第二十四話 報告
扉を開くと、学園長らしく豪奢な机で書類に向かっている…わけもなく、極当たり前のように机の前にある客と話すためのソファーに身体を沈め、試験の前の時と同じようにお茶を飲んでいたガルド先生。仕事してるところを見たことがないが、これでいいのか?
ガルド先生はこちらを一瞥し、飲んでいたカップをおいてこちらに軽く手を上げる。
「よ、家から取るべきものはとってきたか?」
「ええ、魔書館にあった文献をいくつか呼んだ中に空間魔法について書かれていたものがあったので…」
「そうか、そんなものもあったっけか?」
そう言いながらアゴに手を置いて首をひねりながら思い出そうとしている。まぁ、そんなのあるかは俺も知らないけど、魔法書が平気で混ざってるくらいだし管理ガバガバだろうとか思ってはないです、本当に。
っと、そっちはいいとして。
「ガルド先生、少しいいですかね?」
「なんだ?親のへそくりでも家に転がってたか?」
あー…そこらへんは現代も異世界も変わらないのかな?いっても、父はそこまで頭回るような人でもなかったし、母もわざわざ隠すくらいなら「貯蓄しとくね」とかいって堂々と置きそうな人だったからそういうイメージはなかったな。大事なものもいろいろ探した末に見つけたわけだし。
「いえ、そうではなくて。家に戻った時のことなのですが…」
と、前置きして家で起こったあらましについて話をした。家財の整理中に襲撃にあったこと、相手の容姿、戦闘としゃべり方の特異性。ルーテシアの件は伏せるため、具体的な戦闘には触れずに必要な情報だけ共有した。
一通り話し終わると、ガルド先生は軽くアゴをさすった。少し間があいた後、
「そういや、不思議な事件ならちょくちょくあったな」
と、いつもと違い少し真面目な調子で言った。
「不思議?」
「ああ、お前と似たように昏倒させられたって報告がたまにあってな。本人に怪我はないし、かといって呪いがかかってるわけでもなかった。結果としてはただの妄言として処理されてはいるんだがな…ただ、全員口を揃えて、振り向きざまに倒された、って話だから気になってはいたんだ」
「はぁ…それで調べたりは?」
「残念ながら国の調査網じゃこれといっては、な。特にこれと言った物証も残ってなかったし、襲撃にあってからの報告だから対策のしようもなく、巡回増やすだけってところだ」
ってことは前から起きてたことで俺が初めてじゃない可能性が高いってことか…ってすると何の目的かわからないな。定番でいけば何かしらのエネルギー吸収的なものかと思うけど、わざわざ俺を狙った時の感じからして俺を待ってたってことになる。だとしたら、特定の人を狙ってることになるが…。
「襲撃された人たちの共通点とかはわかってるんですか?」
「それも特にわかってないな。年齢もバラバラだし、性別もどっちかに固定されてるわけでもない。貴族を狙ったものでもなければ、職に関しての共通点もない。一種の通り魔みたいなものってのが俺の見解だ」
「そうですか…」
「気になるならいくらか資料を流してやりたいが、手続きもあるからしばらく後でな」
「ありがとうございます、後ほど見させていただきます」
っていっても、それを見たからって俺にわかるのか気になるところではあるな。もうすでにガルド先生が洗い直してるとは思うし…。
「ああ、そういえば共通点といえるかわからないが、ひとつだけあったな」
「え?何かあるんですか?」
「プロフィールで言えばこれといったのはないんだがな、強いて言えば全員が何かしら急に有名になることがあったってとこかな」
「急に?」
俺は…まぁ飛び級やらなんやらで学園ではちょっとした有名人なところあるな。自分で言うのもアホみたいな話だが。
「といっても、めちゃくちゃ有名というよりは話題に上がるみたいなもんだ。被害者の中の一人は面白い技術なんかを思いついたり、ある一人は効率的な作業方法を思いついたり、とざっくりいえばそんな感じだ。まぁ、そんなの数えだしたらきりがないから、被害者になる可能性のある者を絞り切れないんだがな」
参考になると思うか?と言わんばかりに両手をやれやれ、と広げるガルド先生。
噂レベルで有名になった人が襲われてる…何かしら手がかりになるといいが、今のところ思いつくことはないな…。
「そういえば、襲われた人たちは今どうしてるのですか?」
「ああ、それが全員…つってもお前を除くことになるのか?」
俺を除く?どういう意味だ?
「今のところで言えば、お前を除く全員が家に引きこもるようになったってところだな」
「引きこもる、ですか」
「ああ、無気力だとか怠慢だとかそういう理由じゃなくて、外が怖いっていう話らしい。もともと冒険者だった奴がいうのはわかるんだが、街で仕事をしてた奴まで言い出しててどういうことかわからないって話だ。」
後遺症ってことか…しかし、掴まれただけでそんなことになるわけもないよな…ってことは何かしらのスキルの影響ってのが正しいんだろうけど、呪いじゃないって話だしな。
なら、あいつが俺を掴んだ時に言った言葉…あれに何かしらの意味があるんだろうか?
「被害者の中には冒険者もいて一時期は生活も危うかったんだが、自宅でポーション作るだとか力仕事をしたりで、なんとか街の中でまともな生活をするようにはなったな」
「それは良かった…でいいんですかね?」
「まぁ、それなりに回復したってだけでもいいことだろう。最も、町の外に出ることには未だに拒否反応を示すようだがな」
「ちなみに、彼らと話したりっていうのは…?」
「さすがにそこまでは俺が誘導するってのはきついな、資料渡すの自体あまり良くはないんだぜ?」
「それもそうですね…わかりました、個人的にいろいろ調べときます」
「そうしてくれ」
資料提供してくれるだけでもありがたいってことで手打ちだな。
っと、思ったより長くなったが時間は大丈夫かな?
「すいません、ガルド先生。今の時間がどれくらいかわかりますかね?」
「ん?ちと待ってな…っと、3時すぎくらいだな」
ガルド先生は席から立ち上がり、学園長室の豪奢な机にある小さな時計を見たのか、時間を伝えてくれた。ってなるといい時間だな。
「そうですか、ちょっと用事があるのでここらへんで行きますね」
「おう、帰りは遅くなりそうか?」
と、さっきまでの真剣さはどこにやったのやら、打って変わってにやけ顔になりながら聞いてくるガルド先生。
「そこまでは…まるで遅くなりそうだと思ってるような顔ですね?」
「さぁてな?ま、遊びは程々に、とだけいっておくさ。若いウチが華だしな!」
ガッハッハ、と高笑いし、早く出て行けと言わんばかりにしっしっと手で追い払われた。なんでガルド先生が俺の予定を知っているのか気になるが、あまり考えない方が精神衛生上良い気がしてきた…。というか8歳でどうにもこうにもならんわ!
その場は考えるのをやめてさっさと去ることにして、俺はエルルが待っているであろう魔書館へと向かうことにした。
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