第6話

「特能は、正式名称を第三特殊犯捜査分班という。無論、それとは別に第三特殊犯捜査がある。元々は第二特殊犯から派生した部署らしい。未解決事件の中でも特別な動きをするチームとして、数年前に成立した部署だ。特殊なケースを扱うと聞いてはいるが、実際のところどう特殊な仕事なのかは、内部の者のみにしか話をしていないようだな」

「未決案件を扱っているとわかっているのに、内部の動きが不明なんてアリですか?」

監察かんさつとかなら、普通にそう言うことはあるだろうけどなあ」

 同僚たちは不思議そうに首をかしげている。

「内調でも監察でもなく、あくまで未決事件の捜査班とのことだが、詳しくは配属された者にしか漏らさないと言われた」

 なんだか茫漠ぼうばくとした話だ。鹿瀬かのせは小さく息を吐いた。

 警察は言わずと知れた巨大公務員組織である。

 無論、すべての業務内容を把握しているとは言い切れず、公安のような特殊部署もあるのだが…噂だけでも十二分なほど胡散臭い。

「けど、そんなところがどうして、格別手柄も上げてない地味なヒヨッコの俺に、目をつけてくれたんですかね。課長の話からすると俺どころか三課の皆さんさえ、そこの方々とは面識もなさそうですが」

「経緯はわからないが、どうやらお前の噂を聞きつけたらしい。面白い人材ならぜひとも欲しいと言ってきた」

「面白い…?」

 かすかによぎった不安は、誰にも気づかれることはなかった。

「おー、あれかあ」

「あれだな。鹿瀬と組んだ相棒は、今まで三人。大抵ワッパをかける側の立場に回れるってジンクス。俺もそうだったしな」

 鹿瀬の心境を知る由もない同僚たちは、納得したように頷き合っている。

「…やだなぁ、ナカさん。たまたまそういうことが重なっているってだけですよ」

 鹿瀬にとっては、できれば触れられたくない話題だった。

 だが、慌てて否定するのも逆効果だと思い、さらりとかわす。

「そうそう。で、普段は控え目なこいつが、珍しく右から行く!なんて主張する時は大概、大怪我までは至らねえけど、鹿瀬一人で被疑者と格闘する羽目になったりしてな。平野さあん、それお願いしますって情けない声に走って行ったら、足元にチャカが転がってた時は、さすがに俺も驚いたもんなあ」

 現在の相方である平野が豪快に笑うと、誰もがあんなこともあった、こんなこともあったと、鹿瀬のかつての失敗譚しっぱいたんさかなにし出す。

「もう、勘弁してくださいよ。俺だって人並みに手柄を立てたいですけど、ツイてないだけなんですから」

 ぼやく振りをしながらも、話が切り上げられたことを鹿瀬は内心でホッとしていた。

「まあ、もしかしたらそういう鹿瀬の悪運というか、ある意味強運を聞きつけて、なんか思うところでもあったんですかね」

 強運の言葉に、思わず苦笑する。

 自分の持つ秘密が、そんなものだったら良かったのだろうが…。

 決して人から褒められるようなものではないことを知っている分、複雑だった。

 それにしても、第三特殊犯捜査班とは一体どんなところだろうかと、思いを巡らせる。

 一体どこを見込まれたのかもわからず、特殊な部署と言われようとも、面識もない者が鹿瀬の存在を見出し、望んでくれた事は純粋に嬉しかった。

 まだまだここで勉強したかったが、異動は仕方のないことだ。

 でも、だからこそ探られたくない腹を探られているような…とでも表現すればいいだろうか、嫌な予感がした。

 そして残念ながらこういう時の勘は、外れたことがなかった。

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