第二十六話 探り

 木製のドアを意気揚々と開くエルルによって、ドアにつけられた金属製のベルが高めの音が客の来訪を知らせる。昼を過ぎた時間の割には食事の後にお酒をつまんでいる人も多く、思った以上に盛況であった。そんな中、ちょうど入口前を通っていた男性の店員が俺達に気づき、対応のために話しかけてきた。

 20後半くらいの体つきの良い茶髪の男性で、それこそ冒険者風といった感じの雰囲気だった。


 「あ、いらっしゃいませ〜!お二人様ですか?」


 「はい!」


 「ご注文はお決まりですかね?」


 店に入った時点で注文することもできるんだな。そういえば、注文のシステムは店員に直接言うタイプか。一気に注文すると混乱しそうなもんだが、紙にメモったりしてんのかな?飲食店だとドタバタしてそうなもんだが。

 しかし注文か…一応、文字は両親が暇なときに少しずつ教えてもらった影響で最低限は読める。問題はメニューから注文する料理を予測できるか、という問題だ。モンスター知識などそれこそないからな、何の肉とか言われてもまだわからんし。エルルにそこら辺任せるようにするか?


 「おすすめとかありますかー?」


 なるほど、その手があったか。というかその手しかないのにきづけないのか、俺。

 後ろで真っ青になったり、納得顔になったり、かと思えばうなだれる俺を見てるのか見てないのか、店員さんが心なしか苦い顔を浮かべてるように見えつつ、店員さんは、そうですねぇ、と片手をアゴに当てて考える。

 そしてすぐに思いつき、では、とアゴに添えていた手を人差し指を立てて一を示しながら、とある料理を紹介する。エルルも俺も特にこれといった反論もなく、それを注文してテーブル席についた。




 料理を待つ間、エルルには学園でどういったことをすでに勉強したか聞いていた。

 やはり算術などの基本技能はスキルには入らず、あくまで知識に割り振られるらしく、自分で学ぶしかないらしい。そのため、生きていくのに必要な面で確実に覚えてるかどうかでテストを簡易的に行う。もちろん、印刷技術はないため、個人個人のテストが全く違い、満点を取りきって初めて卒業できるらしい。

 冒険者にとっての金銭は装備や道具を含め死活問題だし、当然なところだろう。


 他にも、歴史や地理、文化などの側面についての勉強が主らしい。他国との問題が起こると問題であるゆえに、歴史と文化なども重要視される。もちろん、こちらも大事なのは大事だが、算術とは違い他国の文化の特殊さなどを含め面白く覚えるものが多く、大半の人間は間違えることがないし忘れることもない。何より、大半の重大な歴史事件は今も傷跡として残っていたりする部分があり、それこそ忘れようものなら手酷く忘れないように何かしらのしっぺ返しをくらうだろう。

 地理については冒険者の旅の行き先を決めるため、勉強していなければその地ごとの準備ができず旅の失敗となるだろうしこちらも必要事項だな。

 いざとなったらルーテシアを…頼りたいけどなぁ…勉学系はなんか厳しいんだよなぁ…精霊でも真人間の基準とか標準装備なんかな…怠慢したい…。


 はっ!?いかんいかん、ロマンス求めて異世界に来たのに現実世界と同じルートはだめだろ!いろいろなものにやる気を出すようにならんとな。


 あらかたの勉学内容を聞いたので満足した所、交代で、と今度はエルルからの質問タイムとなった。前にいろいろ質問されたし、今更これと言った話題もないように思うが…。


 「じゃあ、まず最初ねー。ウィル君は本当に8歳?」


 「そうだけど…変かな?」


 「そりゃ変だよ〜私達に比べて魔力も凄いし、試験だって別で受けてるじゃない?噂だとガルド先生のところで訓練してるー、なんてものもあるんだよ!」


 「あぁ…その噂はともかく、ガルド先生のところではお世話になってるよ」


 そんな噂あるのか…完全にクラスから浮いてるからそんな情報こっちに回ってこなかったぞ。噂が本人に届くのはだいぶ末期の時だろうけどさ。

 魔力の件に関しては流石に仕方ないとしかいえないな…魔力なんてもの、生まれてそれこそ扱ったのなんてそこそこしかない時に魔法試験だ。いまでこそ、どういった風に制御すればいいか、加減の仕方なんてものはルーテシアの時に学んだ。むしろ、学んでなかったら五体満足でいられたのか心配な程度には傷めつけられた。

 

 フェイントのための魔法の微妙な加減が難しすぎたからなぁ。弱すぎれば弾かれるし、かと言って強すぎると次の行動に時間がかかる。そのちょうど真ん中を狙ってやるなんて、この短期間でやろうと思ったら無理でもせんとできんしな。

 まぁ、よりによって実践でやるとは思わなかったけどさ…。


 「だからねー…ウィル君って実際の所8歳に見えるだけで、本当はどっか別のところから来た異種族なのかなーって」


 「え、いやそんなことは…」


 異種族が人間に化けることなんて出来るのか?いや、魔法を使えばできるのか?


 「私、回りくどいの苦手だから直球で聞いちゃうけど、ウィル君ってどこかのスパイだったりしない?」


 え゛。

 

 「そういうのじゃない、としか言えないなぁ…証拠も何もないんだけどね…」


 店員に注文するついでに頼んでいた果実水をチビリと飲む。エルルの疑いに対して、豆腐メンタル気味の俺にこういうのはきついな…悪いことをした覚えはないんだけども。

 魔法試験の時に下手にやり過ぎたのが失敗か…今更後悔してもおそいか。あぁ…このアウェーな感じが胃に痛すぎる…。


 「そっか…」


 入学数日であまりしゃべる機会がなかったのもあるが、エルルの真剣に悩む姿にあわてて弁明しようとしたところで、


 「お待たせしました〜!こちら、おすすめの『マッドブル定食』二人前です!」


 と、料理が届いた。クッソ間の悪いなぁ…と思う一方で、あそこで下手に喋ってもむしろダメだったか…?思考をまとめてなんとか信用を得ないとな…。

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