第16話
「わかる気がしますよ。デパートやショッピングセンターは、独特の匂いがするところも多いですから」
開の声に頷きながら、華枝が真也を振り返る。
「化粧品売り場なんてカオスだものね、シンさん」
「まあ、化粧品フロアはちょっと特殊なんだろうけどさ。あのビルは、たまにご飯食べに行ったりしても、強い匂いが染みついている店とかは少ないよ。前のテナントのにおいも、残りにくくなってるみたいだよね」
これが特能の特徴なのかもしれないが…タケは先ほどから、驚きと同時に不思議に思っていることがあった。
体育会系の多い警察では、ことさら厳しいと言われている上下関係も、ここでは先輩だから言うのをはばかるなど意識する様子もなく、皆自由に発言を交わしている。
こんな雰囲気の部署は初めてだったが、やはりトップの人柄によるところが大きいのだろう。
全然捉われてなさそうだもんな…言葉にしていたなら失礼極まりないことを思いながら、何気なく視線を向けたタケと目を合わせたテンは、口の端を上げて肩を竦めた。
「…とまあ、そういうことなんだな。那智が説明したように、あのビルは特殊かつ強力な空気清浄システムってやつを備えている。クサ育てるにしても、ニオイなんざわかる奴にはわかるもんだ。化学研究をやってる組織なら、電気を食うのは当然だろ。川内ケミカルはいい隠れ蓑になってたわけだ」
なるほど。
言葉を理解すると同時に、タケは別の部分にも納得する。
誰かが横道に逸れるような話をしても、さりげない一言で正しい方向へと修正するテンがいるからこそ、特能はうまくまとまっている部署なのだろう。現に、気ままな発言を繰り返していたメンバーたちも
「換気もできて、年中電気を用いても怪しまれずにいられる、都合のいい場所なんてそうそうあるわけがないですもんね」
「そういうことだ」
テンの言う通り、オーナーの山野からの協力体制含め、
「んで、ここからがメインになる。川内ケミカルの爆破は、クサ畑と種の保管がされていた研究室の一部だけを見事に吹っ飛ばし、煙は、ほとんどが特製の空気清浄システムを経由して放出。排煙で使い物にならなくなったフィルタはすべて検証の時に取り上げているし、勿論ラリった奴もいない」
「たまたまそうなったということはないんですか?」
「川内ケミカルのクサ畑と種は、時間差で爆破された。畑の燃焼、スプリンクラーが作動、再び種保管庫燃焼、スプリンクラーが作動したって具合だ。その時点でようやく、上の階へ多少の煙が漏れて、ビル自体の火災警報装置が作動した」
「それも、偶然かもしれませんよね」
「世の中のたまたまっつータイミングが重なり続けるのが、どれだけの確率で起こり得るのかも問題になるよな。なあ、那智?」
「確率以前の問題ね。その火災では、一瞬のうちに畑の上だけを、這うように炎が燃え広がって行ったという証言がある。後で当時の報告書は確認してもらうとして、現場検証の結果を口頭で説明しておくと…当時クサ畑にあったものすごく特殊な条件が揃った上でなら、その現象は決して不可能ではなかったという結果が出ている」
「ものすごく特殊な条件?」
「栽培室には生育補助のために、酸素と二酸化炭素を制御する装置が備えられていたのだけれど、火災時には栽培室の酸素濃度が、モニターには異常が出ていなかったものの、通常では考えられないほどに上がっていたことが後でわかった。そしてクリーン給排気システムが異常を起こし、一時的に真空に近しい空間となったことで火が消えているの」
「それ、誰も気がつかなかったんですか?中の人たちが調子悪くなったりとかもなく?」
「夜勤交代の際に見回れば、朝にまた様子を見に行くくらいで、異常が発生しない限り、畑の中に誰かが立ち入ることはほとんどなかったそうよ」
「それに付け足すこと、火災後スプリンクラーが大量の水を
さすがにそれを、偶然と言うには出来すぎというものだろう。
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