度胸のある怖がり

「わっ!」


 心臓が飛び出しそうとは、よく表現したものだ。

 私は驚かされるのが苦手だ。

 いや、苦手なんて言葉では済まされない。

 確実に寿命は縮んでいるだろう。

 女の子らしい、高くて可愛らしい声なんて出やしない。ガチで野太い声で驚いてしまうので、驚かせたほうもびっくりして引いてしまう程なのだ。

 だから、街で私を見かけても、そっとしておいてほしい。物陰に隠れて待機しないでいただきたい。


 私は生まれつき怖がりだったわけではない。

 むしろ人が恐れるようなことを進んでやる人間だった。

 男の子に混じって、誰が一番高くから飛び降りれるか競ってみたり。

 絶叫マシンに率先して乗ろうとしたり。

 愛読書が心霊写真の本だったり。

 それはなぜか。

 そのほうが、目立つからである。


 小学校の宿泊学習は、キャンプだった。夜にはキャンプファイヤーを行い、締めくくりは肝試し。火を囲みながら踊っていると、一人の女の子が肝試しを恐れて泣き出した。

 ちょっと話は逸れるが、私は幼い頃から、ほんの数秒目を見開いたり風を当てるだけで涙が出せるという特技の持ち主だった。

 一人泣き出すと連鎖が始まり、次々と泣いて怖がる女の子たち。私は以前も書いたとおり男勝りを売りにしていたので、弱っちくて情けない子たちだとバカにしていた。特技の嘘泣きを披露し、「見て見て、私も泣いてるよ~(笑)」なんて言いながら。

 いざ本番が近づくにつれて、女の子たちは腹をくくってすっかり泣き止んでいた。もしかしたら私以上の嘘泣きの達人だったのかもしれない。

 しかし私は嘘泣きしているうちに感情まで引きずられてしまい、なぜか一人だけ出発のその時まで大泣きしてしまっていた。そこを運悪く写真に撮られ、小学校の卒業アルバムに晒されるという拷問を受けるハメになったのだ。


 他にも、旦那の兄とその彼女と旅行へ行った時のこと。義兄は海外の観光地に置いてある絶叫マシンを見て、「乗ってみたい」と言い出した。

 彼女は「絶対無理」と言い張り、旦那もまた断った。

 一人寂しく乗らせるわけにはいかないと、私は同乗した。

 ホテルへ帰宅後、死ぬほど吐いた。翌日、楽しみにしていた観光へも行けず、一人きりで一日中部屋で過ごすことになった。


 こうして大きく出ては痛い目に合い、今はなるべく怖いを公言するよう心掛けている。

 ちなみに昔はどんな高いところでも平気だったというのに、今は自宅のバルコニーから下を覗くだけで足がすくんで動けなくなるようになってしまった。家は七階。確かに高いのだが、たまに窓の横にあるベッドに寝ている時に、ふっと高さを意識してしまい硬直してしまうこら困りものだ。


 人に求められると、恐怖さえも超越してしまうB型は、内心傷だらけなのだ。

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