第七話

彼女は、朝の陽光に目を覚まされた。ハッキリした光が、ハッキリしていない寝起きの彼女を無理矢理活動させようとする。それに抗おうと彼女も悪態をつくが、結局彼女は負けて上半身を起こして長い伸びをした。そして伸びをした事により、彼女は昨夜の出来事を鮮明に思い出した。それと同時に、ここが別の場所である事も気がついた。彼女は、冷静に記憶の糸を辿った。

失恋、自殺未遂、絶望、混乱、殺人未遂、救助、失神。一通り思い出した彼女は、自分が平静である事に安堵した。その時、彼女はハッとした。本当に死のうとした。本心から死にたいと思った。なのに何故、安堵してしまった。生きるのが辛過ぎて辛過ぎて仕方ないのに、何故、安堵してしまった。自分は自分に対して嘘をついていたのか。

彼女は、頭を振った。少なくとも昨夜は自分の心に従って行動した。けど今朝はその心と正反対の行動を無意識にしてしまった。彼女は、また頭を振った。自分の事さえも解らなくなってしまい、自分を取り戻すため頭を振り続けた。やがて彼女は、頭を振り続けた疲れとその事によって生じたふらつきでまたベッドに倒れ込んだ。その弾みで上がった腕に、彼女は包帯が巻きつけられているのに気づいた。そしてそこは、昨夜拘束されていた時にベルトが巻きついていたところだった。彼女は、自分の身体を確認した。すると両腕や両足、さらに胸やお腹にも包帯が巻きつけられていて、いずれもベルトが巻きつけられていたところと重なった。その包帯を見た彼女は、昨夜助けてくれた医師の事が頭に浮かんだ。その流れで彼女は、医師について推理してみた。

看護士は言っていた。向かいの部屋に医師が住んでいると。それは全くの偶然だと、確信を持てた。現在の部屋に引っ越して来た時、既にそこには住人がいて、今日まで引っ越し作業が行われた形跡がない。だから、ストーカー等の類ではないことは間違いない。しかし、もし看護士の言う通りなら、医師はどうやって部屋に入ってきたのだろう。仮に建物を管理している会社に連絡し合い鍵を持って来てもらったとしても、時間が掛かりすぎる為、いくら優秀な医師でも助けるのは無理なはず。それに何故医師は、嘘をついたのだろう。

「助けたのは、君の知人と名乗る男性・・」

いない人間を仕立てた目的は何か。その理由は、医師が何か隠しているからだ。彼女は口に出して、そう結論つけた。

「違う。」

不意に彼女の言った事を否定する声が飛んできた。彼女は声が飛んできた方を見てみると、部屋の入口に数人の制服を着た警察官がいた。その警察官に混ざって、一人背広を着た人物がおり、その人物を見て彼女は驚いた。そして大粒の涙をとめどなく出した。彼女の本当の希望が、叶ったからだ。

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