第十二話 魔書館

  魔法試験が終わって、ランテさんと俺が教室に戻ってから約20分。テムル先生が教室に帰ってきた入ってきたテムル先生はいつものように教壇に上がる。


 「えー2人ともお疲れ様でした。今日で試験をすべてやってしまうつもりでしたが、こんな状況なのですので明日に延ばさせていただきますね」


 テムル先生がこちらを軽くにらむ。怒んないで下さいよー。わざとじゃな…いや、わざとか。

 思案顔でそれっぽくうなずいて目線をそらしていると、テムル先生は軽く嘆息し、話を続ける。

 

 「なので、今日はこれでおしまいなのでゆっくり休んでください。ランテさんも気絶していないとはいえ、疲れているでしょうし」


 ランテさんが無言でうなずく。まぁ、立てなくなるくらいだしなぁ。仕方ないだろう。原因作ったのは言うまでもなく俺だけどさ。


 「では、また明日」


 というと、テムル先生は再び教室を出ていった。


 まぁ、俺もやることないし帰りますかねぇ…。


 「少しいいかな」

 「ん?」


 声をかけられ顔を上げると、ランテさんが近くまで来ていた。はて、なんだろう。


 「キミ、魔力平気なの?」

 「うん、大丈夫だけど?」

 「…そう…」


 なんか意味深な顔をしてじっと見られてる。え?いや、だって持つんだから仕方ないじゃんか。赤ん坊のころからやってりゃこうもなるわ。魔力使ってばたんきゅー生活とかもう二度とやりたくないです、はい。

 ランテさんもそれを聞いて満足したのか、去っていき教室を出ていった。お近づきになれるチャンスだったけど、まぁいいや。


 俺も教室から出て、家に帰るとしますかね。

 と、考えていたら学校を出る手前でガルド先生に捕まった。


 彼の服装は学校でも常に冒険者のような鎧を付けている。金ぴかで派手なだけのように見えるが、その実、とても重そうで防御力はありそうだ。長いこと使われているのかは知らないが、ところどころに焦げ跡や傷もある。

 入学初日じゃ、よくわからないスーツみたいな服だったんだけどなぁ。威厳みたいなものなのかねぇ。


 「ウィル君、忘れてたことがあったから来てくれるかね?」

 「なんでしょうか?」


 はて、忘れてたこと?何か試験であったのかな。


 「いや、なに。学校の施設でもいいところがあるんだよ。ついてきたまえ」


 何だろうかねー。というか、この様子だと試験結果は聞いてなさそうだな。つい最近火魔法ちょろっと見せてないのにとんでも技使ったなんて聞いたら驚きそうだからな。

 そんな考えはさておき、ガルド先生に言われる間についていくと、学校の授業を受ける校舎とは別の建物が見えてきた。なんか市町村とかにありそうな図書館だな…あ、もしかして。


 「ガルド先生、もしかしてあれが目的地ですか?」

 「そうだ、あれは魔法魔導魔術書管理館だ」


 なんだ、その長ったらしい名前は。覚えれるかっ。なんか略称ありそうだけどどうなんだろう。


 「名前長いですね、略称とかあるんですか?」

 「んー生徒たちの間で言うなら魔書館ましょかんなんて言う名前だったはずだぞ」


 一瞬で分かりやすくなったじゃねぇか。もうそれでいいだろ。


 「あそこには正式名称の通り、いろいろな本が置いてある。魔法所は魔法の仕組みなんかをいろいろ研究してまとめたものが多いな。もっとも、魔法はイメージだから、そのイメージを作るために行く生徒が多いな」


 なるほど、普通の人はああいうのを想像したりはしないのか。まぁ、一般家庭じゃ本は高かったからな。


 どれくらい高いかというと、本1冊で普通の家が1つ建ちます。


 ファンタジーあるあるの紙が高いとかそういうのではない。ただ、本の印刷技術などはこの世界にはなかった。本といえば、現代で想像する形を思いつく人もいるだろうが、こちらでは違った。

 言ってしまえばルーズリーフを束にして穴を三つ作り、そこに糸を通してくくっただけのものだ。もちろん、原本を量産するには誰かが複写するしかないが、複写した文字がきれいでないものは読めないし、売り物にならない。なので、とても丁寧に作る必要があるためにその本の内容がよければよいほど高くなってしまう。


 もちろん、それを売り出すのは書いた本人なわけで売れなければその人にとっては死活問題であるから安くしたいが、研究内容など最初から安く売るわけにもいかず高い状態で売り出されたものが市場での本の相場となり、本は高いと印象付けられている。 

 うちの親は文字を小さい頃方読み書きさせたいというつもりだったのかはわからないが、本があった。一番安価なものだったらしいがその値段は聞けずじまいだ。今では灰だしな。


 「魔法書以外にも魔導書、魔術書もあるから、それ関連で行く人も多いな」


 魔術は魔法と違うのか?魔導っていうのもなんだろうか…。


 「ガルド先生、魔法と魔術ってどう違うんですか?あと、魔導も…」

 「ん?魔法と魔術の違いか。まぁ、言っても俺は魔法の方しか使ってないからざっくりでしか説明できないんだけどな…」


 苦笑いをしつつ歩きながらガルド先生が説明してくれる。


 「魔法はイメージ、それはいいな。頭で描いたものを現実にも引き起こしてくれる奇跡の力だ。」


 まぁ、それは自分で実験したし、大体わかる。


 「それに対して魔術は…んー、俺に言わせてみれば記号の組み合わせと言ったらいいんだろうかな。俺はそういうのが難しくてやめたから何とも言えないが、要は記号の組み合わせによって魔法の効果を決めて、俺たちの魔力を注ぐことによって代わりにその発動をやってくれる…みたいなのでいいか?」


 ガルド先生が顔をいろいろ変えながら一生懸命説明しようとする。


 記号っていうのは恐らく魔法陣みたいなものでいいんだろうな。

 その魔方陣みたいなものを使うことでイメージが必要ない、と。イメージが苦手な人であったら結構便利そうだな。


 つまり、あれか。文系が魔法使いで理系が魔術師か。勝手な偏見だが、まぁ、そういうことにしとくか。


 「はい、大体わかりました。ありがとうございます」


 頑張って説明してくれたし、感謝しとこう。ガルド先生もそれで安心したのか、ホッと息を吐き、


 「ああ、わかったならよかった。他に何か聞きたければどんどん言ってくれ!」


 ガッハッハ、と笑いながらそう言ってくれる。調子のいい人だなぁ…。


 「あぁ、それと魔導だがな」


 そうだった、そっちも聞きたい。


 「魔導っていうのは魔術と似てるんだがな。魔法や魔術が事象を引き起こすだろ?火とかだと基本的には燃えたりとかな。魔導っていうのは少し違って『動力』でモノを動かすんだ。日常生活とかでよく使われるんだがな、魔法や魔術と違う点としてもう一つあるのが、魔力を使うのではなく魔物の魔石を使う」


 ガルド先生はそういって、腰につけた巾着みたいなものに手を突っ込んでゴソゴソとしたところ、赤い魔石が出てきた。


 「先生、これは?」

 「これはリザードマンの魔石だ。見た目はトカゲが人型になってうろこがついたみたいなやつだ。知ってるか?」


 あぁ、ファンタジーあるあるの知識そのままなのね。

 もしかすると、そういうのがわかりやすいように日本の知識オタク文化と似たような世界になってるのかもしれないな。多少違うところもあるが、ありがたい。

 まぁ、一度もこの世界では見てないし、黙っておくか。


 「いえ、見たことはないですね…」

 「まぁ、さすがにそうか…で、魔物が落す魔石はその魔物の魔力がこもっている。いわば、魔力の結晶だな。これを使って動力とするのを魔導という。ものによっては様々だが、ゴーレムなんかは大抵こういうのを使うな。この手のひらサイズだと、人型ゴーレムなら5年は持つ」


 ほーそんなもんか。永久とかではないんだなぁ。


 「ありがとうございます。大体わかりました」

 「あぁ、魔書館にもその手の本はあると思うからそこで見てくれ」


 頭を下げて礼を言う俺に気にするなといった風に手を振ってくれるガルド先生。

 

 そんな話をしている間にもう建物の入り口についてしまった。


 「では、私は自分の部屋に戻る。日が暮れるまでには帰るから、それまでにかえって組手の準備をしておけよー」

 「わかりました」


 ガルド先生は手を振りながら来た道を引き返して行った。自分もそれに対して頭を下げて礼をすると、中に入る。

 

 さて、中はどうなっているのかなーと思ったが、存外普通だった。

 本棚に本が入っている。日本でも図書館では見慣れた光景であった。んーただ、違うのは並んでる本というのが紙の束であったりするくらいか。背表紙とかついてないから何の本かはわからないのが多いが、上から釣り下がっているジャンルみたいなのでわからなくもないか。


 んーと、歴史に物語、技巧…ん?官能本なんてあんのかよ…。まぁ、一般も立ち入れるからあってもおかしくはないんだけどさ…隠せよ…。

 他にはっと…お、魔術、魔導、魔法のがあるな。研究資料系なんだろうけど、軽くは目を通しておきたいな。


 俺はひとまず、そのあたりの本を手当たり次第に取っていく。気になった本の束が手に抱えられなくなってきたら机に持っていくのを2回ほどして全力でそれを読み込んだ。



 それから約2,3時間ほど読んで満足したので休憩することにした。持ってきた本はすべて読んだので、全部本棚に戻してある。


 目を通す程度にざっと読んでみたが、魔法に関して、基本はどれも似たようなものだ。研究者が効率的だと思える魔法の紹介であったりが多かった。これは特に意味もないのですぐに終わった。

 魔術はなかなか興味深かった。魔術記号の組み合わせに関しては無限の可能性があるとまで書かれており、他の本にも多種多様な使い方が書いてあった。ただ、それなら魔法でよいのでは?とも思うものが多く、創意工夫が必要な感じはあった。

 魔導は研究者が少なく、あまり情報は得られなかった。ゴーレムと聞いたときには何か面白そうなものができそうな気がしたが、ゴーレムの作り方は国の機密のようで、自分で作るのは無理そうであった。


 日も落ちてきたしそろそろ帰るかなーと思っていると、


 『マスター、少しよろしいでしょうか』


 と、珍しくルーテシアが話しかけてきた。といっても、朝にしゃべったばかりではあるが。とはいえ、危険がない限りは何も言わないと思っていたが…。


 『どうした?』

 『この建物内にどうやら魔法書があるようです』

 『なんだ、それは?』


 魔法はイメージで生み出すものだし、ファンタジーあるあるでいうところの魔法習得本なんてないはずだが…。

 ルーテシアが説明してくれる。


 『魔法書とは意志を持つ本のことです。見た目は今マスターが読んでいらっしゃったものとは違い、しっかりとした外装があり、中には魔法が一つ書かれています』


 ほー現代でいう本と同じなのだろうか。


 『魔法書はその書かれた魔法を広めるという意志だけを強く持ったもので、その魔法の行使を実践し、魔法書が自分の魔法を広める者としてふさわしいと認めると、その本の持つ魔力を手に入れることができます』


 へーそれは面白そうだし便利だな。探してみるのもありかな。


 『魔法書は私たち精霊が気まぐれで作ったものが多く、人では思いつかないものを記したものもいくつかあるそうです』

 『なるほどな、ルーテシアも何か作ったりしたのか?』

 『いえ、私は生み出された時からマスターのものなので特には…』


 まぁ、そうだよな。都合よく出してほしいなんてこともうまくはいかないか。


 『そうか、なら仕方ないな。説明ありがとう、ルーテシア』

 『もったいないお言葉…』


 あの時の黒いゴスロリドレスでお辞儀するのが目に浮かぶようだ。美少女はいいぞ。

 

 まぁ、何はともあれ、魔法書か…。まぁ、また今度でいいかな。それよりもさっさと帰ってガルド先生にしごかれて経験値をもらうとしますかねぇ。魔力だけなら今のところ問題ないしな。

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