第11話
「あのう…特殊能力者ってつまり、逃走の達人に対して、その犯人の顔を記憶するとか、そういうことですよね」
「ああ?いやまあ、俺は色んなことを記憶すんのは得意だけどな。けど、それだけじゃ特殊能力とは言えねえだろ。んじゃ、お前が興味を持ったところで、皆のひととおりの特徴を説明するか」
はっきりきっぱり、タケは興味が沸いたなどとは一言も口にしてはいないが…傍らに立ち顎先をほりほりと掻いていたテンが、愉しげな顔でにんまりと笑った。
「特徴、ですか?」
「ま、それぞれの得意技ってところだ」
特殊能力者に対する、得意技?
さきほどまでの浮き足立っていた気持ちが急激にしぼみ、嫌な予感がむくむくと頭をもたげてくる。
もしかすると自分は、ひどく危険なところに来てしまったのかもしれない…。
「最年長、
「交渉…ネゴシエーターってことですよね?」
「まあそうだ。交渉事も得意だが、それよりもむしろ、カウンセラーに近いかもしれんな」
それなら特殊でも何でもなく、単に才能ではないか。
開の雰囲気に良く似合っていることも含め、少しホッとした。
「顔色などから読めるものは勿論、言葉を発声する時の音や息遣い、相手の呼吸の乱れや語尾の上げ下げの仕方、抑揚のつけ方からも、そいつがどんな心理状態にあるか、時に機械よりも正確に見抜く。この人の前で嘘はつけないと思え」
…にわかに話が怪しくなってきたと、タケは眉をひそめる。
だが目の前にいる開はそんなことなど知る由もなく、にこにこと笑みを浮かべている。
「耳がいいものでね。いまだに高周波の音も聞こえるんですよ。モスキート音が聞こえるような公園などは、行きたくありませんねぇ」
「そう、なんですか」
高周波が聞こえるなどというこぼれ話はともかくも、嘘はつけないというテンの言葉にどきりとした。
嘘などつくつもりはない。
けれど、本当のことを言えるわけもない。そんな思いを抱える自分自身を、指摘されたように感じた。
「シンは薬剤に関してのプロフェッショナル。細かな分析は鑑識に依頼しなければ正式なものとして受理されねえが、コイツが言うこととほとんどズレはないな。含有物や有機物、特殊な残留香を時にかぎ分けることも得意としている」
「うーんと…絶対音感ならぬ、絶対香感とでも言うのかなあ。だからね、においが鼻に残ると仕事にならないこともあるから、マスクが時々離せないんだ」
本気で言っているのであれば、泊り込みで風呂も入れぬ生活をする人間もざらな、こんな職場ではさぞかし辛かろう。
「それは、すごい才能ですね…」
本来ならこんな風に、呑気に返している場合ではないのだが。笑顔の真也が
それにしても、有機物のにおいや残り香をかぎ分けられるとは、一体どんなハイスペックな構造なのか。
真也の顔を見れば見るほど…こんな美少年が何かの前で、鼻をくんくんさせている想像などつかなかった。
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