第310話 吾輩は『世界を滅ぼす』のか?
セバスチンとかいう、アホコウモリと話すこと2時間。やっと話が纏まりつつあった。
「ハァハァ、吾輩は世界平和を愛する男アインツ。ハァハァ、わかったか」
「ハァハァ、そういうことですね。ハァハァ、わかりました」
「やっと伝わったか、よかった」
「アインツさんと呼べばいいんですね!」
「グッジョブや。セバスチン!」
やっと話がまとまった。吾輩の呼び名を教えるだけで2時間。相当、頭が悪い。コイツ。使えない蝙蝠ランキングNo.1である。
「それにしても、おとぎ話が出来てるとは。吾輩も有名になってたものだな」
「誰もが知ってる話です。世界を滅ぼした魔王アインツの名は」
「……救ったの間違いではなく?」
「いえいえ、完全に微塵も残さず世界を滅しました」
「いやいや……ちょっとだけでしょ悪いことしたのも?」
「いや、もう極悪の限りです。ダークヒーローどころの騒ぎじゃないっす。何なら全方位に売られてもない喧嘩をけしかけて、相手を木っ端みじんにしてますから」
どうやら、おとぎ話の中の吾輩は相当ヤバいやつらしい。どこかの谷の巨神兵並みにやばい。悪いこと何もしてないのに。それにしても
「そんな者に、なぜセバスチンは憧れる?」
「狂った世界をぶち壊したんですよー!すごいじゃないっすか!!」
「……」
「欺瞞に溢れた世界を破滅に導き新たな創造主となる。それが魔王アインツの魅力です!!人にできないことを平然とやってのける。そこに痺れるー憧れるうッ!!」
この蝙蝠ちょっと頭おかしい。中二がヤバい方向に進むとこういう発想になる気がするが……。もう重症かもしれない。
「そんな、おとぎ話のアインツさんがこの『カクヨムーン』に現れたんです。ブチ壊しに来たんですよね?この腐った世界を!!」
「……いや……様子見にね……」
あくまで知らない世界の様子見をしに外に出ただけである。偵察と言えばカッコいいのだが、単なる迷子。迷子の迷子のアインツちゃん。私のおうちはどこでしょう?
「それじゃあ、この最悪な世界をご案内させていただきます!」
「おう……頼むよ……」
「まかしてください!!きっと、心の底から滅ぼしたくなりますよ!!」
「……そうなると……いい……ね」
あまりに熱量が違いすぎてひく。人は温度差がありすぎると距離を置きたくなるものである。コミュニケーションが成立しづらくなるから。
内容を整理すると、世界を滅ぼすダークヒーローの物語に同名の方が出ているらしい。そして、目の前にいるコウモリは今の世界をぶち壊したい。そこに、同名のバンパイアが現れて、さぁ大変。この世界を滅ぼしてもらいましょう!!という狂った展開を見せているバンパイア物語。あー、おうち帰りたい。
吾輩は促されるままにセバスチンと町を徘徊し始めた。とある工場に忍び込み異様な光景を目の当たりにしていた。
「ささ、見てください。ここがフクアカーンの読者製作所です」
「えっ……ナニコレ?」
そこには人間が大量生産されてベルトコンベアで運ばれていく。型を取るようなものにドロドロの液体が流し込まれ、成型され人型のものが出てくる。不気味な工場。
「アインツさん、あれが読者戦士です」
「読者?」
「そうです。偽星づくりには欠かせない人モドキ」
「人モドキって、人ではないの?」
「ないですよ。あくまで星を抽出するためだけの存在なのです。けど、外見は人だから見分けも付きづらいっす」
「……人間を作るなんて……人道的にいかんだろう?」
「神の所業っす。人の身を持って神になろうとしてるんですよ。どうです、愚かでしょ?滅ぼしたくなったでしょ?」
「いや……滅ぼしたいかは別として……星があると天国にいけるって……こういうことして天国にいくってことか?」
「そうです。人モドキを大量に生産して、星という通貨を集めるんです。そうすれば
「へぇー」
「天国に行けたものは永遠に幸せになれるそうですよ」
「永遠の幸せね……ちなみに人モドキはどうなるの?」
「星をひねり出したら動きませんよ」
「えっ?」
「だって、その為だけの存在ですから」
「……」
吾輩はその光景を黙って眺めた。何かを感じることもなく、ただ黙って眺める。
「それじゃあ、次の場所にご案内しますね」
「……そう。まぁお願いするよ」
次に連れてこられたのは町の集会所だった。そこは賑やかな感じだった。ある意味とても。町人たちがおかしいことを除いて。
「ささ、星が欲しいやつはおらんか!!今なら、1レビューにつき☆3個だ!!」
「私に頂戴!!」
「俺に、俺にくれぇえー!!」
「どけ、その星は俺が貰うんだ!!」
「私が天国にいくのよ!!そこをどけクズ!!」
「お前みたいなカスが天国に行けるわけねぇだろう!!」
「なんですってー!!」
吾輩は言葉を失った。
「どうです、これが星という通貨の重要性です」
「あの人たちはなぜそんな必死に天国に行きたがってるんだ……お互いを罵倒してまで……」
「それりゃあ、決まってるじゃないですか。天国という場所を目指してるんですよ。格別に心地良いらしいですからね、天国は♪」
「天国に行ける前はこんなに喧嘩するほど不幸せなのに?」
「あとが良ければ今なんてどうでもいいんですよ。それがこの世界です。後の幸せの為なら、何をしたっていいでしょ。それがこの世界の掟です。弱肉強食、勝てば官軍負ければ賊軍です」
「……みんなで天国にいくという選択肢はないのか?」
「ないですよ。天国にいくのは限られた人です。定員が決まってるんですよ。だからこそ人は争う。どうです、醜いでしょ?滅ぼしたくなりましたか?」
「……まだ、その気は起きない」
言葉では強がったが、それが正解だとは思えなかった。何が正しくて、何が悪いのか。答えが存在しないもので感情を揺さぶられている気がした。座席の数は限られる。それはどこの世界でも一緒だろう。だが、何かが違うのかもしれない。
その答えに吾輩は辿りつけるのだろうか――
《つづく?》
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