第一三話

「そんな酷い生活は、あっさり終わったわ。ある日突然、仕事をしている私のもとに警察が乗り込んで来て、母親は逮捕され、私は保護された。後で判った事だけど、母親は元々、ある警察幹部が裏で取り仕切る売春グループに属していたの。その警察幹部が別件で逮捕され、売春の事が発覚した為、私は、四年間の娼婦生活を終える事が出来た。でもこの四年間は、どんな痣よりも濃くて、どんな傷よりも痛く、どんな汚れよりも汚い、私の人生の基盤になってしまった。」

少女の話を聞きながら彼女は、一つの変化を感じていた。話をしている少女が、少しずつ大人びていく瞬間を、少女の口調や少女に触れている部分から感じ取れた。それは母親役に徹している彼女にとって、喜びと寂しさを同時に感じる奇妙な感覚を芽生えさせた。そしてそのまま、少女の話を聞き続けた。

「それからの私は、少しずつ行動や考え方が男性じみてきた。今思えば私の人生の基盤の上に、もうあの頃に戻りたくないという気持ちが重なって、そうさせていたと思う。けどそのおかげで、私は強さを手に入れた。進化と言ってもいい。同性愛者になった事と狭い人間関係しか創れないという副作用があったけれど、些細な事だった。進化した私は、男性よりも女性のほうが、世知辛い世の中に対応しやすい事を悟った。付き合う人間は、そういう女性の中から、私に無いスキルを持っはている女性を選び抜き、その人達ととても深い繋がりを創った。そして私は、それらを護る為に、忌まわしい過去を利用した。」

利用。思わず少女は、口にしてしまった。それを聞いた少女は、説明した。

「娼婦時代、元締めだった警察幹部の接待として、私は何人かの社会的地位が高い人の相手をした。その時のネタを使い、その人達を強請ったの。意外とみんな従順に言う事を聞いてくれたわ。・・・今思ったんだけど私、高級娼婦だったのね。」

そう言うと少女は、フフフと笑った。その笑い声を聞いた彼女は、心地良さに身震いをした。そして彼女は、改めて自分が腕の中にいる人間に惚れている事に気づいた。あの笑いは、恐らく他の人が聞けば恐怖を感じるかも知れない。しかし少なくとも自分には、魅入られる笑いで、いつまでも聞いていたい魅力的な声だと、彼女は感じていた。

「どうしたの?」

彼女は、呼びかける声にハッとした。そして彼女は、少女がいつの間にか元恋人に戻っている事に気づいた。その姿を見て彼女は、思わず顔を赤らめてしまった。それを誤魔化す為、彼女はつい、自分が自殺した夜の事を聞いてしまい、大いに後悔した。案の定、元恋人の表情は険しくなった。しかし元恋人は諦めた表情をし、「約束だからね。」と呟いた後、あの時の事を語り出した。

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