第一二話
「私は、娼婦の娘だったの。」
少女は、涙ながら過去を話し出した。彼女は話を聴きながら、母親が幼子をあやすように少女の頭をなで続けた。正直、彼女はまた驚いていた。声に出して、驚きを表現したかった。少女の語り出しは、彼女には衝撃的な語り出しだった。しかし彼女は、母親に徹した。もしここで驚いたら、折角信頼して話してくれる少女を裏切ると思って、彼女は優しい母親に成りきった。その甲斐あってか、少女は、話し続けた。
「中学二年の時、私は見知らぬ男に強引に処女を奪われた。その後、6人の男に輪姦されてしまった。そしてそれを斡旋したのは母親で、その日から私達親子は、娼婦とそれを取り仕切る元締めになった。それから四年間、私は腐海の人魚として生きた。男達を床で喰いものにする術は、その時に覚えたもの。・・・今思えば、十代半ばの女の子の生活じゃないわね。」
強姦。輪姦。未成年売春。母親の裏切り。話を聴いている内に彼女の驚きは、怒りになっていた。特に母親の裏切りには、彼女は今まで感じた事ない真っ暗な感情が芽生えた。彼女にとって母親は、護る存在。家系、家庭、家族を護る存在として位置付けていた。だから少女の母親の行為は、決して認められなかった。
「痛い。」
少女の呟きで彼女は、ハッとした。いつの間にか感情が、彼女の手に現れて、行動が少女を抱きしめから掴み取るに変わっていた。彼女は「ごめんなさい。」と少女に謝ったが、少女から手を離すどころか、力を緩めようとはしなかった。今離したら少女が離れる。もう少女に逢えなくなる。少女の力になれない。彼女の中に芽生えた不安が、少女を離さなかった。
一方少女は、優しい表情をしていた。痛みはあった。手を払いのければ直ぐに離れる事は出来るが、少女はそうしなかった。なぜなら少女は、彼女が優しくて、愛情深い人だと知っていたからだ。そして今、少女の母親に怒り、少女を護ろうとしている事も察していた。少女は、彼女に言った。
「私の為に怒ってくれてありがとう。だけど、もう心配ないから。」
その一言で、彼女は力を緩めた。その後、彼女は猛省すると同時に、再び母親役に戻っていった。そして、つくづく彼女の中の少女の存在の大きさを知った。彼女は再び少女に「ごめんなさい。」と言って少女を離そうとしたが、今度は少女の方が、彼女を離さなかった。少女は「このままで良いよ。」と言って、彼女に抱きついた。彼女はそれに従い、少女を優しく抱きしめた。お互いは、それぞれ相手を確認するように、相手の身体をしばらく擦りあい、そして一通り擦りあったら、少女は続きを語り出した。
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