4.博士のタイムマシン
「ついに……遂に完成したぞ! タイムマシンが!」
毒田博士が雄たけびを上げる。
ここはとある研究所。そこには卵型をした、ボタンの沢山ついた不思議な機械が置かれていた。
「やりましたね! 博士!」
側にいた若い助手・足須も、拍手をしてたたえる。
「これから何回も試験運転を繰り返さなくてはならないが、20年後には実用化され世に出ることだろう」
博士は胸を張る。
毒田博士は卵型のタイムマシンに乗り込んだ。
「早速実験してみよう。時間は……そうだな、20年後の未来がいいだろう。このタイムマシンが世に出ているか、確認するのだ」
「頑張ってください!」
毒田は、足須の応援を受け、意気揚々と20年後へと旅立った。
卵型タイムマシンは、20年後の研究所の前に着陸した。
「ここが20年後の未来か。今とさほど変わっていないように見えるが」
毒田はキョロキョロと見回し、研究所の郵便受けを開けた。するとそこには、20年後の日付が書かれた新聞があった。
「良かった! やっぱりタイム・トラベルは成功したのだな!」
そういってふと新聞の一面を見ると、見出しに大きくこう書かれていた。
”足須博士、ついにタイムマシンの実用化に成功!”
「ん? どういうことだ? なぜ助手の足須がタイムマシンを開発したことになっているのだ?」
新聞を読んでも、タイムマシンの説明が書かれているだけで、その辺の経緯は詳しく書かれていない。
毒田博士は考える。ひょっとして、足須の奴が自分の研究成果を横取りしたのだろうか?あいつは実家が足須グループという巨大企業を経営していてで金持ちだと聞いた。その有名企業に後押しされて、タイムマシンをさも自分の開発したもののように世間に向けて発表する。あり得る話だ。
毒田は現代に戻った。そこには、笑顔で出迎える足須の姿があった。
「毒田博士! 上手くいきましたね! どうでした?20年後の未来は!」
毒田はその笑顔を見て、胃がムカムカしてきた。研究を盗んで功績を横取りする気でいる癖に、しらじらしい奴だ。
「ええい、うるさい! 貴様なんぞもう知るか! 足須、貴様は明日から来なくていい!クビだ、クビ!」
「えっ、いきなりどうして!?」
うろたえる足須を研究室から追い出すと、毒田博士は再びタイムマシンに乗り込んだ。
「さて、未来はどう変わったかな?」
未来についた毒田は、再び研究所の郵便受けから新聞を取り出した。20年後の日付だ。
毒田は、一面の見出しに目をやった。
”足須博士、亡き恩師の後を継ぎ、ついにタイムマシンの実用化に成功!”
何だと!? まさかこの「亡き恩師」というのは自分のことではあるまいか!? 毒田は、大慌てで記事を読んだ。するとそこには、こんなことが書かれていた。
”毒田博士が実験中爆発に巻き込まれて亡くなった、あの不幸な事故から20年。あれから20年後、当時助手であった足須博士が毒田博士の遺志を受け継ぎ、ついにタイムマシンを完成させた。
「どういうことだ? 私が爆発に巻き込まれて死ぬだと?」
そう呟いた毒田博士。
その時、タイムマシンがゴウン、と大きな音を立てた。そして周囲に大きな爆発音が響き渡った。
・ ・ ・
その様子を、じっと研究所の窓から眺めていた男がいた。弟子の足須だ。彼は悲し気にその様子を眺め、首を振った。
「20年前のあの日、私はあなたに何の理由もなく研究所をクビにされました。しかしながら、そのタイムマシンには重大な欠陥があったんです。そのことに20年前の私は気づいていましたが、あなたにクビにされてしまったために、そのことを指摘できず、その結果、あなたは死んでしまった。非常に残念です。」
しかし――足須は思う。あのタイムマシンの理論はそもそも足須が考え付いたものだった。その理論を、毒田は応用しただけなのに、さも自分の功績であるかのようにしていた。
そのことを遅かれ早かれ暴露し、博士の地位を自分のものにしようとしていたのだが、思いもよらぬ幸運で毒田は勝手に死んでくれた。
「人生何が起こるか分からないものだ!」
足須はモクモクと上がる煙と、タイムマシンだった何かの残骸を見ながらそう言ったのだった。
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