第二十八話 再び学園へ

 「――そうですか、協力ありがとうね、少年」


 「いえ、では」


 外に追い出した煙幕は外でそれなりの騒ぎになっていたらしい。黒い煙だったせいもあって、火事か何かと勘違いされたところが大きい。その結果、あの後駆けつけた衛兵によって客全員に対する軽い事情聴取が行われた。

 当事者でない客が話す内容のほとんどは、俺達に対して仕掛けてきたあいつのことを話していたらしく、聴取は俺達で最後となっていた。といっても、エルルは食べてたことしか話していないため聴取が早々に終了して俺がしゃべる形になったが。実際煙のせいもあって見えなかった部分はあるが、その前後すら食事の感想しか覚えてないってのも極端すぎではないだろうか。


 現場は一旦衛兵によって封鎖されたものの、破壊されたところ(破壊したものも含めて)衛兵の方で木材が支給されて、現場確認がすんだ後に戻してくれるらしい。その上、7日間くらいかかると思ったが建築魔法の人を呼んで、明日には修復が終わるらしい。

 建築魔法なんて便利なもの…あるんだな…欲しいな…コッソリ見れないかな…。


 「おつかれ〜、ウィル君」


 「…んぁ!?」


 おうふ…悪巧みを考えこんでる中で肩を叩かれ思わず変な声を出してしまった。おかげでエルルが怪訝そうな顔してるじゃないか!誤魔化しとかないと…。


 「ああ、いやエルルもごめんね?なんか巻き込んじゃって」


 「ううん、お肉も美味しかったしお店の人もご迷惑を〜って言って、みんな半額になったから私としては大満足だよ!」


 そう言って、エルルは満面の笑みを浮かべてお腹をさする。テーブルに山のように積み重なったステーキ皿にあったたくさんの肉は、間違いなく彼女のお腹におさまったはずなのだが…膨らんでるように見えないというのはどういうことなのだろうか…?

 と、本題はそうじゃなくて。


 「えっと、食事前に話してた話なんだけどさ」


 「ああ、それ?それなら気にしなくていいよ〜」


 「え?」

 

 気にしなくていいってどういうことだ?あの答えでエルルは納得したのか?悪い方に解釈されると大変困るんだけど…。


 「なんとな〜く、私の中での答えは出たからいいの!じゃあ、また学校でね〜」


 「あ、うん、また学校で…」


 別れの挨拶を口にしつつ、元気に住宅街の方へ走っていったエルルに手を振り返し見送った…でいいのか?いやでも、悪い方に解釈してるなら好意的にはならんし…んー?

 色々と疑問点も残るが、それは襲撃してきたあの男もそうだ。

 事件例は2度の襲撃なんてなかったし、あいつも目的は果たした風だった。なのに、1回目の襲撃では終わらずに2度目ってのが謎だな。言動で言えば、あいつは『失敗』と言っていたってのも気になる、が…どういうことだ…?


 道の端っこでうんうん悩んでいても仕方ないので、一旦学園に戻って再び報告することにしよう。なんらか得られるものがないとは思うが。


 そう考えて一旦、学園に向かうことにした。





 学園長室でガルド先生に再び報告した所、軽い心配はされたものの話はすぐに終わった。あの後、事務仕事をテムル先生と他の先生が来て急かされたらしく、真面目にやっていたらしい。今もまだ溜まっているので、帰ってから詳しく話すことにした。普段からサボっていたツケですね、と軽く言ったら悔しそうにしていた。なお、これが初めてでないことはフィーと話してた時に聞いたので、いい加減学んで欲しいところである。


 学園長室を出てすぐに帰ろうか、とも思ったが、帰り道の途中にふと魔書館が目に入った。


 そういえば、魔法書があったの忘れてたっけ。魔力が特段欲しい訳でもないけど、魔法が書かれてるってのも気になるよな…よし。


 『ちょっと魔書館行ってみるか』


 『何か御用でも?』


 内側に向けてひとりごと気味にやった結果、ルーテシアから反応が帰ってきた。魔法書の場所は俺だとわからないし、お願いする他ないからな。


 『前に言ってた魔法書が気になったからちょっと見に行きたいんだ。お願いできるか?』


 『ええ、構いませんが…どうやら複数あったうちの一冊をちょうど読んでる方がいらっしゃるみたいですよ?』


 『そうなの?』


 それ以前に複数あったのか。あれだけ本あればありえない話じゃないけどさ。


 『そっか、じゃあそれ以外のお願いできるかな』


 『了解いたしました。ですが…』


 『ん?何か問題でもあるのか?』


 『以前の魔法書の説明を覚えていらっしゃいますか?』


 えーっと…確か、綺麗な状態でとある魔法が書かれていて、魔法を広めるのにふさわしいって認められると本の魔力がもらえるんだっけ?


 『大まかには覚えてるぞ』


 『そうですか、実はそれには続きがありまして』


 『続き?』


 『はい、認められれば魔法書は素直に力を渡して魔力の増幅、そして魔力の成長を促せるのですが…』


 魔力の成長?魔力の上限を増えることを言ってるのだろうか。

 ふと出てきた単語に疑問を浮かべるも、ルーテシアの説明は続く。

 

 『認められなければ逆のことが起こります』


 『逆、っていうと…』


 『はい、まさにその逆、力を吸われて読んだものは死にます』


 『え、気絶するとかじゃなくて?』


 『気絶するのではなく、です』


 ……えぇ…なんでそんな危険なものが魔書館に紛れ込んで…って精霊がいたずらで作った本なんだし、いたずらでまぎれこませちゃうのかー!仕方ないかー!アッハッハ!

 ってんなわけあるかぁ!というかよく死人出て騒ぎになってないなこの学校!?


 『今読んでる子は大丈夫なのか!?』


 『読んでるのはわかるのですが…この感じだと魔法書は不満気な感じですね』


 『やべぇじゃねぇか!?そこまで案内してくれ!あと身体強化も頼む!』


 『承知いたしました』


 ついでの身体強化を頼みつつ、俺は慌てて走り出しながら魔書館に向かって一直線に走りだした。間に合ってくれよ…?

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