第65話 吾輩は『死んだ・・・・・・』

いちごと海を眺めていたが、夜も深くなってきたので吾輩は立ち上がった。

「いちご、そろそろ帰った方がいいぞ。夜道は危ないから」

「そうですね・・・わかりました・・・帰ります」


なぜか、しゅんとしている・・・。

なんだ?まぁ、夜道をおなごが一人で歩くのは大変危険な世の中である。

マンションの5階のベランダから・・・侵入してくる変態や・・・建物に穴開けて侵入してくる変態もいると聞く・・・。その力を別のことに生かして欲しい・・・。

正気ではない時・・・火事場のバカ力が発生するのだろうか・・・。


いちごが手を振って去っていった・・・。

ちょいと寂しい気持ちもあるな・・・。ひさびさに人としゃべったからだろうか・・・。

なんだろうな・・・。


「旦那、どうしたんですか?」

「いや・・・まぁ・・・そうだな。帰るか」

「いちごぱんもゲットできましたね!!」

「そうだ!それがあった!!なんと4つも!!」


吾輩はいちごぱんを片手にスキっプしながら来た道を帰る。

エンゲル係数が大助かりだ・・・。あぁ、やはり廃棄って最高よね。堪らんですたい。

よだれがとまらんですたい。早く帰って食べたいな。


いちごぱん♪いちごぱん♪

いちごぱん♪いちごぱん♪いちごぱん♪

いちごぱん♪いちごぱん♪いちごぱん♪

いちごぱん♪いちごぱん♪いちごぱん♪


「旦那―――――!!前、前―――――!!」

「えっ?」


吾輩は昭和の漫画の様に・・・。

宙に浮いていた・・・。あれ・・・地面がない・・・。

後ろを振り返るとガードレールがない。

あはは・・・。死んだ・・・。


「ぎゃぁあああーーーーーーーーーーー!!」


・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・


「旦那?旦那?」

「いてて・・・生きてる・・・ここは?」


吾輩があたりを見渡すと辺り一面山だった。暗い中の山。

あぁ、怖いよ・・・怖いよ・・・痛いよ・・・痛い。

おうち帰りたい・・・。ここはどこ?私は誰?アインツです。


「旦那・・・ちょっと待っててください!!」

「吾輩を一人にしないでーーーー!!」

「わがまま言わんでください!!助けを呼んでこなきゃ!!」

「一人は怖いの・・・寂しくて震えちゃう・・・」

「・・・旦那・・・このままここで死にたいんですか?」


吾輩は考える。

このままいくと・・・餓死して死ぬのかな・・・。

そういえば・・・いちごぱんは・・・あっ。


吾輩は手に握っているいちごぱんに気付く。

もぐもぐ。うまい・・・。


「旦那・・・食べてる場合ですか?」

「おなかがすいては、遭難できぬ・・・」


吾輩は一人体育座りをして考えていた。

遭難したときの・・・対象は・・・体力をつかわないこと。

じっと助けを待つこと。方角もわからん森の中をさまよってはいけない。

声を出すにもあたりは暗い・・・。無駄な体力になるだろう。

じっとしているのがいいのか・・・。


吾輩はじっとしていることとした。

セバスチャンとじっとしていた。


「旦那・・・」


少しずつ朝日が昇ってきた。

残りのパンは3つ・・・吾輩の生命線である・・・。

残りのパンは2つ・・・吾輩の生命線である・・・。


「旦那、もう食べちゃんですか?」

「朝ごはん・・・」

「ばかもんがーーーーーー!!」

「ううぅううう・・・お家帰りたい・・・」


吾輩の視界がにじんできた・・・。あぁ・・・このまま死ぬのかな・・・。

あぁ・・・何もしないまま・・・できないまま・・・屍と化すのか・・・。

もっといろいろしとけばよかった・・・。太陽に焼かれて吾輩は死ぬのか・・・。

さよなら・・・みんな・・・。


「アインツーーーー!!なにやってんだーーーー!!」

「あ、あ、アインツしゃん!!早くーーー!!」

「ぼっちゃま、諦めてはいけませんぞーーー!!」

「あれ・・・みんな」


吾輩の前に大量のこうもり達が飛んできた・・・。


「みんな、早くしないと旦那が太陽にやられちまう!!早く屋敷に運ぶんだーーー!!」

「OKです!!リーダー!!」

「・・・みんにゃ・・・」


吾輩の体は、『蝙蝠、イン・ザ・マント』により高くへ上げられていく。

みんなありがとう・・・みんな・・・。


地上に上った時、朝日が迫っていた。

「旦那、屋敷まで・・・はぁ、はぁ・・・ダッシュです!!早く!!走れ、旦那―――!!」


「アインツ、いきまーーーーす!!」


吾輩は太陽と追いかけっこをする。

まだ死ねない・・・やるべきことがあるんだ・・・だから・・・まだ終われない。

ひたすら走った・・・。屋敷を目指して・・。

健康保険もない・・・焼かれたら・・・終わりだ・・・早く

自分の呼吸がやたら聞こえる。激しい息遣い・・・くそ運動不足か・・・。ちくしょ・・・。


「旦那―――!!あとちょっと」


太陽が昇ると同時に・・・・。

吾輩は・・・焼かれる・・・間に合わなかったか・・・。


「まだだ、アインツ‼!俺たちが太陽を塞ぐ!!」

「あ、あ、アインツさんを守れ―――!!みんなーーー!!」


無数の蝙蝠が太陽を遮り、吾輩に影を作ってくれた・・・・。

あと、ちょっと扉まで・・・



あそこまで・・・。

だっしゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「旦那・・・やりましたね・・」

「間に合った・・・今日は疲れたから・・・ここで眠るよ」


吾輩は屋敷の扉の前で眠る。今日は良く眠れそうだ。


≪つづく?≫



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