第三話
彼女は、目を覚ました。始めは周囲が闇だったので自分の居所が判らなかったが、頭が覚めていくにつれ、ここが病院だと気付いた。それと同時に、自分の悲惨感も蘇った。
自分が恋人に捨てられた事、絶望し自殺した事、その自殺が謎の男性の手によって阻止された事。挙げ句の果てに見ず知らずの看護士に説教を受けた事。それらが彼女の人生の全ての幸福を潰して、彼女の心の中心に居座りついたように、現在の彼女には思えた。この先どんな幸福な出来事が起こったとしても、この悲惨感は決して拭う事は出来ないと、現在の彼女には思えた。このまま生きていても拭えない悲惨感を拭い続けて一生を終えると、現在の彼女には思えた。そして彼女は絶望を自殺前より実感していき、再び自殺を決心した。
彼女はベッドから起き上がろうしたが、この時初めて自分が拘束されている事に気付いた。口には猿ぐつわを着けられ、両手首と両足首それに胸とお腹にそれぞれ皮のベルトが巻き着けられて、ベッドに固定されていた。彼女は拘束を解こうと色々試してみた。強引に引き千切ろうと身体を起こそうとしたが、彼女の力ではベルトは何も反応しなかった。猿ぐつわを噛み切ろう口を色々と動かしてみたが、切る事はおろか歯を猿ぐつわに引っ掛ける事さえ出来なかった。ベッドごとひっくり返そうとしたが、ベッド自身も床にしっかり固定されていたので動かせなかった。こうして数十分、彼女は拘束と格闘してみたが、状況を変える事は出来なかった。疲れてしまった彼女は、放心状態で天井を見ていた。すると目の前の天井が滲み出し、こめかみの辺りを涙が次々とつたって行くのを感じた。
彼女は思った。自分には、もう自由なんてない。自殺どころか今流れ続けている涙さえ拭えない。もう心身ともにくたびれてしまった。散々世の中に振り回された。なのに何故、自分自身に価値なしと烙印を押したのに、世の中は自分に価値があると思わせる。何故、自分で人生を終わらせた人間に、世の中は明日を与える。何故、世の中に迷惑を掛けてないのに、世の中は自分に迷惑を掛ける。何故、世の中はここまで無愛想で無慈悲で無感動なのに、自分は世の中に負けてしまったのか。
涙が、さらに溢れ出た。涙を流しながら、彼女がいままで積もらせた悔しさが、彼女の内面に滲み出した。いままでの世の中と自分の関係に対しての悔しさとその関係が改善出来なかった自分に対する悔しさが、彼女の心を苦しめて涙を出させ続けた。もう自分の見るものは、全て涙で滲んでまともに見ることが出来ない。だったらもう視力なんか無くしたほうが、これからの自分には良い。そう彼女が思った時、彼女の視界が何かに遮れ本当に何も見えなくなってしまった。
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