第二十五話 RPGの定番

 決断の連続性。


 未来の不確実さ。


 そして―――選び取られる結果を見るのは、1つしか許されない。






 



 魔書館にたどり着くまで、そう時間はかからなかった。いかに学園が広いと言っても学園長室は立地的に中央に位置しているため、どこに行くのも大体似たような時間になる。

 俺は建物に入って目的の人物を探す。建物が大きく奥に行っていた場合、見つけるのに苦労しそうだが…さてどこかな。どれぐらい時間がかかるかわかってなかったし、本とか読んでそうだけどエルルが本を読むってのがまず想像できないな。短い付き合いではあるが、彼女はじっとできないタイプっていうのがしっくり来るし。

 

 「だーれだ?」


 だから、唐突に目を塞がれた時には驚き半分納得半分だった。ちなみに驚きの部分は頭に当たる柔らかい感触が主にだ。


 『…マスター、鼻を伸ばし過ぎないように気をつけてくださいね』


 と、ルーテシア。いかんな、まだ8歳なのにやましい感情をホイホイ出すのは怪しいしうまく制御せんと…ってか、さり気なく心のうちを読まないでくれ。思考を全部が全部念話に載せてないはずなんだが、当たり前のように読まれて確認してしまうじゃないか。

 長くこの感触を楽しみたいが、そういうわけにもいかないので話を進めるか。


 「エルル、お待たせ。何か暇をつぶすものはあったかな?」


 「ありゃ、ごく当たり前のように当てられちゃったかぁ」


 「それはまぁ、こういったことをするのはエルルくらいしか今のところいないからね」


 未だに学校のみんなと馴染む機会は少ない。試験期間がすぐ終わる予定であったが、試験中の事故であったりとか、別試験を受けたりで一緒にいる機会がほとんどないっていうのが大きい。ほとんど自業自得なのがなおつらいが。

 その上、彼らは自分と違ってすでに何年間か共に過ごした、いわゆる仲間に当たる。人当たりのいいエルルや、そもそもマイペースなランテさんを除けば、基本的に微妙な壁を感じてしまう。


 「用事はすんだの?」


 「ええ。ガルド先生への用と言っても大したことではないので」


 「そっかぁ、ならすぐいこっか?」


 「はい、よろしくお願いしますね。エルル」


 任されたー!と大きな声で返事をしたエルルは図書の事務員に怒られ、二人で平謝りしつつ、図書館を出て目的のお店へと向かうのだった。


 目的の店が男性向けという話だったのでどんなものか気になっていたが、向かう途中でそういえばと疑問に思ったことがある。

 そもそも男性向けとはいえ、8歳で知り合って間もないような人間を行ってみたかった店に誘うというのもいかがな話なのか、と。一人で行くのが心細かったならエルルのコミュニケーション能力の高さから考えて普通に同じ女性仲間を誘えただろうし、異性の男性を誘うのも同じ理由で容易かっただろう。


 とすると、目的は別なのが普通なのかなぁ。いいように考えれば親睦を深めるってつもりだろうけど、家に行った時のことを考えるとなんらかの別の目的があるように感じてしまう…。

 流石に考え過ぎかな。少なくともあのローブ野郎とは関係ないのは間違いないだろう。俺が荷物を取りに行くなんて予定は試験場にいたメンバーしか知らないし、襲撃するなら別のタイミングでやっても良かっただろう。大間抜けにも綺麗に襲撃されてしまうタイミングだったからあえて、な気がしないでもないわけだが。


 いかんいかん、いい方向に考えよう。少なくとも彼女が接触してきた理由は現時点では謎だけど、少なくとも悪いことがあると決まったわけじゃない。彼女なりの距離の取り方なのかもしれない。そう考えてみると、本当の意味では一番心の壁を感じるのはエルルになるのか…?なんだろうな、このちぐはぐ感…。


 なんとも言えない違和感に頭を悩ませるも、結論は出ずにそのままエルルのいうお店に来た。出てる看板のマークは…居酒屋かな?RPGとか特有の木のジョッキに泡みたいなものが溢れている。エルルの行きたい店というのはここなのだろうか?

 人気っていう話だから、前世の基準的に安い定食屋さんみたいなものを想像してたがそういうわけでもないか。街を散策してた時も思ったが、大半の店は居酒屋マークだったことを考えると、基本的にはそっちのが多いのだろうか。主流が違うということはこちらでの居酒屋がレストランみたいのものなのだろう。

 というか自分でさらっと安いことが人気みたいに言ってて、枯れたサラリーマンみたいになったな…ここらへんの感覚が捨てきれないな。


 「エルル、君の行きたい店っていうのはここ?」


 「そうだよ〜、ここのお料理が美味しいらしいんだ〜」


 と言った感じで、じゅるりとよだれが出るのを隠さず手で拭っている。色気より食い気とはこういった感じの時に使う言葉だっただろうか…いやまぁ、別に色気を期待していたわけでもないのだが。


 「特にお肉料理が絶品らしくてねー。魔物の肉を使った店は多くあるんだけど、基本的に素材の味を活かした感じで、あまり手を加えてないんだ。だけど、ここのお店はお肉の研究を重ねて、一番良い状態で提供してるんだってー」


 「へぇ…それは凄いね」


 肉料理のプロみたいなもんか?自分で調べてってのがどれくらい難しい作業なのかわからなくて完全に月並みな返答しか返せないのがなんともだが。


 「今日はそのお肉が目当てなの?」


 「そうそう。では早速…行くぞー!」


 意気揚々とお店に入っていくエルルに続いて、俺も足を運ぶのだった。

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