第十一話 魔法試験

 体感30分ほど質問攻めにあっていると、さすがに長いのかテムル先生がストップをかけた。手をたたき、席に戻るように促すと、周りを取り囲んでいた生徒と俺の両腕を抱えていた2人はしぶしぶと自分の席に戻っていった。

 解放された俺はというと、完全にぐったりでした…エルルなんか質問終わったはずなのに、


 『またあとでね☆』


 と、言わんばかりにこっちにウインクしてきやがる。絶対逃げてやる。


 そういや、クラスリーダーっていうのになったランテさんは質問の間自分の席で読書してたな。まぁ、静かそうな子だったし、どちらでもよいのだろう。

 個人的にはきれいな子だしなにかしらかかわりを持っておきたいなぁ、なんて下心満載だが、まぁ、そのうちかかわることもあるだろう。


 全員が定位置についたのを確認したてむる先生が今日の予定について話し始める。


 「はい、みなさん、おはようございます。今日は魔法試験と身体能力の試験をしますよ。皆さんは例年通りで分かっていると思いますが、ウィル君にとっては前者は初めてだと思いますので説明しますね」


 前者は、ってことは後者は俺もやったことあるのか。とすると、入学試験でやったあのかけっこでいいんだろうな、たぶん。

 俺が勝手にふむふむとうなずいている間に、教壇の前でテムル先生が説明を続ける。


 「魔法試験ではなんでもいいので魔法を使ってもらいます。その威力の大きさや使うときの魔力の操作の綺麗さなどをこちらで見ますので、頑張ってくださいね」


 へーそこは先生たちの経験とかなのかな。とすると、テムル先生もなかなかの実力者ってことになるんだろうけど、そんな気配はしないなぁ。

 言っちゃえば、昔のサラリーマン時代の俺のような影の薄さだしな。


 「じゃあ、このクラスが一番最初になるので、皆さん、私についてきてくださーい」


 テムル先生の声に一同が、はーい、と返す。そして、全員席から立って、ぞろぞろと移動を始める。

 俺もそれについていきますかねぇ。


 しばらく廊下をがやがやと移動する。移動の間、ずっと窓の外を見ていたが、風景から察するにおそらくは入学試験で使った真っ白な部屋に行くのだろう。魔法試験とはいえ、危険がつきものだからだろうか。

 エルルやランテさんはというと、エルルの方はクラスの連中の和気藹々と先ほどの質問タイムで仕入れたネタで話している。自分の話をされてると思うと結構むず痒いな…。

 ランテさんは移動中もずっと本を読んでいた。水色の広辞苑ぐらいありそうな厚い本だが、それを持ち歩きながら読んでる姿には正直ビビる。必死に読んでるけど何の本なんだろう…。


 そんな観察をしている間に例の真っ白な部屋についた。

 全員そろったのを指さし確認しながら数え終わったテムル先生が、前で大きめの声で話す。


 「はい、では今から名前を呼んだ生徒は発動する技を大きく叫んでから魔法を発動してください。攻撃魔法、防御魔法、支援魔法のいずれかでお願いします」


 んー、その3つ以外にもなんかあんのかねぇ。まぁ、今のところは何もわからないし、その3つの中で選ぶしかないんだけれど。


 「ではユーリンさん、お願いします」

 「はーい!」

 

 一番最初にエルルが呼ばれる。確か彼女は風が得意だったかな。入学式で話している時に話していたがどれほどのものだろう…。


 エルル全員集まっている団体から出てきて大体3人分ほど間が空く。そして、前に出たエルルはその場で足を肩幅に開き、両手を前に出して、目をつむりゆっくりとイメージを固めていく。その証拠に彼女の足元に緑色の魔法陣が出て、そよ風のようなものが周りを覆っている。


 ガルド先生を見てるから変な感じがするが、このくらいの年なら発動まで時間かかるのが普通なのだろう。さすが、ガルド先生。怖いです。


 8秒ほど経ってイメージが固まったのか、クワッと眼を開いたエルルが声高に技名を叫ぶ。


 「【風の矢ウィンドアロー】!」


 初級と思われる風の矢が彼女の両手から射出され、目の前の白い壁にまっすぐに飛びはじける。距離としては20m位はまっすぐ飛んだのではないか。

 もちろん、壁には傷一つはないが当たった余波での風はこちらまで飛んでくる。といっても、そこまでの威力はなくうっすらとそよ風程度だ。まぁ、本来こんなものなのだろう。


 「はい、ユーリンさん、お疲れ様です。威力もよし、魔力操作で矢の形もしっかりできてましたね。よくできました」


 テムル先生が手に持った紙に成績を書き込みながらエルルをほめる。


 「えへへー」


 エルルもまんざらでもないように喜ぶ。なるほど、あれがよくできましたの部類か。あれを目安にすればいいわけだ。


 そのあとも生徒たちが続々と名前を呼ばれ、それぞれいろいろな魔法を行使していく。みんなが基本属性のどれかをそれぞれ使ってくれたの見ている俺もひとまず全属性は使えるようになったのではないだろうか。

 それに呼ぶ順番は別に五十音順とかそういったこともないため、残るは俺とランテさんだけとなった。

 どちらが先に呼ばれるかなーと思いながら次のテムル先生の呼ぶ名前に耳を澄ます。前の生徒の魔法を見届けた後、テムル先生が名前を呼ぶ。

 

 「では、次。ランテさん、お願いします」


 ん、俺が最後か。じゃあ、せっかくだしファイアーボールとかよりも楽しい魔法を思いついてみるか。


 「はい」


 ランテさんがテムル先生の呼びかけに小さく応じると、前に出てイメージを始める。彼女の足元にほかの生徒よりも大きな魔方陣が浮かび上がり、その色は水色の魔法陣もありながら、それに加えて小さな緑色の魔法陣が混ざる。ほかの水属性の生徒が使っていた時よりも周りに及ぼす空気の感じが違う。

 心なしか…寒い…?


 3秒ほどでイメージが固まったようで、技を繰り出す。


 「【氷の剣山アイスランシーズ】」


 そう唱えると、ランテさんから10mほど離れたところに氷の山が発生。しかも、ハリネズミみたいに表面が氷の針だらけだ。

 うわぁ…あんなのくらったら、大量の針に串刺しだな…。

 テムル先生も感心しながら魔法を見てほめている。


 「なるほど上級魔法ですね。完成度も文句なしですし、詠唱速度も速いです。とても素晴らしい出来ですね、お見事です」


 べた褒めですね、わかります。


 言われているランテさんはというと、先生の言葉に軽く会釈して終わった試験が終わったクラスメンバーのほうへと向かう。

 表情一つ変えないぜ、さすクール。


 テムル先生はいつものことと思っているのか、特に気にした様子もなく俺の名前を最後に呼ぶ。


 「では、ウィル君、最後になりますが、お願いします」

 「はい」


 さて、ファイアーボールでも打てば及第点もらえるのはわかってるんだけど、最後だし、派手にやってみたいなぁ。

 多少派手にやっても怒られはしないだろう、とのんきに考える。


 ここで話は変わるが、魔法は結局のところイメージ力だ。唱える時の言葉はイメージを助長するためのものでしかない。だから、初級から最上級までのほうで違うのはその及ぼす規模だけだ。もちろん、消費魔力も想像力の要求も違うのでそこに魔法の得手不得手が出てくる。

 しかし、ここで俺の昔の経験から言わせてもらえば、妄想力に関してはアニメ文化で培ったものがある。なので、ただの13歳児たちと比べれば…。

 それに魔力量もおそらく圧倒的に違うだろうからね。どうせならでかいのやりたいわけだね、うん。


 というのを前に出るまでに考えつつ、自分も目をつむり…とまでする必要もなく技を唱える。足元に大きな赤い魔方陣が出た瞬間に右手を上にあげ、前へとおろしながら魔法を唱える。


 「【炎龍フレイムドラゴン】!」


 頭上に地面と垂直にわっかが出現し、そこからイメージしたとおりの炎で真っ赤の龍が登場する。見た目は有名な某アニメの玉を7個集めると出てくる龍的なあれである。

 イメージの元があるとイメージしやすくて楽だね。うん。

 

 頭上に現れた龍はそのまま一直線に真っ白い壁に一気にぶつかる。さながらバオウザ○ルガのごとく、部屋全体を激しく揺らす。その余波で一気に周りに出た熱気で、一瞬視界がゆがんで見えなくなる。


 10秒ほどたつと、熱気が収まり見えたのは炎竜で焦がされたと思われる真っ白な壁にでかでかとある真っ黒い模様であった。あれだけの勢いでぶつけているのに壊れないのはすごいものだ。

 さて、その余波に巻き込まれた生徒や先生はというと…


 「ウィル君…少しやりすぎですよ…」

 「……」

 「「「「…」」」」


 テムル先生が生徒たち側に回り込んで防御魔法なのか、氷の壁を張っていながらこちらをあきれ顔で見ていた。それを手助けしたのか、ランテさんも隣で氷の壁を辛そうに静止しながらも、目を見開いて驚いた感じでこちらを見ている。

 ほかの生徒はその後ろで気を失っているようだった。見た感じ怪我もないようで大丈夫そうだった。


 安全になったのが分かったようでテムル先生が氷の壁を消す。それに合わせてランテさんも氷の壁をけし、その場で座り込む。いわゆる女の子座りか、いいな。

 テムル先生が手伝ってくれたランテさんにお礼を言いつつ、こちらの評価を述べる。


 「威力から考えて超上級の上位の魔法でしょうね。魔法の完成度も非常に高く、傷がつかないので有名な真っ白な壁がいとも簡単にまっ黒ですよ…まぁ、君だからもう驚きませんがね…」

 「はぁ…すみません…」


 全力でやれやれ、と首を振るテムル先生。なんか悪いことしたような雰囲気なので一応謝っておく。


 「いえ、おそらくこうなるだろうと思ったから、魔法を展開をしていたので大事には至りませんでしたけどね。評価は文句なしで満点なので大丈夫ですよ。ただ、今のを使って魔力は大丈夫なんですか?」

 「いえ、全然平気ですね」


 その場でピョンピョンと飛んでみせる。まぁ、魔力量だけ見ればそこらへんの人とは違うからねぇ…。

 テムル先生はあきれながらも辺りを見回し、


 「これでは身体能力試験も無理そうですし、今日はこれで終わりとしましょう。明日は単なるかけっこですし、変なことにはならないでしょう」


 あーやっぱりかけっこでよかったのね。それならまぁ、身体能力強化だけだし、大丈夫かねぇ。あ、でも風魔法で速度強化とか試してみるか。

 ニヤァとほくそ笑む俺を見てテムル先生が嫌そうな顔を向けているがスルー。ランテさんはいまだに座りながらぼーっとこちらを見ている。大丈夫だろうか。


 「ひとまず、私は倒れている生徒全員を保健室に連れていくので、ウィル君はランテさんを連れて先に教室に戻っているように」

 「わかりました」

 「……(コクリ」


 俺が返事を返し、ランテさんもうなずく。


 その後テムル先生が風の魔法でうまいこと全員を運びながら保健室に行くのを見届け、おれもランテさんに肩を貸しながら教室へ向かう。といっても、完全に魔力がないわけではなく、途中からなんとか自分で立って歩いていた。彼女が持って行っていた本は俺が持っている。



 それにしても……魔法ってすげぇなぁ……。



 今更ながらに強く実感する俺であった。


  

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