第伍話

看護士は、まず自分の正体を明かした。

「僕は、アンタが恋人と慕う女性の実の弟だ。と言っても、随分前に両親が離婚をしたから、戸籍上は赤の他人なんだけど。」

看護士の話を聞いて、彼女は思い当たる節があった。以前、恋人と家族について話をしていた時、恋人の家族四人は散り散りになりもう逢えないかもしれないと語っていた。その時彼女は、なぜそうなったか知りたかったが、触れてはいけない部分と察して、無理矢理話題を変えてオロオロしてしまった。その時の恋人の笑顔が何気に甦り、彼女は少し微笑んでしまった。それが看護士の癪に触れ、彼女の胸ぐらを掴み強引に彼女の身体をベッドに押し込んだ。

「何がそんなに可笑しい?。」

看護士は、また顔を赤くして彼女を問い詰めた。彼女は今思い浮かんだ恋人の笑顔と、恋人が家族の話をしてくれた事を看護士に言った。その時、看護士の力が一瞬だけ少し緩んだように彼女は感じた。そして看護士は、具体的に聞き込んできた。彼女は正直に、踏み入れてはいけない領分だったからそれ以上は聞いていない、と答えた。彼女の回答を聞いた看護士は、彼女の胸ぐらを掴んだ手を更に力を加えた。その為彼女は、だんだん息苦しくなり咳き込むようになった。彼女の咳が聞こえているにもかかわらず、看護士は力を抜かなかった。むしろ看護士は、喜びを感じている表情をしていた。その表情を見て彼女は、看護士の話を益々信じる気になれなかった。記憶の中の恋人の笑顔と今目の前にいる看護士の表情には、一切重なる部分が見当たらなかったからだ。彼女は苦しみながらも、看護士に嘘つきと言った。

「それは、姉の事だ!。」

そう彼女に言い返すと看護士は、掴んでいた彼女の胸ぐらから首に変えて絞めだした。しかも今まで以上の力を出して、首の骨を握り潰すように彼女の首を絞めた。その為彼女は、白目をむき口から泡を吹き出した。しかし何故か彼女は、意識を失わなかった。だが、それが余計に彼女を苦しめた。首に生暖かい感触と何かが当たる痛みと喉の空気が詰まる苦しさが一気に彼女の脳内に達した為、彼女は失神という逃げ場を無くし、苦しみを実感させられた。そして看護士は、そんな彼女の状態を気にも止めず、自分の満足感を得るように、彼女の首を絞めながら語り出した。

「教えてやるよ。アンタが知りたかった事も知らなかった事も知りたくなかった事も、全て教えてやるよ。」

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