第8話

「右から田口たぐち 華枝かえ酒匂さこう かいわたり 那智子なちこ浅海あさみ 真也」

 ものすごくぞんざいな紹介だったが、皆そんな態度には慣れているようで、渡と呼ばれた一人を除いてにこにこと笑っている。

「タケちゃんかぁ。よろしくね」

 二十代後半ほどの華枝をまともに正面から見て、タケは面食らう。

 身長はさほど高くないものの、華やかで、なかなかお目にかかれないような美人だった。

 なぜこんな人が刑事をやっているのだろう。モデルでもやっていた方がむしろ、向いていそうに思うが…。

「三課から来たんですか。窃盗犯もそうですが、犯罪者も最近では仁義を通す者が少なくなってますよねぇ」

 なんだか面妖なことを横から言い出したのが、おそらくは最年長、四十代後半辺りの酒匂開。

「…そう、なんでしょうか」

 さかしらに同意ができるほど経験も積んでいない自分が、そんな呟きに一体どう答えればいいと言うのか。

 戸惑いながら返事をすれば、あたたかい笑みを返された。

「随分かわいい後輩が来てくれたねぇ、テンさん」

「あ、ありがとうございます」

 発言からも自分より先輩ということは推測できるが、浅海真也、この人は幾つなのだかも、まったくわからなかった。

 タケは背丈こそ平均身長より少し上回るものの、可もなく不可もなく…至って平凡な容姿である。かわいいと評されるのに思わず首を傾げたくもなるのは…にっこりと笑う浅海が、十代とも見間違えるような美少年だったからである。

 そんな彼に目をきらきらさせて見つめられると、決してそういう趣味はないというのに、ひどく落ち着かない気分になる。

「よろしく」

 ぶっきらぼうに答えたのは、おそらく三十前後だろう、すらりとした少年のような体型にショートボブの、りんとした表情のアジアンビューティ、渡那智子。

「ちょっと那智、あんたまた、そんなぶっきらぼうな…。こんな時くらい、笑顔を見せてもいいんじゃない?」

「私は元々こういう顔の人間なの」

 華枝の様子から那智は、あまり愛想を振り撒いたりしないタイプなのだとわかった。

「以上、お前を入れて六名。これがうちのメンツだ」

「改めて、鹿瀬武です。よろしくお願いします」

 深々と頭を下げたタケに、よろしくの声が口々に返ってくる。

 メンバーの間にギスギスしたところがないのには安心したが、都内でもかなり出動率の多い所轄であるにもかかわらず、特能にはどこかのんびりした空気が漂っていた。

 未決班であるが故の、どっしりと腰を据えた仕事を覚えていけるのかもしれないが、案外暇な部署だとしたら残念だ。

「こう見えて皆、様々な能力に特化しているからな。せいぜい学び取れ」

「はい」

 頷いて、その言葉尻を疑問に思った。

 比較的若い人間が多い班で、皆それぞれに個性的な面々だというのは十分わかったが…色々な能力とは一体何だ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る