第九話

「3ヶ月前、私は複数の男性に強姦され、そして現在、妊娠しているの。」

!!!

衝撃の告白だった。彼女は、元恋人が如何なる話をしても平静を保つつもりだった。しかしこの告白は、彼女が受け止めるには衝撃が強すぎた。強烈な睡魔が、いきなり彼女の頭を鷲掴みにして激しく揺さぶった。その揺さぶりに彼女は根負けしそうだったが、自分自身を奮い立たせて睡魔と戦った。もしこのまま睡魔に身を委ねたら、もう元恋人と会えなくなる、と彼女は思っていたからだ。

その姿を見て元恋人は、悲しくなった。今の彼女の苦しみは、明らかに自分が与えたもので、しかも彼女はそれと戦う術を何一つ持って無いのに、彼女なりに抗っていた。元恋人は、知らず知らずに涙が溢れ出ていた。その雫の一つが、彼女の頭に落ちた。それが彼女を掴んでいた睡魔の手が、彼女を離すキッカケになった。彼女は、元恋人の告白を素直に受け入れる事が出来た。彼女はおそらく初めて、他人が辛い思いをしている事を悟った。彼女は生まれて初めて、他人を護りたいと、心から望んだ。彼女は、再び元恋人を抱きしめた。

彼女のこの行動に、元恋人は明らかに違いを感じた。最初に身体に抱きついた時には、明らかに救いを求めてる願いと離したくないという望みだったが、今の彼女の抱きつきは、明らかに他人の盾になる、何があっても護るという強固な意志を感じた。それを見越したように彼女は一言、アナタの我が儘を聞かせて、と元恋人に言った。元恋人は、

「話の続きを聞いて欲しい。」

と言い、彼女は、無言で頷いた。

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