第9話

「あの…今更なんですが、荻さん」

「テンだ」

 ぴしゃりと荻が言う。

 そう呼ばないと答えてくれそうもないので、タケは素直に従うことにした。

「教えてください、テンさん。この部署の専門は何ですか?未決案件を扱っているというのは聞いているんですが…」

「なんだお前、そんなことも知らねぇのか」

 詳細を知るのは部内の人間のみ、なんてところの内実などわかるわけがないのに、テンはさも呆れた様子で口を尖らせる。

「すみません。けど、公安でも外事でもない部署なのに特殊能動班の詳しい業務内容は、署内でもほとんど知らされていないということで俺、本当に何も知らないんですよ」

「噂も聞いてねぇか?」

「ええと…ハイエナだとかクローザーだとか、ミルクだとか、そういったネーミングの話なら…」

 口にしても良いものなのかを迷いながらもごもごと唱えると、テンはなんでもない表情であっさり頷いた。

「ま、当たらずとも遠からずだ。お宮入り状態に陥っている事件であれ、どんな案件にも担当している奴らがいるからな。そいつらからしたら、ある日突然ヤマをかっさらってくようにしか見えねぇ俺たちの仕事なんて、ハイエナみたいなもんだろ」

「特捜班とは違うんですか?」

「単なる特捜は名乗れねえから、特殊班として機能している」

 仕事の内容に関してはまったくわからないが、その口調からして、あまりいい顔をされないところであるというのは確かなようだ。

「でも、捜査において本当に大事にするべきところは、他人に手柄を取られるとかそういうところじゃないと俺は思います」

「ほう」

 テンは感心とも取れる表情を見せた後、眉を上げて笑った。

 くたびれた雰囲気に似合わない、驚くほど人好きのする笑顔だった。

 けれど…。

 心は高揚感に満ちているというのに、もっと深いところではひどく嫌な予感…怖れに近い思いを抱いていた。

 いやそんなはずはないと、タケはひたすら自分に言い聞かせ、テンの言葉を待った。

「ま、簡単に言うとだな、ここ特殊能動分班は帳場ちょうばが立ってから三年程度が過ぎて、ほぼ手がかりもなく膠着状態になっている未解決事案の再捜査、およびクロージングがメインだ。その中でもこと特殊能力者の関与が疑われる、捜査回収が中心となる」

「そう…だったんですか」

正直、拍子抜けした。

 通常の未決班とは多少毛色が違うかもしれないものの、取り立てて変わった部署とも思えなかった。

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