第17話

 無論、何らかの社会的影響を考えて伏せられていたのだろうが、そんなことはニュースでも週刊誌でも取り上げられておらず、初めて耳にする話に、頭を整理しようとタケはしばし考える。

「…つまりクサを根こそぎ奪った時点で初めて、システムの許容値を越えるように、計算されていたということですよね」

「そうとしか考えられねえんだよな。爆弾自体は、多少の頭があれば作るのはそう難しくない。だがそれに、火薬の量や燃焼方向などの緻密な計算を組み込める人間は少ねえ。そんな腕を持つ爆破犯が犯行声明すら出さず、金儲かねもうけを目的とするわけでもなく、組のクサ畑なんざ狙ってもしょうがないよな?バレりゃあ確実に追われる危険を冒してまでやるには、メリットがなさすぎる」

「…確かに、そうですね」

 目的は不明でも真実そんなことが可能なら、計画を立案した者は凄まじく頭の回る人物だ。

 そんな人間が己の得になどならぬことを理解していなかったと思えない。

「実は、川内ケミカル含め、テンくんが先に挙げた富山、埼玉、群馬にしても、すべてクサの種保管、パッケージ製作や、完成品の隠し場となっていたところでした」

「そんな裏があったんですか?それじゃあ必然的に、すべて同一犯の線が濃厚になってきますよね」

「当然、僕たちだってそう思ってるけど、実際は断定できてないんだ」

開の声に驚いていると、真也がため息混じりに呟いた。

「証拠はなし、ですか」

「そういうこと。指紋どころか侵入の痕跡さえなし。正直、爆弾の材料に使ってたものはあまり変わらないんだけどね。製作過程や仕様というか、つまり特徴が皆違ったんだよ。だから尚更同一犯って確信が持てないんだ。ただ、作りの緻密さから見て、十中八九同一人物の仕掛けたものとしか思えないんだけどさ」

「六年前に爆発物が仕掛けられていた場所はすべて、坂田組系列、麻川組の、しかもクサに関連する施設でした。ですから、シンくんの言う通り、犯人側の狙いとしてはそれを潰す目的があったのではないかと、そこまでは当時から見当をつけているのですが」

 タケは目を瞬かせた。

 ハッパ、チョコ、ハシシュ、グラス、リーフ、クサ。

 今時の若者だって、テレビやマンガなどで一つや二つは見聞きしたこともあるだろう。 

 だが、そんな言葉であってもおっとりとした雰囲気の開の口からもたらされるのは、なんだか不思議な感じがした。

「麻川組はキャバクラなども細々と経営していましたが、昔から薬が中心でした。当時、組内でも出世の最有望株と言われていた英才、栗橋 ひろむが預かっても、暴力団への締め付けが厳しい時勢的に、リスクを思えば考えられないほど、シノギは薬一本に絞っていました」

「英才なのに薬一本?組の有望株と言われるような人間が、そんな計算もしなかったなんて信じられないんですが…」

 目を向けると、開が頷いた。

「その点は当時から妙だと言われていた部分です。彼の頭ならもっと実入りのいい仕事を見つけられていたはずですから。実際、麻川組に来る前は株などでのロンダリングを得意としていたようですし。麻川組は小さな事務所でしたし、川内ケミカルの事件後は案の定、急速に屋台骨やたいぼねが傾きました。三か月後には事実上消滅の道を辿たどっています」

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