第2話

「それでね、一応私たちは会社の保証人ではないし、関係ないとはいえ、自分が破産宣告をすることを考えてるからってお父さん、あたしに一度離婚しようって言ってるの。いずれ落ち着いたら再婚するからって。勿論あたしは反対しているんだけどね…。あの人、一度決めたらものすごく頑固だから」

さほど多弁ではないが、どちらかと言えばおっとりとした父が、そんなことを言い出したのだとすれば、相当に追い込まれた状況なのだろう。

「でもね、何があってもあんたの学費は、私の名義で積み立てているものがあるし、大丈夫だからね」

 そう言って少年のような笑みを浮かべて彼を見る。

「そんなの、奨学金だってなんだって方法は考えるよ」

「ダメよ」

 期限はと尋ねれば、あと半月の間に一千万近く用意しないといけないのだと、おどけたように口にした。

「この家のローンはないけれど、貯金や保険を解約したって、半分が限界よ。来月の半ばだったら、めどは立ったみたいなんだけどね」

 …悔しいなぁ。ぽつりと洩れる呟き。

「どうして一緒に乗り越えさせてくれないのかしら。ホント男ってバカだわ」

 そんな風に言いながらも、やっぱり明るい言葉に紛らせようとするのを、彼は黙って聞いていた。

 おそらく自分なら何とかできる、そんなことを思いながら。

 けれど、同時に問い掛ける。

 それが己にとって畏怖いふでしかないものであっても、躊躇ためらうことなくやれるのかと。

「恵理がもう、お嫁に出てて良かった。だってこんな気持ち、あたしたちだけでたくさんだもの」

 母が呟く。

 とうに家にいない姉までを引き合いに出すほどに、父が言い出した言葉に打ちのめされているようだった。

 その姿を目にし、今家族を守れるのは自分だけなのだと肚は決まった。

「…なあ、今日何曜日だっけ?」

 唐突に切り出した言葉に、母は心底呆れた声を返す。

「はあ、なにそれ?木曜でしょう。あんたそんなことも考えないで学校に行ってるの?」

 無論、知っている。

 ただ彼は、問うことで自分自身に確認したかっただけだ。

「…そう」

 週末前で良かった。

 なんとか大きいのを、摑めるかもしれない。

「え、何?」

 ぼそりとした呟きが届き、顔を上げた母親の視線の先に、既に息子の姿はなかった。

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