったんです。私にも僅かながら力があったんですよ……。


 ファーストコンタクトは同じく高校生時分でした。当時、ノストラダムスの予言が何度目かのプチブームを起こしており、世間では終末思想が吹き荒れていました。いや、一部の世間だけかも知れませんが。

 今でいう、東京直下型地震だとか南海トラフ地震とかで人々の恐怖を煽るような噂話ですね。それの世界規模バージョン。懐かしんで頂ける方もいるでしょう。


 この予言、1999年に人類は滅亡するとか言うんですけど、私も闇雲にそれを怖れて戦々恐々としておりました。そしたら……見かねたもんですかね、突然、あれはそう、食堂でお昼ご飯にうどんを啜っていた時です。

「あれはただの脅しで当たんないからー。」

 そんな声が聞こえた気がしました。


 これが、私がその後に「後ろの神サマ」と呼び習わすようになる、謎の存在の第一声でした。この存在が度々語りかけてくるのか、それとも複数の存在が気紛れに話しかけてくるのか、定かではありませんが、唐突に、私の思考には別の誰かの思考が紛れ込むようになりました。


 よくある霊能力者のリポートにあるような、目で視えるだとかの力はないんです。この事はまた、自身が渾身篭めて書いた賞企画への応募作品にも生かされました。

『フェイク~探偵はいない~』の主人公、縣恭介の霊能力の描写は、ほとんど私の実体験からです。

 ところで、当時に聞かされたこのノストラダムスの種明かし、その後に念押しをされているんですよ。絶対に喋っちゃダメだよ、と。私は律儀にこれを守り、問題の年が過ぎるまでたった二人にしか喋っていません!(喋ったんかい、)

 きっと世の霊能者たちも、私と同じように固く口止めされていたんでしょうねぇ、誰もアレを見抜けなかった事になってますもんね。


 もっと酷かったのは東北地震の顛末です。あれで私は人間不信ならぬ神サマ不信に陥ってしまいました。なので私が生んだ探偵、恭介も言うんですよね。

「神は決して人間の味方なんかじゃない。」

 と。


 ものすごくお気楽な口調でこう言ったんですよ。

「次は東北。分割払い。」

 そんな口調で言われたから、分割だって言うから、きっと大した事にはならないんだな、と勝手に思ってしまいました。そうして、当日のニュース、次々と入る続報で、打ちのめされました。今でも涙が出そうになります。辛い。

 お気楽な口調を信じて、のほほんとお気楽でいた自分が未だに許せない気持ちで、あれは確実にトラウマと化しました。

 ちゃんとメッセージを読み取れていなかったんですよね。まぁ、無力な私が正確に読み取れたとして、いかほどの事が変わったのかとも思いますが。

 神サマも気紛れで、教えてくれたり教えてくれなかったりしますし。教えてくれた時も「次は南、そのうち。」なんて言って、数週間後に熊本地震でしたし。何の役にも立ちゃしない。ちなみに、次は東京だそうですよ。本当かよ。


 思い込みの激しい性格なので、ただの妄想かも知れません。声が聞こえたような気がしたり、気配が感じられたような気がしたり、天井に顔が大写しになっていたり。それらは皆、私が妄想で生み出したものかも知れません。解かりません。

 視える力ではないので、まったく自信などありませんもん。


 こんなだから、私にはいつでも諦観があります。

 まぁ、泣き言ですけどね。



 6月9日、追記で。

「浅間山」としつこくイメージが出てきます。浅間山ってどこだっけ?

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